らだ。ファンドマネージャーは損失にたいへん敏感である。人々が後ろ をついてくることを信じながら、 1 人で先を走るわけである。人々がつ いていくには、それなりの論理が必要である。ファンドマネージャーが いち早く需給のゆがみを見つけて、先行して投資する。それを見て気が ついた人々が追いかけるというのが、相場の図式である。需給のゆがみ が大きければ、その相場は長続きするだろうし、影響が思ったより小さ ければ、人々は去っていくことだろう。 したがって、ファンドも需給は無視できない。しかし、どうもそうで はないような価格の動きもある。それは、比較的短期間に発生する。 れは、ファンドの資金には選択肢が多くあるために発生する現象であろ う。商品がだめなら米国株式、それがもうこれ以上は上がらないと思え ばユーロの債権、金利が下がれば金の E T F (Exchange Traded Fund : 上場商品有価証券 ) と、あっちがだめならこちらと次々と異なる運用対 象に大金をシフトする。そのたびに、商品の価格は上がったり下がった りする。これは、その商品の需給によって生じる動きではない。資金が 投資対象間を移動することによる価格変動である。こうして、商品先物 価格を予測するために、株式や債券市場のことも知らねばならなくなっ ている。 110
【事故発生の第一報から相場の上昇局面まで】 まず、この情報を新聞に報道される前に知った人たちがいる。この段 階で市場で買った人々を、第 1 陣と呼ぶ。多くの場合、この第 1 陣の人々 は、商社や投資顧問など鉱山情報に一番近い人たちである。彼らは新聞 に出る前に、人づてにこの情報を聞く。 【第 1 の天井の形成】 やがて、事故の情報は新聞などで報道され、商品先物取引を行うすべ てのプレーヤーにこの情報がいき渡る。 この時点で、第 1 陣のプロ集団が売りに出る。第 1 陣の人たちは、情報 の効力によって価格が値上がるのを待って、とりあえず利食いするだろ う。多くのプロの投資家には、長期に資金を寝かせるだけの余裕と権限 はない。 売った相手は、新聞を見たり、商品先物会社の営業マン等からその情 報を聞いた第 2 陣の人々である。この第 1 陣の利食い売りと、第 2 陣の新 規買いが「 1 度目の天井」を形成する。第 2 陣の人々は、価格が少し上が ったと思うや、すぐに価格が下がり始めたのを見て、この情報はそれほ ど大きなインパクトがないのではないかと、とまどっている。 ②第 2 ・第 3 の天井形成過程 【第 2 波の買い圧力】 情報の価値が強力で、長続きできるほど生命力があれば、利食い売り によって価格が下がってからでも新しい購入の波がくる。このときはそ うであった。プラチナの鉱山からの供給が、半年ほど止まることが予想 された。一方の需要は、宝飾品向けが少し落ち込んではいたが、自動車 向け触媒等の需要が中国を中心に旺盛であった。そのため、その情報を 魅力に感じて新たに買いに来る第 3 陣の人々が、価格を上昇トレンドに 乗せる。 再び価格が上昇軌道に乗ったことを見て、第 1 陣で利食い売りしたプ 80
項 公正な価格の形成・ 5 章 価格をコントロール しようとした人々 市場の歴史をひも解くと、価格をコントロールしようとした人たちが 1 生産者価格 数多く現れる。 189 者にとって Producer price は絶対であり、選択の余地はなかった。どこ があって当然であるという価格設定である。当時は、アルミ地金の消費 の投資や、商品開発費用を賄う必要があるのだから、これくらいの利潤 て自社の価格としてきた。大手メーカーにいわせれば、安定供給のため 種のカルテルのようなもので、他の大手メーカーも、この価格に追随し これは、メーカーにとってはこの上ない、理想の販売形態である。 を基礎に決めた価格によって販売されていた。 運賃などの経費と適正利潤と呼ばれる利益を足した、コストプラス利潤 当時は、生産者が原料を買付け、電気代等の副資材を使い、人件費や 引されていた。 らが販売するアルミ地金は、この Producer Price を中心とした価格で取 1970 年代、彼らは生産者価格 ( 建値 : たてね ) を毎月発表していた。彼 ダの ALCAN 社や、その子会社の日本軽金属が大手製錬メーカーである。 1 つの例として、アルミ地金の場合をあげる。アルミ地金では、カナ ないのが、これもまた経済活動である。 れは経済活動として当然の行為だが、生産者の希望通りの価格では売れ 生産者 ( メーカー ) は、自己の製品価格をコントロールしたがる。
所を作ることを許可したのだ。 「大阪堂島米会所物語」島実蔵時事通信社 2 イチバという市場 市場は、古代ギリシア時代のアテネではアゴラと呼ばれ、ローマ時代 にはフォーラムといった。これらは一種の流通センターであり、「イチ バ」と呼ばれる類である。日本の中世には、市場は「市庭」と書いたそ うである。それは、神聖な神々が宿る場所であり、物々交換の場であっ た。主に神社や寺院の境内が使われたそうである。 香港駐在員時代、中国の山奥に出張したことがある。福建省の福州か ら 9 時間汽車に乗り、そこから自動車で 6 時間ほど、舗装されてない道路 を土ぼこりを上げて走った。道中は閑散として人影少なく、水牛やアヒ ルが飛び出すような片田舎であった。後部座席はよく揺れ弾んで、しっ かり革ひもにつかまっていないと、天井に頭をぶつけてしまう。 突然、周囲に人間が現れ始めた。その出現は唐突で、いったいどこか らふって沸いたかと思うほどの人並みが、瞬く間に車の前方に現れた。 すると、いつの間にか人々は車を取り囲み、その中をクラクションを鳴 らしながら、精一杯徐行して走る車窓に、人々の身体がごっごっと当た る。ついに立ち往生した車から身を乗り出して、何が起こったのかと見 渡すと、それは「イチバ」であった。 おそらく、物々交換をしているのだろう。人々は、道路に広げられた 商品を指さしながら、手にぶら下げている商品と比べて、何やら口論し ている。煙たなびく屋台からは、毛をむしった鶏が吊り下がり、得体の 知れない液体を売る前歯の抜けたおばあちゃんがいる。おそらく、っ した交易会は月に一度、あるいは数ヶ月に一度開かれるのだろう。それ は一種のお祭りになるのだろう。日頃はのどかな日々を送っている人々 は、このときとばかりめかし込んで市に現れる。 174
しまい、塩漬けの態度を選択するか、資金が続かず泣く泣く損切ること になる。空売りしていた人々は、相場が天井に向かう間は冷や汗もので あったが、下がり始めてからは余裕で買い閉じてくる。 【第 3 の天井形成過程】 しかし、情報がさらに強化されたり、その銘柄にいまだに魅力が残っ ている場合は、ある程度下がったところで再び買い気が出てくる。鉱山 会社の炉修は思ったほど簡単ではなく、復旧までに 6 ヶ月かかるという 噂が流れる。一方、需要は好調である。 いままでの価格の動きをじっと見つめて、参加しなかった第 4 陣の 人々が出動する。「この情報は本当に強い」と判断したのだ。これまで 何もせすに指をくわえて眺めていた人や、第 1 陣と同時に買ったけれど も、少し上がったところで利食いをしてしまい、その後の上昇相場に参 加できなかった人が含まれる。 自分が売買した価格はよく覚えているもので、以前利食い売りをした ことがあると、そのとき売った売値まで相場が下がると、今度は絶好の 買い場と思えて再挑戦する。第 2 陣で、高値で買って下がってしまい、 損を出して売った人も、相場がその売値に再び近づくと、前の損失を取 り返そうと買い出動する。 価格が下落したこの局面では、新手の第 4 陣と、何度目かの挑戦の 人々が買い、長く持ちすぎて評価損を出した第 2 陣、第 3 陣の人々が売り に回る。こうして第 4 陣が買った後に、第 5 陣の素人集団が買い始める。 玄人の第 4 陣は売り逃げて、第 5 陣の素人は今度こそ逃げ遅れて塩漬けに なる。この後、価格が回復するまで半年かかっている。第 5 陣の素人の 参加は、最初の第 1 陣のプロの参加から遅れること実に 3 ヶ月である。 ③以上の取引の結果 これまでの経緯では、第 1 陣のプロ集団は 1 回利食いをして、さらに第 3 陣に参加し、うまく逃げるか損切りで対処して、再度、第 4 陣で参加し 82
商品先物取引はなぜ必要か・ 4 章 商品先物取引はなぜ必要か このようにして生まれた商品先物取引には、社会的意義が 3 つある。 1936 年、米国で最初に作られた商品先物取引に関する法律に、明確に 書かれている。その内容は以下の通りである。 「商品取引所で売買され、商品の将来の受渡しを内容とする取引で、 『先物』として知られている取引は、国民全体の利益に影響を及ばすも のである。先物取引は通常、一般の人々及び州を越えて交わされる商業 としての商品、生産物、その副産物の売買に関与する人々によって、大 量取引の形で行われている。これらの取引において成立する価格は、米 国国内及び諸外国にも発信されていく。そうした価格情報は商品、生産 物、副産物の生産者価格や消費者価格の決定過程において指標となり、 また商業の円滑な推進に資するなどの効果がある。先物取引は州を越え て商業に従事する運送業者、イ中買業者、製粉業者そして商品、生産物、 副産物の売買に従事するその他の人々が、価格変動に基づき生じ得る損 失をへッジする目的で利用している」 この米国最初の先物に関する法律では、商品先物取引の社会的存在意 義として、要約すると次の 2 つをあげている。 ①公正な価格の形成機能 ②リスクへッジ機能 そして、この条文にはないが、もう 1 つの重要な側面も持っている。 有効活用すれば、後で述べるような在庫機能、金融機能等がある。 商品先物取引の主な社会的存在意義は以上であるが、さらに、これを ③資金運用手段 185
く◆まえがき や業務の担当者が、商品先物取引の社会的意義や、商品先物取引での勝 ち方について、十分な知識・認識を持っことがどうしても必要だと思う。 本書が、そうした人々のための教科書となれば幸いである。 最近、私の周りで、定年退職をして自宅で悠々自適の生活を送ってい る人などが、インターネットを使ってデイトレードを始めている。高齢 で働く場のない人々が、小遣い銭を稼ぐにはもってこいの作業場である。 損切りさえうまくしていれば、大きな損失を抱えることはほとんどあり えない。商品先物取引は、これまでのイメージのような恐ろしいもので は決してない。そして、相場を読むことは、楽しい頭の体操でもある。 この本を読んで、少額で、インターネットを通じて、商品先物に投資し ていただきたい。そういう人々が必ずや多くなることを信じて、本書を 世に送る。 この本は、 2004 年 3 月に発刊した旧版を元に、全面的に書き換えたも のである。旧版をたくさんの方々に買っていただいたおかげで、この度 「最新版」として再び世に出す運びとなった。 旧版の発行後、著者はフィスココモディティーという会社を設立して、 商品先物取引の価格について分析し、予測してレポートを書く仕事を行 っている。また、毎月何度も商品先物価格に関するセミナーを開催して いる。その都度、数十ページにわたるレジメを作成しており、様々な事 象と商品価格の関係をその中に織り込んでいる。 この 3 年間に、商品先物価格に関する新たな発見がたくさんあった。 また、商品取引所法の改正もあった。そうした最新事情を、この本の中 に追記してご披露したい。 前の本より、さらに充実した内容になっていることを確信している。 2007 年 1 月 近藤雅世 7
企業にもたらすから、企業にとっても文句はない。 「マーケットの魔術師」「新マーケットの魔術師」ジャック・ D ・シュワッガー / 清水昭男訳バンローリング それでは、彼らディーラーには一般投資家と異なるやり方やルールがあ るかというと、全くそんなことはない。彼らは、四六時中モニター画面と にらめっこをして情報を瞬時に読みこなし、適切な予測を立て、売買回数 や売買枚数が一般投資家より多い取引を繰り返すだけのことである。 一般投資家でも、後述するような簡単なノウハウを身につければ、 攫千金も夢ではない。事実、日本の商品先物取引でも、ごく一部の人た ちはいまでも一夜にして成り金になっている。株で大儲けした人々同様、 彼らはそのことをあまり他人にいわないだけである。 5 ゼロサムゲーム ごく一般論であるが、商品先物取引はゼロサムゲームである。正確な データがあるわけではないが、商品先物取引を行う人のおよそ 8 割は損 失を出して退場する。早い人は数回の取引で大損して、「二度と先物な ぞやるものか」というだろう。しかし、この裏には、密かに微笑んでい る約 2 割の人々がいる。ただ、彼らにとっても、永久に勝ち続けること は至難の技である。そのため、 2 割の勝者も、さらに取引を繰り返すと その 2 割しか残らない。賢い人はその辺りで方向転換をして、出金して 別の世界に転進する。先物取引に取りつかれ、さらに続けてやれば、勝 ち残る人々はどんどん少なくなる。しかしそれでも、宝くじに当たるチ ャンスが約 250 万分の 1 であることを考えれば、商品先物取引でひと財産 作るほうがはるかに簡単ではなかろうか。ましてや、競馬やパチンコ、 その他のギャンプルよりは、商品先物のほうがずっと勝ちやすい。商品 先物取引で勝っ確率は 2 分の 1 なのだから。 1 回の取引で勝っ確率は、常 に、 2 分の 1 マイナス売買手数料である。 26
商品先物取引の勝ち方・ 2 章 て利益を上げているだろう。一方、第 2 陣で買った大衆投資家は、高値 で買った後、すぐに値下がっている。それを持ちこたえれば、その後約 1 ヶ月で回復し、第 2 の天井をつけたところで売り逃げることができたで あろう。第 2 陣のプロの場合は損切りがあるので、少し下がった時点で 手仕舞いしている。 第 2 陣から第 3 陣の間で買っていた人は、価格が天井を打って下がって きても、利益が出ている期間が相当長かったので、欲を出さなければ儲 けただろう。第 3 陣の、プロの再登場と乗り遅れた人たちの買いは、う まく天井を取れたかどうかによる。かなり高い値位置からの買いで、そ の後 2 週間で下がってしまい、後は 1 ヶ月待ってようやく元に戻る程度で ある。だから、買い値が高い場合、プロも再度損切りを余儀なくされた と思われる。満を持していた第 4 陣は、きれいな上昇曲線を取ったこと であろう。 かわいそうなのは、これらの動きをかなり遅い時点で教えられて、最 後に参加してきた第 5 陣の人々である。おそらく儲かった人は 1 人もいな いであろう。毎日祈るような気持ちで「上がれ、上がれ」と声援を送り、 掛け声むなしく下落する価格に落胆したことだろう。彼らが参加したと きには、ひと相場終わっていたのだから。 なお、プロの投資顧問の場合、買いを手仕舞うと同時に売りを建てる、 いわゆる途転 ( どてん ) することが多いので、値下がり相場も取ってい る可能性が高い。 以上の取引で一番儲けているのは、最初に買った第 1 陣の人々である。 少々込み入った解説であったが、市場の内部ではこのような人々の思 惑がぶつかりあって価格を形成していることを実感していただければあ りがたい。そして、相場のチャートを見るとき、相場に参加している人 たちが、いまどのような心理状況にあるかに想いをはせていただければ、 相場がより楽しくなるだろう。 83
商品先物取引の勝ち方・ 2 = ロの投資家たちが、再度買い出動してくる。そうすると、売り手が少な く買い手が多い状況が現出される。この中には、第 2 陣で損切りし、再 挑戦してきた人々も含まれる。これらの人すべてが、第 3 陣を形成する。 逆に、第 2 陣で買ったが下がってしまい損をした人の中には、また今 度も下がるだろうと見て売り向かってくる人もいるかもしれない。彼ら は空売りであり、新規の売り手となる。 【情報効力の一時終息時】 やがて 1 ヶ月経ち、 2 月に入った。鉱山会社での対策がちらほらと聞こ えてくる。鉱山会社は、生産設備の故障をそのまま放っておくわけでは ない。日夜修理に励んでいる。そして、供給がタイトになるという情報 の生命力が、次第に袞え始める。 第 3 陣で再度上げ相場に乗った人々は、早めにプロフィットティクを 考える。価格の第 2 の天井は、第 3 陣が買ってからすぐ形成される。後か ら考えると、この価格が頂点だった。 第 3 陣の一部の人の利食い売りが始まると、これに遅れてはまずいと、 残りの人々が追随売りを始める。今回の下げは、参加者が多い分だけ急 激である。何しろ売り手のほうが買い手より圧倒的に多いのだから。天 井で売り逃げられなかった第 2 陣や第 3 陣の投資家は、買値より下がって 東京白金 , [ 白足 ] → 0 幻 202 、 030430 。。 東京工業品取引所白金価格 ー目の天井 一度目の天井 ' 售′ー又 蝨′三度目の天井 ↑第 3 陣 第 .4 陣 東京白金出来高 00000 0 ( ) れリに 0 0 ) 「 0 0 、《リいお 0 リ《 04 ワ」 00000 ん 0 ム 04 0- れ & 」 04 0 の 9 ) 0 04 0 ん 事故発 / 6 2302 4 / ・ 283 - 2 / 23 51 中 4 船 第 1 陣 第 2 陣 2 ー 07 03 第 5 陣 2003 81