「温泉入ってあったまろうな、薫 ? 「そんなに先はいや」 薫はそう言うと、背伸びをして邦一の唇に自分の唇を合わせた。それだけで、薫は甘 い吐息を漏らすのだ。 「おまえは好きもんの嫁さんだ。そこがええ」 邦一はもはや熱情を抑えきれなくなり、ネクタイを乱暴にはずし、ワイシャツの胸を 愛あけて薫を強く抱きすくめた。そのままワンピースの下からタイツを引きずりおろすと、 の 薫を窓の枠に座らせ、足を開かせ中に押し入った。 雪 白 薫がまた大きな声をあげそうになり、邦一はその手で口元をおさえた。 章 邦一がどれだけ続けても、薫が苦しそうにすることは一度もなかった。薫という、大 おば こた 第きな泉はいつも際限なく彼を溺れさせようとした。邦一はそれに応えるのに必死だった。 そして終わると、薫はまたあどけない二十歳の顔をして、自分の横で小さな息で眠る のだった。 だが今日はまだ眠るわけにもいかない。 頬を上気させた薫に、もう一度タイツをはかせると、邦一は並んで散歩に出た。温泉 の中庭を、手をつないでぶらぶらと並んで歩いた。 「薫、俺な、一度だけ別の女とこの温泉に来たことあんだ」
そのまま両手で、薫の細い手首をつかんだ。 おお 邦一の酔った息が薫のロを覆い、首筋に伝わり、薫はもがいた。もがいたが、邦一の 体重の下では、よけることもできないことに気がついた。 邦一の手が薫の部分を乱暴におしあけ、入ってきた。このときになってはじめて怖い たくま と思った。薫のプラウスやスカートはあっという間に引き剥がされて、邦一の逞しいも のが入ってきた。 猫酔っているというのに、邦一の動きは確かで、薫は心では強い反発を抱きながらも、 久しぶりの交わりにからだが反応してしまうのを覚える。歯ぎしりするように唇を固く 結んでいたというのに、抑え切れない吐息が漏れ始めると、邦一の表情が泣いているよ うに和らいだように見えた。そして、邦一は薫のなかでカ尽きた。 海交わりを終えた邦一は、まだからだを放さぬまま、薫の頬を撫でた。叩いたあとの頬 の部分が、赤くあとになっているのだった。 「俺はなんてことをしたんだべな」 薫は黒く煤けた天井を見上げながら、きっとこれが夫婦というものなのだと考えてい 幼い頃、父がいなかった薫には、夫婦というものの雛形がない。踊りの稽古の場など で大人の女たちが話しているのを聞くと、女は殴られたり、浮気されたりするのが当た 138 ひながた
海 「あんたのことは、俺が絶対に見守っているから」 つか 広次が立ち上がって、薫の腕を掴んだ。 「心配でならねんだ」 かす 掠れた声が、薫に響いてきた。 その時だった。薫は意識が遠のき、すっと足下に崩れ落ちるのを感じた。 「どうした ? なあ、どうしたんだ」 猫体が急に軽くなって、左右に揺れている。鼓動が響き、血の気が失せていく中に、薫 なっ は懐かしい温かさを思い出していた。その温もりは、、 しつも寂しかった薫につかの間の 安らぎを与えてくれた。子供の頃、病気で倒れると、タミが仕事を休み、そうして薫を おぶって病院へと運んでくれたのだ。 往診にやって来た鹿部の医師は、薫が妊娠していることを告げた。 三ヶ月目の始まりということだった。 その晩は、家族は酒宴になったが、薫はまた船酔いに逆戻りしたかのように胸が悪く、 同時に山の上で聞いた話が気になってやまなかった。 うれ 夜が更けて布団に入ってからも、酔った邦一は嬉しそうに子供の話をした。 「男でも、女でもええ。薫、大事にしてくれな」 178 ふとん
は、まるで違ったものに感じられた。夫にはいつも、まるで肉の中に分け入られてくる ような息苦しさがあり、それが同時に夬楽にも結びついたが、広次は薫の体をというよ りはむしろ、彼女の心を抱いているかのようだった。まるで真綿にくるむよ、つに優しく、 みつおほ 温かく全身で包み込むように彼女を抱き、それもまた薫を蜜に溺れるように夢中にさせ うな つめ 薫は広次の背に爪をたて、深く唸った。 愛美輝は、そのあえぎ声に驚き、叫ぶように泣き声をあげたが、二人はその営みをやめ 柱なかった。 氷 。いいって言ってくれや」 「気持ちいいか、薫 章「とてもいいわ」 第「大きな声で言ってけれや」 広次は、薫が兄のことを思い出してはいないかふと不安になり、よけいに薫の体に深 く沈んで行く。 「とっても、とっても : ・ 薫がそう言ったまま気を失うように果て、広次は薫の中に果てる。 脱力したまま、二人はなお畳の上で重なりあっており、広次は天を仰いだまま、腕の 中にある薫の汗で濡れた髪を撫でていた。 311
薫は赤いフ 1 ドをかぶり、うなずいた。 美輝は、広次の腕の中でまだよく眠っていた。つんと上を向いた鼻、長い金色のまっ げ、こんな小さな生き物が生まれてくる神秘に、薫はまだ夢心地だった。 広次がタクシ 1 を拾いなだらかな坂を登って着いた場所は、あのとんがり屋根の教会、 ハリストス正教会だ。 「ここ ? 」 愛薫は一瞬足を止めるが、広次は赤ん坊を抱いたまま、少し背を丸め、通い慣れた足取 えしやく の りで中へ入っていく。広次は、入り口の教会員の男性に軽く会釈をすると、薫を中へ招 雪 白、た。そして、片手で薫の赤いフ 1 ドをはずした。 章暗い内部に、木製の椅子が等間隔にひっそり並んでいる。正面の祭壇の前には、黄色 第いろうそくが無数に立っていた。赤いグラスの中にも火があり、赤と黄色の光が内部で 揺れ続けていた。その向こうに 、たくさんのイコンが並ぶ。ろうそくの灯りが、ちりち りといぶっており、薫にはそれぞれが一つずつの生命のように思えた。 薫は、ゆっくりろうそくへ近寄り、内部を歩き、マリア像を見上げた。 広次は、薫に見とれていた。薫のろうのようにすべらかな頬に赤い光が反射して、白 い輪郭を浮かび上がらせている。やはり間違いではなかった。いっか自分が描いたこと のある絵と、まるで同じ薫の横顔だった。この場所にあまりによく似合っているのだ。 211
海 g ほど美しかった。 「あ、俺もうだめだよ」 「だめ、私を放さないで」 「放さないよ。約東する」 ああ、という吐息とともに、広次は薫の中で脱力した。体の下には薫の温もりがあり、 だが女は意識を失っているかのように動かなかった。その額にはりついた髪を、撫でて 猫やった。目をつむった薫の表情は、だがいつにも増して頼りなく孤独に見えた。そう感 じると、広次のものはまたすぐに硬くなり、薫の中へと入っていきたくなった。だが広 次は、薫の手をそっと導くと、ただそれを握らせた。 「あ」 と、声を出して薫が目をあけた。 「広次さん、ありがとう」 薫はなぜかそう言い、眠ってしまった。 広次はその体を抱えたまま、夜を過ごした。大きく重たい扉が、ぎ 1 っと音を立てて 開いてしまったかに感じられた。同時に何か寂しかった。これでついに二人きりになっ てしまったな、と思ったのだ。
ことを思い出していた。中でも海猫の目は海水で洗うとすぐに表面が濁るが、直前まで 放っている光彩は、宝石のようだった。 まぶた 広次はもどかしそうに衣類をはぐと、もう一度全身で薫を抱きすくめた。つぶった瞼 に、金色のまっげが輝いており、そこにも口づけた。 「来て、広次さん、お願い」 薫は震えるような声でそう言い、広次のそそりたつ物に手を添え、自分の中に導いた。 愛互いに、熱く吐息が漏れた。広次はその瞬間、海に溺れていた。呼吸も、手足もばら のばらに、ただ薫の体を探し続けた。海は常に溢れ、広次を救い出すことはなかった。こ 氷 んな性の感覚があったのかと思う。薫は白い首をのけぞらせて、どこか遠くへ行ってし 章 まうようだった。捕まえておきたい一心で、よけいに彼の性器は奥深くまで入って行こ 第 うとする。薫の手が広次の腕に巻き付けられる 「私の首をしめて」 薫は、つわごとのよ、つに一言った。 「もう何もいらない。ここで終わっていいから」 、だが性の高みへと登っていこうとす 広次は大きな手でその首をおさえ、苦しそうに る薫を見た。 それほどに乱れあえいでいても、いや、だからこそ一層薫はなおこの世の者と思えぬ 299 あふ
だがその罪の感覚は同時に、邦一の中の男としての欲望をさらに燃え上がらせもした のである。 大きな手で頭を撫でてやり、その指で涙を拭ってやった。 「なんでもない」 薫は言う。 猫「なんでもなくねえべ。俺には何でもしゃべれ。しゃべらねばだめだ」 薫は首を横に振った。もう涙は乾いていた。 私はもうここの家の一人なのだからという、あのバスで嫁いできた日の誓いのような 気持ちが再び薫を強くした。 海邦一は、泣いていた薫の頬の冷たさと滑らかさに驚いていた。セルロイドの人形のよ うだった。よけいに、火をつけてみたくなる。その体に温かい血を流してみたくなるの ヾ」 0 「俺に何でも任せねばだめだ」 たが邦一の中にも、薫のことがどれだけわかっているのか、問いたい気持ちもあった。 邦一は、薫と出会い、すぐに結婚を決めた。 漁師の家に生まれた長男の人生は決まっている。立派な漁師になるしか道はないのだ。
「風邪引くよ。これ着てください」 アノラックを手渡そうとすると、薫の目にじっと見入っていた邦一に、突然、抱き寄 せられた。 たくま 温かい逞しい体だった。これが男というものなのだと、薫は思った。 吐息が漏れる。 邦一は、薫を雪のたまった床の上に押し倒すと、自分と薫のズボンを下着ごと引き下 すきま 猫ろして強引に押し入ってきた。背中から雪が入ってくる。屋根の隙間から差し込む、冬 の鈍い光が見えていた。 「夫婦なんだから、当たり前だべー 「わかってる」 海薫がまた大声を出しそうになり、邦一はその柔らかく赤みを帯びた唇を、大きな手で 抑えた。 そうだ、当たり前なんだ、と薫は思った。けれど、夫婦になって、男の人に抱かれる す・ヘ というのは、こんなに全てを忘れるほどのものなのだろうか。この先には、何があるの だろ、つ。 「私、怖い」 「怖くなんかねえ。早く子供作ろうや」
猫 いは薫邦奢 っ て く ーー 1 い浴 : 火あ ぶ衣たが のつ 久裾い薫 あ 見 感 の 。幸 の ら し り く ら 、止 は た は 体 の たるね つめ委 ロ のき身 動 0 り つ 柔ゆ福 た て れ強な 、中な た薫ま ぶ割邦 が薫 の柔 い方子て の頃 やし、 。も ん 、だ分薫な匂 薫し、 しを 許あたか れで だと にも っ いか おそ っか カゞの のは か余 は始 そに も計 の甘 は引 う匂 以 0 だ薫 前割 い人 と つば い漂 同 の腰 っそ のな い の腕でて の だを ら の性 かく な も 性わ かの っ首 へし 切な はが な の で 1 ノ て る れ な だ っ て 女 な だ の オよ ず 海 啓 と っ て ら 。は っ 数 ケ 月 を て い っ を あ のがだ っ て と い 思 た ら 薫 は 案 外 す ぐ そ つ 答 そ の 奮 し た 部 分 冷 た 指 握は体 る や自そ 分し も ち や を 取 り 民 し た 力、 よ っ が 華 や ぐ の 感 じ て た 皐男 部 つがは 。俄に のて興な懐弯 れした 、め て の 細 し、 そ な お 小 さ く て 華 な た 自 け の も 324 る ら甘 し、 の 、石カ かでは 力、 よ 0 こ ′つ も に隣き よ 。回そ邦 たそは はた筋 力、 ら し し、 、が ′つ て 顔 を め る