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検索対象: 海猫 下巻
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1. 海猫 下巻

次 第一一章氷柱の愛 ( 承前 ) 囚われ 海の薔薇 第三章流氷の愛ーー昭和五十一一年、札幌ーー 初恋 修羅の樹 赤い星の兵士 愛の欠片 遠い記億 花のジャム 炎 旅鳥 海猫が舞う あ A ) が (J : 目 ーー昭和三十四年、南茅部ーー 解説 小池真理子 : 三八二 : 八九

2. 海猫 下巻

第二章氷柱の愛 ( 承前 ) 昭和三十四年、南茅部

3. 海猫 下巻

第三章流氷の愛 ーー昭和五十一一年、札幌ーー・

4. 海猫 下巻

きねえんだろうな」 啓子は驚いて、邦一を見た。 大体「啓ちゃんーだなんて呼ばれたのは、結婚して以来はじめてのことだった。酒を こんなに明るく飲んだこともない。邦一が酒を飲む晩は、一人で一升瓶を抱えて、納屋 に入ってしまうからだった。彼は酒を必要としていながらも、酒に酔うことをひどく恐 れていたからだ。 愛「邦一さん、酔ってる ? 氷「いいや」 流「じゃあ、どうしたの ? 」 章 「言葉通りさ」 第「うん」 「それに、今日の啓ちゃんはきれいだな」 「じゃあ邦一さん、あたしのこと抱ける ? 「ああ、いいよ」 邦一は、啓子の肩を抱き寄せた。 啓子は上を向いて、自分から唇を重ねた。邦一の肉厚な手を、自分の胸の中に引き寄 つぶや せ小声で呟いてみた。 159 なや

5. 海猫 下巻

「美哉、ああいう軽薄な人たちは嫌い」 「ふざけているだけよ」 いちょ、つ 北十八条からの銀杏並木を過ぎてメインストリートを通り、有名なポプラ並木へと向 かおうとすると、ちょうど立て看板作業をしている男子学生たちが目についた。 〈新寮建設反対 ! 〉〈核廃絶 ! 〉 など、赤いペンキの文字が躍っている。 愛「あら、あなたたち、修介は今日はいないの ? の と声をかけると、男たちは顔を見合わせる。 氷 流 「修介って、高山さんのこと ? 」 章「あ、そうそう、高山修介さんのことです」 第「だったら、今日はずっと寮にいると思いますよ。ォルグしてますから。あ、そちら 美哉の方に手を伸ばす。 「妹です。こんにちは」 美哉も面白がって、手を伸ばし握手をした。立て看学生の手には、赤いペンキがつい ていて、それが美哉の手にもついた。 「あ、悪い悪い」 175

6. 海猫 下巻

それはまるで、野田美輝のようだと思った。 〈溶岩のごとき赤い星の兵士〉、君、そうであってくれ うに受話器を取り上げると、 「シュウスケ ! おそいー と怒ったような声が聞こえてきた。 ( し僕ですが . 愛「美輝よ。あなた、何をしているの ? 」 氷「何をといっても、何か ? 」 流 「サスケくんが大変なの。すぐに来てちょうだい。クラーク会館の前にいます」 章「あ、はい、うかかいます。夕食を食べてからー」 第「え ? 」 「いえ、食べずに。はい」 電話を切って、一瞬ぼうっとした頭を横に振っていると、寮務室の外では、大騒ぎに なっている ( し僕ですが。うかかいます。いえ、食べずにー」 「は、よ : 隠れて見に来ていた後輩たちが連呼しているではないか。 「先輩、いよいよ第三分野へのデビュ 1 、おめでとうございますー 163 えい、と呪文を唱えるよ じゅもん

7. 海猫 下巻

「構わないわよ。ね、サスケ ? 」 美輝がまた立ち止まって大をなで、肩をすくめる。時折風が吹くと、彼女の髪のシャ ンプーの匂いが、高山の鼻先をくすぐった。女っていいもんだな、と思う。男ばかりで 生活しているとどうもいかん。だが、今日は何だか知らぬ間に美輝のペースになってや しないか。いかん、いかん、高山は髪をかきあげると、突然大声で、 〈ただ一度だけだ。それ以上ではない。 愛そしてわれらも一度だけだ。 氷ふたたびはない。 流 しかし一度だけ存在したということ地上に実存したことこれはかけがえのない意 章味のことらしい〉 そら 第 と、記憶の片隅にあった詩を諳んじた。 : リルケだわ」 つぶや と、美輝は小さく呟いた。そして、真似した。 〈花咲け、花咲け、花咲く樹、 夏には実りが豊かだろう。 花咲け、花咲け、花咲く樹、 私は着物を縫っている まね

8. 海猫 下巻

と、運転手はいらぬことを言う。 「まあ、そんなとこで」 「その様子じや一人目だね。気になるもな、急ぐよ、精一杯ね」 邦一は、心音が高鳴っていくのを感じた。本当に今子供が生まれてくるかのようだっ た。産婦人科などという場所に入っていくのもはじめてのことだし、ましてや、今から 自分がすることは、どこかスパイのようではないか。 小さく、また一つため息をつく。 愛 柱すると、後ろを振り向きもせずに運転手が言う。 氷 「大丈夫だって、山本産婦人科って言えば、いい病院だって聞いてつから」 章「あの運転手さん。あんたも子供がいるのつかい ? 」 第「いるよー。うちは一姫二太郎って、ちゃんとがんばってさ、計画通り ! なんてさ」 運転手の話が続きそうなのを、邦一は遮った。 「 : : : んで、生まれたとき、ああ、これが俺の子供なんだって、そういうこと感じるも んかい ? 」 「いや、一般論として聞いてるんだっけ ? ほら、何しろ父親になるのはじめてなもん 幻だっから」

9. 海猫 下巻

今度照れくさくなったのは、美輝のほうである 「だって、捨てられないわ。ずっと一緒に育ったんだもの」 「いいな、ビ 1 ズは」 美哉はそう言うと、ビーズに頬ずりした。 「ずっとお姉と一緒だもの」 すると、なぜか突然美輝も泣き出してしまった。 愛「やだ、美哉」 の 今度は美哉が慌てる。 流 「お姉まで、泣かないで」 章 「泣いてなんかいないわ . 第 だが思えば、美輝も入学してからずっと緊張していたのである。たった一人で受験に 来て、部屋を借り、大学に通い始めた。これまでは女子しかいない学校に通っていたの に、むさくるしい男子学生に囲まれて授業を受けるだけでも最初は戸惑いがあったのだ。 その晩二人は、公衆電話からタミに電話だけ入れた。べッドに入ってもなお、話し続 「チルチルとミチルも元気 ? 」 小さなべッドに、二人でパジャマを着て並んで寝ると、美輝の腕やかしこに美哉の豊 171

10. 海猫 下巻

それに較べて私は、みんなに頼ってばかりではないか。 シャコが茹で上がったよという声がして、階下に降りた。 義兄の修介は、短パンであぐらをかいて、この家で伸び伸びとしている 「熱ーっ、熱つ、おお ! 」 と声を出して、一番にシャコに食いついている。おばあは目を細めて、そんな修介を 見ているのだった。 もう一つ」 愛「、つまい ! 氷そう言いながら、なぜか親指を立てている 流 「さ、美哉も食べよう」 章姉が美哉にエプロンをつけてくれた 第窓を開け放った居間の中央に、茹で上がったばかりのシャコのボウルがばんと置かれ ほぐ た。茹でたては、殻から身がすぐに解れる。 「美味しい 目をまん丸くした姉に、美哉も続いた。そういえば以前食べたことがあるような気も した。新鮮で、茹で上がったばかりの、生命を感じる食べ物だった。 すしゃ ひとしきり食べ終えると、おばあが寿司屋の湯飲みになみなみとお茶を入れて運んで ′、ら