166 するとその子は、凄く大きな声て、こういった。 「それからさあー みんなは、いっせいに身をのリ出した。その子は、大きく息を吸うと、いった。 「それからさあー、お母さんがさあー、歯をみがきなさい、っていったから、みがい た」 校長先生は拍子した。みんなも、した。すると、その子は、前よリも、もっと大き い声て、いった。 「それからさあー みんなは拍手をやめ、もっと耳を澄ませて、ますます身をのリ出した。その子は、 得意そうな顔になって、いった。 「それからさあー、学校に来た ! 身をのリ出した上級生の中には、少しつんのめったのか、お弁当箱に、頭をぶつけ る子もいた。ても、みんなは、とてもうれしくなった ( あの子に、話があった ! ) たち 先生は大きく拍手をした。トットちゃん達も、うんとした。まん中に立ってる「そ すご
51 授 なっとく ると、先生のところに聞きに行くか、自分の席に先生に来ていたたいて、納得のいく まて、教えてもらう。そして、例題をもらって、また自習に入るこれは本当の勉強 だった。たから、先生の話や説明を、ボンヤリ聞く、といった事は、ないにひとしか った。 たち トットちゃん達、一年生は、まだ自習をするほどの勉強を始めていなかったけど、 それても、自分の好きな科目から勉強する、ということには、かわリなかった たいそう カタカナを書く子。絵を描く子。本を読んてる子。中には、体操をしている子もい た。トットちゃんの隣の女の子は、もう、ひらがなが書けるらしく、丿ートに写して めずら いた。トットちゃんは、なにもかもが珍しくて、ワクワクしちゃって、みんなみたい に、すく勉強、というわけにはいかなかった。 業そんなとき、トットちゃんのうしろの机の男の子が立ち上がって、黒板のほうに歩 き出した。丿ートを持って。黒板の横の机て、他の子に何かを教えている先生のとこ ろに行くらしかった。その子の歩くのを、うしろから見たトットちゃんは、それまて どうさ キョロキョロしてた動作をヒタリと止めて、ほおづえをつき、しーっと、その子を見 つめた。その子は、歩くとき、足をひきすっていた。とっても、歩くとき、からたが
164 から 子の空になったお弁当箱の、のった机の前にいくと、いった。 「君は話が、無いのかあ : 「なんにも無い ! ていこう その子は、いった。決して、ひねくれたリ、抵抗してるんしゃなくて、本当に無い ようだった。 校長先生は、 と歯の抜けているのを気にしないて笑って、それからいった。 「しや、作ろうしゃないか ! 「作るの ? ー その子は、びつくリしたようにいった。 それから校長先生は、その子を、みんなのすわってる輪のまん中に立たすと、自分 は、その子の席にすわった。そして、いった。 けさ 「君が、今朝、起きてから、学校に来るまてのことを、思い出してごらん ! 最初 に、なにをした ? 」
ゆれた。始めは、わさとしているのか、と思ったくらいだった。ても、やつばリ、わ さとしゃなくて、そういう風になっちゃうんだ、と、しばらく見ていたトットちゃん にわかった。 その子が、自分の机にもどって来るのを、トットちゃんは、さっきの、ほおづえの まま、見た。目と目が合った。その男の子は、トットちゃんを見ると、一一コリと笑っ た。トットちゃんも、あわてて、一一コリとした。その子が、うしろの席に座ると、 ー座るのも、他の子よリ、時間がかかったんたけど , ーートットちゃんは、クルリと振 リむいて、その子に聞いた。 「どうして、そんなふうに歩くの ? その子は、やさしい声て静かに答えた。とても利ロそうな声だった しようにまひ 「俺、小児麻痺なんだー 「しようにまひ ? 」 トットちゃんは、それまて、そういう言葉を聞いたことがなかったから、聞き返し た。その子は、少し小さい声ていった。 「そう、小児麻痺。足たけしゃないよ手たって : : : 」 りこう
「先生、トットちゃんのデンプ、見てもいい ? , と聞いた。校長先生が、 「いいよー というと、学校中の子が、ゾロゾロ立って来て、トットちゃんのデンプを見た。デ ンプは知ってて、食べたことはあっても、いまの話て、急に興味が出てきた子も、ま た、自分の家のデンプと、トットちゃんのと、少し、かわっているのかな ? と思っ て、見たい子もいるに違いなかった。デンプを見にきた子の中には、においをかく子 もいたのて、トットちゃんは、緊て、デンプが飛ばないか、と心配になったくらい たった。 ても、初めてのお弁当の時間は、少しドキドキはしたけど、楽しくて、『海のもの と山のもの』を考えるのも面白いし、デンプがお魚ってわかったし、ママは、『海の ものと山のもの』を、ちゃんと入れてくれたし、トットちゃんは、 ( せんぶ、よかっ たな ) と、うれしくなった。そして、次に、うれしいのは、ママのお弁当は、たべる と、おいしいことだった。
いっても、学校は、建物よリ、内容て、「入ってみたら、いい 学校 ! 」のほうが、「い い」という真実をついてるところも、この歌には、あったこの「はやし歌」は、も ちろん、一人のときは、歌わなくて、五人とか六人とか、人数の多いときに、やるの だった。 さて、今日の午後のことだった。トモ工の生徒は、みんな放課後、思い思いのこと をして、遊んていた。みんなが決めた呼びかた、〃追い出しのベル〃という最終的な ベルが鳴るまて、好きな事をしていて、 いいのだった。校長先生は、子供に、自分の 好きなことをさせる自由時間が、とても大切と考えていたから、放課後の、この時間 は、ふつうの小学校よリ、少し長めに、とっていた 校庭てボール遊びをする子、鉄棒や、お砂場て、ドロンコになっている子、花壇の ふう 校手入れをする子もいたし、ポーチ風の小さい階段に腰をかけて、おしゃべリしてる上 学 級生の女の子もいた。それから、木のぼリの子もいた。みんな勝手にやっていた。中 ロ には、泰ちゃんのように、教室に残って、物理というか、化学の続きのフラスコを、 プクプクさせたリ、試験管などを、あれこれテストしたリしてる子もいたし、図書室 あまでら て、本を読んている子だの、動物好きの天寺君のように、ひろって来た猫を、ひっく たい かだん
柳徹子はたった」というのてした。こんな天才とくらべて頂いて、と思いました が、エジソンも私と同して小学校を数カ月て退学になリ、アイン、ンユタインも、入る 学校もなく、どこか変な子、という、その辺リたけが似ているとわかリました。て も、こんな天才と名前を並べて頂けたのは光栄なことてした。ても、私が少し知った 事は、本当はなのに、親のしつけが悪いとか、努力が足リないとか、自分勝手な 子、という風にいわれてきた子が、かなリいるのだ、ということてした。どこか変っ た子、という風にも見られてしまう。知的に問題があるわけしゃなく、個性の強い子 も多く、得意の分野の勉強の、うんと出来る子どももいる好きなことは上手。 は、まだ研究がはしまったばかリて、わからない事が多く、早くとわかれは、周 リのみんなが、その子を理解し、自信を持たせて成長させていく事が出来ますが、そ 港うしゃないと、イジメにあったリ、自信をなくしたリ、大きくなって、ひきこもリに なってしまう事もあるらしいのてす。『の子どもを持っ会』のお母さまたちの中 ては、どうやら、私が完全にたった、という事になっていると聞きました。なん てあれ、子どもが、のびのびと、明るく元気に大きくなって欲しい、と、ねがってる 私にとって、そういう、お母さまたちも、『窓きわのトットちゃん』を読んて下さっ
ふうせんさく にしたか、といえば、「男の子と女の子が、お互いの体の違いを、変な風に詮索する のは、よくないことだ . ということと、「自分の体を無理に、他の人から、隠そうと するのは、自然しゃない」、と考えたからたった。 ( どんな体も美しいのだ ) やすあき と校長先生は、生徒たちに教えたかった。トモ工の生徒の中には、泰明ちゃんのよ しようにまひ うに、小児麻痺の子や、背が、とても小さい、というような、ハンディキャップを持 った子も、何人かいたから、裸になって、一緒に遊ぶ、ということが、そういう子供 しゅうちしん れっとう たちの羞恥心を取リ除き、ひいては、劣等意識を持たさないのに役立つのてはない か、と、校長先生は、こんなことも考えていたのたった。そして、事実、初めは恥す かしそうにしていたハンディキャップを持っている子も、そのうち平気になリ、楽し いことのほうが先にたって、「恥すかしい」なんて気持ちは、いつのまにか、なくな っていた。 それても、生徒の家族の中には、心配して、「必す着るように ! ーといいきかせて、 海水着を持たす家もあった。ても、結局は、トットちゃんみたいに、初めから、 ( 泳 くのは裸がいい ) 、と決めた子や、「海水着を忘れた。といって、泳いている子を見る ほか
「そうてす、私は、い、 し子てす ! そして、自分てもいい子たと思っていた。 たしかにトットちゃんは、、、 しし子のところもたくさんあった。みんなに親切だった し、特に肉体的なハンディキャップがあるために、よその学校の子にいしめられたリ する友達のためには、他の学校の生徒に、むしゃぶリついていって、自分が泣かされ けが ても、そういう子の力になろうとしたし、怪我をした動物を見つけると、必死て看 びよう めずら 病もした。ても同時に、珍しいものや、興味のある事を見つけたときには、その自分 の好奇心を満たすために、先生たちが、びつくリするような事件を、いくつも起こし なていた。 たと な例えは、朝礼て行進をするときに、頭の毛を二本のおさけにして、それぞれの尻っ うで ぽを、後ろから、両方の、わきの下から出し、腕て、はさんて、見せびらかして歩い そうじ ゆか まてみたリ、お掃除の当番のとき、電車の教室の床のフタを上げて : : : それはモーター 本の点検用の上げプタたったんだけど、それを目さとく見つけて持ち上けて : ・ を捨てて、いさ閉めようとしたら、もう閉まらないのて、大さわきになったリ。ま かぎ た、ある日は、誰かから、牛肉は大きな肉の固まリが、鈎からぶら下がってると聞く かん
ゅび そういうと、その子は、長い指と指が、くつついて、曲がったみたいになった手を 出した。トットちゃんは、その左手を見ながら、 「なおらないの ? と心配になって聞いた。その子は、だまっていた。トットちゃんは、悪いことを聞 いたのかと悲しくなった。すると、その子は、明るい声ていった。 「僕の名前は、やまもとやすあき。君は ? 」 トットちゃんは、その子が元気な声を出したのて、うれしくなって、大きな声てい った。 「トットちゃんよ こうして、山本泰明ちゃんと、トットちゃんのお友達づきあいが始まった。 業電車の中は、暖かい日差して、暑いくらいだった。誰かが、窓を開けた。新しい春 かみ の風が、電車の中を通リ抜け、子供たちの髪の毛が歌っているように、とびはねた。 トットちゃんの、トモ工ての第一日目は、こんな風に始まったのだった。 53 授