お母さん - みる会図書館


検索対象: 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集
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1. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

な散髪屋さんの扉の前に着いたとき、静かにさせさえつけ : : : 。何とか仕上がった頃には、私は汗 だくで、早々と「一か月後の散髪」を思いうんざ るためのお気に入りの絵本を忘れたことに気付い た。一瞬不安になったが、思い切って扉を押すりしていた。 「いい子ね、ねえお母さん」。おばさんのその言葉 と、「いらっしゃい」、小柄なおばさんが迎えてく に驚した。「おとなしくできない子いつばいいるけ れた。初めての場所は苦手で、セミのように私に しがみつく息子を見て、ニコニコしながら「お母ど、ボクは頑張ったね。スゴイ ! 」笑顔で褒めら さんと一緒に座ろう」と席に促してくれる。息子れ、息子は嬉しそうだ。 は私に抱っこされながら、まずはおとなしく切ら人より頑張っているところは、素直に褒めてや ったら。何十分もじっとするなんてできないわ、 れ始めた。私は、ぐずりださないかひやひやしな がら、鏡越しに息子の顔ばかり見る。その間、おそこまで怖い顔をして叱ることないのよ、ねえ、 ばさんは息子や私に話しかける。どこから来たの、お母さん。そう言われたような気がした。 すっきりした頭の息子を抱っこして帰る道すが : 。私は、そろそろ落ち くつ、保育園なの、 着きがなくなり膝上でもぞもぞする息子に気を取ら、私達はあのおばさんを「チョッキン先生」と られ、簡単な返事しかできない。何であの本を忘呼ぶことに決めた。息子の頭をチョッキン、私の とんがった神経をチョッキン : れたのだろうとイライラする。「動かないで」そう 「今が一番かわいいね」と言われたら「大きくな 息子に注意する私の語気がだんだん強くなる。ぐ ずり、降りようとする息子を膝にはさみ、腕でおったらかわいくないのか」、「今だけだから我慢し 196

2. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

0 そるおそる受付に行ってみると、 のことや保育所のこと、地域の小、中学生のこと 「あら ! 今日はお父さん、お仕事お休みですなど、いろんなお話を伺うことができた。子供を か ? 」と、児童館の職員さんに尋ねられた。 連れて遊びに来ていたお母さんからは、「支援セン 「いや、そうなんですけど、今育児休業中なんでターに来てましたよね ? 」と話しかけられ、離乳 す」と応えると、 食やオムツのことなど、実際の生活でどうやって 一ーー厚】ほんとう ? すごいー えらい いるのかという情報交換ができた。 素晴らしいわ— ! ちょっとこちらのお父さん、 今でも週に一—二度は児童館へ遊びに行く。娘 育児休業なさってるんですって ! 」 は最近、持っているおもちやを友だちに譲ることを す ものすごい勢いだった。その後は連鎖反応的に覚えた。当初、女性ばかりの場に男性の私が入り込 で 米 その場にいたお母さん方に広まり、最終的に私だむことに多少抵抗があったが、入ってしまえばなん 新 け全員の前で自己紹介することになってしまった。 斗 6 のことはない。子育てをしているという共通項があ 最 さすがに突然のことで緊張してしまい、何を言っれば、男女の別はまったく関係のないことだった。 も で たのかはっきり覚えていない。夕飯を食べながら妻はもちろんのこと、会社や両親、義両親、児 妻にそのことを話したときには、娘より私の方が童館の職員さん、そこで出会ったお母さん方など、 疲れてしまったと愚痴をこぼしていた。 様々な人々のおかげで娘はすくすくと育っている。 しかし、後日支援センターのない日に再び児童そして、彼らの理解と協力があって初めて、私は ア館を訪ねたときには、児童館の館長さんから育児私が望んだ生活を送ることができている。感謝の

3. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

中盤、次男が背中で暴れだしたので、意に反し婆さんが杖をつきながら、ズルっズルっと自分の て下ろす。動こうとする次男をカずくで引っ張り足を引きずってやって来て、手を添えておじさん ながら、長男の座るベビーカーに視線を移した。 と一緒に長男を降ろした。 私はハッとして、がっかりした。長男は寝ていた 私はとても嬉しかったけど、それ以上にお婆さ からだ。 んの行動にびつくりした。なぜなら、お婆さんは この状況かなり最悪。これだとバスを私一人で自力で降りるだけでもやっとにみえたからだ。 は降りられない。落ち着きない次男と降りれば、 私はゆっくりとバスを降り、おじさんにお礼を ベビーカーの長男を降ろせない上に、次男は一人言って、お婆さんには深く頭を下げてスミマセン で降りられなく、車中でも待てない。ああ、とてと言った。お婆さんは穏やかに、「ちょっとだけで せ あ も困った。私は一人不安な気持ちを背負い込み、もね、カにならなきゃね」と、私に言って、行っ どうしよう、どうしようと考えて、怖くなって、 てしまった。私は気持ちが熱くなったけど、めち こころが縮こまってしまった。 やくちゃな気持ちだったから、そのままぼんやり ん でもバス停に到着、私は、肩を落としてオドオ歩いた。 ドと出口に向かったように思う。しかしそのとき、 こういう子連れ外出はたまにいやな思いをする。 扉付近にいたおじさんが、サッとベビーカーを持なので今までは自分も防御のつもりでこころを閉 火。ち上げてくれた。素早かったので、ずっと気にしざしていた。でもこの一件以来、自分がすべて抱 アてくれていたんだと思う。そして、ヨボョボのおえ込むのは止めようと決めた。周囲に、ちょっと 0

4. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

う保育園の同級生、ちゃんのママの申し訳なさ行き来するようになったのです。 そうな声。 さらにしばらくすると cn ちゃんに弟が誕生しま のうり 「任せといて ! 」一瞬脳裏に不安もよぎる。「よす。お母さんが出産で入院中は他の同級生のお友 その子預かって大丈夫かな ? 」でも次の瞬間「ど達と交代でちゃんを預かり、なんと四歳で我が うにかなるさ ! 」そして肉じゃがはシチューに変家に一人でお泊まりまでしたちゃん。なんだか 身、ご飯はバスタに姿を変えてお待ちかね。 もうよその子という感じがしません。夫も cn ちゃ 保育園から帰るといつもなら兄妹二人「ダッコんが来る日はいそいそと早く帰ってきて絵本を読 ー」だの喧嘩だのでタ食のしたくもままならない んだり人間ジャングルジムになったりと大活躍で けれど、ちゃんが入り三人がほどよい緊張感をす。 物 宝持って遊んでいる。たくさん食べてくれると嬉し ワーキングマザーなんて家と会社と保育園の三 いし、子供たちで入るお風呂はプールと化す。後角形をぐるぐる回っているだけだと思っていた。 ん み 斗 6 からママも合流して思いもかけずおしゃべりタイ入園して一、二年は顔と名前が一致しないし保育 ほうび も ど ムのご褒美まで。なあんだ、堅苦しく考えること園で会うお父さんお母さんはお互い忙しそうで挨 ないじゃない。 拶程度。保育園でママ友なんて無理 ! 寂しいけ あわただ どそういうものなのよ、そう思っていた ほどなくして私も会社に復帰。慌しい毎日が 始まり今度は私が「今日お願い ! 」と頼むこと それでも二年目を過ぎる頃から徐々に帰り際に 火 こうしてピンチのときに子供がお互いの家を立ち話をしたり転園する子供の送別会をやったり

5. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

お礼を言い、「あそこか、ここか」と思案しなが 玄関前にかかっていた袋の中には、近所の人が らアパートの階段を降りると、向かいの工場のお 育てた野菜がいつばい入っていた。子どもたちが じさんが手を振っている。 また、お礼を言いに行ったまま帰らなくなるだろ 「寝よるけん、迎えは後でいいわい」 のぞ 工場の奥を覗くと、事務所のソファーで眠ってう。 友人も知人もいない町だった。助けてなんて言 いる娘が見える。事務所のおばさんが、 えなかった。でも言わなくても、助けてくれた。 「音読、上手になっとるね」 と微笑んでいる。おじさんとおばさんが「大きみんな「通ってきた道だから」と言った。今で いなるのは早いわいなんて話しているのを後には、うちの子たちのサポーターでいつばいの町に する。 なった。うちの子たちの笑顔も泣き顔もみんなた くさん知っている。ついでに私の笑顔も、泣き顔 その後帰宅した上の子が「ふうばっかりずるい 迎えに行く」と工場へ行った。工場の看板犬と遊も。 んで、五時までコースだなと思った。上の子の犬私もいっか、サポートする側にまわるのだろう。 この町で。 恐怖症を治してくれたわんちゃんだからしようが

6. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

まだ若い一生懸命ママさんたちにも、そんな出会いが数多くありますように。 やればできる男の子育て上野貴也 いっからか人生の目標が「家庭を作って立派な た。そこでは、乳幼児とその保護者向けに「子育 お父さんになること」になっていた 。子育ては両て支援センター」なるものが毎週開催されており、 親でするものという考えが強かった私は、気が付子どもや保護者同士の交流や情報交換の場を提供 けば育児休業という道を選んでいた。周囲の応援しているとのことだった。 ちゅうちょ これ」ー と思ったが、少し躊躇もしていた。 を頂戴しつつ、家事・子育ての責任者としての生 とまど 活を始めたものの、最初の頃はやはり戸惑うことお母さん達の中に突然、私が紛れ込んで大丈夫だ きおく も多かった。たまに義理の母親が手伝いに来て くろうかと気後れしていたのだ。とはいえ子育ての れるのが本当にありがたかった。 責任者がそんなことではいけないと思い直し、覚 娘の首と腰が据わってきた頃、そろそろ自宅以悟を決めて行ってみることにした。 外の場所で遊ばせることはできないだろうかと考会場には四〇組からの母子が集まっており、大 えていたところ、近所に児童館があることを知っきな部屋だったがすでに人でいつばいだった。お まぎ

7. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

をこんなにもうれしく感じたのは、生まれて初め 小学生の娘は、静かなおとなしい性格で、「明 ての経験だった。 るい子」が要求されがちな小学校で、どんな風に ありがたいことに、少しずつ私の感情のセンサ過ごしているのだろうと心配だった。そんな長女 ーは世のプラス面を感知できるようになり、夫やの面談。先生からの「しつかり者ですよ。積極性 も出てきたし、ら己、 友人、周りの温かい言葉に支えられ、気が付けば ノ酉しりません 。いい子です」と 三児の母になっていた。 いう言葉が心に染み渡り、またしても自分自身の しかし相変わらず、育児や子どもについて褒め過剰な反応にうろたえてしまう。 られることには、ものすごく弱い。 母は強しって本当だろうか ? 仕事の成果で褒 保育園に通う息子の個人面談。「お子さんのよめられるより、子育てで褒められる方がずっと心 いところはどこだと思います ? 」と聞かれ、「とにに響いてくるのはなぜだろう。 かく一兀気なところですね」と返答した。「本当です「育児がんばってるね」「いい子に育っているよ」 ね。思いやりもとてもあるんですよ。お母さんが という一言は、母親にとって、魔法のようなうれ きちんと思いを受け止めてあげているんでしようしい言葉なのだ。世間では、褒めるという行為は、 ね。だから本当にやさしいんですよ」と先生。仕何らかの成果に対してということが多いけれど、 事と家事に追われ、きちんと思いを受け止めてい こういう何気ない褒め言葉こそ、育児に自信のな い母親を救うのではないだろうか。 る自信など全然ないのに、なぜか涙腺がじわ—と 緩む。 見知らぬおばちゃん、保育園の先生、小学校の るいせん 166

8. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

アス火丁 ' 0 がんばりすぎない、あせらない 事に言葉が出なかった。かわりに、私の目からは責めずに受け止めてくれたおばちゃんの優しさが、 ポロポロと涙がこぼれた。母親としての無駄な気嬉しかった。 負いが解けて流れて、ただただ温かい気持ちに包あれから、私はあの時の「よしよし」にずっと まれるようだった。 支えられている。母親として自信を失くしそうな おばちゃんは、うんうんと頷きながら、 時、イライラしてしまう時、私はおばちゃんを思 「お母さん、頑張ってね」 い出す。思い出の中のおばちゃんは今も温かくて、 と言い残し、自分の仕事に戻っていった。 思い出すだけで、また頑張れる気持ちになるのだ。 考えてみたら、母親としての自分が褒められた お母さん達は、みんな頑張っている。皆がして のは、これが初めてだった。どんなに若くても新いることだけど、みんな立派だ。世の中がもっと、 米でも、「母親」はなんでも出来て普通なのだ。 頑張っているお母さん達を褒めてあげるようにな 幼い子どもを騒がせないのは、母親として当たりったらいいと思う。お母さん達に褒め言葉をかけ 前。逆に子どもが騒げば、母親が悪いと責められてくれる人が増えたら、幸せなお母さんが増える る。 と思うから。そして幸せなお母さんからは、幸せ 私は、いっ責められるのではないかと気を張っ な子どもが育ってくれるんじゃないかと思うから。 て、疲れてイライラしてばかりいた。そんな私を、 【第三回最優秀賞】 147

9. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

名前を覚えた私、次の日からは名前を呼び、着突き合わせて遊んでいる姿は、なんとも心ほのぼ加 ている洋服、持っているおもちゃ等を誉める。初のとしてくる。お母さんが畑を荒らさないように めは警戒していた子どもも、次第に心を開き、懐注意するのを私は制する。 いてくれるようになった。 「どうせ遊び半分の畑仕事です。私が遊ぶか、子 子どもたちと接する時、私が一番気を使うのは どもが遊ぶかのことですから」と言う。どうにも さと 名前を間違えないことだった。今風の凝った名前 いけない時は優しく諭すが、そんなことはほとん どない が多いので覚えるのに一苦労であったが、ポケ始 あぜ めた頭に叩き込んだ。そして、四人に分け隔てな 二人のお母さんは、畦に腰をおろして世間話に く - 詁すよ一つにも、い掛けた。 花を咲かせる。お母さんの笑い声、子どものはし 二人のお母さんとの接し方にも細心の注意を払やぐ声、と私の畑は賑やかだ。 った。付かず離れずで、今のところうまくいって時には、出来た野菜を分けてあげることもある。 いるようだ。 真っ赤に熟れたトマトを子どもに一つ一つ持たせ そんな私に、お母さんも、子どもたちも、気をてあげた時には、子も親も心底喜んでくれたよう 許してくれたのだろう。この頃、私の畑の周りでだった。そんな時には、こちらまで幸せな気持ち になれる。 遊んで行く時間が長くなった。 子どもにとって、畑はいい遊び場である。土は ゃんちゃ盛りの子育てはさぞ大変だろう。私の ある、様々な虫がいる。四人の幼い子どもが額を畑が、二人のお母さんの息抜きの場になってくれ なっ

10. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

娘が来月嫁ぐ。一一人目であり、これで子供たちは 「うーむ」 すべて、独立することになる。親としてやれやれだ。 確かこ ーいわゆる子育てというものを自慢でき 「これで子育ても終わったな」 るほどしたかと問われると、多少、後ろめたい。 ふと漏らした一言に、横でクッキーを摘んでい 仕事にかこつけ、妻に大半を委任してきたのも事 のぞ 実だ。それにしても : た娘が、聞きとがめるように顔を覗き込んできた。 「子育てって。お父さん、何かしたん ? 」 「全然してないことはないねんで。例えば : ・」 「何って、お前。お風呂に入れたり、おしめを替 「お姉ちゃんをお風呂に入れてて、湯船に落とし えたりやろ」 たんやろ」 「そんなん、してもらったことないよ」 そうだ。長女が二カ月くらいの頃、お風呂を任 「何を言うてんねん。赤ちゃん時代のことをお前 され、つい手が滑った。慌ててすくい上げようと は覚えてないだけや」 したが、気が動転してうまくいかない。その間、 「いいや。ほんまにしてもらったことない。みん長女は湯の中でもがいていた。あれ以来、お風呂 なお母さんやった」 は入れさせてもらえなかったような : 親父の勘違い つま 菅沼孝治