ゅび そういうと、その子は、長い指と指が、くつついて、曲がったみたいになった手を 出した。トットちゃんは、その左手を見ながら、 「なおらないの ? と心配になって聞いた。その子は、だまっていた。トットちゃんは、悪いことを聞 いたのかと悲しくなった。すると、その子は、明るい声ていった。 「僕の名前は、やまもとやすあき。君は ? 」 トットちゃんは、その子が元気な声を出したのて、うれしくなって、大きな声てい った。 「トットちゃんよ こうして、山本泰明ちゃんと、トットちゃんのお友達づきあいが始まった。 業電車の中は、暖かい日差して、暑いくらいだった。誰かが、窓を開けた。新しい春 かみ の風が、電車の中を通リ抜け、子供たちの髪の毛が歌っているように、とびはねた。 トットちゃんの、トモ工ての第一日目は、こんな風に始まったのだった。 53 授
た いっしようけんめい トットちゃんは、一生懸命に話し続けた 「電車の教室は、動かないから、お教室ては、定期は要らないと思うんだ。とにか く、今日は待ってるのよ たしかにロッキーは、いままて、歩いて通う学校の門まて、毎日、トットちゃんと 一緒に行って、あとは、ひとリて家に帰って来ていたから、今日も、そのつもリてい トットちゃんは、定期をロッキーの首からはすすと、たいせっそうに自分の首にか けると、 ハとママに、もう一度、 「行ってまいリま 5 すー というと、今度はふリ返らすに、ランドセルをカタカタいわせて走リ出した。ロッ キーも、からたをのびのびさせながら、並んて走リ出した。 駅まての道は、前の学校に行く道と、ほとんど変わらなかった。だから、途中てト ねこ ットちゃんは、顔見知リの大や猫や、前の同級生と、すれ違った。トットちゃんは、 そのたびに、 「定期を見せて、おどろかせてやろうかな ?
た。トットちゃんは、ひつばられながら、ヒョコ達を見た。ヒョコは、みんなトット ちゃんに連れてって欲しそうに、もっと鳴いた。トットちゃんは、もうヒョコしゃな ノとママに、おしきをしていった。 きや、何も要らないとった。バヾ 「ねえ、お願い。ヒョコ買ってください」 がんば ても、ママもババも頑張った。 「あなたが泣くことになるから、よしたほうがいいって思うのよ トットちゃんはペソペソ泣き出した。そして家のほうに泣きながら歩き出した。そ して、暗いところまて来たとき、しやくリあげながらいった いいませんあのヒョコ 「お願いします。一生のお願い。死ぬまて何か買ってって、 買ってください」 とうとうババもママも折れてしまった。 からす さっき泣いた烏がもう笑った、というくらい、うれしそうな顔のトットちゃんの手 生の中の小さい箱には、二羽のヒョコが入っていた。 さん 次の日、ママが大工さんに頼んて、桟つきの特別製の箱を作ってもらい、中に電球 を入れて、暖めた。トットちゃんは、一日中、ヒョコを見て暮らした。黄色いヒョコ
「あーあリ と悲鳴をあけたとき、下の暗やみの、どこにも、もうお財布は、見えなかった そこて、トットちゃんが、どうしたかっていうと、泣いたリ、あきらめたリはしな くって、すく、小使いの小父さん ( 今の用務員さん ) の物置きに走っていった。そし て、水まき用の、ひしやくを、かついて持って来た。また小さいトットちゃんには、 ひしやくの柄が、体の倍くらいあったけど、そんなこと、かまわなかった。トットち ゃんは、学校の裏にまわると、汲み取リ口を探した。トイレの外側の壁のあたリにあ ずいん かべ るかと思ったけど、どこにもないのて、随分さがしたら壁から一メートルくらい離れ た、地面に、丸いコンクリートのふたがあリ、それが、どうやら、汲み取リロらしい と、トットちゃんは判断した。やっとこ、それを動かすと、ホッカリ穴があいて、そ よこは、まきれもなく、汲み取リロだった。頭をつつこんて、のぞいてから、トットち しゃんは、いった。 くほんぶつ ど「なんだか、九品仏の池くらい大きい」 も それから、トットちゃんの、大仕事が始まった。ひしやくを中に、つつこんて、汲 み出し始めたのたった。初めは、たいたい落ちた方向のあたリをしやくったけれど、
ともえ と同し、巴さん、といったトモ工さんは、海水着を着ていた からだ とか「ヒャー ! 」と 体操をして、体に水をかけてもらうと、みんな、「キイー 力「ワ、ハハ」なんて、いろんな声を出しながら、プールに、とびこんだ。トット ちゃんも、少し、みんなの入るのを見て、背が立っとわかってから、入ってみた。お 風呂は、お湯たけど、プールは、水だった。ても、プールは大きくて、どんなに手を のばしても、どこまても、水だった。 細っこい子も、少しデブの子も、男の子も女の子も、みんな、生まれたまんまの姿 て、笑ったリ、悲鳴をあげたリ、水にもくったリした。トットちゃんは、 「プールって、面白くて、気持ちがいい」 と考え、大のロッキーが、一緒に学校に来られないのを、残念に思った。だって、 ってわかったら、きっとロッキーも、プールに入って、泳 海水着を着なくてもいい、 くのにさ きそく 校長先生が、なせ、海水着なして泳がしたか、っていえば、それは別に、規則ては なかった。だから、海水着を持って来た子は、着てもよかったし、今日みたいに、急 四に「泳ごうか ? ーとなった日は、用意もないから、裸てかまわなかった。て、なせ裸
「ねえ、噛んてみて ? 病気だったら、大変なんだから ! 」 ロッキーは、仕方なさそうに、皮の、ほんの、はしのほうを噛んだ。それから、ま ふう た、においをかくと、別に、いやたという風も見せす、大きく、あくびをした。 「わー いロッキーも、元気てすⅡ」 次の朝、ママは、二十銭、おこづかいを、くれた。トットちゃんは、まっ先に、校 長室に行くと、木の皮を、さし出した。 校長先生は、一瞬、 「これは、なんたろう ? 」 ふう という風に皮を見て、それから、次に、トットちゃんが、大切そうに、手を開い て、握っていた二十銭を先生に渡そうとしてるのを見て、思い出した。 皮「噛んて ? にがいと、病気 ! の 校長先生は、噛んてみた。それから、その皮を、ひっくリ返したリ、よく見て、調 気 べた。 元 「にがいの ? 」 トットちゃんは、心配そうに、校長先生の顔を、のぞきこんて、聞いた。
65 散 とか教えてくれた。みんなは、勝手に、おしゃべリしながら歩いていく空は青 ちょうちょう く、蝶々力し ミ、、つばい、あっちにも、こっちにも、ヒラヒラしていた 十分くらい歩いたところて、女の先生は、足を止めた。そして、黄色い菜の花を指 して、 「これは、菜の花ね。どうして、お花が咲くか、わかる ? 」 といった。そして、それから、メシベとオシベの話をした。生徒は、みんな道にし てつだ やがんて、菜の花を観察した。先生は、蝶々も、花を咲かせるお手伝いをしている、 といった。本当に、蝶々は、お手伝いをしているらしく、忙しそうたった それから、また先生は歩き出したから、みんなも、観察はおしまいにして、立ち上 だれ がった。誰かが、 歩「オシベと、アカンべは違うよね とか、いった。トットちゃんは、 ( 違うんしゃないかなあ ! ) と思ったけど、よく、 わかんなかった。ても、オシベとメシベが大切、ってことは、みんなと同しように、 よくわかった。 そして、また十分くらい歩くと、こんもリした小さな森が見えてきて、それが九品
356 そして、「窓きわのトットちゃん」の連載の手はすと、このたび、一冊になるにあ たって、「いい本にしましようね ! 」と本当に力を入れて下さった講談社の岩本敬子 さんに、「あリがとう」を申しますトモ工のことを、とても、よく、わかって下さ ったかたと仕事をするのは、この上もなく幸福なことてした。 そうてい 私が、これまて出した本、全部そうてすが、この本の装幀もして下さった和田誠さ んも、親切な、お一人てす こうして、やっと、「窓きわのトットちゃん」が出来上リました。トモ工は、もう ないけれど、いま皆様に読んて頂いた間たけても、トモ工が、そこに昔のように、姿 を現わせるとしたら、こんなうれしいことはあリません本当にあリがとうごさいま した。 一九八一年。ーー中学の卒業式に、先生に暴力をふるう子がいるといけない、 ということて、警察官が学校に入る、という一一ユースのあった日
177 運動会 がウキウキするようなマーチたった。 トットちゃんは、白いプラウスに、紺のショートバンツ、という、いてたちたっ た。本当は、絶対に、ひたのたくさんはいった、プルーマーがよかったんだけど : あこが トットちゃんは、ブルーマーに憧れていた。それは、この前、トットちゃん達の 授業が終わったあと、校長先生が幼稚園の保母さん達に、校庭てリトミックの講習と いうのをしてるとき、数人の女の人が、プルーマーをはいていて、それがトットちゃ んの目をひいたのだった。なせ、プルーマーがよかったかというと、そのプルーマー をはいたお姉さんが、足を、「トン ! 」と地面につけると、プルーマーから出ている 腿が、〃プルルン〃と揺れて、それがなんとも、大人っぽくてトットちゃんは、 ( いいなあ ) と、憧れたのだった。だからトットちゃんは、走って家に帰ると、自分のショート ハンツを引っぱリ出し、「トン ! とやってみた。ても、まだ一年生の女の子の、や せた腿ては、〃プルルン〃にならなかった。何度もやってみた結果、トットちゃんは、 こう考えた。 「あのお姉さんのはいていたのなら〃プルルン〃になる ! 」 こん
すず 皿けて、涼んていた。トットちゃんは、だまって、ロッキーの顔の前にすわると、背中 からランドセルを下ろし、中から、通信簿を取リ出した。それは、トットちゃんが、 初めてもらった、通信簿たった。トットちゃんは、ロッキーの目の前に、よく見える ように、成績のところを開けると、 「見て ? 」 じまん と、少し自慢そうにいった。そこには、甲とか乙とか、いろんな字が書いてあっ た。もっともトットちゃんにも、甲よリ乙のほうがいいのか、それとも、甲のほうが いいのか、そういうことは、まだ、わからなかったのだから、ロッキーにとっては、 もっと難しいことに違いなかった。ても、トットちゃんは、この、初めての通信簿 を、誰よリも先にロッキーに見せなきや、と思ってたし、ロッキーも、きっと、よろ こぶ、と思っていた。 ロッキーは、目の前の紙を見ると、においをかいて、それから、トットちゃんの顔 を、しーっと見た。トットちゃんは、いった 「いいと思うてしょ ? ちょっと漢字が多いから、あんたには、むすかしいとこも、 あると思うけど」 こう おっ