がんばりつづけた。そしてあらゆる努力を惜しまなかったにもかかわら す、彼は立っている地点から毛一筋ほども移動できなかった。 「神がかりになることはない , 」とチャンは言い、そのことを何度もく り返した。 「飛ぶために信条はいらなかったはすだ。これまでのお前に必要だった ンのは、飛ぶということを理解することだったでまよ ) 。 ー广しカこんど 4 も全く ナ それと同じことなのだ。さあ、ではもう一度やってみるがよい」 のそして或る日のこと、ジョナサンが目を閉じ、精神を集中してなぎさ に立っていると、不意になにかが心にひらめき、彼はこれまでチャンが 何を言いつづけてきたかを一瞬のうちにさとった。 「そうだ、本当だ ! おれは完全なカモメ、無限の可能性をもったカモ メとしてここに在る , 」 彼は激しい衝撃のような歓びをおぼえた。 「いいぞ , 」チャンは言った。その声には何かをなしとげた明るさがあ
間、ジョナサンは上下の観念を逆にしなければならなかったからである。 つまり、翼を曲げるにも普通とは反対にし、教官の動きに対応して正確 に逆の動きをやってのける必要があったのだ。 「もう一度やろう」サリヴァンは何度もくり返した。「もう一度」と。 それからついに言った。「よし」 ンそのあと彼らは逆宙返りの訓練にとりかカった ナ の或る日の暮れ方のことだった。夜間飛行をしないカモメたちは、砂地 にかたまって思索にふけっていた。ジョナサンは、ありったけの勇気を ふるいおこして長老のカモメに近づいていった。それは噂によると、も うすぐここを離れて、もうひとつ上の世界へ移ってゆくことになってい るらしい張という名のカモメである。 「チャン ・」と彼はおどおどした口調で呼びかけた。 老いたカモメは、優しく彼を眺めた。 チャン うわさ
( たカ、いまや長老みすからの特別指導をうける身となってからは、彼 はまるで羽根のはえた流線型のコンビューターさながらに新しい思考を たちまち吸収していったのである。 しかし、やがてチャンが姿を消すその日がやってきた。彼はものしず かに皆に語りかけた。すべての生活の隠された完全な原理をすこしでも ン深く理解するために、研究と練習と努力とを決して途中でやめてはなら ナ ぬ、と彼は熱心に説いてきかせた。やがて語るにつれて、彼の羽毛はし の だいに輝きをまし、ついに誰も彼を見ていられないほど眩しくなってい め つ「一 0 「ジョナサンよ」と彼は言った。それが彼の最後の言葉だった。 「もっと他人を愛することを学ぶことだ。よいか」 彼らがふたたび目が見えるようになった時、もうチャンはいなくなっ 日がたつにつれ、ジョナサンは自分がときどき、おきざりにしてきた まぶ
: 」と彼は なるところへでも飛ぶということになるのだが、それには・ 一「ロった。 「ます、自分はすでにもうそこに到達しているのだ、ということを知る ことから始めなくてはならぬ : : : 」 チャンの語るところによれば、瞬間移動の秘訣は、ますジョナサン自 身が自分のことを、限られた能力しかもたぬ肉体の中にとじこめられて いる哀れな存在と考えるのをやめることにあった。たかだか一メートル ひしようりよく あまりの翼長と、せいぜい飛行地図に書きこめる程度の飛翔力しか持た ぬカモメの肉体に心をとらわれるな、というのである。そしてさらに本 来の自己は、まだ書かれていない数字が限界をもたぬごとくに、限りな く完全なるものであり、時間と空間を超えて、いかなる場所にも直ちに 到達しうるのだと知れ、とチャンは説くのだった。 ジョナサンはくる日もくる日も日の出前から真夜中すぎまで、猛烈に ひけっ
「なにかな」 この長老は年をかさねるにつれておいばれるどころか、かえって高い 能力をさすけられていた。彼は群れのどのカモメよりも速く飛べたし、 ほかの連中がやっとおばえはじめたばかりの技術を、すでに自分のもの にしてしまっていたのだ。 「チャン、ここは天国なんかじゃありませんね。そうでしよう ? 」 長老は月光の中で微笑した。 「かなりわかってきたようだな、ジョナサン」 「うかがしたいんですが、いまの生活のあとにはいったい何がおこるの でしようか ? そして、わたしたちはどこへ行くのでしよう ? そもそ も天国などというものは、本当はどこにもないんじゃありませんか ? 「その通りだ、ジョナサン、そんなところなどありはせぬ。天国とは、 場所ではない。時間でもない。天国とはすなわち、完全なる境地のこと 簡なのだから
「やったぞー」 「そうとも、もちろんお前はやりおおせたのだよ、ジョン」チャンが言 っ一」 0 「お前が自分のしていることを本当に知りさえすれば、いつでもできる のだ。さて、それでは次はコントロールの問題だが : : : 」 ン サ ナ 、こ。ほかのカモメたちは、 彼らが帰ってきた時には、もう日が暮れてしカ ジ のその金色の目に畏敬の色をうかべてジョナサンをみつめた。彼らはジョ ナサンが、あんなにも長い間、根をはやしたように釘づけになっていオ 場所から、かき消すようにいなくなった様子を目撃していたのである。 彼は仲間の祝福の言葉が重荷で、一分も耐えられなかった。 「わたしはここでは新参者なんです。やっと勉強をはじめたばかりで す ! わたしのほうこそあなたがたから教わらなければならないの くぎ
Part Two ジョナサンは目をあけた。彼は長老と二人だけで、さっきまでとはま るで違った海岸に立ってし 、た。森は波打際まで迫っており、二つの黄色 い太陽が頭上をめぐっている。 「ついに会得したな」チャンが言った。 「だが、もう少しコントロールの研究をする必要がありそうだ : : : 」 ジョナサンは肝をつぶした。 ここはどこです ? 」 あたりの不思議な光景には何の関心も示さず、長老は彼の質問をあっ さ C 物付けた。 「われわれはどこかの惑星にいる。みどり色の空、太陽にかわる双子星、 まちかいない」 ジョナサンはけたたましい歓喜の叫び声をたてた。それは彼が地上を 後にして以来、はじめて発した声だった。 っ一」 0
、、ジョナサン、天国とは、場 間にどこへでも行く。おばえておくがよし 所でもない、時間でもない というのは、場所や時間自体は、そもそも 何の意味ももたぬものだからだ。天国とはだ、それは : : : 」 「さっきみたいに飛ぶやり方を教えていただけませんか ? 」ジョナサン は、もう一つの未知の世界を征服することを考えて身を震わせた。 ン 「よいとも。お前が教わりたいというのならな」 サ ナ 「おねがいです。いっからはじめてくださいますかワ」 ジ の「そちらさえその気なら、今からでも」 「あんなふうに飛べるようになりたいのです」ジョナサンは言った。異 様な光が彼の目の中に燃えあがった。 「言ってください、、、 とうすればいいのかを」 チャンはゆっくりと話し、自分より若いカモメをじっと注意ぶかくみ つめた。 ( し、刀 「思った瞬間にそこへ飛んでゆくためには、ということはつまり、
彼は一瞬だまりこんでから、たすねカ 「お前はえらく速く飛べるらしいな、え ? 」 「わたしは : : : わたしはただス。ヒード が好きなんです」ジョナサンは答 えた。長老がそのことに気づいてくれていたことにびつくりもしたが、 また誇らしい気持でもあった。 ン 「よいか、ジョナサン、お前が真に完全なるスビードに達しえた時には、 サ ナお前はまさに天国にとどこうとしておるのだ。そして完全なるスビード のというものは、時速数千キロで飛ぶことでも、百万キロで飛ぶことでも、 また光の速さで飛ぶことでもない。なぜかといえば、どんなに数字が大 きくなってもそこには限りがあるからだ。だが、完全なるものは、限界 をもたぬ。完全なるスビードとは、よいか、それはすなわち、即そこに 在る、ということなのだ」 不意にチャンの姿が消えたかと思うと、突然、十五メートルほどはな せんこう れた水際にあらわれた。閃光のような一瞬のできごとだった。そしてふ
「そいつはどうかな」と、そばにいたサリヴァンか言った。 「ジョン、きみみたいに学ぶことをおそれないカモメに、わたしは過去 一万年のあいだ出会ったことがないぜ」 皆がしんとなり、ジョナサンは身のおき場がなくてもじもじした。 「お前が望むならば、時間のほうの研究をはじめてもよい」チャンが言 っ一 0 「そうすれば、お前は過去と未来を自由に飛行できるようになる。そし てそこまでゆけば、お前は最も困難で、最も力強く、かっ最もよろこば しい事柄のすべてと取り組む用意ができたといえるだろう。そしてお前 はそのとき、より高く飛びはじめ、また優しさと愛との真の意味を知り はじめる用意ができたことになるのだ」 そして、ひと月が過ぎた、いや、ひと月と感じられただけかもしれな ジョナサンは素晴らしい早さで学んでいった。彼はこれまでいつも 日常の何でもない些細な経験から、いろんな事を素早く学びとってきて