飛ん - みる会図書館


検索対象: かもめのジョナサン
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1. かもめのジョナサン

長い沈黙があった。 「そうですね。こういう飛行法は、それを見つけ出したいと願う鳥なら、 誰でも、いつでもここで学ぶことができるものじゃないんですか。それ は時代とはなんの関係もありませんよ。流行を先取りしてるとはいえる でしようけどね、大多数のカモメたちの飛び方より進んではいますか サ ナ 「そういうことだな」ジョナサンは横転し、しばらく背面滑空をつづけ つぶや のなが、ら・ 1 いた。 「そのほうが、早く生れすぎたなんて言われるより、まだしもだ」 ちょうど一週間目のことだった。フレッチャーは新人生のクラスに、 高速飛行の初歩原理を実際にやってみせて した。二千百メートルからの 急降下から引き起こしを行なった直後、砂浜の上、わずか数センチを長 い灰色の線となって猛烈にすっ飛んでいった。すると、はじめて飛んだ 116

2. かもめのジョナサン

かもめのジョナサン ちかい速さで、羽根一枚うごかさす楽々と滑るように飛んでいた。 若いカモメは一瞬なにがなんだかわからなくなった。 「こいつはどういうことなんだ ? おれは頭がおかしくなったのか ? それともあの世へきちまったのか ? したいこれは何ごとた ? ・ 低い、静かな声が、彼の心にはいりこんできて、返答をせまった。 「フレッチャー、 きみは本当に飛びたいのか ? 」 はい飛びたいですー 「フレッチャー、それほど飛びたいのなら、きみは群れの仲間を許し、 さまざまなことを学んで、いっか仲間のもとに帰り、彼らが本当に飛ぶ ことを知るための手助けをしなくてはならぬ。そうするかね ? 」 フレッチャーはきわめて気位が高く、腹を立てやすい島だったが、 の偉大な飛行の名手に対しては本音を吐かざるをえなかった。 「やります」彼は従順に答えた。 「では、フレッチ」その光り輝く生きものは、彼に深い親しみをこめた

3. かもめのジョナサン

Part One を例の震えるほどのきついカーヴにたもち、ゆっくりと速度をおとして ゆくのだった。おそく、さらにおそく、なおもおそくーーそして彼はふ たたび失速し、海に落ちた。どう見てもこれは正気の沙汰ではない。 ほとんどのカモメは、飛ぶという行為をしごく簡単に考えていて、そ れ以上のことをあえて学ばうなどとは思わないものである。つまり、ど うやって岸から食物のあるところまでたどりつき、さらにまた岸へもど ってくるか、それさえ判れば充分なのだ。すべてのカモメにとって、重 要なのは飛ぶことではなく、食べることだった。だが、この風変りなカ モメ、ジョナサン・リヴィングストンにとって重要なのは、食べること よりも飛ぶことそれ自体だったのだ。その他のどんなことよりも、彼は 飛ぶことが好きだった。 そんなふうな考え方をしていると、仲間たちに妙な目で見られかねな いことは彼も承知していた。なにしろ実の両親でさえも、彼が毎日のよ うにひとりきりで朝から晩まで何百回となく低空滑空をこころみ、実験

4. かもめのジョナサン

を自分の内部に聞いた。どうしようもないことだ。お前は一羽のカモメ にすぎない。 もともとお前にできることには限りがあるのだ。もしもお 前が飛ぶことに関して普通以上のことを学ぶように定められていたとし たら、目をつぶってでも正確に飛べるはずだぞ。それにお前がもっと速 く飛ぶように生れついていたのなら、あのハヤプサみたいな短い翼をも ンち、魚のかわりに鼠かなんか食って生きていたはずだ。お前の親父さん , が正しかったのだ。馬鹿なことは忘れるがいい。群れの仲間のところへ の飛んで帰って、あるがままの自分に満足しなくちゃならん。能力に限り のある哀れなカモメとしての自分にな。 その声は次第に薄れていったが、ジョナサンはその通りだと思った。 夜、カモメにふさわしい場所は岸辺なのだ。いま、この瞬間からおれは まともなカモメになってやるぞ、そう彼は心に誓った。そうすれば誰も かも、もっと幸せになれるんだ。 彼はやっとの思いで暗い水面から身をひき離し、陸地をめざして飛び

5. かもめのジョナサン

老いばれた体を持ちあげることはできんのだよ」 「それができるのだ、ジョナサン。あなたは飛ぶことを学んだじゃない か。この教程は終ったのだ。新しい教程にとりかかる時がきたのだよ」 これまでいつも彼の頭の中には何かが瞬間的にひらめくことがよくあ たが、この時もジョナサンは即座にさとった。彼らの言うことは正し 。自分はもっと高く飛ぶことができる。自分の真のふるさとへ行くべ き時がきたのだ。 彼は最後の長い一瞥を、そこで自分が多くのことを学んだ空と銀色の 壮麗な陸地へ投げかけた。 「よし、行こう」っいに彼は言った。 そして、ジョナサン・リヴィングストンは、星のように輝く二羽のカ モメとともに高く昇ってゆき、やがて暗黒の空のかなたへと消えていっ ヂ」 0 べっ

6. かもめのジョナサン

「この世のどんなことよりも、ばくは飛びたいんです : : ・」 「では、一緒においで」と、ジョナサンは言った。 「地面からわたしと一緒に飛びあがるんだ。そこからはじめよう」 「あなたにはおわかりにならないんですか。この翼です。これが動かせ ないんです」 ン 「メイナード。きみは、たったいま、この場で、真の自分に立ちかえる サ , 自由を得たのだ、本来のきみらしく振舞える自由を。なにものもきみを 邪魔だてできはしない。それは〈偉大なカモメ〉の掟、実在する真の掟 かなのだ」 「ばくが飛べるとおっしやるんですね ? 」 「きみは自由だと言っている」 その言葉を聞き終えるとすぐ、素直にしかもすばやく、カークメイ ナードは楽々と翼をひろげた。そして暗い夜空に舞い上っていった。群 れは百五十メートル 上空から、ありったけの声でかん高く叫ぶ彼の声に 112

7. かもめのジョナサン

地上のことを思い返していることがあるのに気がついた。もしも彼がこ こで知りえたことの十分の一、いや百分の一でも、むこうにいるときに 知っていたとしたなら、あちらの生活はどれほど豊かなものになってい たことだろう ! 彼は砂浜に立ち、物思いにふけりだした。むこうにも、 自分の限界を突破しようと苦闘しているカモメがいるのではなかろうか 飛行を、小舟からでるパンの耳を手にいれるための移動手段としてのみ 考えるのではなく、飛ぶことの本当の意義を知ろうと苦闘しているよう な、そんなカモメがいるのではなかろうか。もしかすると、群れの前で 自分が知った真実を語ったために追放されたカモメだっているのかもし れぬ。 優しさについて学べば学ぶほど、また、愛の意味を知ろうとっとめれ ばっとめるほど、ジョナサンは、一層、地上へ帰りたいという思いに駆 られた。それというのも、ジョナサンは、これまで孤独な生き方をして きたにもかかわらす、生れながらにして教師たるべく運命づけられてい

8. かもめのジョナサン

「そいつはどうかな」と、そばにいたサリヴァンか言った。 「ジョン、きみみたいに学ぶことをおそれないカモメに、わたしは過去 一万年のあいだ出会ったことがないぜ」 皆がしんとなり、ジョナサンは身のおき場がなくてもじもじした。 「お前が望むならば、時間のほうの研究をはじめてもよい」チャンが言 っ一 0 「そうすれば、お前は過去と未来を自由に飛行できるようになる。そし てそこまでゆけば、お前は最も困難で、最も力強く、かっ最もよろこば しい事柄のすべてと取り組む用意ができたといえるだろう。そしてお前 はそのとき、より高く飛びはじめ、また優しさと愛との真の意味を知り はじめる用意ができたことになるのだ」 そして、ひと月が過ぎた、いや、ひと月と感じられただけかもしれな ジョナサンは素晴らしい早さで学んでいった。彼はこれまでいつも 日常の何でもない些細な経験から、いろんな事を素早く学びとってきて

9. かもめのジョナサン

Part One サンは声をあげた。 「無責任ですって ? 」彼は叫んだ 「聞いてください、みなさん ! 生きることの意味や、生活のもっと高 い目的を発見してそれを行う、そのようなカモメこそ最も責任感の強い カモメじゃありませんか ? 千年もの間、われわれは魚の頭を追いかけ 回して暮してきた。しかし、いまやわれわれは生きる目的を持つにいた ったのです。学ぶこと、発見すること、そして自由になることがそれ ばくに一回だけチャンスをください。ばくの発見したことを皆さ んの前に披露する、その機会を一度だけあたえて欲しいのです」 カモメの群れは石のように沈黙したままだった。 きすな 「同胞の絆は切れた」 つぶや カモメたちは互いに呟きあった。そして一斉にもったいぶったしぐさ で耳をふさぐと、彼に背をむけた。 」 0

10. かもめのジョナサン

ジョナサンは、その日からすっと、残された生涯をひとりで過ごすこ ととなった。だが、彼は流刑の場所、〈遙かなる崖〉にとどまらすに、 さらにすっと遠くまで飛んでいった。 , 彼のただひとつの悲しみは、孤独 ではなく、輝かしい飛行への道が目前にひろがっているのに、そのこと ンを仲間たちが信じようとしなかったことだった。彼らが目をつぶったま ナ ま、それを見ようとしなかったことだった。 の しかし彼はそのような日々の間に、つぎつぎと新しいことを学んでい め った。彼は流線型の高速降下によって、海面の三メートルも下を群遊す るめずらしい魚を発見できることを知った。もはや、生き残るために漁 船や腐りかけたパンくすは必要ではなかった。 沖合へ吹く風を利用する夜間飛行のコースを定めて、日没から日の出 までに百六十キロの旅を行いながら空中で眠ることも、彼は習得した。 それは単に肉体的な技術ではなく、彼自身の精神力をコントロールする