見た目には違いがわからなくても実は別種 ? ! DNA を調べないと 識別できない鳥 見た目でわからない分類なんて 一般のバーダーにはお手上げ状態たが , 研究が進むにつれて検討される 隠蔽種といわれる鳥たちの候補をここに紹介しよう。 いすれは別種となったり , 日本固有種となったりするかもしれない。 文・写真◎杉田典正 すぎた・のりまさ 1977 年生まれ。立教大学大学院でオガサワラオ オコウモリを研究。国立科学博物館 , 国立環境 研究所を経て , 現在国立科学博物館非常勤研究 員。研究対象と分野はさまざま。鳥では系統地 理学と行動学に興味がある。論文執筆が大好き。 1 採集地情報がなく種不明のワタリ アホウドリの仲間国立科学博物館所 蔵。 2016 年 10 月 2 日まで国立科学 博物館「海のハンター展」で展示中 2 ~ 7 種 P R 0 F ーし E Diomedea ワタリアホウドリ など Phoebastria 4 種 日本の 3 種はここ Phoebetria ハイイロアホウドリなど 2 重 Diomedea ワタリアホウドリ ーなど 1 2 種 2 種 Phoebetria ハイイロアホウドリなど Thalassarche グ g アホグのなど 5 ~ 9 種 形態による分類 DNA 配列を考慮した分類 多くの種に分けられたが . 生物に付けられた学名は , 不変では 目録によって採用される種は異なる ない。新しい証拠によって変わりうる。 図 1 アホウドリ科の系統樹の変遷。 DNA 分析によって細かく 種分けされたアホウドリ類は , DNA 配列を読まないと識別困難 「種を分けるべき」という証拠が見つか れば , 同種と見なしていた種を分割し て学名を変える。逆に , 別種だと思わ と小さい種間遺伝距離の集団は再び れ , 日本の鳥の種分けはもう十分わか れていた生物を同種にまとめることも まとめられ , 種数は少し減った。種間 っているように見える。 DNA とその ある。分類学に正解があるわけではな の形態差はわずかだが , 進化的に重 分析法が発見される前に種分けされ く , 人々が納得するまで検討が続く。 要な単位を重視して分類されたので , てきた日本の鳥たちは , 人間が認知で 近年 , 鳥類の分類の再検討を迫る新し もし繁殖地以外でワタリアホウドリを きる範囲内でのみ種分けされてきた。 い証拠が , 分子生物学とその分析技術 見かけても , 姿だけで種を判別するの ところが , 日本でも DNA 分析を用い の発展により次々と見つかっている。 は難しいだろう [ 写真 1 ] 。現在もチェッ た新しい研究により , 従来の分類に矛 クリストや図鑑により採用されるアホ 盾する例が見つかった。それが , 「隠 D N A でしか ウドリ類の種は異なる。 蔽種」である。隠蔽種とは , 形態的に 識別できない鳥の代表格 , 絶滅危惧種の場合 , 亜種より種のラ 明確に区別できないが , 遺伝的には アホウドリ類 ンクがあるほうが保護のための援助を 別種レベルの大きな差異のある系統 アホウドリ類は , これまで形態によ 受けやすい。もちろん , 種でも亜種でも を含む種のことを言う [ 図 2 ] 。国立科 って 2 属 12 種に分類されていた [ 図 地域個体群であったとしても , 生態系 学博物館と山階鳥類研究所は 2015 ] 。 1996 年 , アメリカ国立博物館の を構成する交換できない存在として価 年に共同で , 日本列島内に少なくとも Nunn らは , アホウドリ類全種のミト 値は変わるものではない。しかし , 今後 24 種もの隠蔽種候補を見つけたと発 は保全への理解のために細かく種分け コンドリア DNA 配列を用いて , その 表した [ 表 ] 。この数は , 広大な面積の 系統関係を明らかにした。すると , 従 される傾向にあるのかもしれない。 アメリカ大陸で発見された隠蔽種の 来とはまったく異なる系統樹が再構 数より約 IO 倍も多い。 今後 , 日本でも 築され , アホウドリ類は 4 属 13 種に分 日本列島での隠蔽種の多さは , 島 識別難の鳥が増える ? 類された。続いて , ワタリアホウドリ 嶼地域であることに関係しているだ 等の亜種を種に昇格させる説を発表 日本産鳥類の種と亜種の多くは , ろう。海峡は , 生物の交流を遮断する。 し , 種数は一気に 24 種に増えた。その 18 世紀から 20 世紀中ごろまでに記 その結果 , 同種の他個体と交配でき 後の研究で , 遺伝子流動※がある集団 載された。たくさんの図鑑が出版さ ない個体群が生まれる。気候変動に 1 22 図鑑たけでは見分けられない鳥たち
2012 年 10 月ポーランド・プロッワフ ( Wroctaw キヤノン EOS 5D MarkII/ ニコン AF Zoom-Nikkor ED 80-200mm F2.8 【写真の鳥】 ヨーロッパシジュウカラ スズメ目シジュウカラ科 Great Tit 日本のシジュウカラ同様 , 非常に身近で親しまれる鳥 【写真の鳥】 ゴジュウカラ スズメ目ゴジュウカラ科 Sitta 0 〃 aea Eurasian Nuthatch ポーランドに生息する亜種 は & に . c 記ⅲ。腹部のオレン ジ色味が特徴のほかは日本 マ亠の亜種と似た生態をもつ のは , そこに集まるカラ類を見つけて しまったからだ。カボチャの割れ目に 頭を突っ込んだり , 付近の地面を物 色したりしては種をくわえ , 木の上へ 運んでいく。頭上から割った種の皮 が降ってくることもあった。ゴジュウ カラの中には寒い冬に向けた備えな のだろう , 樹皮の間にそのまま種を隠 しているものもいた。きっと , この地 に暮らす彼らにとっては毎年のこと なのだろう。したたかに , 人々の生活 圏で生きる術をもっているようだ。 10 ] Oct. 2016 ー BIRDER
表日本列島における隠蔽種リスト 琉球列島固有種の可能性のある鳥 1 アカヒゲ 沖縄諸島個体群 2 トラッグミ 奄美諸島個体群 奄美・沖縄個体群 / 大東個体群 3 , 4 ヒョドリ キビタキ 5 琉球列島個体群 ヤマガラ 西表島 6 津軽海峡を境に日本固有種になる可能性のある鳥 本州以南の個体群繁殖固有 メボソムシクイ 7 本州以南の個体群 8 カケス 本州以南の個体群 9 フクロウ 小笠原諸島固有種の可能性のある鳥 小笠原諸島個体群 10 カワラヒワ 境界が不明な鳥 11 リュウキュウコノハズク 混在 12 キジバト 混在 日本列島とその周辺地域で深い分岐の見られた鳥 ヒバリ 13 イワッパメ 14 15 ヨタカ 16 カササギ アオジ 17 18 ウグイス 19 アカゲラ ハシポソガラス 20 21 ャプサメ 2 2 ハシプトガラス 23 アカモズ 24 へ、ニマシコ ※ McKay et al. ( 2014 ) Systematic BioIogy 63 : 505 - 517 , ※※ Alström et a Ⅱ 2011 ) 旧 IS 153 : 395-410 により別種とされた 遺伝距離 ( % ) 6.13 3 .73 2.53 / 3.19 3 . 71 2.82 識別できる鳥 隠蔽種 5 .15 4.53 2 . 81 共通祖先 時間 3 .37 2 .9 2 .42 形態に違いが少なく 明確に別種と認識できない AffAff 炻〔 0 〔 0 ( CAC 「 4 明確に識別できる 8.38 6 .04 4 .73 3 .95 3 .43 2 .82 2 .45 2 . 21 2 .13 2 . 01 1 .82 AffAffAGCffC ffCCACAGTAGA 時間 AffAffAG@C AffAff 炻 ( け ( ( CA 4 0 ( CAØ可 4 DNA 配列は明確に異なる DNA 配列は明確に異なる 図 2 隠蔽種右は , 何らかの理由で人が別種と認識できる明確な 形態的な違いを生じなかったが , DNA 配列は識別できる鳥 ( 左 ) と 同じように異なる よる海水面の変動による島の面積の 日本の鳥の分類学は 変化や大陸との接続など , ユーラシア 新しい時代に入った 大陸の東に位置する日本列島の複雑 隠蔽種候補が多数見つかったが , な歴史を反映しているようだ。 それだけで種と認められるわけでは フクロウなど身近な鳥も ない。より詳細に検討を重ね , 学名を 変更し , 論文やしかるべき文書に発 リストの中から , フクロウに注目し てみよう。ヨーロッパ , シベリア , 日本 表する必要がある。分子実験技術を 用いて日本の鳥類の分類を再検討す のフクロウ , 全部同じ種と思われてき た。しかし , 津軽海峡を境界に本州以 ることが望まれる。レッドリストや天 然記念物 , 種の保存法において , 保全 南のフクロウは , 北海道とユーラシア が必要な生物は種や亜種単位で指定 大陸のフクロウと別種ほどの遺伝的 される。生物の多様性と歴史を突き 差異があることがわかった。研究が 詰めて理解することは , 生態系や希少 進めば , 本州以南のフクロウは日本固 種の保全政策にも重要である。 有種として独立するだろう。津軽海 峡は , プラキストン線と呼ばれ哺乳類 ※ある地域に生息する特定生物種の集団に , 外部から異なる地域の集団が入って遺伝子 と鳥類の生物相が変わるのだが , 形 が交雑すること。 態で亜種として分類されていたフク 参考文献 ロウは見逃されてきたのだ。 ・ del HOYO 」 , COIIar N 」 ( 2014 ) HBW and BirdLife たくさんの島で構成される琉球列 lnternational lllustrated Checklist of the Birds Of the WorId. Volume 1 : Non-passerines. Lynx Edictions, BarceIona. 島も鳥の隠蔽種の宝庫だ。本土から ・ Saitoh T, Sugita N, Someya S,lwami Y, Kobayashi S, Kamigaichi H, Higuchi A, Asai S, Yamamoto Y, Nishiumil 遠く離れた小笠原諸島のカワラヒワ ( 2015 ) DNA barcoding reveals 24 distinct lineages as cryptic bird species candidates in and around the 」 apanese ArchipeIago. MoIecuIar Ecology Resources 15 : 177-186. も隠蔽種候補である。 Enigmatic Oriental Doves 窓の外の 2 羽のキジパト・・ でもその 2 羽 , 別種かもしれな い。キジノヾトは , 別種レベルの遺 伝的差異のある個体が同所的に 存在する。一度分岐した集団が 再び混ざり合って交配している のか , それとも同所的に生殖隔 離しているのか , まったくわか っていない。核 DNA を使った詳 細な研究が待たれる。 冬の沖縄に 2 種のヒョドリ ? 亜種ヒョドリは , 冬に琉球諸 島など南へ渡る。ヒョドリと別 種レベルの遺伝的差異のある亜 種アマミヒョドリとリュウキュ ウヒョドリは , 奄美大島や沖縄 島の留鳥た。研究が進みヒョド リが別種になった場合 , 冬の奄 美・沖縄地方では 2 種のヒョドリ が存在することになる。識別難 でバードウォッチャーを悩ます かも・・・・・・いや楽しい ? 10 ] Oct. 2 ( ) 16 ー BIRDER
クムリーンアイスランドカモメと カナダカモメ 文・写真◎先崎啓究 せんさき・ひらく 1985 年生まれ , 北海道岩見沢市在住。初めてカ ナダカモメを自力発見したのは忘れもしない 2003 年 10 月のこと。それからもう 13 年も過ぎ ていることに驚愕した。今シーズンこそ , 久しく 出会っていないアイスランドカモメを何とか見 つけたいところ。 大形カモメ類の中でもカナダカモメ ( 12 ページ : 以下 , クムリーンアイスランドカモメ右手前 ) 12 月北海道 カナダ ) とアイスランドカモメ⑦Ⅲ・ g / 側 co 、 g / 側 co 、 : 静止時はカナダに似るが , 翼の黒味が少ない。 以下 , アイス ) にあこがれるバーダーは多い。両者は海外 初列の黒色部は P10 ~ 6 の 5 枚分で , P6 の模様は中央で分断している。 PIO のミラーは先端とつながり , P9 のミラーは外弁まで及び内弁内側 では同種とされることもあり , その場合 , 亜種クムリーン のグレーとの境目は不明瞭 アイスランドカモメ⑦ . g. たⅢ月ⅲ : 以下 , クムリーン ) はカ ナダとアイスの交雑群と見なされることもある。なお , 日 本鳥類目録第 7 版では別種とされる。今回は日本で記録 の多いアイスの亜種クムリーンとカナダの成鳥の違いに 迫ってみよう。 クムリーンは基亜種であるアイスに似た個体から , カナ ダに似た個体までバリエーション豊かだ。特にカナダ似 の暗色個体の場合 , 主な違いは , カナダに比べ①やや小さ く , ②足や嘴はより短い , ③円 0 ~ 5 までの上面黒色部が 少なく色が薄い , という点だ。特に③の色合いがカナダと クムリーンアイスランドカモメ第 4 回冬羽 ( 手前 ) 3 月東京都撮影◎森田佑介 の識別点として注目されている。具体的には初列風切の 初列風切は淡く灰色味が強い。外側初列の黒色部はカナダに比べて少 ない。この個体は撮影時 2014 ~ 15 年で第 4 回冬羽であり , 加齢によ 黒色部は最大でも円 O ~ 6 の 5 枚分で , ミラーとウイング ってさらに白色部分の範囲が広がることが予想される チップ※が大きく , 黒色も灰色味を帯びる個体が多い。特 徴をもっ個体を見つけたい。またシロカモメ系の雑種と に P9 のミラーが外弁まで達することや , P 川 , 9 の内弁側 は , 眼瞼の色がクムリーンは紫っぽく , 雑種はオレンジっ の黒がどれほど少ないか , という点がポイントだ。 ぽいという点で異なる。 ただ , カナダの中でも黒色部が 5 枚分の個体がいること や , 両種の中間的な模様をしていて , 断定できない個体も ※ミラーは最外初列風切 ( P10 , 9 ) 2 枚の先端付近に見られるスポット 確認されていることから , 識別は総合的に行い , 確実な特 状の白点のこと。ウイングチップは外側の初列風切 ( 主に PIO ~ 5 ) 先端にある白色部分のこと。 P R 0 F ーし E クムリーンアイスランドカモメ 1 月カナダ・オンタリオ州 初列風切の黒色部は PIO ~ 8 の 3 枚分で , 先端はほとんど白い。 このような個体をいずれ国内で見つけたい カナダカモメ L. 叩 , ⅲ 12 月千葉県 初列風切の黒色部は PIO ~ 5 の 6 枚分で面積もクムリーンより広い。 PIO のミラーと先端白色部はつながらない。 P9 のミラーも外弁まで 及ばず , 黒色部は内弁内側にまで食い込む 10 ] Oct. 2016 ー BIRDER
・体色と体形 識別の決定打にはならないが参考にはなる。コはほか 2 種より小形で , キマュムシクイより少し大きい程度。上下 面の体色はメポソが最も黄色味が強く , オオが中間的 , コ は最も黄色味が乏しいとされるが , 黄色味の強いコもい る。下嘴はメポソで肉色部が大きい傾向があるが , 下嘴が ほとんど肉色のオオや , 暗色部の大きいメポソもいる。 ( 2 . 7 ~ 5.5 ) - 8 . 4 ~ 4.9 ) - 1 . 7 ~ 0 . 5 ) - 3 . 4 ~ 0 . 9 ) - 1 . 4 ~ 3 . 7 ) メポソムシクイ P c 叩 . Ⅷり us 5 月大阪府 さえずりと地鳴きから識別。本種は上下面とも黄色味が強いが , 写真だけから種を特定することはまず不可能だろう。よく見ると PC より長い PIO が写っている右上 オオムシクイ 2 〃ⅲⅧ油パ 9 月石川県撮影◎高木慎介 地鳴きから識別。黄色味が乏しく , P10 は PC よりわずかに長い典 型的なオオだが , これでも声を聞かずに識別することは現時点で は避けたほうがよいだろう コムシクイわ 0 広 10 月沖縄県撮影◎先崎啓究 地鳴きから識別。黄色味が乏しい個体。コの短い PIO は 写真に写らないことが多く , 声を聞かなければ識別不能 コムシクイ オオムシクイ メポソムシクイ 上段は平均値 , 下段 3 . 8 表メホソ上種の PIO - PC 長 mm 齋藤・茂田・上田 , 2014 より ) 内は値の範囲を示す。 下面の黄色味がメポソより弱いが , あくまで傾向的な違い さえずりと地鳴きから識別。 オオムシクイ 5 月大阪府 さえずりと地鳴きから識別。 PC より PIO が明らかに長い ( 右上 3 拍子でさえずっており , 現地でオオムシクイといわれていた個体。 メポソムシクイ 5 月大阪府 コムシクイ 3 月沖縄県 地鳴きから識別。体下面の黄色味が強い個体。 本種の亜種間差はまだわかっていない BIRDER 10 ] Oct. 2016 ー
メポソムシクイ上種 文・写真◎梅垣佑介 本州以南の高山 ~ 亜高山帯で繁殖するメポソムシクイ ・地鳴き ( 以下 , メポソ ) と , 知床半島やカムチャッカ , サハリンで 地鳴きも識別の決定打となる。メポソは 2.5 ~ 5. OkHz 繁殖するオオムシクイ ( 以下 , オオ ) はともに , 渡りの時期 程度 [ 図 2 左 ] で 3 種中もっとも低く , ひねり出すような「ジ に低地林や公園などで見られる。ユーラシア大陸やアラ ュッ」「シュシュッ」と聞こえる濁った声。オオは 3.0 ~ スカで繁殖するコムシクイ ( 以下 , コ ) は渡りの時期に日 8.0kHz 程度 [ 図 2 中 ] と 3 種中最も音域が広く , 「ジッ」「ジ 本海側を少数が通過し , 八重山諸島で越冬する。近年 3 種 ジッ」と聞こえる単調で強い声。コは 4.5 ~ 7.5kHz 程度 に分けられたことで識別が問題になる種群だ。識別にお [ 図 2 右 ] で , やや高めで軽い感じの「ズィッ」「ヴィッ」と聞 いて , 現時点で最も信頼できる特徴はさえずりと地鳴き で , そのほかの決定的な識別点は知られていない。 こえる ・最外側初列風切と最長初列雨覆との差 最外側初列風切 ( P10 ) の長さは 3 種で異なるため , 最長 メポソのさえずり [ 図 1 左 ] は , 低い鈴のような豊かな音 初列雨覆 (PC) との差 (PIO-PC) を調べることでどの種か 色で , 決まったフレーズをくり返す。「チョリチョチョ , チ おおよその見当をつけられる。 P10- PC はメポソが最大で , ョリチョチョ」などと聞こえる 4 拍子が典型的。中にはオ オオ , コの順に小さくなる。コでは P 川が PC より短いこと オのように 3 拍子や , コのように連続的にさえずる個体も が多い。 3 種の平均値には差があるが [ 表 ] , オーバーラッ おり , 拍数のみで識別はできない。オオ [ 図 1 右 ] は単調な プが大きく , これだけで識別はできないことが多い。ただ 「チョチョリ , チョチョリ」という 3 拍子 , コは「チョチョチ し , PC より PIO が明らかに長ければ「コではない」といえ ョチョチョチョ・・・」と連続的にさえずる。 そうだ。メポソやオオの P 川は , 野外でも写真に写ること がある。 ・さえずり 図 1 メポソムシクイ左 , オオムシクイ右のさえずりソノグラム声紋。メポソムシクイの音域は低く , 節の終わりが上がるのに対し , オオムシクイは音域が広く , 節の終わりで下がる。 Raven Lite で作成 図 2 メポソムシクイ ( 左 ) , オオムシクイ中 ) , コムシクイ右の地鳴きソノグラム声紋 0RavenLite で作成 16 ー図鑑たけでは見分けられない鳥たち
BOOKREVIEW となりの生物多様性 医・食・住からへンチャーまで 営下置 四六判並製 184 ページ 宮下直著工作舎 ( 2016 年発行 ) おすすめの新刊書籍を紹介します / 旧 BN978-4-87502-475-0 定価本体 1 , 900 円十税 ) 身近な生物多様性について , さまざまな話題を切り口に 幅広く学べる 1 冊である。農学博士である著者が , 直感的 におもしろいと感じた話題を書きとめ , 著者なりにリサー チし , 訴えかける価値が高いと判断した素材が選ばれてい る。生物多様性は医食住を含めて私たちの暮らしの中に深 くかかわっており , 新たに注目されているテクノロジー「バ イオミメティクス生物模倣衣類にくつつく植物の実か らマジックテープを発明したなど ) もまた , 多様な生物が 存続しなけれはその可能性が狭まってしまうそうた。説得 力のある内容で , 生物多様性の意義を考えさせられる。 Birds of South America Passerines of South America Ber van PerIo 著 Princeton University Presss ( アメリカ ) 2015 年 192X128mm 464 ページ 旧 BN978-0-691-16796-1 定価 46.00 ドル 南アメリカのスズメ目のフィールドガイド。全 1 952 種が 197 のカラープレートに分布図と見開きで分類順に配置さ れている。トリニダード , ガラパゴス , フォークランドを含 む南アメリカには 32 科 1 , 952 種のスズメ目の鳥類が記録 されている。序文に続き , 32 科の解説 , 略語と分布図の説 明がある。各カラープレートは 10 種すつで構成されるが , カラープレート 194 は外来種 6 種と未確定種 4 種 , 195 は 未確定種 12 種を扱い , 196 は 2011 年以後に記載された新 種 9 種 , 197 は 2014 年 8 月までに新種として記載が認めら れていない 6 種を扱っている。山階鳥類研究所茂田良光 ) 美しき羽毛 曼しき羽も 松原卓ニ 松原卓ニ著東京書籍 ( 2016 年発行 ) 150x 148mm 並製 104 ページ 旧 BN978-4-487-80833-5 定価 ( 1 600 円十税 ) 鳥の羽毛の美しさをいかに表現するかに日夜工夫を重ねて いる動物カメラマンによるハンディなフォトブック。 40 の 鳥たちの羽毛や顔のアップなどか登場する。「しりもふ」鳥 のお尻をフィーチャーした作品 ) , 「ひなモフ」幼羽につつ まれた雛の作品 ) といった , 鳥のもふもふした姿を写し取 った写真は癒し効果抜群。また , 高精細な画像で , 羽毛の生 え方や構造まで手に取るようにわかり , バードカービンク 制作の際の参考になりそう。鳥類学者・川上和人氏のお役 立ちコラムも楽しく読める。寺田克也氏のややファンタシ ーがかった美しい解説イラストも一見の価値あり。 Falcons Richard SaIe Falcons Richard Sale 著 HarperCoIIins Publishers ( イギリス ) 2016 年 215X150mm 607 ページ 旧 BN978-0-00-751141-9 定価 65.00 ポンド Collins 社の New NaturaIist シリースのハヤブサ類のモノ グラフ。表紙は Robert G Ⅲ mor 氏による。 8 章に分けられ , イギリスとアイルランドで繁殖する 4 種のハヤブサ類 ( ハ ャブサ・チョウゲンボウ・チゴハヤブサ・コチョウゲンボウ ) の比較研究。 Falcon と 4 種のハヤブサ類の語源 , 形態 , 生息 環境 , 食性 , 行動 , 繁殖生態 , 飛行 , 視力 , 世界分布 , 分類 , 亜 種 , 換羽 , 鳴き声 , 渡り , 保護 , 個体数の過去・現在・未来な ど , 多くのカラー写真と図表が挿入され , 詳述される。巻末 に章ごとの詳細な注と引用文献 , 索引がある。ヘーハーバ ック版旧 BN978-0-00-751142-6 ) もある。 ※このコーナーで取り上げた書籍は , 小社ではお買い求めいただけません。お近くの書店にお問い合わせください。 BIRDER 30 は 0 ] Oct. 2016 ー
哉別マイスターの 目のつけどころ , 教えます、 - 三ロ バードウォッチングに不可欠な鳥の識別。 この業界にはその識別に長けた人がいる。 一見するたけでは違いも特徴も見いたせない観察状況から , 彼らはどうやって「答え」にたどり着くのたろうか ? 文・写真◎梅垣佑介 うめかき・ゆうすけ 1986 年生まれ。大阪府出身。種や亜種の識別にもと もと興味があったか , 最近は目にした鳥がどこで生 まれ , とこに向かっているのかが気になってきた。個 体群レヘルの識別になるだろうか。ー介の週末バー ダーには到底わかりえないことなので厄介である。 P R 0 F ーし E 1 ススメげ川硼血〃 4 月大阪府 スズメを識別するとき「額から後頸が茶褐色で , 眼先と腮から喉 , 頬の一部が黒く , その他の顔と頸部が白くて・・・・・・」と細部を検討しなくても , 多くの人は「あ , ススメだ と瞬時に識別できる。ジズに基づくイメージが , 頭の中にできているからだろう な ) 印象による検討と , ②細部の特徴 「識別する」ということ に基づく詳細な検討の両方を行って 「名正しからざれば則ち言順わず」 識別しているようだ。 2 オジロヒタキ F 沁面 / “伽 c 〃ん第 1 回冬羽 12 月奈良県 有名な孔子の言葉だそうだ。「名前 全体的な ニシオジロビタキ第 1 回冬羽との識別では , が正しくなければ言葉の意味が混乱 上尾筒などの特徴が「決定打」とされるが , そ 印象 ( ジズ ) による検討 れだけでなくさまざまな点が異なり , オジロビ してしまい , 結果として何もできなく タキはよりキビタキ属っぽし、印象を受けるマ なる」という意味らしい。「名前を知る ダラヒタキに近い。 1 つの特徴だけで判断せ ある鳥の姿がパッと目に人った瞬 ず , 常に全体的な特徴と比較しながら総合的 ことが知識を深めることへの第一歩」 間 , 人は大きさや体形 , 羽色や模様な に識別したい と解釈されることもある。 どの大まかな情報に基づいて瞬時に 鳥の識別は , 目の前の鳥の名前を特 印象を形成している。識別に役立っこ 定する作業だ。我々は鳥の名前を知る のような全体的で感覚的な印象を「ジ ようになれば , それと違う種を検出し ズ (jizz) ※」と呼ぶ。 ことで , その鳥がどのように生きてい やすくなるのだ。例えば , 外見上は顕 るのか , いつ , どこから来てどこへ向 ふだんから見慣れた鳥の場合 , 人は 著な違いがないメポソムシクイ上種 かうのかを知ることができる。バーダ その鳥のジズに基づくイメージを脳内 であっても , メポソムシクイやオオム ーが鳥の名前を知りたいと思うのは当 にもっている。そして , 実際に目の前 シクイを見慣れた目には , コムシクイ 然の欲求だ。 にその鳥が現れると , ジズが脳内のイ はどこか違って見えることが多い。ま メージと合致するため , 細部を確認す た , ニシオジロビタキとオジロビタキ 識別の「目のつけどころ」 るまでもなく , 瞬時に識別することが は似るが , 前者のほうがわずかに小さ しかし , 識別はひと筋縄ではいかな 可能になるようだ。こうして我々は労 く , コサメビタキのような華奢さを感 い。読者のだれしもが , 自分が見た鳥 せずしてスズメやヒョドリを識別でき じるのに対し , 後者はわずかに大きく , の名前がわからず , 「識別は難しい」と る [ 写真 1 ] よりキビタキ属らしい印象を受ける。 感じた経験が少なからずあるのでは そして , 互いによく似て見えるカモ ジズを理解することは識別の大きな ないだろうか。数々の難識別鳥を , べ メ類やシギ・チドリ類 , ムシクイ類など 助けとなるため , ふだんから身近な種 テランバーダーたちはどのように識別 であっても , じっくり観察していると をしつかりと観察し , その種が野外で しているのだろう ? 彼らの識別プロセ 種ごとの印象が微妙に異なっている どのように見えるのかのイメージをも スを観察すると , ①全体的な ( 感覚的 ことに気づく。ある種のジズがわかる っておくことが大切だ。 すなわげんしたが 図鑑たけでは見分けられない鳥たち
工ゾムシクイと アムールムシクイ 文・写真◎大西敏ー おおにし・としかす 1961 年生まれ , 大阪府在住。バードコンサルタ ントとして鳥類調査に飛び回る毎日。世界中の ムシクイ類を見るのが夢。 Migration Watcher を 自負し離島の渡りの中に自分の身を置く瞬間 が至福の時。著書に『日本の野鳥 590 / 650 』 ( 平 凡社 , 『世界のカワセミハンドブック』 ( 小社刊 ) など。 P R 0 F ー L E 本州中部以北と四国に夏鳥として渡来す 工ゾムシクイ勸 ) , 〃 0 “叩″朝 0 ん s 5 月青森県撮影◎原星ー 頭上と背以下とのコントラストが強く , 色調に明瞭な違いが出る傾向にあるが , 両種とも個 る工ゾムシクイ ( 以下 , 工ゾ ) は , 渡りの時期 体差があり , 年齢や羽の摩耗具合 , 光線の状態でも見え方が左右される。この写真では翼が 内側に向いているため初列風切の突出は 6 枚に見えるが , P5 と P6 間はアムールより広い には各地の低地林や公園でも見られる。アム ール川流域など大陸の極東部で繁殖するア ムールムシクイ ( 以下 , アムール ) は , 春の渡 りの時期に少数が九州北部など日本海側の 地域を通過する。メポソムシクイ上種同様 , かって亜種関係にあった両種は , 翼式や初列 風切の突出量 , PIO-PC ( 最外側初列風切ー 最長初列雨覆 ) などに違いがあるが , 外見は 酷似するため野外識別は困難。野外での確 実な識別ポイントは鳴き声だ。 ・さえずり アムールムシクイ 2 肥〃ゆ 4 月韓国 頭上と背の色調の差は工ゾに比べて小さく , コントラストも弱い傾向にあるが個体差も 工ゾは「ヒーツーキー」。アムールはマキ 多い。また PIO - PC が工ゾより長い傾向にある。秋の渡りにも通過しているはずだが , 鳴 ノセンニュウのような感じで「フィリフィリ かない個体が多いために見逃されている可能性がある フィリ・・・」「フィリリリリ・・・」と鳴き , これが聞 ければ 100 % 識別が可能だ。 ・地鳴き 両種とも「ピッ」「ヒッ」と聞こえ , 通常工ゾ は 4.5kHz 前後 ( 図 l) , アムールは 6kHz 前 工ゾムシクイ 4 月長野県 アムールムシクイ 4 月韓国 後 ( 図 2 ) で鳴くためアムールのほうがより高 撮影◎渡部良樹 初列風切の突出は短く , 主に 5 ~ 6 枚。工ゾ 初列風切の突出は長く , 主に 7 ~ 8 枚。この よりも P5 と P6 間は狭く , PIO-PC は長め。 く聞こえる。しかし , 工ゾは時として 6kHz 帯 個体は 7 枚が突出し , 最長は P8 。ただ両種 この個体は 6 枚の突出が見られ , P5 と P6 でも鳴くため , 区別のつかないことがある。 とも 6 ~ 7 枚でオーバーラップが見られる。 の間隔は狭く , PIO が PC より大きく出てい P5 と P6 の間隔はアムールに比べ広め るのがわかる 7.000 6.500 6.000 5.500 5.000 4.500 4.000 み 000 6.500 6.000 5.500 5.000 4.500 4.000 3.004 3.007 S7.895 S 7.896 9 9 10.5 図 1 工ゾムシクイの地鳴きのソナグラム。工ゾは 4.5kHz 前後で鳴くが , 図 2 アムールムシクイの地鳴きのソナグラム。これまで見たアムール 警戒時などは 6kHz 程度の声を出すので要注意だ。 Raven Lite で作成 はいずれも 6kHz 前後で鳴いていた。今のところ工ゾムシクイのように 通常とは異なる音程で鳴く個体は見ていない。 Raven Lite で作成 10.5 1 8 図鑑たけては見分けられない鳥たち
野外における年齢識別の注意点 羽毛の模様は幼羽の判別に重要だが , 野外では摩耗した夏 羽が幼羽のように見えることがある。そのような場合は , 羽毛 の摩耗状況に注目しよう。秋の渡り時期には , 通常 , 成鳥夏羽 は幼羽よりもすっと摩耗しており , 先端がポロポロになって いることが多い。また , 摩耗による変化とは関係なく , 夏羽が 幼羽に似たパターンの個体もしばしば見られる。年齢識別も , 雨覆先端は摩耗が進んでいる夏羽。 種の識別と同様に , 複数のポイントを総合的に判断したい。 三列風切や肩羽に幼羽が見られないことから , 成鳥と判断した ・ジシギ類の換羽様式 通過する個体群 ) やハリオの成鳥は繁 な年齢識別を心がけたい。 先の連載 ( 2 田 4 年 9 月号 ) では , オ 殖地で換羽を開始した後に渡りはじ オオジは幼羽後換羽においても完 オジとチュウジの秋期の成鳥の換羽 め [ 写真 9 ] , 中断または換羽を進行さ 全換羽をすることがほかの 3 種と大き についてのみ解説したが , 今回は日本 せたまま渡り , 越冬地に到着後完了す く異なり , 生まれた翌年の春以降には 産ジシギ類 4 種の換羽様式と , 換羽を る。一方 , オオジ成鳥ではごく一部を 野外での年齢識別はできなくなる。ど 完了する地域 ( 繁殖地または越冬地 ) 除き [ 写真 11 ] , 初列風切を換羽しない の種においても , 第 1 回冬羽への換羽 を [ 表 ] に示した。タシギとチュウジ ( 主 まま渡り , 越冬地に到着後風切の換羽 が進んで成鳥と見分けがつかなくなる に本州を通過する個体群※ ) の成鳥は , を始める。すなわち , 秋の渡り時期の ことは , 少なくとも秋の渡り時期の中 換羽を完了してから国内に渡来する 成鳥の換羽状況は , 種の識別に非常 継地においてはほとんどないようだ。 個体が多いが , チュウジ ( 主に沖縄を に有効だ。これを行うためにも , 正確 ※チュウジシギの地域差については , 14 ページ参照 成鳥の繁殖後 幼羽後 秋の渡り時期の 換羽 換羽 成鳥の初列風切の換羽状況 タシギ 完 / 繁 or 完 / 冬 部 / 冬 換羽中または換羽済 チュウジシギ 完 / 繁 or 完 / 冬 部 / 冬 換羽中または換羽済 ハリオシギ 部 / 冬 換羽中 オオジシギ 宀夂 宀 / 夂 未換羽 ※完 = 完全換羽 , 部 = 部分換羽 , 繁 = 繁殖地で換羽 , 夂 = 越冬地で換羽 表ノシギ類の換羽様式と完了する地域 11 オオジ成鳥夏羽→冬羽 8 月茨城県撮影◎ YG-5 初列風切内側 2 枚 ( 矢印 ) を換羽して停止して いる個体。こうした個体はおそらく稀 内弁はずっと細いか淡色部がないこ 際には , その配列だけに注目するので これまで有効とされてきた とが多い [ 写真 3 ] 。また , 下列肩羽が他 はなく , 個体がどういう状態なのかを 識別点の再検証 種よりも相対的に長いようだ。このた しつかりと見極めたいところだ。 め , タシギでは肩羽下列が斜めに見え ・タシギとほか 3 種の識別 むしろ , タシギと他種の識別におい タシギは下列肩羽の生え方が斜め る傾向はある。しかし , 幼羽はこの差 ては , 静止時に嘴と尾が細長く , 他種 が小さいことが多いので [ 写真 4 ] , ま に比べて華奢な体形であることや , 眼 になっていることがしばしば重要な識 ず年齢識別を行ってから確認しよう。 先の黒線の太さに注目しよう。飛び立 別点とされてきた。この識別点はどの 肩羽の配列は鳥がリラックスすれば くらい有効なのだろうか。 っときには , 鳴き声と翼後縁の白線 , 斜めになり [ 写真 12 ] , 緊張すれば直線 タシギ成鳥の肩羽は他種の成鳥と 翼下面の白い翼帯を確認すれば確実 に近くなる [ 写真 13 ] 。肩羽に注目する 異なり , 羽縁は外弁のパフ色が太く , に識別できるだろう。 46 Young Guns の野鳥ラボ