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検索対象: かもめのジョナサン
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1. かもめのジョナサン

「この世のどんなことよりも、ばくは飛びたいんです : : ・」 「では、一緒においで」と、ジョナサンは言った。 「地面からわたしと一緒に飛びあがるんだ。そこからはじめよう」 「あなたにはおわかりにならないんですか。この翼です。これが動かせ ないんです」 ン 「メイナード。きみは、たったいま、この場で、真の自分に立ちかえる サ , 自由を得たのだ、本来のきみらしく振舞える自由を。なにものもきみを 邪魔だてできはしない。それは〈偉大なカモメ〉の掟、実在する真の掟 かなのだ」 「ばくが飛べるとおっしやるんですね ? 」 「きみは自由だと言っている」 その言葉を聞き終えるとすぐ、素直にしかもすばやく、カークメイ ナードは楽々と翼をひろげた。そして暗い夜空に舞い上っていった。群 れは百五十メートル 上空から、ありったけの声でかん高く叫ぶ彼の声に 112

2. かもめのジョナサン

ついに彼はその速度をたもったまま、いきなり上昇し、長い垂直緩横 オ二羽も彼にならって、微笑みさえうかべながら一緒に横 転にうつつこ。 転した。 ジョナサンは水平飛行にもどった。そしてしばらく黙っていたが、や がて口をひらいた。 ン「大したものだ」と彼は言った。「ところで、あなたがたは ? ナ 「あなたと同じ群れの者だよ、ジョナサン。わたしたちはあなたの兄弟 のなのだ」 その言葉は力強く、落着きがあった。 「わたしたちは、あなたをもっと高いところへ、あなたの本当のふるさ とへ連れて行くためにやってきたのだ。 「ふるさとなどわたしにはない。仲間もいはしない。わたしは追放され たんだ。それにわれわれはいま、〈聖なる山の風〉の最も高いところに 乗って飛んでいるが、わたしにはもうこれ以上数百メートルだってこの

3. かもめのジョナサン

Part Three が連中のためにこんな有難いことをしでかしてくれたんで、連中はびつ くりしてるところさ」 「もちろん、ばくは群れにもどりたいです。新人生グループの授業をは じめたばかりですから」 「よし、 ( いぞ、フレッチャー。おばえているかね、われわれの肉体は 思考そのものであって、それ以外のなにものでもないんだということを。 一緒にそれをわたしたちはよく語りあったじゃないか」 フレッチャーは頭をゆすり、翼をひろげ、両の目を開けた。そこは断 、こ。はじめて彼が身動 崖の根元で、彼の周囲を群れ全体がとりまいてしオ きすると、群衆の中から、騒々しい鳴き声が一斉に湧きおこった。 「彼は生きてる ! 死んだ彼が生きてるぞー」 「翼の先で触ったんだ ! 彼を生き返らせたんだ ! 彼は〈偉大なカモ メ〉の御子だぞー」 だん

4. かもめのジョナサン

Part Three 115 らである。 集ってくるカモメの数は、日毎に多くなっていった。質問をしにくる あざけ のもいたし、憧れて近づいてくるものも、また嘲りにやってくるものも 「群れの連中は、あなたのことを〈偉大なカモメ〉ご自身の御子ではな いかと噂していますよ」ある朝、上級のスビード練習を終えたあと、フ レッチャーがジョナサンに言った。 「もしそうでないとすると、あれは千年も進んだカモメだなんてね」 、こ。県 ( ・されるとい一つのはこ一つい一つことな ジョナサンはため自〔をつしカ一三角 のだ、と、彼は思った。噂というやつは、誰かを悪魔にしちまうか神様 にまつりあげてしまうかのどちらかだ。 「きみはどう思うかね、フレッチ。われわれは時代より千年も進んだカ モメかね ? 」 あこが

5. かもめのジョナサン

「ちがう ! やつ自身がちがうと言ってる ! あれは悪魘だ ! 悪魔な んだ ! 群れを破滅させるためにやってきたんだー」 四千羽のカモメが群れ集っていた。目の前におこった出来事に仰天し、 と叫びあう声が、大洋を吹きあれる暴風のように群衆の中を 駆け抜けていった。彼らは目をぎらぎら光らせ、鋭いくちばしをふりた ンてて、ジョナサンとフレッチャーを殺そうとまわりからつめよってきた。 ナ 「この場を離れたほうが気分がいし と思一つかね、フレッチャー。ど一つ の た ? 」 め ジョナサンがきいた。 「ええ、そうしてもそう悪くはないとは思いますけど : : : 」 たちまちのうちに、彼らはかなり離れたところに立っていた。つめよ ってきた暴徒たちのくちばしは、むなしく空をきってひらめくだけだっ 「なぜなんだろう ? 」ジョナサンは、とまどって呟いた。 124 悪魔だ ,

6. かもめのジョナサン

「 : : : 何千何万というカモメがいるのに、かね。わかってるとも」 サリヴァンは首をふった。 「こういうことだよ、ジョナサン。それはだな、つまりきみがおそらく 百万羽に一羽という、めったにいない鳥だってことさ。ここにいるほと んどの連中は、えらく長い時間をかけてここへやってきたのだよ。一つ ンの世界から、それと大して変りばえのしないもう一つの世界へと徐々に ナ 移ってきたんだ。そして自分らがどこからきたかということもすぐに忘 のれ、これから先どこへ向っていくのかさえ考えすに、ただその時だけの 事を考えて生きてきた。人生には、食うことや、争うことや、権力を奪 いあったりすることなどより、はるかに大事なことがあったんだと、そ うはじめて気づくようになるまでに、カモメたちはどれだけ永い歳月を 経てこなければならなかったことか。きみにはそれがわかるかね ? 何 千年という年月だよ、そう、何万年という年月さ ! そしてさらに、こ の世には完全無欠といえるような至福の状態が存在するのだと知りはじ

7. かもめのジョナサン

説 解 の読者をかちえた、その魔力は何なのか ? それはアメリカをこえて、世界に広が りはじめる傾向なのか ? 大衆の求めるものが、この物語のさし示すものと重なる とすれば、そこには或る怖ろしい予感がよこたわっている。あえて私が不慣れな仕 事に手を出したのは、それをこの手で確かめてみたいという、強い欲求からだった。 大衆的な物語の真の作者は、常に民衆の集団的な無意識であって、作者はその反射 鏡であるか、巫女であるにすぎないとする私の立場が正しければ、この一つの物語 は現在のアメリカの大衆の心の底に確実に頭をもたげつつある確かな潜在的な願望 のあらわれと見なすべきである。いま私の想像力を深いところでしきりにつついて いるのは、この物語が、わが国で果してどのように人々に受け人れられるか、それ ともどのように拒絶されるか、その一点にかかっている。それにしても私たち人間 はなぜこのような〈群れ〉を低く見る物語を愛するのだろうか。私にはそれが一つ の重苦しい謎として自分の心をしめつけてくるのを感ぜすにはいられない。食べる ことは決して軽侮すべきことではない。そのために働くこともである。それはより 高いものへの思想を養う土台なのだし、本当の愛の出発点も異性間のそれを排除し ては考えられないと私は思う。管理社会のメカニズムの中で圧殺されようとしてい る人々が、この物語にひとつの脱出の夢を托するという可能性もわからないではな たく

8. かもめのジョナサン

ふーむ、するとこれが天国というやっか、なるほど、と彼は考え、そ ンれからそんな自分に思わず苦笑した。いきなり駆けあがってきて、はい ナ りこんだとたんに天国をどうこう言ったりするのは、あまり礼儀にかな の ったことではあるまい め , ーしま地上から雲の上へと、光り輝くカモメたちとしつかり編隊を 組んでのばってきたのだが、ふと気がつくと彼自身の体もほかの二羽と 同じよ一つにしだいに軍きはじめていた まさしくそこには、金色の目を光らせながらひたむきに生きていオ あの若きジョナサンの姿があった。もっとも外見はすっかり変ってしま ってはいたけれども。

9. かもめのジョナサン

Part Three 125 「一羽の鳥にむかって、自己は自由で、練習にほんのわすかの時間を費 しさえすれば自分のカでそれを実施できるんだということを納得させる ことが、この世で一番むすかしいなんて。こんなことがどうしてそんな に困難なのだろうか ? 」 フレッチャーは、突然自分が立っている場所の様子が一変したことに 驚いて、まだ目をパチクリさせていオ 「一体あなたは何をなさったのですか ? どうやってばくたちはここへ きたんです ? 」 「きみはあの暴徒たちから逃げ出そうといったんじゃなかったのか 「ええ。でも、どうやってあなたは・ 「ほかのことと全部おんなじさ、フレッチャー。練習だよ」 朝がくるころには、群れは自分たちの狂気じみた行為を忘れてしまっ

10. かもめのジョナサン

Part Three 103 てはよく言ったものである。 「それは目に見える形をとった、きみたちの思考そのものにすぎない。 思考の鎖を断つのだ。そうすれば肉体の鎖も断っことになる : : : 」 たカ、たとえ彼がどんなふうに説明しようと、生徒たちにはその話は 愉决な作り話としかきこえず、彼らは子守唄のかわりに、もっとそうい う話をしてほしいと願うのだった。 群れのところへ帰るべき時がきた、と、ジョナサンが告げたのは、そ れからわすか一カ月後のことだった。 リー・カルヴィンが一一口った。 「まだ無理ですよー」とヘン 「わたしたちは、歓迎されやしませんよ ! 追放されたんですから。歓 迎されないところに無理にゆくなんてできるわけがありません。そうで しょ一つ ? ・」 「われわれは自由なんだ。好きなところへ行き、ありのままの自分でい ていいのさ」