出産 - みる会図書館


検索対象: 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集
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1. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

私が母親になったのは、大学四年生の冬でした。 にも、『全てを諦めない』ことを選んだのです。そ 相手は同じ大学の一一年生。まだ付き合い出して三カもそも、工学部に女の子がいること自体が珍しかっ 月しか経っていない時でした。翌年から大学院に進た大学で、前代未聞の女子学生となった私は、臨 学することが決まっている私とまだ成人するかしな月に入ってギリギリまで授業を受け、研究をし、 いかの彼。当然の様に周りは猛反対しました。『と夏休み中に出産、後期の授業再開時には復帰する ても二人では育てられないから、堕しなさい。それことにしました。反対を押し切っての出産だったの が二人の為だから』。それがお互いの両親の出したで、どんなに辛くても親には絶対泣きっかないで頑 あきら 結論でした。しかし、どうしても子供を諦められ張ろうと、固く心に誓いました。とはいえ、それは ず、反対を押し切って、私たちは結婚し、子供を想像以上に大変なことでした。 産むという選択をしました。あの頃の私たちは無謀彼も私も授業があるので、学校からほど近い自 体に気をつけて楽しく頑張ってほしいと願ってい ます。 学生結婚 あなたが息子で本当に良かった。 あなたの母親で本当に良かった。 田村めくみ 212

2. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

冨沢美保 その人との初めての出会いは、ゴミ集積所の前えて下さって有難うございました」と頭を下げた。 、つ一 0 その後、長男が生まれ、一一年半後には次男が生 結婚し、妊娠して、大きなお腹をかかえて『子まれた。子ども達が起きる前に出勤し、寝てから 帰宅、休日も度々職場に呼び出される夫に子育て ども可』のアパートに引っ越したばかりの私に、 隣の一軒家に住む奥さんが声をかけてくれた。とを分担してもらうことは難しく、私の子育ては煮 詰まっていた 言っても、初めはゴミの出し方を注意されたのだ。 そんな時、隣家の奥さんが助け舟を出してくれ ー袋は、白しか使っちゃいけ 「ゴミ出しのスー た。次男が生まれ、赤ちゃんがえりで大変だった ないのよ」 以前住んでいた同じ市内のアパートでは色付き長男を「遊びにおいで」と、ひととき預かってく のスーパー袋も可だったので、一瞬 ( ェッ ? ) とれたのが、きっかけだった。 いつのまにか、お隣さんの食器棚には長男専用 思ったが、昔からの住宅街の真ん中に、なぜかポ ツンと一軒だけ建っているアパートの住人としての小さな茶碗が並ぶようになった。長男は高校生 は『郷に入っては郷に従え』で「すみません。教のお兄ちゃんが帰宅するのを待ち構え、ゲ 1 ムで 楽しいから、いいのよ

3. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

く、泣いている。 出産するまで、子どもを産んだら瞬時に幸せに ミルクの次はげつぶ。慣れない手つきで立て抱 なれると勝手に思い込んでいた。 一五分経っ 午前二時の泣き声でそれは勘違いだと気付かさきにして試みるが、げつぶが出ない。 あきら れる。「うわーん」始めはかぼそい声だが段々と大て諦める。さあ、寝てくれ。母の願いだ。「うわ ーん」号泣。なんで ? どうして ? おむつもき きい声に変わっていく。 おむつかなげつ、うんちもしてる。強く持れいにしたよ。おなかもいつばいになったよね。 どうして泣くの ? という疑問符が頭の中をぐる っと壊れてしまいそうな娘の足を持ち上げおしり 手を洗いに行くが、そのぐるまわる。気が付くと二時間経っている。新生 を拭く。次はおつばい。 間も娘は泣いていて、いたたまれない気持ちにな児は三時間おきに授乳するので、一時間後また授 る。抱っこして、おつばいを片方五分ずつ、各一一乳だ・ : とイライラが増長する。 べランダで子守歌を歌い、泣く我が娘を抱きな 回で合計二〇分飲ませる。母乳だけでは足りてな しようなので、次はミルク作り。粉ミルクを溶かがら涙がぼろぼろ出た。娘がかわいいと思えない。 して流水で冷ます。娘は「早く—」というがごと「かわいいよね」という夫の言葉に腹が立つ。虐待 娘をかわいいと 思える日が来るまで 中津直子 120

4. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

0 だまだたくさんあるであろう多くの人々との出会 をすると、あのおじさんの『取っちゃ 1 、投げる。 を、また語ってくれるだろうか。 一つ一つの動作を大切に ! 』という声が聞こえてい / ーたくさんの 未熟な若い親は、子どもと共こ、 くるのよねー」と言いながら、受けたり投げたり 方々に支えられていたんだと思うと、しみじみと の動作を繰り返している。 感謝の気持ちがわいてくる。 「取っちゃー、投げる。取っちゃー、投げる」 どこのどなたか存じませぬが : おしゃべりな娘は、胸に大切に仕舞っているま 加藤三天 今、私は七十二歳ですが、昭和三十三年一月十わずか十日余りで北上市に帰ることになり母も 一か月程行ってくるというので、仙台駅ホーム 五日の成人の日に、生まれて始めてビールを口に へ。大変な混雑で、自由席だけですから並んでも しました。その苦さ。周りからは、 座れない不安。寒さが顔を刺します。ああ、先に 「なあに、馴れればうまいと思うさ」 並ばなかった自分。その時、 この年、姉が長女を出産し、祝杯をあげました 「お並びの皆さん、この方は生まれたばかりの赤 が、ビールを甘く感じました。 生きるを男も地域社会で

5. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

くるのか、それを考えただけでも涙が出てしまう。 らに子育てに参加してくれた。三月まで働き、四 子供を育てるのは親や周りの大人たちだけではな月に無事に出産できたことを心から感謝している。 いということを知った。私のような未熟な親を育元気に産まれたこの子が大きくなったら、毛玉だ ててくれたのは、まだ子供の中学生だ。子供なが らけのマタニティ服を見せてあげようと思う。 山本信之 物 宝 五歳と三歳の兄弟、四歳と二歳の兄妹、両隣の になって様子は変わった。 の リタイア後で畑に居ることの多くなった私。当 可愛い子どもたちだ。今では、私の大切な友達で ん まある。 然顔を合わせる機会が増えていった。初めのうち も ど お母さんはいずれも三〇代、嫁いできた人で、 はありきたりの挨拶程度だったが、子ども好きの 地元に馴染みはなく、隣にいても誰だか分からな 私、それだけではどうも物足りない。子どもにも いような存在だっこ。 一一言声を掛けるようになっていった。 それが、子どもが生まれ、外へ連れ出すように 「かわいいね」 アなると、車の通らない私の畑の道が恰好な散歩道「名前はなんというのかな」 風変わりな託児所

6. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

妻日く、私はイクメンではないらしい。確かに ら妻と長女のストレスは日に日に増している。五 平日は早朝から深夜近くまで仕事なので帰宅する歳の長女はこれまで私達両親からの愛情を全てと 頃には子どもたちはもう夢の中という訳でほとん言っていいほど双子に持っていかれ、お気に入り ど関わっていない。それでも休日はなるべく妻にのおもちゃも細かなパーツが多いとの理由で双子 が同時に寝た一瞬でしか遊べない。そして妻は毎 負担を掛けないよう私なりに努力をしているがど うも不満のようである。双子を授かったあの日か晩帰宅の遅い私に『早く帰って来て少しは手伝っ いただきました。その手作りの券をもらった時は、 という友達の気づかいが今でも心に残っています。 どんなに疲れていても実家が遠くて気軽に頼れるやはり同じ子を持っママ友達はいざという時にす ゞこ、よあ・ : と実感し 人がいない私にとって、どんな出産祝いよりもすごく頼りになり本当にありカオしオ ました。 ごく嬉しくて涙が出そうなほどでした。 私も困っているママがいたら同じように協力し 「子供を預って」とは自分からは頼みにくいもの。 回数券があれば少しはお願いしやすくなるだろう、 て助け合っていきたいなあと思いました。 月一イクメン 吉田崇

7. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

0 曽川和子 「もう、寅ちゃん ! やめてよ ! 」と娘のヒステリ 「皆で一緒におやっ食べようか」と言うと、「はあ ックな声が響く。寅ちゃんは大声で泣き出した。 い」と機嫌よく、皆を呼びに行った。 夜、子どもたちが寝てしまうと、娘が私に、「お 「うるさい ! 」と再び娘の声。 寅ちゃんは生まれたばかりの弟にいたずらをし母さん、おじいちゃんと同じこと言っていたわね」 たらしい び と笑って言う。 っ そうだったのだと、私の子育て時代が蘇って 娘が三人目の子・まあ君を出産。我が家にやっ きた。幼い娘を連れて実家に帰ると、父は娘を膝 て来た時の事だ。娘の目の下に隈ができている。 も と し子 の上にのせて、「この子はいい子だ。本当にい、 相当くたびれているのが分かる。 と も ど 泣いている寅ちゃんに手招きすると、私のとこ だ」と連発していたのだ 「いい子だ」と言ってやれば、その子は必ずいい子 ろにかけて来た。頭を撫でながら、「寅ちゃんはい に育っというのが父の持論だった。娘が小学生にな い子ねえ。寅ちゃんは本当にいい子ねえ」と繰り 火ー返し言うと、寅ちゃんは泣き止み、微笑んで私をつても、父の大きな手は娘の頭を撫でる。そして、 父は、「、、 しし子たいい子だ」と言い続けるのだ。 見つめた。 いい子ねえ よみがえ 201

8. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

遠くの親戚より 吉田和美 近くの他人 一日の授乳回数一五回以上。 ばかり考えてしまう。お互いの実家や親戚は飛行 一日の睡眠時間約三・五時間。 機を使う距離だし、一番の育児相談相手であった 三カ月前、我が家に双子の赤ちゃんがやってき 私の母も二年前に他界。近くに頼れる人がいない ーもくよく としんどい た。ミルク作り、オムツ替え、沐浴・ : 、当たり前 だが二人いると全てのことを二回ずっしなければ「双子、大変だね」「何かあったら言ってね」 ならない。それに加えて四歳の長女の相手 + 家事。 このような言葉は何度も頂いた。でも実際に行 とにかく一日が目まぐるしく過ぎていく。 双子の動に移してくれたのは意外にも近所の〃ママ友〃 可愛さを感じる暇もなく、二人が同時に寝たほんであった。 の数分間でしなくてはならない家事が山ほどある。 双子の妊娠報告をした際、何かある度に声を掛 「はあ」ため息しか出てこない。双子じゃなかった けてくれた。今までは「大丈夫、ありがとう」と らどんなにいいだろう、と何度思ったことか。双人に頼ることなんてなかったが、今回ばかりは頭 ちゅうちょ 子だと近所のスー ーへ行くのも躊躇してしまを下げてお願いした。出産の為の管理入院中も長 う。家族が増えた喜びよりも子育てや将来の不安女の幼稚園での様子をメールしてくれたり、「暇 190

9. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

稲垣良隆 「ほにゃあ 夜泣きで就寝中も起こされるため、さすがに眠い 猫みたいな産声をあげて、息子は産まれた。出毎日。仕事中も眠気で頭がぼ—とし、ミスが激増 産に立ち会った僕は、生命の神秘に声を失いながしてしまったが、それでも「育児を手伝いた、 らも、父親となる実感がふつふっと湧いてくるのという気持ちから早起きは続けていた。 を感じた。 そんな僕の努力にも関わらず、妻は日に日に育 ひへい 今までの僕はキャリア志向で、仕事のキャリア児のため疲弊していった。妻は、「手伝ってくれ アップを第一優先とした生活を送ってきたが、妻てありがとうね」と毎日言ってくれたが、その疲 の出産を機に「仕事を少しくらい犠牲にしても、弊していく様子は、まるで僕の育児への努力が足 育児をできる限り手伝おう」と考えるようになつりないと責めているように思えた。更に、生後三 た。しかし、仕事で毎日帰宅が夜一二時を過ぎてカ月になって息子が僕になっかなくなった。妻が しまうので、帰宅後は息子は寝てしまっている。抱っこすれば、息子はどんなに泣いていてもすぐ そこで、朝早起きして出勤前の二時間を育児に充に泣き止むし、すぐに寝た。しかし、僕がどんな てることにした。睡眠時間は四時間以下、しかもに長い時間抱っこしていても、泣き止まないし寝 育児を手伝う 0 186

10. 子育てがもたらしてくれるもの エッセイ・コンクール受賞作品集

清水徳子 我が家には、三歳、二歳、二カ月の三人の娘が妊娠、出産を機に生活はガラリと変わった。今 いる。育児が楽しいとか、大変とか落ち着いて語までのように出来ないことは、山ほどあった。な れない育児生活でストレスもたまった。 る余裕はまだない。 妊娠、出産は女の人にしかできないのだと初め 初めて妊娠した時、私はいろんな意味でパニッ クに陥った。夫は学生時代の先輩、お互い就職して男女の違いを深く感じた。と、同時に一人でい ろんなものを背負い込んでいるように思えてイラ てマンションを借り、「ダブル・インカム・ノー イラした。 ・キッズ」のきままな生活を送っていた時だった。 学生時代、就職してから、結婚してからさえ男「しよせん男の人に出産は出来ないのよね。大変 女の違いを深く感じることなく生活していた。家な思いをして産んだのは私 ! おつばいをあげる のも私 ! 」 事、炊事、どちらがしても違和感はなかったし、 何度も夫に八つ当たりした。育児休暇を取得し 仕事で帰りが遅くなれば外食もした。余暇はテニ ススクールや、ジムに通ったり、毎年ちょっとして家にこもり、働く女の人をうらやましく思った りもした。 た旅行もしていた。 父親の権利