重力波 - みる会図書館


検索対象: 日経サイエンス 2016年9月号
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1. 日経サイエンス 2016年9月号

それぞれ超新星爆発を起こしてプラッ ルの質量範囲は従来知られていたより クホールになったのか , それともガス もかなり広く , プラックホール連星合 や塵が濃密な領域で多数の星が密集す 体によって , より重いクラスへと進化 る形で誕生 , プラックホールになる前 していくプロセスが存在することがわ か後の段階で , たまたま接近して連星 かる。その際 , 宇宙最大規模の重力波 を形成するようになったのかが推定で の超新星が出現することになる。 きる。 GW151226 の場合も形成プロ また , プラックホールは程度の差は LIGO 2 台ある重力波望遠鏡のうちワシント セスを絞り込むまでには至っていない。 あれ自転しているとみられ , スピンと ン州ハンフォードにあるもの。 いう物理量を持つ。スピンはプラック 中性子星連星の合体も ホールの全角運動量と質量を用いて表 LIGO の国際共同グループは 4 カ月 れた重力波が運び出すエネルギー量と され最大値は 1 。スピン 1 の場合 , 物 間の重力波観測の結果から , プラック 一致したことから , 重力波の存在が間 理的に許される最高速度でプラックホ ホール連星の合体が一辺 1 ギガバーセ 接的に検証された。またこのことから , ールが自転しており , スピン 0 は静止 ク ( 32 億 6000 万光年 ) の立方体の宇 中性子星連星は重力波を放出し続けて 状態になる。プラックホールが自転し 運動エネルギーを失い , 次第に近づい 宙領域あたり毎年 9 ~ 240 回起きて ていると , 重力波の波形にその影響が いると推定している。今秋 , LIGO は て合体 , その際に非常に大きな重力波 表れるので , 原理的には波形解析から 感度を向上して再稼働 , 重力波を検出 が生じうることが予想された (PSR スピンの値を求めることができる。 LIGO が観測した 3 つの事例のいず B1913 + 16 の場合は約 3 億年後に合体 できる領域が 1.5 ~ 2 倍に広がり , よ り高い頻度でプラックホール連星合体 すると推定されている ) 。 れについても連星合体で生じたプラッ 中性子星連星のこれまでの観測結果 クホールのスピンが求められ , いずれ の重力波が捉えられる可能性が高い。 を踏まえて考えると , 推定に大きな不 他の天体現象で生じる重力波も観測 も 0.7 程度になっている。このスピン 定性はあるものの , LIGO の感度が最 できるようになると考えられている。 は合体直前の連星の公転運動がおおも 最有力は別タイプの重力波の超新星 , 終目標に達すれば約 7 億光年先までの とになっている。これに対し , 連星を 中性子星連星の合体による重力波の爆 銀河の中で起きる中性子星連星合体に 構成する個々のプラックホールのスピ 発的な放出だ。そもそも重力波の存在 よる重力波を毎月 1 回程度は観測でき ンの推定はより難しく , GW150914 が間接的に検証されたのは中性子星連 るとみられる。これまでの 4 カ月間の と LVT151012 については , それらの 観測で中性子星連星の合体が捉えられ 星の観測による。大きな重力波は天体 プラックホールのスピンが 0 かそれと が加速度運動する際に生じる。太陽の なかったのは , LIGO の検出感度が目 も有限の値を持つのか ( 自転している 標より . かなり低いことが要因と考えら ような単独の星は激しく動くことはな かどうか ) もわかっていない。 れる。今秋からの観測シーズンでは検 いが , 連星は公転運動しており , これ 一方 , G 、 V151226 については , 少 によって重力波が生じる。重力波は天 出感度がさらに向上するので , 中性子 なくともどちらか一方のプラックホー 体が大質量高密度であるほど大きくな 星連星の合体による重力波も見え始め ルのスピンが 0.2 以上で , 公転の向き と自転の向きが同じであることがほぼ るので , 太陽に似た恒星の連星よりも るのではないかと期待されている。 次の LIGO の観測シーズンは約 6 カ 白色矮星連星の方が , 白色矮星連星よ 確証された。重力波の観測時間が りも中性子星連星の方が大きな重力波 月間だが , その後半にはⅥ rgo も稼働 GW150914 の約 5 倍長い 1 秒間であ する予定で , LIGO の 2 つの重力波望 を発し , プラックホール連星が最も大 ることに加え , 質量が小さいので , よ 遠鏡との同時観測で重力波源の天球上 きな重力波を発しているとみられる。 り高い振動数の重力波を放出していた の位置を絞り込む能力が向上する。こ ただプラックホールは光を放出しな ため , 波形の時間変化をより詳しく解 れによって光やニュートリノによる連 いので , 重力波以外の手段で同時に観 析できたことが大きい。 携観測が実現 , 重力波の超新星の研究 測することができない。そこで注目さ 連星を構成するプラックホールのス れたのが中性子星連星だ。 1974 年 , が大きく進展するかもしれない。 ピンの値とスピンの向き ( 連星の公転 初の中性子星連星 PSRB1913 + 16 が 軌道面に対する自転軸の傾き具合 ) は , 監修田中貴浩 ( たなか・たかひろ ) 電波観測で発見され , その公転周期の プラックホール連星がどのようにして 京都大学大学院理学研究科教授。専門は一 変化から推定される運動エネルギーの 形成されたのかを探る手がかりになる。 般相対性理論と宇宙論。プレーン重力や重 減少量が , 一般相対性理論から求めら 具体的には最初から連星として誕生し , カ波に関心を持つ。 qel 09 コ洋一、モ一 2 し 71 http://www.nikkei-science.com/

2. 日経サイエンス 2016年9月号

天文学 重力波の。超新星 " も相次ぎ発見 4 カ月間におよぶ重力波望遠鏡 LIGO の観測で 爆発的に重力波か放出される天体現象が少なくとも 2 回捉えられた 重力波で輝く超新星の出現頻度はかなり高いようだ 中島林彦 ( 編集部 ) 最近の天文学の最大のトピックは重 クホール連星の合体で生じたことがわ カ波を爆発的に放出する , いわば重力 かった。事象の有意さは 5 0 を超えて 波の超新星といえる天体現象が初めて おり , 重力波と確証されている。 観測されたことだ。昨年 9 月 , 南天の LIGO は昨年 1 0 月 1 2 日にもブラッ 未知の天体が約 0.2 秒間 , 強い重力波 クホール連星の合体で生じた重力波と を爆発的に放出したことを重力波望遠 みられるシクナル「Ⅳ TI 51 01 2 」を 鏡 LIGO が捉えた。米国を中心に 1 5 検出している。事象の有意さは 1 .70 カ国 1000 人の研究者が加わる LIGO で , 重力波の確証は得られないため , の国際共同グループは今年 2 月にその 全領域にある星々か光の形で放出する 名称に「 GW 」は付いていないが , 重 事実を発表 , 世界的ニュースとなった。 エネルキー量の 50 倍に相当する。 カ波の可能性は十分ある。「 LVT 」は 重力波は時空の揺らぎが波として伝 LIG 〇は 2002 年から 2010 年にか LIGO Virgo Trigger の意味て , Virgo わる現象で , 100 年前に一般相対性理 けて観測を行ったが , 重力波の検出は はイタリアのピサ近郊にある欧州の重 論から予言され , 1970 年代に間接的 できす , 感度を向上するための改造に カ波望遠鏡の名前。近い将来 , LIGO に存在が検証されていたが , 直接検出 着手。昨夏に工事が終了したのを受け , とほぼ同レヘルの感度で稼働する予定 は史上初めて。重力波の波形を解析し 昨年 9 月 1 2 日から試験的に稼働 , 2 だ。欧州の 19 の研究グループ 250 人 た結果 , ブラックホール 2 つからなる 日後に GW150914 を捉えた。観測デ 以上が加わる Virgo の国際共同グルー 連星が衝突・合体する際に放出された ータを統計的に解析し , 重力波のシグ プは LIGO と連携しており , これまで ことかわかった。 LIG 〇が捉えた重力 ナルと似たノイズが偶発的に捉えられ の重力波の解析も共同で行っている。 波は観測の日付 201 5 年 9 月 14 日か る確率を評価したところ , 500 万分の LIG 0 は昨年 9 月 1 2 日から今年 1 月 ら「 GWI 50914 」と名付けられた 1 未満と非常に低く , 事象の有意さを 1 9 日まで 4 カ月間稼働した後 , さら GW は Gravltational Wave ( 重力波 ) 標準偏差 0 を用いて表すと 5 0 を超え なる感度向上のため観測を休止して装 ることから本物の重力波のシグナルで の意味た。 置の調整を行っている。 4 カ月間の観 あると確証された ( 大量のデータを扱 測で , 重力波が爆発的に放出される天 超新星は可視光を発する天体爆発現 う天文や物理の観測や実験では 5 0 が 体現象を 2 回 , つまり 2 カ月に 1 回の 象たが , よリ激しい天体爆発に , 可視 新現象発見の基準で , ヒッグス粒子の 頻度で捉えたことになる。重力波の候 光よリはるかに波長が短い ( エネルキ 発見もデータ解析で 50 が得られたこ 補である LVT151012 を入れると , 検 ーが高い ) ガンマ線を放出するカンマ 線バーストがある。宇宙最大の天体爆 とを受けて発表された ) 。 出頻度はさらに高くなる。しかもこれ さらに凵 GO の国際共同クループは 発といわれるが , GW150914 を生じ ら 3 回はいずれもブラックホール連星 させたブラックホール連星合体はカン 去る 6 月 1 5 日 , 昨年 1 2 月 26 日にも の合体で生じた重力波の爆発的な放出 マ線バーストをも上回る爆発的現象た 重力波を検出していたと発表した。こ で , こうした重力波天体の出現がこれ った。単位時間当たりのエネルキー放 の重力波 GW151226 は約 1 秒間観測 ほどの頻度で観測されるとは , ほとん どの天文学者は予想していなかった。 出量に換算すると , 観測される宇宙の され , 波形解析の結果 , やはリフラッ OIÅd ・に 09 コ 日経サイエンス 2016 年 9 月号 68

3. 日経サイエンス 2016年9月号

GW151226 LVT151012 GW150914 0 ー 0 ' LIGO による重力波の観測期間 2015 年 09 月 12 日 ~ 2016 年 01 月 19 日 2016 年 01 月 2015 年 12 月 2015 年 11 月 201 5 年 1 0 月 2015 年 09 月 09 コ LIGO が捉えた重力波と重力波候補の概要 重力波の名称 GW150914 観測日 2015 年 9 月 14 日 5 / N 比 23.7 事象の有意さ 5.30 以上 ( 標準偏差を 0 とする ) 約 14 億光年 重力波源までの距離 ブラックホール 重力波を生じさせた天体現象 連星の合体 ブラックホール連星の総質量 ( 太陽質量を 1 とする。括弧内は 65 ( 36 と 29 ) 各ブラックホールの質量 ) 重力波の形で放出されたエネルギー ( 太陽質量を 1 とする ) 合体で生じたブラックホールの質量 ( 太陽質量を 1 とする ) 合体で生じたブラックホールの スピン LIGO の国際共同グループは 2 つめ の重力波 GW151226 の検出を発表し た 6 月 15 日 , これまでの 4 カ月間の 観測を総括した論文も同時発表した。 取り上げた重力波は観測された日付順 にいうと , G 、 V150914 , LVT151012 , GW151226 の 3 つだ ( 上図 ; 横軸は 月日。右表は観測された重力波の概要 ) 。 ブラックホール連星の合体 最初に検出された GW150914 は 3 つの中で最も明瞭な重力波のシグナル。 LIGO では重力波源となる天文現象の タイプや関係する天体の質量などをパ ラメーターに一般相対性理論をベース とした膨大な数値シミュレーションを ーから , それらがどんな天体現象で , 行い , 様々な発生パターンで起きる重 じる重力波を検出した場合 , S/N 比は カ波の時間変動の波形をテンプレート 8 ~ 10 程度とみられていた。だから どれほど遠方で生じたものかがわかる。 として持っている。データ解析では , いずれの重力波もプラックホール連星 S / N 比 23.7 の G 、 V150914 は専門家か この膨大な数のテンプレートに観測テ らすると信じられないほど明瞭なシグ 合体に由来するもので GW150914 と G 、 V151226 は 14 億光年 ( 士 5 ~ 6 億 ータを当てはめ , マッチするものがあ ナルで , 当初 , 試験用の模擬の重力波 るかどうかを調べる。 GW150914 は シグナルの可能性が疑われた。一方 , 光年 ) 遠方から , LVT151012 はさら テンプレートとの一致度が極めて高く , に遠い約 33 億光年 ( 士約 16 億光年 ) GW151226 と LVT151012 の S / N 比 ノイズに対するシグナルの大きさを表 はそれぞれ 13.0 と 9.7 で , 当初想定さ の彼方から到来したものだ。 す S / N 比は 23.7 だった。 れたレベルに近い。 プラックホールの質量は太陽の質量 後述するように当初 , LIGO が検出 を単位に表される。 GW150914 を生 これら 3 つの重力波の波形と一致す じさせたプラックホール連星の総質量 を狙っていた中性子星連星の合体で生 る数値シミュレーションのパラメータ LVT151012 GW151226 2015 年 10 月 12 日 : 2015 年 12 月 26 日 13.0 5.30 以上 約 14 億光年 ブラックホール 連星の合体 22 ( 14 と 8 ) 1 .7 0 約 33 億光年 ブラックホール 連星の合体 37 ( 23 と 13 ) 3 1 62 日経サイエンス 0.74 0.66 0.68 69 http //www.nikkei-science.com/

4. 日経サイエンス 2016年9月号

現代の技術は , こうしたドラマチッ クな天体現象の研究を一変させた。望 遠鏡は自動化され , 高解像度のデジタ ルカメラが搭載されるようになった。 撮影データはコンピューターに送られ , 画像処理とパターン認識はソフトウ工 アが行う。このようなロポット望遠鏡 は天球の広範囲の領域を定期的にモニ ターし , 夜空に異常がないか常に見張 っている。この新技術の登場によって , ここ 10 年ほどは毎年数千個もの新た な超新星爆発が発見されている。 20 世紀に観測されたすべての超新星を合 わせた数の超新星が毎週新たに見つか っている計算た。 単に超新星の発見数が増えただけで はなく , 普通の超新星とはタイプが異 なる超新星の存在も明らかになった。 普通の超新星の 100 倍も明るいものや , 逆に 1 / 100 の明るさしかないもの。深 紅に輝くものや , 紫外線で光るもの。 何年も明るく輝き続けるものや , 数日 で消えていくもの。星はこれまで考え ていたよりはるかに多様な形で最期を 迎えることがわかってきた。 このように様々な特異タイプの超新 星爆発がなぜ起こるのか , 天文学者は その原因を探っている。これらの超新 星は明らかに , 星の一生と死や , 温度・ 密度・重力が極端な環境における物理 について , 何か重要なことを私たちに K E Y ( 0 N ( E P T S 語っている。そしてこれら超新星のフ ルラインアップを研究することで , 星 が砕け散って , プラックホールなどの 残骸に変わる原因を突き止めたいと私 たちは考えている。 また超新星は私たち自身の起源につ いても教えてくれる。ビッグバン直後 の宇宙に存在したのは最も軽い原子 , 水素とヘリウムがほとんどだった。理 論によれば , 私たちの目の前にある他 のあらゆる元素 , 例えば私たちの骨を 形成するカルシウム , 血液中に含まれ る鉄などは , 星が爆発する過程で合成 され , 宇宙にまき散らされたと考えら れている。 これまで科学者たちは一般的な超新 星ですべての重元素が生成されたと考 えてきた。しかし , 普通とは異なる奇 妙な超新星が多数発見された現在 , 元 素の誕生地は周期表の場所によって異 なる可能性が指摘されている。地球と 地球上のあらゆる生命を生み出した元 素組成が , どのようなタイプの超新星 爆発の取り合わせによって生じたのか , 私たちは様々なタイプの超新星爆発を 多数調べることで , その答えに迫りつ つある。 星の破滅的な最期 発見された一部の超新星がいかに風 変わりなものかをわかってもらうため , 明るさにバラエティーがある超新星 ■自動化された望遠鏡で迅速な掃天観測が行われるようになり , 普通の超新 星爆発とはかなり様相か異なる特異タイプが多数発見されるようになっ た。普通の 100 倍も明るいタイプや , 逆に予想外に暗く , 爆発をほとん ど起こしていないタイプなとがある。 ・こうした特異タイプの超新星はどのような種類の星によって引き起こさ れ , 地球や私たちの体を構成する重元素か , そこでとのようにして生み出 されるのか , 複数の理論モデルが提唱されている ■今後 , 観測か進めば , 星の一生とその最期 , さらには星々が地球上の生命 に与える影響に関する多くの根本的な謎を解く手がかりが得られるだろう。 60 まずは普通の超新星について考えてみ よう。普通とはいえ , 通常の超新星爆 発それ自体が十分に非凡な現象だ。恒 星は一種の安定した原子炉のようなも のだ。重力によって結びついている巨 大なプラズマの塊で , 圧縮されたコア の内部で核融合が起こり , エネルギー が生み出される。核融合で生じる熱は , 星の内向きに働く重力に対抗する外向 きの圧力を生み出す。このような力の せめぎ合いのバランスが崩れ , 重力が 核融合の圧力を大幅に上回ったり , あ るいはその逆の状況が生じることによ って引き起こされる破滅的な結末の 1 つが超新星爆発た。 最も一般的なタイプの超新星爆発は , 10 太陽質量以上の中程度のサイズの 恒星で起こる。これらの恒星では , 数 百万年にわたって水素の核融合が続き , 次第に重い元素が生成されるようにな る。やがて内部の燃焼が進んで核融合 の燃えかす " である鉄が生成される と , 核融合はそれ以上進まなくなる。 これによって外向きの圧力が失われる と , 星の最深部にあるコアは重力崩壊 を起こして体積が 100 万分の 1 まで圧 縮され , 中性子星と呼ばれるコンパク トな超高密度天体になる。中性子星で は , 太陽を上回る質量が半径わずか 10km 程度の範囲にぎゅうぎゅうに詰 め込まれている。コアが崩壊する際の 自由落下に伴って放出される膨大な工 ネルギーが , 星の残りの部分をバラバ ラに吹き飛ばす。 普通の超新星爆発で生じるエネルギ ー量をイメージするには , 太陽が持て るすべての水素をわずか数秒で燃やし 尽くすと考えてもらえばよい ( 実際の 太陽が水素を燃やし尽くすには 100 億 年以上かかる ) 。この膨大なエネルギ ーには専用の物理単位があり , ノーベ ル賞学者のべーテ (Hans Bethe) に ちなんで 1 べーテと数えられる。 超新星爆発が起きると恒星の内部温 度は 30 億度以上まで上昇 , 爆発の際 日経サイエンス 2016 年 9 月号

5. 日経サイエンス 2016年9月号

は 65 太陽質量で , うち一方のプラッ クホールは 36 太陽質量 , 他方が 29 太 陽質量。両者は超高速で公転運動しな がら次第に距離を詰め , 衝突・合体し て 62 太陽質量のプラックホールにな った。合体の際 , その差分の 3 太陽質 量に相当するエネルギーが重力波の形 で放射された。 一方 , GW151226 は 22 太陽質量の プラックホール連星 ( 14 太陽質量と 8 太陽質量 ) が合体 , 21 太陽質量のプ ラックホールになり 1 太陽質量相当の エネルギーが放射され , LVT151012 は 37 太陽質量の連星 ( 23 太陽質量と 13 太陽質量 ) が合体 , 35 太陽質量の プラックホールになり , 約 1.5 太陽質 量相当のエネルギーが放出された ( い ずれもかなりの誤差がある ) 。 こうしてみると , 連星を構成するプ ラックホールの質量はかなり異なるこ とがわかる。史上初めて観測された重 カ波 GW150914 で天文学者が驚いた のは , 重力波の発生源がこれまで予想 はされていたが観測例がなかったプラ ックホール連星の , しかもその合体現 象であったことはもちろんだが , 連星 を構成するプラックホールの質量も予 想とは大違いだった。大質量星が超新 星爆発を起こして形成される恒星プラ ックホールの質量は 10 太陽質量以下 がほとんどで , 10 数太陽質量のもの が例外的にいくつか知られるくらいた が , G 、 V150914 のプラックホール連 星は両方とも約 30 太陽質量だったか らだ。これら 30 太陽質量プラックホ ールの起源を宇宙初期に誕生した第 1 世代の星 ( 初代星 ) に求める京都大学 LIGO の重力波が物語ること これまでの天文観測から恒星ブラックホールは 10 太陽質量以下が ほとんどで , 例外的に IO 数太陽質量のものが知られる程度だった ( 上段の図の左側の紫色の円のグルー グループの仮説が注目されている。 プ ) 。重力波 GW151226 はこの質量範囲にあるブラックホールからなる連星の合体とみることができる。 一方 , GW151226 の連星は両方と 一方 , GW150914 はこれまで存在が知られていなかった 30 太陽質量クラスのブラックホールからなる 連星の合体で , Ⅳ T151012 は両者の中間クラスの質量を持つブラックホール連星の合体だ。凵 GO の 2 も従来の恒星プラックホールの質量範 台の重力波望遠鏡が重力波のシグナルを捉えた時刻はわずかだが違っておリ , その情報などから重力波 囲で , LVT151012 の連星の片方も同 の到来方向が推定されている。下段の図は GW150914(September 14 2015 ) と GW151226 様だ。しかし , いずれも合体後に生じ (December 26 2015 ) の重力波源が存在する可能性が高い領域を南天の夜空に投影したもの。紫色 の三日月形で囲まれた天域から到来した確率は 90 % で , それより内側の , 他の色で囲まれた天域から到 たプラックホールは従来の恒星プラッ 来する確率は , 囲まれた範囲が狭くなるほど低く , 黄色で囲んた天域は確率 10 % 。夜空を横切る星の帯 クホールの範囲から逸脱している。こ は天の川。重なっていて見にくいが GW150914 の三日月形の右下にかかる形で , 星の集まりがあるが , れら 3 例を見ると , 恒星プラックホー これが天の川銀河の随伴銀河の大マセラン雲。そのやや左側 ( 画面中央下方 ) は小マセラン雲。 LIGO 0 太陽質暈 1 GW150914 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 Ⅳ T151012 0 0 0 0 0 GW151226 OD コ December 26 2015 September 14 2015 」 a6u = 而 > PXV/OD コ 日経サイエンス 2016 年 9 月号 70

6. 日経サイエンス 2016年9月号

天体物理学 星の大爆発さまざま ほぼ 1 秒に 1 回 , 観測可能な宇宙のどこかで , 恒星が破滅 的な最期を迎え , その中には大爆発を起こすものも多い。夜 空に出現する超新星は星の大爆発の輝きだ。自動化された望 遠鏡で迅速な掃天観測が行われるようになり , 普通の超新星 爆発とはかなり様相が異なるタイプが多数発見されるように なった。普通の 100 倍も明るいタイプや , 逆に予想外に暗く , 爆発をほとんど起こしていないタイプなどがある。さらにつ い最近 , 光ではなく重力波を爆発的に放出する天体現象も相 次ぎ発見された。いわば重力波の。超新星 " だ。こうした様々 なタイプの超新星に関して , いくつもの理論モデルが提唱さ れており , 今後の観測によって検証されることになる。 超新星に新タイプ続々発見 58 へ→ D. ケイセン ( 米カリフォルニア大学バークレー校 ) 重力波の″超新星″も相次き発見 68 ヘージ 中島林彦 ( 編集部 ) p さ 08 WQ eD お当一 un VIS30VN dd コ一工 d 」 0 AS 山にコ 0 し バイオメカニクス 好記録へダッシュ ! 最速ランナーの秘密・ 72 ヘージ D. F. マロン (SCIENTIFIC AMERICAN 編集部 ) お待ちかねリオデジャネイロ・オリンピックの開幕が迫っ た。男子 100m で日本選手は初めて 10 秒を切るか ? ウサ イン・ポルトらトップ選手から世界新記録は出るのか ? 興 味は尽きないが , そもそも短距離走で好記録を出すためのカ ギはどこにあるのだろう。これまでは空中で下肢の位置を素 早く変えて次のステップをなるべく早く踏み出すことだとさ れてきた。だが , 米国のスポーツ科学者による最新の発見は , 足で地面を蹴る力の強さのほうが重要であることを示してい る。この力を生み出している要因と , どうすればそれを強化 できるかが , バイオメカニクス研究から明らかになった。米 国のトップスプリンターの訓練にも取り入れられている。 NOSIIM 亠出「 3 日経サイエンス 2016 年 9 月号

7. 日経サイエンス 2016年9月号

という高速自転が可能だ ( これ以上 , 高速になると強大な遠心力によってバ ラバラになってしまう ) 。この自転す る巨大なコマはすさまじい量の運動工 ネルギーを持ち , 最大 10 べーテにも 達する。 では , この回転運動のエネルギーは どのようにして超高輝度超新星爆発の パワーに転換されるのだろう ? 仲介 役となるのが中性子星が持つ超強力な 磁場だ。このメカニズムを理解するた め , 冷蔵庫にメモを貼り付けるマグネ ットを手のひらに載せて回転させるこ とを考えてみよう。磁石を回すと , 磁 石の周囲の磁場がねじ曲げられる。磁 場は見ることも触れることもできない が , 磁場をねじ曲げるのに使われた工 ネルギーの一部は , 電磁波の形で空間 を伝わっていく。中性子星の周囲でも , 同様のプロセスが大規模に起こってい ると考えられる。 最も鮮やかな事例は , 1094 年に中 国の天文学者によって報告された超新 星爆発の残骸である「かに星雲」だ ( 右 ページの画像 ) 。現在目にしている , かに星雲の輝きは , 自転する中性子星 の磁場が生み出すプラズマの渦がもと になっている。 1000 年近くにわたっ て , 中性子星のねじ曲げられた磁場は , 中性子星の回転運動のエネルギーを汲 み上げ , 中性子星を取り巻くガスを加 熱し , 美しく輝かせている。 およそ 5 年前 , 私と研究仲間である カリフォルニア大学サンタバーバラ校 のビルドステン (Lars Bildsten) は , このプロセスをさらにパワーアップさ せれば , 超高輝度超新星のまばゆい輝 きを説明できる可能性を指摘した。そ の場合の中性子星は , かに星雲にある 中性子星の 100 ~ 1000 倍も強い磁場 を持ち , バラバラになる寸前のスピー ドで高速自転している必要がある。 そうした中性子星では , 1 カ月もた たないうちにほぼすべての回転エネル ギーが汲み上げられ , 超新星残骸の雲 64 が , かに星雲の 100 万倍も明るい光を 出す可能性があるのだ。極端に聞こえ るかもしれないが , この程度の強さの 磁場を持つ中性子星はいくつか観測さ れている ( ただし超新星残骸の内部に 位置しているものはない ) 。このよう な天体は「マグネター」と呼ばれ , 宇 宙最強クラスの磁場をまとっている。 つまり超高輝度超新星の中には超高速 で自転するマグネターの誕生と , その 急減速によって生じたものもあるとみ られる。 予想外に暗い超新星 超新星の様々なタイプの中で超高輝 度超新星と対極にあるのは , やはり近 年に発見されたもので , 明るさが通常 レベルに達しない奇妙な超新星だ。広 域サーベイで , 明るさが普通タイプの 1 / 100 という不思議な超新星がいくつ も検出された。このように弱い超新星 爆発が起こった原因について議論が交 わされているが , 驚いたことに , それ らの一部は , 臨終を迎えた最重量級の 星が発する。くぐもった声 " ではない かと考えられる。 爆発し損ねた超新星 宇宙で形成 される大質量星の質量上限ははっきり わかっていないが , おそらくは 300 ~ 1000 太陽質量程度と考えられる ( これは対不安定型超新星爆発を起こ すとみられる超大質量星より重い ) 。 そんなモンスター星なら , 見たことも ないような派手な爆発を起こしそうな ものだが , 実際は不発の花火のようだ。 このような星は重力が極めて大きいた め , いったん状態が不安定になるとそ のまま星全体がつぶれてしまう。中心 部への落下によってやがて時空に穴が 開き , 中性子星よりも高密度の天体 , すなわちプラックホールが形成される。 理論モデルによれば , 星のほとんど の部分はプラックホールに呑み込まれ て突然視界から消える。この一見何も 起こっていないように見える現象は 「不発超新星」と呼ばれる。自動化さ れた望遠鏡による掃天観測で不発超新 星の探索が行われている。この場合 普通の超新星のように夜空に突然現れ る明るい天体を見つけるのではなく , それとは逆に , 明るく輝いていた天体 が不意に消える例を探す。 爆発には失敗したものの , プラック ホールを形成する星の中には , 自らの 最期をひっそり知らせようとするもの もある。一部の大質量星では , コアが 希薄な水素ガスの衣をふんわりとまと っている場合がある。星の大部分はプ ラックホールの事象地平の向こう側に 呑み込まれるが , そうした水素ガスは 高温になって吹き飛び , かすかな光を 出すだろう。超大質量星の最期を飾る のは皮肉にも , 非常に弱くて暗い超新 星爆発なのだ。 中性子星連星の合体普通よりも 暗い超新星爆発の中には , まったく別 の激しい出来事が原因で起こっている ものがあるかもしれない。中性子星ど うしの衝突だ。 大質量星は , 互いに相手の周囲を回 る連星として誕生することが多い。こ のような連星がそれぞれ超新星爆発を 起こし , そうした爆発によっても引き 離されなかった場合 , 中性子星 2 つか らなる中性子星連星が形成される ( 中 性子星とプラックホールの連星や , プ ラックホール 2 つからなる連星になる 場合もある ) 。 時がたっと , 連星系の中性子星はら せん軌道を描きながら互いに次第に近 づき , 最後には衝突・合体して大型の プラックホールになる ( 前ページの 図 ) 。最近 , プラックホール 2 つから なるプラックホール連星の合体で放出 された重力波が検出され , こうした連 星合体が起きることが裏付けられた ( 68 ページからの記事 ) 。 理論計算によると中性子星連星が合 体する際 , 極めて強い重力 ( 地球が人 体に及ぼす重力の約 100 億倍 ) によっ 日経サイエンス 2016 年 9 月号

8. 日経サイエンス 2016年9月号

どんどん賢くなるニューラルネットワーク 大脳皮質の神経回路をヒントに , 複雑なリンクを持つニュー 顔の認識のため , 入力層では入力画像の個々の画素が解析さ ラルネットワークが作られた。大量の画像を入力して訓練する れる。次の層では , ある特定の顔に特有の幾何学的な形状が抽 と , 人の顔を認識できるようになる。ネットワークが顔という 出される。中間の層では目やロなどの特徴が検出され , さらに 分類を学び ( 例えば手とは異なる区分であると学び ) , 個々の 深い層ではそれらを組み合わせた顔全体が認識される。そして , ネットワークは出力層でその顔がクリスやリーではなく , 顔を検出することを " 学習 " すると , 過去に見たことのある顔 を , 訓練画像とわずかに異なっていても認識できるようになる。 ジョーの顔であると″推測″する。 出力層 隠れ層 入力層 学習顔を認識する ことを目指すニューラル ネットワークは数百万枚 の画像で訓練すると群 集や雑然とした風景の中 から個人の顔をピックア ップできるようになる。 クリス ジョー u ue 一」工「Åq )!qde 」 9 谷巴 ) >DOIS 工 DMÄd 認識ネットワークに入力され た顔画像は各層で解析され一最終 的にはその顔が誰であるかが正し く推測される。 奥にある層ほど複雑な特徴を認識する インドやパキスタンなどで話されてい らしく , そのおかげでチェスや橋の建 を通じて知識を獲得することを可能に る言語 ) への翻訳など , その状況ごと 設 , AI 研究など , 進化が私たちの祖 している普遍的原理を見つけ出しそれ に固有の学習タスクとデータで検証す 先に準備させなかった多くのタスクを を洗練させる試みが続いてきた。提示 る必要がある。そのアルゴリズムがど された例から機械が学習することを可 習得できている。 能にする手順 , つまり「学習アルゴリ これらの能力は人間の知能が世界に んな学習状況においても他のすべての ズム」を確立するのが , 機械学習の目 アルゴリズムよりも一貫して優れてい ついて普遍的な想定を引き出している 櫑だ ることを証明する方法はない。 ことを示しており , それを手がかりに 刀ヾ 0 機械学習の研究は主に実験に基づい この原理を数学的に述べたのが「ノ すれば , 一種の汎用知能 ( すべてのタ ている。これは万能の学習アルゴリズ ーフリーランチ定理」で , 実世界のあ スクに共通して機能する知能 ) を備え ムというものが存在しないためで , 与 らゆる学習状況に対処できるアルゴリ たマシンを作れる可能性があるだろう。 えたすべてのタスクをコンピューター ズムは存在しないことを示した定理た まさにこの理由から , 人工ニューラル にうまく学習させるのは不可能だ。ど だが , 人間の学習はこの定理に反して ネットワークの開発者たちは , 知的シ んな知識獲得アルゴリズムも , 、、夕日 " ステムを設計するためのラフなモデル いるように見える。私たちは頭の中に の認識や , 英語からウルドウー語 ( 北 として脳を採用してきた。 かなり普遍的な学習能力を備えている 39 http://www.nikkei-science.com/

9. 日経サイエンス 2016年9月号

訓練を積んだ畳み込みニューラルネットワークは 別の写真に異なる角度で写っている顔を 同一人物だと認識できるだろう 脳の主要な計算ユニットはニューロ ンという細胞だ。それぞれのニューロ ンは細胞間のごく狭い隙間 ( シナプス 間隙 ) を通して他のニューロンにシグ ナルを送っている。ニューロンがこの 隙間を越えてシグナルを送る傾向 , お よびそのシグナルの大きさを「シナプ ス強度」という。あるニューロンが、、学 習する " とそのシナプス強度は大きく なり , 電気インパルスによって刺激さ れた場合にメッセージを近隣のニュー ロンに送る確率が高まる。 脳科学に触発され , ソフトウェアや ハードウェアを使って仮想ニューロン を作った人工ニューラルネットワーク が出現した。この AI のサプ領域は「コ ネクショニズム」と呼ばれ , 初期の研 究者は , ニューロン間の接続を徐々に 変えることでニューラルネットは複雑 なタスクを学習でき , この神経活動パ ターンが入力の内容 ( 画像や断片的な 会話など ) を把握するようになると考 えた。ニューラルネットに新たな例を 入力するたびに , 接続ずみのニューロ ン間のシナプス強度が変化して学習が 続き , 例えば夕日などの画像をより正 確に把握できるだろう。 夕日をタ日と認識させる 現在のニューラルネットワークはコ ネクショニズムの先駆的な研究を拡張 したものだ。ニューラルネットは一般 に , 各シナプス結合の値 ( 結合の強さ , つまりニューロンが別のニューロンに どれくらいシグナルを伝えやすいかを 表したもの ) を徐々に変えていく。デ ィープラーニング・ネットワークで使 われるアルゴリズムは , 新たな画像を 見るたびに結合の強さをほんの少し変 え , ニューラルネットが画像の内容を 40 より高い精度で予測できる値に少しず つ着実に近づけていく。 現在の学習アルゴリズムは , 最良の 結果を得るには人間による緊密な介入 を必要とする。多くは「教師あり学習」 を用いるもので , 訓練用の例それぞれ に , 学習すべき内容に関して人間が作 成したラベルが付けられている ( 例え ば夕日の写真に「タ日」というキャプ ションが付けられている ) 。この場合 , 教師あり学習アルゴリズムの目標は , 1 枚の写真を入力として受け取り , そ の写真の中心となっている被写体の名 前を出力することだ。入力を出力に変 換する数学的プロセスは「関数」と呼 ばれる。この関数を作り出すシナプス 強度などの数値が , 学習というタスク に対する解に相当する。 丸暗記による学習で正しい答えを出 すのは簡単だろうが , 役に立っとは言 い難い。私たちはアルゴリズムにタ日 とは何かを教え , 見たことのない画像 を含めどんなタ日の画像でも認識でき るようにしたいのだ。あらゆるタ日を 夕日だとわかること , つまり学習結果 を特定の事例を超えて一般化すること は , あらゆる機械学習アルゴリズムの 主要な目標だ。実際 , ネットワークの 訓練成績は , それまで見たことのない 例を使ったテストによって評価される。 新しい例への学習の一般化が難しいの は , 特定のカテゴリー ( 例えば夕日 ) に該当するバリエーションがほぼ無限 に存在するからだ。 ディープラーニング・ネットワーク の学習アルゴリズムが多数の例を観察 した学習の結果を一般化できるように するには , 例を与えるだけでは足りな い。データに関する仮説と , 特定の問 題に対してどんな解がありうるかにつ いての仮定も必要とする。ソフトウェ アに組み込まれる典型的な仮説は , も し特定の関数への入力が似ていたら出 力も互いに大きくは異ならないという ものだろう。猫の画像の数ピクセルを 変えても , 犬の画像に変わることはな いはずだ。 画像に関する仮説を組み込んだニュ ーラルネットワークの 1 つが「畳み込 みニューラルネットワーク」と呼ばれ るもので , AI 復活の立役者になった 技術た。ディープラーニングで使われ る畳み込みニューラルネットワークは 多数のニューロン層を持つ。各層は中 心的な被写体の位置が少しずれている といった変化に対して出力があまり敏 感にならないように組織化されている。 訓練を積めば , 別の写真に異なる角度 で写っている顔を同一人物だと認識で きるだろう。 畳み込みニューラルネットワークは 視覚野 ( 目からの入力を受け取る脳の 領域 ) の多層構造をヒントに設計され た。ネットワークの仮想ニューロン層 が増えるとネットワークは " ディー プ " になり , より上手に学習できるよ うになる。 よりディープに ディープラーニングを実用レベルに した進歩は , 約 10 年前のいくつかの イノベーションによってもたらされた。 当時 , AI とニューラルネットワーク に対する関心は過去数十年で最も下火 になっていた。カナダ先端研究機構 (CIFAR, カナダ政府の補助金と個人 からの寄付で運営 ) はトロント大学の ヒントン (Geoffrey Hinton) をリー ダーとする研究プログラムを支援し , AI 研究の再燃に一役買った。このプ ログラムには , 私やニューヨーク大学 のルカン (YannLeCun), スタンフ オード大学のエン (AndrewNg), カ リフォルニア大学バークレー校のオル シャウセン (Bruno Olshausen) な 日経サイエンス 2016 年 9 月号

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高密度天体の連星の合体 中性子星 ( 緑 ) とブラックホール ( 黒 ) からなる連星が衝突・合体 するシミュレーション。このような プロセスは 2 つの中性子星からな る連星の合体の際にも起こると考 えられる。中性子星連星の合体に よって普通よリかなり暗いタイ プの超新星の一部を説明できる。 まずブラックホールの重力によっ て中性子星がらせんを描くような 形に変わリ ( 1 と 2 ) , その尾を引 いている部分から , 中性子星を構 成する物質の一部が宇宙空間に 放出され ( 3 ) , 残った部分がブラ ックホールを包み込む ( 4 ) 。最終 的にはを中性子星を構成していた ほとんどの物質はブラックホール に呑み込まれる。 効さö8 WOJ! 、 2 し」 0 ~ 当ミ n で ue 0 」 0q27 、 2U0 心 2 ~ 効さö8 巴 u 27 トく ) っ 0 」 S 一 ODN く」亠 0 A にコ 0) 〇 〇 1 2 3 4 に新たに合成された重元素 , 例えばケ まで広がり , 太陽の約 1000 倍も明る 体的には放射性物質の破片が飛散して イ素やカルシウム , 鉄 , さらにはニッ く輝く。数時間後には地球は雲にすっ 拡大する巨大な雲で , これが数週間以 ぼり包まれ , 1 日後には木星と土星も ケル・コバルト・チタンの放射性同位 上にわたって輝いて見える。私たちは 体などが超音速の衝撃波によってばら 呑み込まれる。数週間後には太陽の燃 この燃えかすを調べて手がかりをかき まかれる。ものの数分で星はこつばみ えかすの雲は太陽系全体に広がる。こ 集め , 爆発を起こした星がどんなタイ プで , 爆発の原因は何だったのかを探 じんになり , 燃えかすや放射性物質の の頃には雲は半透明に変わり , 内部に 破片からなる雲となって四散する。時 閉じ込められていた光が外に出て , 雲 っている。 速 3000 万 km という光速の数 % に達 の明るさはピークを迎え , 太陽の約 明るすぎる超新星 する超高速た。 10 億倍の明るさで輝いた後 , 徐々に 幸運にも我らが太陽は小さすぎて超 消えていく。 近年発見された様々な特異タイプの 新星爆発には至らない。しかし仮に超 超新星爆発自体が発した短時間の X 超新星の中で , おそらく最も派手なも 新星爆発が起きたとしたら , 地球に届 線閃光を捉えた例はまだないし , どの のは膨大なエネルギーを伴う爆発を起 くその最初の兆候は強力な X 線の閃 星が爆発したのかを天体画像のアーカ こし , 普通の超新星の 100 倍以上もの 光で , それによって地上の全生命は死 イプを参照して特定できることもごく 明るさで輝く超新星で「超高輝度超新 滅するだろう。その数分後には太陽が 星」という。このタイプはこれまで発 まれだ。通常 , 私たちが目にするのは 四散してできた雲が太陽の 2 倍の領域 超新星爆発が起きた後の現象だけ , 具 見された超新星の中で最も明るく , 観 http ・ //www.nikkei-science.com/