事件 - みる会図書館


検索対象: 本の雑誌 2016年12月号
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1. 本の雑誌 2016年12月号

雄〇年前後からは浅田次郎、秋山香乃、木『夢の燈影』には「新選組無名録」という 潭内昇らが新しい新選組小説を次々と上サプタイトルが書かれているが、主人公に 泉 梓。大河ドラマの人気がそれを後押ししなるのは井上源三郎、蟻通勘吾、近藤 ( 谷 ) 周平、酒井兵庫、山崎丞、中島登と、ファ 装て一大ブームとなった。 そして池田屋事件から一五〇年後 ( 『血ンには馴染みのある名前ばかり。一方、 組 風録』から五〇年後と言ってもいい ) の『新選組颯爽録』は、安富才助、芹沢鴨、 一一〇一四年を機に、新選組小説には新た村山謙吉、土方歳三、尾形俊太郎、そして 情 な書き手たちが気炎を上げて参人してき沖田総司というラインナップである ガ新事子 た。司馬遼太郎以降に進んだ歴史研究やこの一一冊は『血風録』と併せ三冊での読 史料を踏まえた分析と、かっオリジナリみ比べをお勧めしたい。 : 新説博 ・鈴木久美ティに溢れた魅力的な作品群である。 たとえば『血風録』の「長州の間者」と『燈 史 ということでここでは、二〇一四年以影』の「夢告げ」、『颯爽録』の「密偵の天 降に出版された最新の新選組小説に絞っ才」はいずれも間者がモチーフとなってい て紹介しよう。 る。しかしその描き方はまったく異なる。 いつまでも司馬遼太郎じゃないのだ。 確かに『新選組血風録』と『燃えよ剣』まずは短編集から。注目は小松エメルあるいは『血風録』の「池田屋異聞」と が小説やドラマにおける新選組プームを作『夢の燈影』 ( 講談社文庫 ) と門井慶喜『新『燈影』の「家路」は、どちらも山崎丞の り出した金字塔なのは間違いない。だが、選組颯爽録』 ( 光文社 ) の二冊だ。どちら物語だ。けれど「池田屋異聞」は山崎の働 どちらも出版は一九六四年。池田屋事件かも一編ごとに特定の隊士を主人公にし、そきで池田屋事件が成功裏に終わったとされ らちょうど一〇〇年後というメモリアルイの隊士のエピソードや内面を描いている。ているのに対し、「家路」では事前に池田 ャーではあるが、今から見ればもう五十一一その背景には新選組がくぐってきた様々な屋を見つけ出せなかった山崎の焦燥が描か 年前、前回の東京五輪の年である。 歴史的事件が登場し、一冊を通読することれる。実際には、新選組が二手に分かれて なのにいまだに、新選組といえば血風録で新選組通史にもなっているという趣向茶屋を一軒一軒回り、その過程で近藤隊が が引き合いに出される。ちっちっちつ、とだ。これは司馬の『血風録』と同じゃり方池田屋に〈当たった〉のだから、司馬作品 んでもない、時は流れているのだ。二〇〇と言っていし は完全なフィクションであることは今読め 新 選 、新選爽録 小松エメル 組

2. 本の雑誌 2016年12月号

月 ( クラゲ / ジェリーフィッシこに出かけた空手好きの少女・から物語が始まる。パイオリニ屋で本当はどんなことがあった ュ ) に喩える犯人は、明確な意杏那と研修医・優は、別種のゾストは一一十五年前、旅館で相部のか、いまひとっ判然としな 士ハのもとに「ジェリーフィッシ ーン違いで離れ離れになってし屋になった女性から恋人への伝い。もし自分が同じ場にいたら ュ」の航路を左右する。流されまう。優が現実の。ハークで密室言を頼まれた。その男女の消息と想像すると、緊張してしま ているつもりの彼は、流れるど殺人に遭遇する一方、杏那は現を知りたいというのである。調う。事件解決後に割り切れない ころか感情が凝り固まって犯行実世界の裏側にある真実のハッ査は、男二人とチワワ一匹が殺怖さが残る話である がちりん 岡田秀文『月輪先生の犯罪捜 ピーファンタジアに迷いこみ、された平和島事件と結びつく。 に及ぶ。そこに哀しみがある 事件の犯人は、大音量で音楽を査学教室』 ( 光文社一六〇〇円 ) そして、読者のほうは、先人観冒険することになるのだ に凝り固まっていると真相を見優のいる世界ではハッピーフ流し、奇声を発して踊った後には、明治の世で名探偵・月輪龍 アンタジア運営をめぐるビジネ焼身自殺していた。それと似た太郎が活躍するシリーズの短編 破れない。 鮎川賞受賞作家としては市川ス面の現実も語られるのに対奇怪な死にかたをした人物は、集。彼は東京帝大で犯罪捜査学 講座を担当することになった し、杏那のいる世界ではミステもう一人いた の先輩にあたる七河迦南は、 『わたしの隣の王国』 ( 新潮社一リは「未捨理、と呼ばれ、魔法一連の事件の全体像が判明すが、受講生としてやってきたの 八〇〇円 ) でテーマパークを舞が存在する。それほど性質が違るまで紆余曲折があるが、原点は、わずか三人だった。月輪は う一一つの世界にまたがった出来は二十五年前の相部屋だ。証一一 = ロ教室での講義は行わず、実際の 台に選んだ。ハッピー というイヌをメイン・キャラク事が、どのように解決するのか。者が盲目であるため、当時の部事件現場に受講生を連れてい き、推理を競わせて点数をつけ テーマ。ハークならではのルール ターとするその施設、ハッピー る。校外でのグループ学習であ ファンタジアは、『ゲド戦記』が、推理の手がかりになるのが る。失踪、誘拐、幽霊、密室殺 をモチーフにした多島海、ナイス。ディズニーランド好き 人といった出来事が教材だ。プ に読んでもらいたい作品だ。 の世界のフューチャーランド、 ライドばかり高い帝大生たちが 吉田恭教『亡者は囁く』 ( 南 和風ファンタジーのヤマトワー 迷推理を連発した後、真打の月 ルドといったぐあいにゾーンが雲堂一八〇〇円 ) では、盲目の 輪がおもむろに解決するという 分かれている。ディズニーラン女性パイオリニストが、探偵・ 毎回のお約束が楽しい ドの設計法と同様だ。だが、そ槙野康平に調査を依頼したこと めったくたガイド 新 0 ・鈴木久美

3. 本の雑誌 2016年12月号

先日、私がこれまでに取材してきた殺人犯のうち、誰とはその後も面会を重ね、手紙をやりとりし が「凶悪」だと思うかという取材を受けた。 オ彼は一貫して無実を訴え、司法の横暴への憤 そこで真っ先に頭に浮かんだのが、 " 北九州監禁連続りを口にした。 殺人事件。のという男だった。二〇〇一一年の事件発覚最初、私のことを「先生」と呼んでいたはや 直後から取材をしていた私は、〇八年に本人と福岡拘置がて「小野さん」と口にするようになり、続いて 所で面会した。そのときの第一声が忘れられない。 「一光さん」へと言い方を変え、親近感を演出し 「いやーっ、先生、わざわざ私のために東京から来ていようとする。そのような策を講じるところが、私 ただき、ありがとうございます。先生、いま私を取り巻にとっては不気味だった。 く状況は、本当にひどい話ばかりなんですよ。とにかく 彼の犯行の特徴は、みずからが手を下さず、監禁され 聞いてください もう私の裁判はね、司法の暴走ですた家族を恐怖で支配し、殺人の実行犯に仕立て上げた占 よ。私自身、なにも身に覚えのないことなのにね、私ひにある。また、そうした犯行状況から、自分は殺人とは とりに罪を被せようとする陰謀が、あらかじめ出来上が無関係であると主張していた。 ってるんです : : : 」 の逮捕から奇しくも十年後の一二年に三遺体が発見 彼が関わった犯行により、明らかになっただけで七人されたことで発覚した " 尼崎連続変死事件。も、主犯が が死亡している。犯行内容は極めて残忍で、監禁した家直接手を下すことなく、大量殺人を実行していた。その 族どうしでの殺人、解体、遺棄を指示して、祖父母からような、自分の手を汚さない犯行にこそ、私は「凶悪」 孫にいたる三世代の一家を、消滅させたというものだ。 を感じてしまう。 そのような事件の首謀者であることから、いかにもとい そんなからの手紙は、翌年の春を前に、ぶつりと途 第 った凶悪犯の姿を予想していた私の前に現れたのは、明切れた。彼との縁が切れたことに、胸を撫で下ろす自分 るく晴れやかな表情で、ときに笑顔を見せながら、みずがいた の からの潔白を訴える端正な顔立ちの男だった。 これからも、関係が途絶えてや 0 と人心地を取り戻せ光 悪魔とは、意外とこんなふうに屈託のない存在なのかるような、凶悪犯との出会いはあるのだろうか。あのヒ もしれない リヒリとした感覚は決して嫌いではないが、ある程度の野 私はの顔を見ながら、そのような感想を抱いた。 覚悟が必要であり、正直なことを一一一一口えば気が重い

4. 本の雑誌 2016年12月号

めったくた ほど凶悪な暴力を、武装強盜と知っており、強盗のニュースが貶 ガイド して社会にまき散らすのだ。な人るたびに仕事が手につかなく ぜこんなことになったのか鍵なったという。そして、本書に 達を握るのは、長兄レオだ。彼は描かれる《凶暴な父親が支配す 國人格がその形成過程含めて驚くる家庭》を、トウンペリは実際 酒井貞道 べき高解像度で描き出され、彼に体験しているのだ。よって本 こそが主犯格として犯行グルー書は圧巻の迫真性を備えたのだ 血と暴力が駆け巡る プの核心を担っていることを、が、この物語の真価は単純に ハヤカワ四連発 ! 読者に痛感させる。だが真の核「リアリティがある」ことには 一一〇一六年九月に、我々は早スペルも仲間に引き人れ、軍の心は更に奥深くに潜んでいる ない。読者が暴力に身震いし、 川書房の本気を見た。血と暴力倉庫から銃器を密かに盗み出ルースルンドと言えば、ペリ無辜の人々を見舞う理不尽に苛 が、死の荒野を縦横無尽に駆けす。そして、それを使って次々エ・ヘルストレムと組んだグレ立ち、怒り、悲しむ真っ最中に 巡る。そんな長篇を、一気に四と銀行を襲い始めた。史上類をーンス警部シリーズーーー日本ですら、暴力を行使するドウヴニ つ、翻訳してくれたからである。見ない重装備の強盗事件を、市は『制裁』『ポックス幻』『死刑ャック家の面々を結び、縛る家 中でもまず指を折るべきは、ア警のプロンクス警部が追う。 囚』『三秒間の死角』が刊行さ族の絆が、常にありありとわか ンデシュ・ルースルンド & ステ ストーリーは、進行中の強盗れたーーーが評判となった。今回るように書かれていることであ ファン・トウンペリ『熊と踊れ』事件を犯人側および刑事側からは共著者を代えている。その新る。通常は肯定的に語られるこ ( ヘレンハルメ美穂 & 羽根由訳描きつつ、その合間に、ドウヴ パートナー、トウンペリの素性との多い《家族の絆》の、恐る / ハヤカワ・ミステリ文庫上下ニャック家の過去をたつぶり挟が凄い。『熊と踊れ』は実在のべき深淵がここに覗いている 各一〇〇〇円 ) であろう。 み込む。三人兄弟は、諸悪の根事件に基づいた物語であり、トその闇深さに、読者よ打ち震え 凶暴な父親イヴァン・ドウヴ源だった父と決別している。なウンペリは、強盗犯の三人兄弟よ。 ニャックが支配する家庭で育つらば、彼らの人生は好転してい の、もう一人の実の兄弟なのでサンドローネ・ダッイエーリ たレオ、フェリックス、ヴィンておかしくない。しかし実際にある。彼は実際の強盜事件に関『バードレはそこにいる』 ( 清水 セントの三人兄弟は、幼馴染ヤは、父親とは比べ物にならない与しなかったが、兄弟の計画は由貴子訳 / ハヤカワ・ミステリ ノデシュ , ステファン、ト / 彎

5. 本の雑誌 2016年12月号

が発見されるのである。ペティとして十年の懲役刑に服してお 文庫上下各九一一〇円 ) は、弱者テヘの攻撃手段がえげつなく、 たる子どもたちを襲う奇禍を劇サイコキラーを追うサスペンスンガーの受けるショックは多大り、盜んだ金の在処を一切吐い 的ストーリーで綴った作品だ。の枠を超えた、血と暴力と死とである。この衝撃は、警官殺していない。そんな彼が、刑期満 母親が殺され子が行方不明にが物語を覆い始める。そうなつが重なるたびに増大し、遂には了の出所前日に脱獄してしまっ た。刑務所仲間だったモスは何 なる事件がローマで起きた。失た中盤以降にこそ、本書の本領あんなことすら起きてしまう。 踪人捜索コンサルタントのダンがある。徐々に明かされる、イそれへの対抗手段もまた苛烈極者かにオーディを追えと命じら テは、以前ダンテ自身を誘拐しタリアという舞台に似合う ( 失まりない。波乱万丈な展開も含れて釈放される。一方、 長年監禁した《パ ードレ》の仕礼 ! ) 大規模な陰謀も、本書のめ、ダイナミズムが身上と思し捜査官デジレーは、状況に不審 なものを感じ、十年前の事件を い逸品である 業だと確信する。故あって彼と魅力の一つに数えておきたい。 最後にご紹介する、英国推理調べ直すことにしたが、その再 行動を共にする休職中の女性刑・クレイグ・ザラー『ノー 事コロンパは、当初彼を信じなス・ガンソン・ストリートの虐作家協会賞ゴールド・ダガー賞捜査には邪魔が人った。 かった。しかし状況証拠が次第殺』 ( 真崎義博訳 / ハヤカワ文受賞作の、マイケル・ロポサム権力者も関与する陰謀の存在 庫 Z> 一一一〇〇円 ) は、荒廃し『生か、死か』 ( 越前敏弥訳 / ハは最初から明らかである。しか に揃ってくる コロンパとダンテはいずれもた田舎町での連続警官殺人事件ャカワ・ミステリ一一〇〇〇円 ) しそれでもなお、釈放前日にオ 型破りであり、味方であるはずが、やがて主人公を中心としたもオススメだ。主人公オーディーディが脱獄した理由は、なか の警察や検察の組織力を当てに暴力の応酬に発展していく物語は、現金輸送車強盗殺人の共犯なか読めない。本書で暴力は、 時折かなり陰湿な行使のされ方 できない状況にある。孤立無援だ。ポイントは、主人公ペティ をする。ただ、暴力を積極的に ンガーが転勤したての刑事であ に陥ったコロン・ハとダンテは、 行使するのは悪役で、善玉はや 喧嘩しつつも協力し真相を追うることだ。当初の地一兀の同僚た むを得ず、といった区分がなさ と、ここまではよくある筋ちとの折り合いの悪さは、徐々 立てだ。よくないのは、犯人に解消に向かい、お互い仲間と 第れており、ある意味、安心して 読める。一一転三転する手に汗握 《。、ードレ》の悪逆非道ぶりで認め合いつつあった。その矢先 る追跡劇と意外な真相を、たっ ある。犯行や目的の凄惨さもさに、シリアルキラーものと見紛 ぶり味わってほしい。 ることながら、コロンパとダンうばかりの凄惨な、警官の死体 めったくたガイド 新 装丁・水戸部功

6. 本の雑誌 2016年12月号

横溝賞受賞作家きっての実力目を惹いたのは、乳房に残されしいサイコパスーー安藤達也を夜の森を進む、対人恐怖症の 派である伊岡瞬が、渾身の捜査た奇妙な傷だった。その位置とも凌駕する恐ろしさ ! デビュフリーターである内山賢史と利 小説を完成させたぞ。 形は、まるで亡き妻にあった赤ー作『いっか、虹の向こうへ』発な妹の智。色鯉が泳ぐ大きな 十一月二十二日発売予定『痣』い痣を模したようではないか。 から、定番的なガジェットを駆屋敷の池に、いままさに電流を ( 徳間書店 ) の主人公は、南青妻を手にかけた犯人は死んだは使し、血の通った物語の創造を流そうとするホームレス便利屋 梅警察署奥多摩分署の刑事ーーずだ。では、いったい誰がこん得意としてきた著者。その本領の大洞。場末の屋内釣り堀「カ 真壁。身重の妻を喪い、ここ奥なことを・ : ・ : ? が充分に発揮された、読み応えープ・キャッチャー」でパイト 多摩に異動となったが、妻の命連続する冷凍死体遺棄事件、満点の作品である。 する大洞の娘と、そこで″神〃 日と同じ八月末日で職を辞すこ真壁を挑発するように被害者た十一月十八日発売予定、道尾と呼ばれる凄腕釣り師のヨネト とを決意。退職まで残り二週ちに刻まれた妻と同じ " 印気秀介の書き下ろし長編『サーモモ。四十五年前の少女時代、 署に足を運ぶのは今日で最ある事件の捜査中に行方をくらン・キャッチャー the Novel 』 " 一瞬の奇跡。を目撃した市子。 後ーーという日に、管内で女性ませた分署長の息子、三人の若 ( 光文社 ) は、ケラリーノ・サ一見、とくに強い結びつきのな の全裸遺体が発見される。現場者らが犯した過去の凶行。こうンドロヴィッチとともにコンセさそうな登場人物たちが、読み に向かうと、遺体は一度冷凍さした糸が一一重三重に絡み合う難プトを練り、それぞれが「 the 手の想像を易々と飛び越え、笑 れており、局部にシャワーヘッ事件に挑む真壁の前に、ついに Novel 」、「 the Movie 」として 驚き、仰け反るようなエピ ドが差し込まれた無惨なものだ姿を現す真犯人は、『代償』で創り上げるコラボ企画の小説版ソードを経て、みるみるクライ った。しかし、なにより真壁の主人公を苦しめ続けたあの憎々 ( 映画化企画は進行中 ) 。 マックスに向けて収斂していく 手並みは見事というしかない。 キャラクターたちを温かく祝倡 宇田川拓也 するような道尾作品屈指のきら びやかで美しい終盤のシーン、 伊岡瞬渾身の捜査小説 そして思わず顔がほころんでし まうラストが、ページを閉じた 『痣』がいいぞー あとも気持ちよく心に残る。 ミステリー 春夏冬中 ( あきないちゅう ) 伊岡 丁 多 田 和 博 笊 .1 Shun

7. 本の雑誌 2016年12月号

穂村弘 続・棒バン日常◎作家名のある歌 三角窓口マ京都線の多機能トイレは考えものだ卩他 本屋の帰り道 徳永圭子 ミステリー春夏冬中、宇田川拓也 / 事件記者日記、小野一光 誠光社日乗、堀部篤史 / cnu- 新世紀、山岸真 / ロング・リリイフ、秋葉直哉 いろどり古書徒然、彩古 / 地図の秘密、今尾恵介間 / 校閲階梯かもめ式、栁下恭平 服部文祥 サバイバルな書物◎勝負に生きる男たち 北村薫 ューカリの木の蔭で◎蜘蛛の饗宴 坪内祐三の読書日記◎朝日新聞の「素粒子」に何が起きたのだろうか ? 坪内祐三 連続的話◎謎の歌本 青山南 南の話◎オアハカ文芸事情 2 平松洋子 そばですよ◎四ッ谷しんみち通り、夜を攻める 中場利一 鬼花ーー鬼刑事・花篤好美◎ガサガサうるさいナイロンジャージ 円城塔 世界の終わりへ続く日々 風野春樹 流行を反映する誇大妄想の変遷 若島正 「映画の教科書。の懐かしい書き込み 矢ロ誠 初代ウルトラマンの人柄に涙 , ホリイのゆるーく調査◎ノーベル文学賞作家をどれくらい読んだか堀井憲一郎 沢野ひとし 歩く膂黒竜江省、竜江県白山郷を歩く。 黒田信一 司馬遼太郎の 9 冊ン青春〃を追い続けた男たち 今月書いた人 表紙デザイン / 和田誠 掲載図書索引 表紙イラスト・本文カット / 沢野ひとし 今月本の雑誌に遊びに来た人 133 135 0 93 90 122 121 120 119 118 106 102 98 96 94 115 110 56 128 124 一日記一 双子に感心するのは、 二人ともソロ・ハンや漢字 の書き取りを熱心にやる ことである。まだ小学校 一年生なのに、二桁の掛 け算ができるのだ。私な ど六年生になっても九九 が曖昧であった。ゲーム に夢中で勉強にそれほど 時間を費やすわけではな いのに、頭に人っている 幼稚園の頃、兄のユウく んは運動会で泣いてばか りで先生の陰に隠れてい たのに、今は自転車で倒 れて擦り傷ができてもペ ソをかかなくなった。そ の成長に感嘆する。 ( 沢 )

8. 本の雑誌 2016年12月号

我ら荒野の 俺は、誇れるのか。 42 年 ? 警察人生を。 元警察官が真実を追う、傑作ミステリー ! 柚月裕子 ・本体 1 , 600 円 じんば 警察官を定年退職した神場は、妻とお遍路の旅に出た。その途 中、 16 年前に自らも捜査に加わった事件と酷似した幼女殺害事 件の発生を知る。退職した身で現在の事件を追い始めるが 子供の部活なのに・・・頑張るのは、親 ! ? - 、重奏 息子の吹奏楽部の活動に巻 加納朋子 き込まれたワーキングマザー やることどっさり、人間関係も ・本体 1 , 500 円 大変。でも、子供のために頑 く好評既刊 / 電子書籍版も配信中〉 張るのだ ! 少年少女の青春を 七人の敵がいる 支える親たちを描く痛快小説。 集英社文庫・本体 620 円 、集英社の読書情報誌 青春と読圭Ⅱ 「リーチ先生」刊行 原田マ / 、定期購読のお申し込みは・ く著者インタビュー〉 ・集英社読者購読係 くインタビュー〉「我ら荒野の七重奏 ( セプテット ) 」刊行 TEL 03-3262-7688 毎月 20 日発売 加納朋子 親も子も、道なき道を ( 平日 9 : 30 ~ 1 2 : 00 / 1 3 : 00 ~ 17 : 00 ) FAX 03-3230-0242 歩んで行く 本体 83 円 + 税 / 年間定期購読料 900 円 ( 税込 ) E-maiI order@shueisha.CO.jp 見本誌をご希望の方は「青春と読書」の HP http://seidoku.shueisha.(0.jp から、 または〒 101-8050 東京都千代田区ーツ橋 2-5-10 ( 株 ) 集英社宣伝部「青春と読書」 H 係宛にハガキでお申し込みくたさい。 http://www.shueisha. CO. jp 〒 101-8050 東京都千代田区ーツ橋 2-5-10 集英社 最新刊・発売中・表示価格は本体価格です。別途、消費税が加算されます。 セプラリト 見本誌贈呈

9. 本の雑誌 2016年12月号

特に荒らく、事件を起こすのなら府警以外の土地でするべ 「エスカレーターぐらい付けいー どアホ ! あー、しんど」 し。半殺しにされるぞ。が暴力団関係者の間では常識であ と押し退け、事務所に突人した。中の間取りはすべて掌握 る。そして孝子署だ鬼花やポスの名は鳴り響き、時と場合 している。事務所の奥には直径二メートルほどの御影石の衝 によっては府警四課より忌み嫌われ、無理はしないが無茶は立があり、石には白く「北野」と彫ってある。巨大な表札み するからャパイと言われている。 たいなものである。その奥は革張りのソフアと一枚板のテー 「すぐ開けま ! 待っておくれやっしゃ ! 」 プルが置かれた応接間もっと奥に進むと台所と食堂があ スピーカーから声がして約一一十秒で鉄のドアが重々しく開り、十キロの米が二十袋ほど積まれている。三階は四十畳の 大広間。四階は当番組員や部屋住みの若者が寝起き出来る部 「遅い ! ガサや " " 屋が並ぶ。 鬼花が対応に出た年配の男の奥衿をつかみ、自分の後ろへ 「無職の人間がなんでこんなビル持ってんねん。ふざけやが と投げ飛ばした。 って」 「ガ、ガサ状は ? 」 鬼花はつぶやき、事務所の中を見渡した。事務机とソファ 「あっちゃ。どけコラ ! 」 に五人ほどの組員がいて、全員が鬼花たちを睨みつけてい 貫戸とポスが男を踏みつけ、後に続いた。森も倒れる男に たただ一人だけ、知らん顔でソフアに深く体をうずめ、テ チラリと令状を見せ、内容を早ロで読み上げつつ後に続く。 ープルの上に両足をのせてる奴がいるオニャスだった。白 男は次から次へと人る捜査員たちに、もみくちゃにされ、残地に可愛い、大の絵が描かれたナイロンジャージのセットア った機動隊員にボコボコにされる ップを着込み、ガラス製のヤスリで手のツメの手人れをして 「こうるアあー ワシらが大人しいにしてるんはなアー いた。他の組員とは全く違う空気がオニャスをつつんでい 警察幻時の撮影の時だけじゃあ ! 」 る。もし今、お互いに銃を持ち、撃ち合いをしたとする。他 後ろで声を聞き、鬼花は進んだ。玄関を人ってすぐが急な の奴らはソフアの陰や御影石の衝立の後ろに隠れ、自分の身 階段になっている。一階はガレージで二階が事務所だ階段を守りながら銃を撃ってくるだろうがオニャスは違う。何も も廊下も一人通れるだけの幅で、殴り込み対策用に作ってあ のにも隠れず鬼花に銃を向け、こちらに歩み寄りながら全弾 る。階段を登り切ったところに薄いグレーの戦闘服姿の若者撃ちつくすだろう。自分に弾が当たろうが外れようが関係な 一一名が立ちはだかったが、 鬼花を殺すことしか考えない 108

10. 本の雑誌 2016年12月号

場所が違えば気持ちも変わるずだった。だが、人った部屋のれに対し『十一一人の死にたい子い悲喜劇が、面白くて切ない。 ものだ。同じ人と話すのでも、ペッドには、少年が静かに横たどもたち』は、事情がさらに複第二十六回鮎川哲也賞を受賞 閉じられた部屋で向きあうのとわっていた。一人多い彼は何者雑だ。十三人目の少年を誰が殺した市川憂人『ジェリーフィッ 道で出会うのでは、心理的な緊なのか。集団自殺の参加者が彼したのか、犯人探しが始まるとシュは凍らない』 ( 東京創元社 張のぐあいが異なる。廃業したを殺したのか。十二人の子ども同時に、自分たちの安楽死の可一九〇〇円 ) の場合は、離脱し 病院内で物語が展開する『十ニたちは、このまま計画を実行し否が議題になる。なにを裁こうたくても離脱できない状況で連 人の死にたい子どもたち』 ( 文てもいいかどうかを議論し始めとしているのか、話しあいは混続殺人が起きる。真空を利用し 藝春秋一五五〇円 ) では、限らる。ルールは、各人の自由意思乱していく。場の主導権を握ろた特殊技術による小型飛行船 れた人数のなかで緊張状態が続で態度を決めること、全員一致うとするものたちが心理戦を展「ジェリーフィッシュ」が商業 く。デビュー二十周年を迎えたの場合に死ぬこと。 開する一方、黙っているもの、化された。ハラレルワールドの一 冲方丁による初の現代長編ミス この小説が、裁判劇の古典話の流れから外れた発言を連発九八三年。試験中の新型「ジェ テリだ。 『十二人の怒れる男』を意識しするものもいる。死を望んだ動リーフィッシュ」が、自動航行 インターネットのサイトを通ているのは明らかだろう。同作機、真剣さにもパラつきがあシステムの暴走のため、雪山に して集まった少年少女。初対面では父を殺したとされる少年のる。子どもの集まりであるだけ閉じこめられる。その過程で艇 の彼らは、院内で安楽死するは事件を、陪審員が議論した。そに、生死をめぐる教室内のグル内のメンパーは、次々に命を落 ープ学習が紛糾するのと似た光とす。いったい彼らに、なにが 景にも思える。それぞれの考えあったのか。 めったくた ガイド 一二人の ゝこには、ギャップがあった 空中から雪山へ。同作は、ア 冲方丁 ~ 司他人の自殺願望を批判するくせガサ・クリスティ『そして誰も 聖 ロ に、自身の願望を疑いなく正当いなくなった』、綾辻行人『十 関 円堂都司昭 だと信じるキャラクターもい角館の殺人』といった閉鎖状況 丁 る。この場から離脱する自由はものの枠組みを受け継ぎなが 装 十ニ人の子どもたちの いくらでもあるのに、思い込みら、工夫を加えている。自分の 緊迫感溢れるミステリー に縛られ、なかなかそうできなことを海流に流されるだけの海 新