様々なタイプの超新星 星の最期である超新星爆発は , これまで考えられていたよりも しかないような暗い超新星が見つかっている。このような普通と はるかに豊かな多様性があるようた。最近の観測で , 普通より は違った特異な超新星爆発がどのような種類の星の , どのような 100 倍も明るい超新星や , 爆発が不十分で明るさが通常の 1/100 状況で生じるのか , いくつもの理論モデルが提唱されている。 中性子星連星の マグネター型 普通の超新星 疑似的超新星 対不安定型超新星 不発超新星 典型的な超新星では . 超新星 超新星爆発を起こしか 超大質量星の高温のコ 最重量級の大質量星は 太陽の 10 倍以上の質量 けた星か外層を部分的 その自重による強大な アでは粒子・反粒子へ 中性子星連星が衝突・ 高速自転している恒星 を持つ恒星のコアが崩 に吹き飛ばし , 再び平 アが生成され , このヘ 合体すると , 質量のほ が崩壊すると , 強い磁 重量によって , ほとん 壊を起こす星の中心 衡状態に戻ることかあ アが原因て . 核燃料が ど全質量が凝集され , とんどはブラックホー 場を持つ中性子星「マ 部では中性子星と呼ば るこのような星が最 まだ残っている段階で ルになるが , ごく一部 グネター」か誕生する 中性子星を超える超高 れる高密度天体か形成 終的に爆発すると , 飛 超新星爆発が生しる。 密度天体 , ブラックホー は逃げ出して超新星ほ その強磁場の働きで , され , 星の外層は超音 び散った残骸か以前に 大きな爆発のエネル どは明るくない「キロ 自らの自転エネルギー ルになるため , 爆発に 速の衝撃波によって吹 吹き飛はされたかけら ギーによって星は完全 ノウア」を生じさせる が吸い上げられ , 超高 至ることなく最期を迎 き飛はされる の層にぶつかって非常 に吹き飛び , プラック とみられている 輝度超新星のエネル える に明るく光る ホールは形成されない。 キー源となる 中性子星 おおもとの星 . おおもとの星 おおもとの星 : おおもとの星 : 10 太陽質量以上 10 太陽質量以上 70 ~ 150 太陽質量 150 ~ 300 太陽質量 おおもとの星 . 300 ~ 1000 太陽質量 中性子星 コア内部で 粒子・反粒子 ヘアが生成 3 0 中性子星 ブラックホール 中性子星 ブラックホール 何も残らない マグネター 超高輝度超新星 これらのシナリオでは 普通よリもはるかに明る い超新星が出現する 1 兆倍 マグネター型超新星 疑似的超新星 対不安定型超新星 明るさ ( 太陽光度 ) 暗い超新星 中性子星連星が合体する際や , 宇宙最重量級の 恒星が最期を迎える際 , 不発の花火のような暗 い超新星が出現する 不発超新星 普通の超新星 中性子星連星の合体 ( キロノヴァ ) 100 万倍 N3SNV11S18 工 D N3 「 1000 1 OO 明るく輝く期間 ( 日 ) http://www nikkei-science.com/
現代の技術は , こうしたドラマチッ クな天体現象の研究を一変させた。望 遠鏡は自動化され , 高解像度のデジタ ルカメラが搭載されるようになった。 撮影データはコンピューターに送られ , 画像処理とパターン認識はソフトウ工 アが行う。このようなロポット望遠鏡 は天球の広範囲の領域を定期的にモニ ターし , 夜空に異常がないか常に見張 っている。この新技術の登場によって , ここ 10 年ほどは毎年数千個もの新た な超新星爆発が発見されている。 20 世紀に観測されたすべての超新星を合 わせた数の超新星が毎週新たに見つか っている計算た。 単に超新星の発見数が増えただけで はなく , 普通の超新星とはタイプが異 なる超新星の存在も明らかになった。 普通の超新星の 100 倍も明るいものや , 逆に 1 / 100 の明るさしかないもの。深 紅に輝くものや , 紫外線で光るもの。 何年も明るく輝き続けるものや , 数日 で消えていくもの。星はこれまで考え ていたよりはるかに多様な形で最期を 迎えることがわかってきた。 このように様々な特異タイプの超新 星爆発がなぜ起こるのか , 天文学者は その原因を探っている。これらの超新 星は明らかに , 星の一生と死や , 温度・ 密度・重力が極端な環境における物理 について , 何か重要なことを私たちに K E Y ( 0 N ( E P T S 語っている。そしてこれら超新星のフ ルラインアップを研究することで , 星 が砕け散って , プラックホールなどの 残骸に変わる原因を突き止めたいと私 たちは考えている。 また超新星は私たち自身の起源につ いても教えてくれる。ビッグバン直後 の宇宙に存在したのは最も軽い原子 , 水素とヘリウムがほとんどだった。理 論によれば , 私たちの目の前にある他 のあらゆる元素 , 例えば私たちの骨を 形成するカルシウム , 血液中に含まれ る鉄などは , 星が爆発する過程で合成 され , 宇宙にまき散らされたと考えら れている。 これまで科学者たちは一般的な超新 星ですべての重元素が生成されたと考 えてきた。しかし , 普通とは異なる奇 妙な超新星が多数発見された現在 , 元 素の誕生地は周期表の場所によって異 なる可能性が指摘されている。地球と 地球上のあらゆる生命を生み出した元 素組成が , どのようなタイプの超新星 爆発の取り合わせによって生じたのか , 私たちは様々なタイプの超新星爆発を 多数調べることで , その答えに迫りつ つある。 星の破滅的な最期 発見された一部の超新星がいかに風 変わりなものかをわかってもらうため , 明るさにバラエティーがある超新星 ■自動化された望遠鏡で迅速な掃天観測が行われるようになり , 普通の超新 星爆発とはかなり様相か異なる特異タイプが多数発見されるようになっ た。普通の 100 倍も明るいタイプや , 逆に予想外に暗く , 爆発をほとん ど起こしていないタイプなとがある。 ・こうした特異タイプの超新星はどのような種類の星によって引き起こさ れ , 地球や私たちの体を構成する重元素か , そこでとのようにして生み出 されるのか , 複数の理論モデルが提唱されている ■今後 , 観測か進めば , 星の一生とその最期 , さらには星々が地球上の生命 に与える影響に関する多くの根本的な謎を解く手がかりが得られるだろう。 60 まずは普通の超新星について考えてみ よう。普通とはいえ , 通常の超新星爆 発それ自体が十分に非凡な現象だ。恒 星は一種の安定した原子炉のようなも のだ。重力によって結びついている巨 大なプラズマの塊で , 圧縮されたコア の内部で核融合が起こり , エネルギー が生み出される。核融合で生じる熱は , 星の内向きに働く重力に対抗する外向 きの圧力を生み出す。このような力の せめぎ合いのバランスが崩れ , 重力が 核融合の圧力を大幅に上回ったり , あ るいはその逆の状況が生じることによ って引き起こされる破滅的な結末の 1 つが超新星爆発た。 最も一般的なタイプの超新星爆発は , 10 太陽質量以上の中程度のサイズの 恒星で起こる。これらの恒星では , 数 百万年にわたって水素の核融合が続き , 次第に重い元素が生成されるようにな る。やがて内部の燃焼が進んで核融合 の燃えかす " である鉄が生成される と , 核融合はそれ以上進まなくなる。 これによって外向きの圧力が失われる と , 星の最深部にあるコアは重力崩壊 を起こして体積が 100 万分の 1 まで圧 縮され , 中性子星と呼ばれるコンパク トな超高密度天体になる。中性子星で は , 太陽を上回る質量が半径わずか 10km 程度の範囲にぎゅうぎゅうに詰 め込まれている。コアが崩壊する際の 自由落下に伴って放出される膨大な工 ネルギーが , 星の残りの部分をバラバ ラに吹き飛ばす。 普通の超新星爆発で生じるエネルギ ー量をイメージするには , 太陽が持て るすべての水素をわずか数秒で燃やし 尽くすと考えてもらえばよい ( 実際の 太陽が水素を燃やし尽くすには 100 億 年以上かかる ) 。この膨大なエネルギ ーには専用の物理単位があり , ノーベ ル賞学者のべーテ (Hans Bethe) に ちなんで 1 べーテと数えられる。 超新星爆発が起きると恒星の内部温 度は 30 億度以上まで上昇 , 爆発の際 日経サイエンス 2016 年 9 月号
という高速自転が可能だ ( これ以上 , 高速になると強大な遠心力によってバ ラバラになってしまう ) 。この自転す る巨大なコマはすさまじい量の運動工 ネルギーを持ち , 最大 10 べーテにも 達する。 では , この回転運動のエネルギーは どのようにして超高輝度超新星爆発の パワーに転換されるのだろう ? 仲介 役となるのが中性子星が持つ超強力な 磁場だ。このメカニズムを理解するた め , 冷蔵庫にメモを貼り付けるマグネ ットを手のひらに載せて回転させるこ とを考えてみよう。磁石を回すと , 磁 石の周囲の磁場がねじ曲げられる。磁 場は見ることも触れることもできない が , 磁場をねじ曲げるのに使われた工 ネルギーの一部は , 電磁波の形で空間 を伝わっていく。中性子星の周囲でも , 同様のプロセスが大規模に起こってい ると考えられる。 最も鮮やかな事例は , 1094 年に中 国の天文学者によって報告された超新 星爆発の残骸である「かに星雲」だ ( 右 ページの画像 ) 。現在目にしている , かに星雲の輝きは , 自転する中性子星 の磁場が生み出すプラズマの渦がもと になっている。 1000 年近くにわたっ て , 中性子星のねじ曲げられた磁場は , 中性子星の回転運動のエネルギーを汲 み上げ , 中性子星を取り巻くガスを加 熱し , 美しく輝かせている。 およそ 5 年前 , 私と研究仲間である カリフォルニア大学サンタバーバラ校 のビルドステン (Lars Bildsten) は , このプロセスをさらにパワーアップさ せれば , 超高輝度超新星のまばゆい輝 きを説明できる可能性を指摘した。そ の場合の中性子星は , かに星雲にある 中性子星の 100 ~ 1000 倍も強い磁場 を持ち , バラバラになる寸前のスピー ドで高速自転している必要がある。 そうした中性子星では , 1 カ月もた たないうちにほぼすべての回転エネル ギーが汲み上げられ , 超新星残骸の雲 64 が , かに星雲の 100 万倍も明るい光を 出す可能性があるのだ。極端に聞こえ るかもしれないが , この程度の強さの 磁場を持つ中性子星はいくつか観測さ れている ( ただし超新星残骸の内部に 位置しているものはない ) 。このよう な天体は「マグネター」と呼ばれ , 宇 宙最強クラスの磁場をまとっている。 つまり超高輝度超新星の中には超高速 で自転するマグネターの誕生と , その 急減速によって生じたものもあるとみ られる。 予想外に暗い超新星 超新星の様々なタイプの中で超高輝 度超新星と対極にあるのは , やはり近 年に発見されたもので , 明るさが通常 レベルに達しない奇妙な超新星だ。広 域サーベイで , 明るさが普通タイプの 1 / 100 という不思議な超新星がいくつ も検出された。このように弱い超新星 爆発が起こった原因について議論が交 わされているが , 驚いたことに , それ らの一部は , 臨終を迎えた最重量級の 星が発する。くぐもった声 " ではない かと考えられる。 爆発し損ねた超新星 宇宙で形成 される大質量星の質量上限ははっきり わかっていないが , おそらくは 300 ~ 1000 太陽質量程度と考えられる ( これは対不安定型超新星爆発を起こ すとみられる超大質量星より重い ) 。 そんなモンスター星なら , 見たことも ないような派手な爆発を起こしそうな ものだが , 実際は不発の花火のようだ。 このような星は重力が極めて大きいた め , いったん状態が不安定になるとそ のまま星全体がつぶれてしまう。中心 部への落下によってやがて時空に穴が 開き , 中性子星よりも高密度の天体 , すなわちプラックホールが形成される。 理論モデルによれば , 星のほとんど の部分はプラックホールに呑み込まれ て突然視界から消える。この一見何も 起こっていないように見える現象は 「不発超新星」と呼ばれる。自動化さ れた望遠鏡による掃天観測で不発超新 星の探索が行われている。この場合 普通の超新星のように夜空に突然現れ る明るい天体を見つけるのではなく , それとは逆に , 明るく輝いていた天体 が不意に消える例を探す。 爆発には失敗したものの , プラック ホールを形成する星の中には , 自らの 最期をひっそり知らせようとするもの もある。一部の大質量星では , コアが 希薄な水素ガスの衣をふんわりとまと っている場合がある。星の大部分はプ ラックホールの事象地平の向こう側に 呑み込まれるが , そうした水素ガスは 高温になって吹き飛び , かすかな光を 出すだろう。超大質量星の最期を飾る のは皮肉にも , 非常に弱くて暗い超新 星爆発なのだ。 中性子星連星の合体普通よりも 暗い超新星爆発の中には , まったく別 の激しい出来事が原因で起こっている ものがあるかもしれない。中性子星ど うしの衝突だ。 大質量星は , 互いに相手の周囲を回 る連星として誕生することが多い。こ のような連星がそれぞれ超新星爆発を 起こし , そうした爆発によっても引き 離されなかった場合 , 中性子星 2 つか らなる中性子星連星が形成される ( 中 性子星とプラックホールの連星や , プ ラックホール 2 つからなる連星になる 場合もある ) 。 時がたっと , 連星系の中性子星はら せん軌道を描きながら互いに次第に近 づき , 最後には衝突・合体して大型の プラックホールになる ( 前ページの 図 ) 。最近 , プラックホール 2 つから なるプラックホール連星の合体で放出 された重力波が検出され , こうした連 星合体が起きることが裏付けられた ( 68 ページからの記事 ) 。 理論計算によると中性子星連星が合 体する際 , 極めて強い重力 ( 地球が人 体に及ぼす重力の約 100 億倍 ) によっ 日経サイエンス 2016 年 9 月号
測可能な宇宙の果てに近いような遠方 でも発見されている。超高輝度超新星 は非常に珍しいタイプで , 普通タイプ の 1000 個に 1 個程度の割合でしか見 つかっていない。 超高輝度超新星がこれほど明るい理 由を説明できる決め手となるような証 拠はないが , 3 つの説が有力視されて いる。そのうちの 1 つの説は , これま でに観測されたほぼすべての超高輝度 超新星を説明できる可能性があるが , 3 通りのシナリオすべてがそれぞれあ る程度の頻度で起こっている可能性が 高いだろう。 対不安定型超新星当然だが , 多 くの天文学者は超高輝度超新星を非常 に大きな質量を持つ超大質量星と結び つけようとする。理論によると , 超大 質量星は実際にはむしろデリケートな 天体で , 様々な不安定要素の影響を受 けやすいと考えられる。特に 150 ~ 250 太陽質量の星はコアが非常に高温 になり , 粒子・反粒子ペア ( 電子・陽 電子ペア ) が大量に生成される可能性 がある。これら粒子対の生成にはエネ ルギーを必要とするため , 星の内圧が 下がり , まだ核燃料が残っている段階 でコアが重力崩壊する。 ここから星の破滅的な最期が始まる。 コアが圧縮されることにより , 核融合 反応が収拾のつかないほどに暴走し , その場のあらゆるものが燃やし尽くさ れる。 100 べーテにも達する膨大な工 ネルギーが一気に放出され , 星は収縮 から一転 , 大爆発を起こしてこつばみ じんに砕け , 後には何も残らない。 この宇宙最大級の核爆発では普通の 超新星の 1000 倍以上の放射線を発す る雲が生成される。この雲は非常に質 量が大きく不透明と考えられるため , 光が雲の内部を拡散しつつ抜け出るの に 1 年以上かかるとみられる。つまり , このような爆発を起こした星の残骸は 非常に明るく , しかも長期にわたって 輝き続けるはずだ。 最近発見された超高輝度超新星のい くつかはこの予想とよく一致する性質 を持っことから , 極微の粒子対の大量 生成が巨大な星を死に追いやる様を私 たちは目撃しているのだと主張する天 文学者もいる。これに対し , 同じデー タを別の理論でもっときちんと説明で きるとの主張もある。非常に明るく長 期にわたって輝き続ける超新星の観測 を今後も続けていけば , いずれは爆発 した星の残骸の組成や膨張速度が明ら かになり , このシナリオが事実かどう かがわかるだろう。 疑似的超新星超高輝度超新星に 関するもう 1 つの説は , 先述の超大質 量星よりも質量がやや小さい星 ( 70 ~ 150 太陽質量 ) が引き起こす現象 だと考える。この規模の星も様々な要 素の影響を受けやすく不安定だが , 状 況は超大質量星ほどには深刻でない場 合が多い。星がつぶれかけて激しい燃 焼が始まっても , そこから立ち直り , 再び膨張に転じて核反応に歯止めがか かり , 生き長らえることができる。し かしバランスを回復するこの過程で , 星の外層の大部分が吹き飛ばされる。 この現象は「疑似的超新星爆発」と呼 ばれ , 暗い超新星のように見えるが , 実際には超新星爆発ではなく , 星の 。臨死体験 " にすぎない。 この程度の質量の星は , こうした疑 似的な超新星爆発を何度か起こし , そ のたびに質量を少しずつ失っていく。 そのうちに核燃料を使い果たし , 最後 には普通の超新星と同じような爆発を 起こす。そうした星は , 以前の爆発で 放出された物質からなる何層もの殻で 覆われた状態になっている。だから , 星が最終的に死を迎えた際には , その 超新星爆発で放出された塵や星のかけ らが , 殻の中に突っ込んでいくことに なる。超新星爆発の残骸でできた雲が , こうした殻と激しく衝突すると , 非常 に明るい花火のように輝く。このシナ リオで , 一部の超高輝度超新星を説明 できる可能性がある。 近年 , 自動化された望遠鏡による掃 天観測によって , ある大質量星が晩年 に " 躁状態 " を繰り返す様子が捉えら れた。 2009 年 , やや暗い点を除けば , 普通の超新星のように思われる天体が 見つかった。 SN2009ip と名付けられ たこの天体は数週間で夜空から消え , ほとんど忘れ去られていた。ところが 誰もが驚いたことに , その 1 年後 , 天 球上のまったく同じ場所に暗い " 超新 星 " が再び出現した。どうやらこの星 は死んではいなかったらしい。 2012 年には 3 回目の爆発が観測され , さら に 1 カ月後 , 非常に明るい爆発が起こ った。 一部の天文学者は最後から 2 番目の 爆発こそ , 星が死を迎えた超新星爆発 であり , 最後の最も明るい輝きは , そ れまでの何度かの " 臨死体験 " の際に 放出された物質に , 超新星の残骸の雲 が激しくぶつかった結果だと考えてい る。また , この星は実は現在も活動を 止めておらず , 今後も爆発を繰り返し , 私たちを楽しませてくれるだろうと考 える天文学者もいる。答えがはっきり するまでに数年はかかるだろうが , 現 時点では一部の大質量星の晩年に生じ る激しい不安定状態を目の当たりにし たと考えてよさそうた。 マグネター型超新星最後に , 超 高輝度超新星に対するもう 1 つの説と して , 超高輝度超新星の派手な輝きは 星の質量とはあまり関係がなく , むし ろ星の高速自転と関連しているとの見 方がある。 10 太陽質量以上の星は , 普通の超新星爆発を起こして死を迎え る際に中性子星を形成する可能性が最 も高い。そのような大質量星が爆発前 から高速自転していた場合 , 回転して いるフィギュアスケート選手が両腕を 体に近づけると回転速度が上がるよう に , 重力崩壊によって生じる中性子星 の自転速度は非常に高速になるだろう。 原理的には中性子星は毎秒 1000 回転 日経サイエンス 2016 年 9 月号
天体物理学 星の大爆発さまざま ほぼ 1 秒に 1 回 , 観測可能な宇宙のどこかで , 恒星が破滅 的な最期を迎え , その中には大爆発を起こすものも多い。夜 空に出現する超新星は星の大爆発の輝きだ。自動化された望 遠鏡で迅速な掃天観測が行われるようになり , 普通の超新星 爆発とはかなり様相が異なるタイプが多数発見されるように なった。普通の 100 倍も明るいタイプや , 逆に予想外に暗く , 爆発をほとんど起こしていないタイプなどがある。さらにつ い最近 , 光ではなく重力波を爆発的に放出する天体現象も相 次ぎ発見された。いわば重力波の。超新星 " だ。こうした様々 なタイプの超新星に関して , いくつもの理論モデルが提唱さ れており , 今後の観測によって検証されることになる。 超新星に新タイプ続々発見 58 へ→ D. ケイセン ( 米カリフォルニア大学バークレー校 ) 重力波の″超新星″も相次き発見 68 ヘージ 中島林彦 ( 編集部 ) p さ 08 WQ eD お当一 un VIS30VN dd コ一工 d 」 0 AS 山にコ 0 し バイオメカニクス 好記録へダッシュ ! 最速ランナーの秘密・ 72 ヘージ D. F. マロン (SCIENTIFIC AMERICAN 編集部 ) お待ちかねリオデジャネイロ・オリンピックの開幕が迫っ た。男子 100m で日本選手は初めて 10 秒を切るか ? ウサ イン・ポルトらトップ選手から世界新記録は出るのか ? 興 味は尽きないが , そもそも短距離走で好記録を出すためのカ ギはどこにあるのだろう。これまでは空中で下肢の位置を素 早く変えて次のステップをなるべく早く踏み出すことだとさ れてきた。だが , 米国のスポーツ科学者による最新の発見は , 足で地面を蹴る力の強さのほうが重要であることを示してい る。この力を生み出している要因と , どうすればそれを強化 できるかが , バイオメカニクス研究から明らかになった。米 国のトップスプリンターの訓練にも取り入れられている。 NOSIIM 亠出「 3 日経サイエンス 2016 年 9 月号
高密度天体の連星の合体 中性子星 ( 緑 ) とブラックホール ( 黒 ) からなる連星が衝突・合体 するシミュレーション。このような プロセスは 2 つの中性子星からな る連星の合体の際にも起こると考 えられる。中性子星連星の合体に よって普通よリかなり暗いタイ プの超新星の一部を説明できる。 まずブラックホールの重力によっ て中性子星がらせんを描くような 形に変わリ ( 1 と 2 ) , その尾を引 いている部分から , 中性子星を構 成する物質の一部が宇宙空間に 放出され ( 3 ) , 残った部分がブラ ックホールを包み込む ( 4 ) 。最終 的にはを中性子星を構成していた ほとんどの物質はブラックホール に呑み込まれる。 効さö8 WOJ! 、 2 し」 0 ~ 当ミ n で ue 0 」 0q27 、 2U0 心 2 ~ 効さö8 巴 u 27 トく ) っ 0 」 S 一 ODN く」亠 0 A にコ 0) 〇 〇 1 2 3 4 に新たに合成された重元素 , 例えばケ まで広がり , 太陽の約 1000 倍も明る 体的には放射性物質の破片が飛散して イ素やカルシウム , 鉄 , さらにはニッ く輝く。数時間後には地球は雲にすっ 拡大する巨大な雲で , これが数週間以 ぼり包まれ , 1 日後には木星と土星も ケル・コバルト・チタンの放射性同位 上にわたって輝いて見える。私たちは 体などが超音速の衝撃波によってばら 呑み込まれる。数週間後には太陽の燃 この燃えかすを調べて手がかりをかき まかれる。ものの数分で星はこつばみ えかすの雲は太陽系全体に広がる。こ 集め , 爆発を起こした星がどんなタイ プで , 爆発の原因は何だったのかを探 じんになり , 燃えかすや放射性物質の の頃には雲は半透明に変わり , 内部に 破片からなる雲となって四散する。時 閉じ込められていた光が外に出て , 雲 っている。 速 3000 万 km という光速の数 % に達 の明るさはピークを迎え , 太陽の約 明るすぎる超新星 する超高速た。 10 億倍の明るさで輝いた後 , 徐々に 幸運にも我らが太陽は小さすぎて超 消えていく。 近年発見された様々な特異タイプの 新星爆発には至らない。しかし仮に超 超新星爆発自体が発した短時間の X 超新星の中で , おそらく最も派手なも 新星爆発が起きたとしたら , 地球に届 線閃光を捉えた例はまだないし , どの のは膨大なエネルギーを伴う爆発を起 くその最初の兆候は強力な X 線の閃 星が爆発したのかを天体画像のアーカ こし , 普通の超新星の 100 倍以上もの 光で , それによって地上の全生命は死 イプを参照して特定できることもごく 明るさで輝く超新星で「超高輝度超新 滅するだろう。その数分後には太陽が 星」という。このタイプはこれまで発 まれだ。通常 , 私たちが目にするのは 四散してできた雲が太陽の 2 倍の領域 超新星爆発が起きた後の現象だけ , 具 見された超新星の中で最も明るく , 観 http ・ //www.nikkei-science.com/
と予想される。私が大学院生のバーン ズ (Jennifer Barnes) と共同で行っ た最近の理論研究によると , 中性子星 連星合体の際に放出される雲の輝きは , その雲に含まれる重元素の特異な組成 によって , 深紅か赤外線の特徴的な輝 きになることが判明した。このような 現象は「キロノヴァ」と呼ばれる〔訳 注 : 新星 ( ノヴァ ) と超新星 ( スーパ ーノヴァ ) の中間の明るさを持つ天体 という意味〕。 最近 , この中性子星合体に伴う放射 性元素由来の赤色の " 煙 " とみられる ものが初めて観測された。 2013 年 6 月 , 短時間のガンマ線バーストが観測 され , その付近の天球領域で中性子星 連星の合体が起こった可能性が考えら れた。ハップル宇宙望遠鏡をガンマ線 バーストが検出された方向に向けたと ころ , つかの間の赤外線の輝きを捉え た。数週間後 , その赤外線天体は姿を 消した。得られた観測データは十分と はいえなかったが , 理論から予測され たキロノヴァの輝き方と一致した。 この推定が正しければ , 私たちは初 めて重金属や貴金属が合成されるプロ セスを直接目撃したことになる。今後 も同様の現象の観測を重ね , このタイ プの超新星によって合成された各種金 属の量を調べ , 宇宙に存在する金やプ ラチナなどの重元素のすべてが , この タイプの超新星によって説明できるの か , あるいはそのようなプロセスによ って合成されるのは一部にすぎないの かを突き止めたいと考えている。 混沌の宇宙 活動的な天文現象の研究はまだ始ま ったばかりだ。今後 10 年で , 自動化 された新鋭望遠鏡による観測が相次い で始まる。カリフォルニア州サンディ 工ゴ近郊で近く稼働するツビッキー トランジェント・ファシリテイや南米 チリに建設中の大型シノブティック・ サーベイ望遠鏡 (LSST) , 米航空宇宙 66 局 (NASA) が打ち上げを計画してい る広域赤外線探査望遠鏡 WFIRST な どだ。 これらの望遠鏡で , ほぼ全天の掃天 観測が数日間隔で行われ , 現在の数百 倍のペースで超新星を発見できるよう になるはずだ。一方 , 最新のスーパー コンピューターは超新星爆発の詳細な 3 次元シミュレーションを実行できる 性能を獲得しつつあり , 爆発する星の 中心部で何が起こっているかを可視化 できるようになるだろう。 今後得られる観測データによって , 様々なタイプの超新星爆発に関する理 論モデルが検証されることになる。今 回紹介した様々な超新星爆発のシナリ オは理論的にはあり得るが確証された わけではない。特異タイプの超新星の 観測を重ね , 実際にどのようなシナリ オでそうした爆発現象が生じているの かをはっきりさせたいと私たちは考え ている。おそらく宇宙は私たちが思い 描くよりも奇妙な存在であり , 私たち には思いもつかない摩訶不思議な現象 の存在が明らかになるのではないだろ いつの日にか私たちは , 私たち自身 や私たちを取り巻く世界を作り上げて 著者 Daniel Kasen いるものについて , 今以上に広がりを 持った物語を語れるようになるだろう。 例えば , あなたが指にはめている金の 指輪の歴史は , 私たちの祖先が生まれ るはるか以前にまでさかのぼる。 指輪に使われている金のもとになっ た物質は最初 , 大質量星の高温の融け た鉄の炉の中を漂っていた。やがて星 は不安定になって崩壊し , 圧縮されて 高密度の中性子星が形成された。それ からおそらく 10 億年くらいの長い時 間が過ぎた後 , 中性子星は別の中性子 星と衝突し , 放射性物質の雲を宇宙に まき散らした。放出された雲は時速 1 億 km という超高速で広がり , 他のガ スと混ざり合いながら 1000 光年以上 の距離を旅した末 , 最終的に地球の地 殻に落ち着いた。それからまた時がた ち , 人間の手でこの星のかけらが掘り 出され , 指輪の形に加工された。そこ から指輪としての新たな物語が始まっ たのだ。 ( 翻訳協力 : 関谷冬華 ) 監修梅田秀之 ( うめだ・ひでゆき ) 東京大学准教授 ( 東大大学院理学系研究科 天文学専攻 ) 。専門は理論天体物理学 , 特に 大質量星の進化と超新星 , ガンマ線バース ト , 元素の起源を研究している。 ン カリフォルニア大学バークレー校と米国立ローレンス・バークレー研究所に所属 する天体物理学者。宇宙で起こる様々なタイプの超新星爆発を説明する新たな 理論モデルとコンピューターモデルの研究に取り組んでいる。 原題名 Stellar Fireworks (SCIENTIFIC AMERICAN June 2016 ) もっと知るには・ SUPERNOVA LIGHT CURVES POWERED BY YOUNG MAGNETARS. Daniel Kasen and Lars Bildsten in As な叩 5 な 4U0 肝れ , V01. 717 , No. 1 , pages 245 ー 249 ; JuIy 1 , 2010. THE UNPRECEDENTED 2012 OUTBURST OF SN 20091P : A LUMINOUS BLUE VARIABLE STAR BECOMES A TRUE SUPERNOVA. Jon C. Mauerhan et al. in イ 0 れ I ァ No 行 c お可 e 0 ァ A 計 ro れ 0 川 Society, Vol. 430 , No. 3 , pages 1801 ー 1810 ; April 11 , 2013. EFFECT OF A HIGH OPACITY ON THE LIGHT CURVES OF RADIOACTIVELY POWERED TRANSIENTS FROM COMPACT OBJECT MERGERS. Jennifer Barnes and Daniel Kasen ln As な叩な記加肝〃 , VOI. 775 , No. 1 , Article NO. 18 ; September 20 , 2013. SUPERNOVAE. George Gamow in Scientific A 川 er たれ December 1949. 「極超新星」 , A. ガルャム , 日経サイエンス 2012 年 9 月号。別冊日経サイエンス 200 『系外惑星と 銀河』に収載。 超新星爆発のシミュレーション映像が ScientificAmerican.com/jun2016/supernova に。 日経サイエンス 2016 年 9 月号
Stellar Fireworks 天体物理学 新タイプ続々発見 超新星に D. ケイセン ( カリフォルニア大学バークレー校 ) そうした超新星爆発が生じる原因は一体何なのたろう ? 毎年 , 数千もの星が普通とは違った様々な風変わりな爆発を起こしている ほぼ 1 秒に 1 回 , 観測可能な宇宙の どこかで , 恒星が破滅的な最期を迎え ている。脈動するもの , 衝突・合体す るもの , 一挙にブラックホールに崩壊 するもの , あるいは超新星として爆発 するものなど様々だ。一見穏やかな夜 空の風景に埋もれてきた , このような 宇宙の激しい一面か天文学の最前線で 注目を浴びるようになった。 ほぼ 1 世紀にわたって科学者は数十 億年以上に及ぶ宇宙の進化の過程でど んなことが起こったかを知ろうと努め てきたが , 数日間や数時間といった時 間スケールで起こる天文現象を調へら れるようになったのは , つい最近のこ とた。これによって , 私たちはつかの 間の星の生と死のドラマを目撃できる ようになった。 昔は , こうした現象を詳しく調へる 58 ための道具がなかったが , 宇宙の異変 を示す証拠は 1000 年以上前から見つ かっていた。少なくとも西暦 1006 年に は , 肉眼で見えるほど明るい「客星」 が数週間出現した後 , 消えたことが中 国の記録に残っている。偉大な天文学 者ティコ・ブラーエ (Tycho Brahe) は 1 572 年に , ティコの弟子のケプラ ー ( 」 ohannes Kepler) はその約 30 年後に同様の天体の出現を観測 , 記録 を残している 現代の私たちは , これらまれに起こ る星の出現が超新星爆発によるもので あることを知っている。超新星はピー ク時には太陽の 10 億倍もの明るさで 輝くこともあるが , ほとんどは非常に 遠方で起こるため , 私たちにはかすか な光の点にしか見えず , 広い夜空の中 で他の星々の中に紛れてしまう。 日経サイエンス 2016 年 9 月号
、むさ D8 tlJO. 0 、 0 ~ ゝミ n VLS301N ddlll 工 d 亠 0 AS3 コ 0 し マクネター型超新星爆発のシミュレーション 中心部で高速自転している中性子星 ( マクネター ) か ら流出した大量の磁気工ネルキーか , 超新星爆発の 駆動源になっている
()a 」 2 にミ ) Z8 工山 9 ・ Y/VIOS3NNlVN 亠 0 ÅIlS83AlNfÄ/ 工 )311V)-1df/VSVN ミ O!Jd0 ) ョ 9 ・く QNV 1S3 エ・「 /ÆV/VS3/VSVN 」 0 !@!SOdWOD) Q8VM3S YOVS/)X)/VSVN 」 0 A 幻 1 っ 0 し かに星雲 この超新星残骸は . 磁気を帯 びたプラスマの渦 ( 青く見える部分 ) に , 高速 自転する中性子星からエネルキーか注入され て輝いている 星の合体は , このような重元素が生成 ガスだ。ガスの圧力が下がると , それ て , 中性子星の約 1 % に相当する表層 される宇宙でも数少ない場所の 1 った ら粒子が結びつき始め , 重い原子核が 部がはぎ取られて宇宙に吹き飛ばされ と考えられている。 形成される。正電荷を持つ陽子どうし る ( 残り 99 % はプラックホールに呑 放射性元素が豊富に存在するという の間には斥力が働くが , 電荷を持たな み込まれる ) 。 ことは , 中性子星連星合体の残骸の雲 い中性子は他の粒子と結合しやすい。 プラックホールに吸い込まれること も超新星爆発のような輝きを発するは 中性子がどんどん結合することで原子 を免れた , このわずかな割合の中性子 - ずだ。だが放射性物質の総量が比較的 核はますます重くなり , 金やプラチナ , 星の断片は , 原子を構成する各種粒子 少なく ( 超新星爆発の 1 % 以下 ) , そ 水銀といった周期表の下半分の元素が がバラバラに分かれた特異な状態にな の明るさは普通の超新星爆発の 1 / 100 急激に生成され , ウランやトリウムな っていると考えられる。ほとんどが中 程度で , 輝いている期間はわずか数日 どの放射性元素もできた。中性子星連 性子で , そこに陽子と電子が混じった http ・ //www nikkei-science.com/