集団を銀河と呼ぶようになりました アンドロメダ銀河までの距離は、どのくらいでしたか ハップルの測定結果は、「約 90 万光年離れている」というものでした 天の川銀河の直径は 10 万光年ほどと考えられていましたので、天の川 銀河の中、ということはありえなくなったのです。 現在では、アンドロメダ銀河までの距離は、約 250 万光年と測定さ れています。距離の値こそ異なったものになっていますが、そのこと は、ハップルの偉大さにいささかも影響しません。なぜなら、私たち の天の川銀河だけが唯一特別なものではなく、宇宙において 1 つの銀 河にすぎないことを証明したからです。 約 400 年前に確立した地動説は、それまでの宇宙観を 180 度 変えましたが、ハップルの発見も地動説の確立に匹敵する宇宙観の変 化をもたらしました。地球は宇宙の中心ではなく、太陽も宇宙の中心 ではなく、さらに天の川銀河もまた宇宙の中心ではなかったのです。 ハップル宇宙望遠鏡がとらえたアンドロメダ銀河 (NASA)
第 1 章宇宙はどのように始まったのか ? 。◎人類の宇宙観を大きく変えた◎ アンドロメダ銀河◎ 宇宙からの光を逆にたどる旅 ( 3 ) 20 世紀の初めまでに、世界中の天文学者は大きな望遠鏡でいくつも の渦巻き状の星雲を発見していました。しかし、もやっとした雲のよ うな星雲の正体はナゾで、それが私たちの天の川銀河、つまり銀河系 の中にある天体なのか、それとも私たちの銀河系以外の天体なのか、 天文学界では大論争が巻き起こっていました。 この宇宙には私たちの天の川銀河だけが存在するのか、それともほ かに同じような銀河がたくさん存在するのか、という大きな問題だっ たのです。 この論争に決着をつけたのは、アメリカの天文学者工ドウイン・ハ ップルでした。ハップルは、カリフォルニアのウイルソン山天文台の、 当時としては最大クラスの望遠鏡をアンドロメダ星雲に向けました そして星雲内の特別な性質を持っ星 ( 変光星 ) をくわしく調べ、それ によって、地球からの距離を求めました。ある種類の変光星には、ゆ っくりと変光するものほど本当の明るさが明るいという、性質があり ます。そこで、変光の周期と見かけの明るさを比較することで、距離 を求めたのでした。 その結果、天の川銀河の差し渡しの距離より、アンドロメダ星雲ま での距離のほうが大きいことがわかったのです。 1922 年から 1923 年に かけてのことです。これは、アンドロメダ星雲が天の川銀河の外にあ ることの証拠です。天の川銀河は宇宙の唯一無二の存在ではなく、同 じような星の集団が、他にもあったのです。そこで、このような星の 3 16
第 3 章宇宙の運命はどうなるのか ? 0 。それは大惨事か、天体シ一か ' ン 天の川銀河とアンドロメダ銀河が衝突 ! 暗黒エネルギーによって宇宙の膨張が加速し、銀河も星も引き裂か れ、やがて宇宙は空つばになってしまうという予言「ビッグ・リップ」。 それが本当かどうかは、「 SuMIRe 」計画などの宇宙観測の実験、あ るいは第 2 のアインシュタインが登場し、暗黒エネルギーを説き明か す理論を作り上げたときに分かるのかもしれません。 しかしその前に、私たちが住む天の川銀河で、一大イベントが繰り 広げられるでしよう。それはお隣のアンドロメダ銀河との衝突です。 私たちの天の川銀河とアンドロメダ銀河は、不少速 120 キロメー トルの速度で近づいていることが分かっています。銀河 と銀河は宇宙の膨張にともなって遠ざかっているのですが、アンドロ メダ銀河と天の川銀河は比較的近い距離にあるので、宇宙の膨張より 重力で引き合う力が効いて、接近しているのです。数十億年後に衝突 するという計算もあります。 衝突すれば大惨事ですか。 そうはならないはずです。その理由は、銀河は星がぎっしりと詰ま っているようで、案タトスカスカだからです。たとえば太陽の直 径は約 140 万キロメートル、光で 5 秒弱ほどの距離です。この太陽にい ちばん近い恒星までの距離は 4.4 光年。仮に 5 光年とすると、その距離 は 47 兆 3000 億キロ。直径の 300 万倍のところに、やっとお隣の星があ ることになります。恒星を直径 10 センチのリンゴとすると、お隣まで 126
ひとつひとつの星はとても暗く こまで離れると、肉眼では、 ます。 中心部は無数の星が密集してい て数えることはできません。しかし、 るので白く雲のように輝いています。 これが天の川ですね。そこで、 天の川の全体の明るさを測り、星 1 個の明るさを推定して割り出すの です。 いまこの瞬間、天の川銀河の中心から地球をながめたら ? 2 万 5 千年前の地球が見えることになります。地球は氷河期で、べー リング海峡は凍り、ユーラシア大陸とアメリカ大陸は地続きになって いて、人類がアメリカ大陸へと渡っていく様子が見えるでしよう。 では、さらに遠方、約 250 万光年離れた宇宙へと足を伸ばしてみま しよう。そこに見えるのは、私たちの天の川銀河のお隣り、アンドロ メダ銀河です。じつはこのアンドロメダ銀河の正体が 20 世紀前半に明 らかになったことで、人類の宇宙観が大きく変わることになりました。 0 フ。しアデ、ス星 15
第 2 章宇宙は何でできているのか ? 4 ・。天の川銀河の中心に 2 巨大ブラックホールが存在する その役割は銀河のリサイクルマシン ? シルバーマン先生は、 13 年間もプラックホールの研究を続けている そうですね。どこにおもしろさがあるのですか。 銀河の中には、中心に激しく成長するプラックホールを抱えている ものがあります。その中心部が活動銀河中心核 (AGN) です。 私たちの天の川銀河を例に、どうなっているか説明します。天の川 銀河は、大きく円盤部分と、中心部分の星がたくさん集まったバルジ 部分からなっています。円盤部分は、比較的最近、ガスが降ってきて 回転するうちに星が生まれ、このような形になりました。いつばうバ ルジは、かなり昔に小さな銀河が合体してできた、古い星の集まりで す。バルジの中へ入っていくにつれ、星の数は増えていき、中心部に は直径 2000 光年の円盤状のガス雲があります。これが中心核円盤です。 そのさらに真ん中に入っていくと、巨大ブラックホールがいます。私 の研究テーマの一つは、この超巨大ブラックホールが銀河の成長にど のような役割を果たしているかを調べることです。 プラックホールのまわりには半径 1 光年ほどの降着円盤と呼ばれ るガスの円盤があって、プラックホールに吸い寄せられた星がちぎれ てガス状になり、降着円盤に沿って られています。 さらに銀河中心の巨大ブラックホールは、銀河の中心の回転軸にそ って、上下方向に物質が光速に近いスヒ。ードで噴出していると考えら れています。これがジェットと呼ばれるものです。 ブラックホールに食べ 88
第 1 章宇宙はどのように始まったのか ? 。◎プアデス星団から見た日本は◎ 戦国時代 宇宙からの光を逆にたどる旅② では旅を続け、太陽系の外へ出かけていきましよう。地球にいち ばん近い恒星へは光で 4.3 年になります。恒星が集団化しているのが、 星団です。よく知られる星団には、冬の夜空に見える「すばる」、ま たの名をプレアデス星団があります。肉眼でも条件がよければ、 4 、 5 個の星を見ることができますが、双眼鏡でのぞくと、宝石箱をひっく り返したような美しい星々が見えますので、ぜひ一度ごらんになって ください。プレアデス星団は、実際には数百個から 1 千個くらいの星 からなり、 440 光年の距離にあります。つまり、今、地球に届く光は 440 年前のものなのです。ですから仮に、プレアデス星団に高度に発 達した文明を持つ宇宙人がいたとして、いまこの瞬間、超々高 性能望遠鏡で地球上をながめたとすると、地球は大航海時代の真っ ただ中です。日本に望遠鏡を向ければ戦国時代、織田イ言長が天下 を取るべく数々の戦いを勝ち進むようすを見ることができるはずです。 440 光年の距離に隔てられているプレアデス星団から見る地球も、私 たちが見るプレアデス星団も、過去の姿なのです。 星や星団の集まりが銀河です。私たちの天の川銀河には、だいたい 2 千億個の星が集まっています。 4 2 千億個 ! いったい、どうやって数えたのですか。 地球から天の川銀河の中心までは距離にして約 2 万 5 千光年ほどあり 14
写真は、ハップル宇宙望遠鏡がとらえたプラックホールを抱えた銀 河です。写真左の、上下に伸びているのがジェットで、銀河の半径の 5 倍くらい 20 ~ 30 万光年のあたりまで吹き出しています。 巨大ブラックホールが銀河の成長に果たす役割はまだよくわかりま せんが、ジェットで物質を遠くへ吹き飛ばしたり、まわりの星を飲み 込んだりしながら、銀河とその周りの物質を循環させたり、リサイク ルする役割をになっているとも考えられます。 天の川銀河が、中心の巨大ブラックホールに食べ尽くされる心配は ありませんか ? 過去には、たしかに星を食べて成長したフェーズもあったようです が、いまはたまたま、プラックホールのまわりに星が少ないようで、 ブラックホールの食事は休止状態です。 ハップル宇宙望遠鏡がとらえた活動銀河中心核をもつ銀河 左の写真の上下に伸びるのがジェット。中心部を拡大した写真には、降着円盤が写っている。 ( 写真 NASA) Core of GaIaxy NGC 42 HubbIe Space TeIesc 叩 e Wide Field / PIane tary Camera HST 可 a Gas and Dust Disk ・ Based Optica レ RadiO lmage 4 380 A 「 0 S0051d & 88000 しイ EARS Arc Seconds 400 LIGHTYEARS 89
第 2 章宇宙は何でできているのか ? 正体不明の存在であることの証明 ! ? 4 暗黒物質の存在に気づいた天文学者たち 宇宙は正体不明の物質で満たされているそうですが、正体不明とは、 一体どういうことですか ? 正体不明、とはどういうことなのか。いい質問だと思います。確かに 「正体不明のものが存在すると分かっている」とは、奇妙な言い方です。 正体不明の物質。それは「暗黒物質」、「ダークマター」、あるいは「ミ ッシングマス」と呼ばれる存在です。 最初にこのミステリアスな物質らしき存在を指摘したのは、 1930 年 代の天文学者たちでした。オランダの天文学者オールトは、いくっか の星の運動を調べていて「私たちの銀河周辺には、 もない量の譬勿質が存在するのではないか」と考えました。また、 ある銀河の集団を観測していたスイスの天文学者ッビッキーも、「銀 河団にある銀河周辺には、それら全てを足し合わせたより多くの物質 が存在するのでは・・・」と考えました。 なにか途方 暗黒物質を直接望遠鏡で観測できたわけではないのですね。 だから「と考えた」わけです。 はい その後暗黒物質が大きな関心事となるのは、 1970 年以降のことです。 私たちの天の川銀河以外の多くの銀河をより詳しく観測できるように 「やつばり変だ ! 」 なり、その観測結果から とわかったので す。そのことを最初に計算によって明らかにしたのは、プリンストン 大学の 2 人の研究者です。その計算結果から、光り輝いている銀河本 3 58
したが、やはり先見の明があります。 発表したいという気持ちが勝ったんでしよう。研究者であれば、 ます。間違っていたらどうしようと思ったかもしれませんが、早く というものすごく強い気持ちをもってい 自分の居場所を求めたい、 科学者は、人間が歩み続けてきた科学史や探検史の中にしつかりと 説と同じくらいの大発見」といわれるくらいですから。 行動したのでしよう。「膨張する宇宙の発見は、コペルニクスの地動 発見につながるデータだと思った瞬間、一刻も早く発表しなければと これは推測ですが、当時の常識「静止する宇宙」をひっくり返す大 間違っていたらどうしよう、などと思わなかったのでしようか。 この気持ちは理解できます。 0 ハップルの法則の発見 0 8 0 107 (Hubble, E. P. ( 1929 ) P 「 oc. Natl. Acad. Sci. USA, 15 , 168 ー 173 ) い銀河ほど速い速度で遠ざかっている」と大胆に結論づけた。実線、破線は補正の違う観測結果。 縦軸が遠ざかるスピード、横軸が天の川銀河までの距離。数々の銀河を観測しグラフ上に示したハップルは、「遠
索引リスト [A] AGN 88 [C] COBE 32 , 33 , 54 , 50 , 177 CP 対象性の破れ 46 , 142 [L] LHC 138 , 163 [E] E=mc2 43 [ D] D ブレイン 168 X 線衛星 122 [X] XMASS 68 , 70 , 123 , 187 [W] WMAP 50 , 79 , 177 [V] V838 70 [T] TAMA300 75 [S] SuMlRe 116 , 120 , 121 , 126 196 暗黒時代 18 19 , 74 , 83 , 84 , 85 , 182 116 117 , 120 , 126 , 175 , 182 , 183 77 , 78 84 95 96 , 97 98 , 99 , 112 , 114 , 115 , 暗黒エネ丿レギー 53 , 62 , 65 , 64 , 76 , 88 , 126 天の川銀河 14 , 15 , 16 , 17 , 21 , 28 , 58 , 145 , 148 アップクオーク 140 , 141 , 142 , 144 , 114 115 , 116 , 117 119 , 126 , 160 , 186 , 187 42 43 , 100 , 101 102 , 103 , 104 , 110 , 113 , [ あ ] アインシュタイン 21 , 22 , 23 , 24 , 36 , 暗黒物質 18 , 35 , 45 , 55 , 58 , 60 , 61 , 62 , 64 66 , 68 , 70 , 74 , 76 , 77 , 78 , 79 , 83 84 , 99 , 100 , 116 , 117 , 118 , 120 , 121 , 122 , 124 , 127 175 , 176 , 182 , 184 , 189 アンドロメダ銀河 15 16 , 17 , 18 , 21 , 23 126 異次元世界 164 I A 型超新星 108 一般相対性理論 21 , 22 , 24 , 36 , 100 , 105 , 104 , 110 , 113 , 114 , 119 , 152 , 153 160 , 166 , 186 , 187 インフレーション 38 , 40 , 41 42 44 , 45 , 52 , 78 110 , 111 112 , 115 , 176 177 , 178 , 182 ウイ丿レソン ( ロバート・ウイルソン ) 28 , 29 , 31 32 ヴェネチアノ ( ガブリエル・ヴェネチアノ ) 166 宇宙工頁 22 , 104 , 105 , 110 , 113 , 114 , 115 宇宙土也図 60 , 61 , 62 , 68 , 70 , 120 宇宙の大規模構造 18 , 54 , 35 , 50 , 60 , 80 , 116 宇宙の晴れ上がり 53 , 74 , 79 , 82 宇宙の万里の長城 60 , 62 , 70 宇宙マイクロ波背景放射 32 , 54 , 40 , 50 , 51 71 74 , 76 78 79 80 , 82 , 177 ウロポロスの蛇 34 , 35 工ディントン ( アーサー・エディントン ) 103 オイラー ( レオンハルト・オイラー ) 166 オールト雲 13