73 校 歌 といって、また、ゾロゾロ教室にもどった。 さて、次の日の朝だった。各教室に、校長先生から、〃みんな、校庭に集まるよう に〃という、ことづてがあった。トットちゃん達は、期待て胸を、ワクワクさせなが ら校庭に集まった校長先生は、校庭のまん中に、黒板を運び出すと、いった。 「いいかい、君たちの学校、トモ工の校歌たよ」 そして黒板に、五線を書くと、次のように、オタマジャク、ンを並べた トモ工トモ工トーモ工 きたい
( よくわかんないけど、ふつう泳くときって、海水着っていうの、着るんしゃない かまくら うきぶくろ の ? もうせん、 ハとママと鎌倉に行ったとき、海水着とか、浮袋とか、いろんな もの、持っていったんだけど : 今日、持って来るように、って、先生いったかな すると校長先生は、トットちゃんの考えていることが、わかったみたいに、こうい った 「水着の心配は、いらないよ。講堂に行ってごらん ? , トットちゃんと他の一年生が走って講堂に行ってみると、もう大きい子供たちが、 ふろ キャアキャア叫びながら、洋服をぬいてるところだった。そして、ぬくと、お風呂に 入るときと同しように裸んぼて、校庭に、次々と、とび出して行くトットちゃん達 も、いそいて脱いだ。暑い風が吹いていたから、裸になると気持ちがよかった。講堂 を出て、階段の上に立っと、もう、校庭ては、準備体操が始まっているトットちゃ ん達は、はたして、階段を、かけ降リた。 水泳の先生は、ミョちゃんのお兄さん、つまリ、校長先生の息子て、体操の専門家 だった。ても、トモ工の先生てはなくて、よその大学の水泳の選手て、名前は、学校
たのだった ところが、それからがた騒きだった。また大型クレーンなど、ない時代だったか すみ うつ ら、電車をトラクターから、降ろすというか、はすして、決められた校庭の隅に、移 すというのが、大変な作業だったのだ。運んてきたお兄さん達は、太い丸太を、何本 も電車の下に敷いて、少しすっ、その上を、ころがすようにして、電車を、トラクタ ーから、校庭へと降ろしていった。 「よく見ていなさいあれは、コロといって、ころがす力を応用して、あんな大きな 電車を動かすんだよー 校長先生は、子供たちに説明した。 子供たちは、真剣に、見物した。 るお兄さん達の、「よいしよ、よいしよ」の声に、合わすように、朝の光が、のぼリ 来始めた。 カ 車たくさんの人達を乗せて、忙しく働いてきた、この電車は、すてに、この学校に来 電 ている他の六台の電車と同しように、車輪がはすされていても、もう走る必要もな % く、これからは、子供たちの笑い声や叫び声だけをのせて、のんびリすれば、いいの
高橋君 君 今朝、みんなが校庭て走ったリしてるとき、校長先生が、いった。 橋「新しい友達が来たよ高橋君だ。一年生の電車の仲間たよ。いいね」 ま 6 うし トットちゃん達は、高橋君を見た。高橋君は、幗子をぬいて、おしきをすると、 高 「こんちは と、小さい声ていった。トットちゃん達も、また一年生て小さかったけど、高橋君 が、子供にとっては、本当に楽しいことなんたから、なんて、うらやましいこと : かみ どろ ・ : ) 。ママは、髪の毛は勿論、爪や耳の中まて泥たらけのトットちゃんを見ながら思 よご った。そして、校長先生の、「汚してもかまわない洋服ーの提案は、本当に子供のこ とを、よくわかっている大人の考えた、といつものことだけど、ママは感心したのだ った。
ったら、この学校に通えるんたから。わかった ? トットちゃんは、 ( いま乗れないのは、とても残念なことた ) と思ったけど、ママ とお のいう通リにしようと決めたから、大きな声て、 「うん といって、それから、いそいて、つけたした。 「私、この学校、とっても気に入ったわ」 ママは、トットちゃんが気にいったかどうかよリ、校長先生が、トットちゃんを気 に入ってくたさるかどうかが問題なのよ、といいたい気がしたけど、とにかく、トッ トちゃんのスカートから手を離し、手をつないて校長室のほうに歩き出した。 どの電車も静かて、ちょっと前に、一時間目の授業が始まったようだった。あまリ かだん 広くない校庭のまわリには、塀のかわリに、いろんな種類の木が植わっていて、花壇 たには、赤や黄色の花がいつはい咲いていた。 おうぎがた 校長室は、電車てはなく、ちょうど、門から正面に見える扇型に広がった七段くら 気 いある石の階段を上った、その右手にあった。 トットちゃんは、ママの手をふリきると、階段をかけ上って行ったが、急に止まっ かよ
172 運動会 トモ工の運動会は「十一月三日、と決まっていた。それは、校長先生が、いろんな もっと 所に問い合わせた結果、秋て、雨の降ることが最も少ないのが、この十一月三日とわ かったのて、そう決めて以来、毎年、この日にやることになっていた。前の日から、 じゅんびかざ すっかリ校庭にいろんな準備や飾リつけをして楽しみにしてる子供たちの運動会に、 出来る限リ雨が降らないてほしいと願う校長先生の、お天気データ集めが成功したの か、その気持ちが、空の雲や、お陽さまに通したのか、本当に不思議なくらい、この 日は雨が降らなかった。 ちが ところて、トモ工学園には随分いろんなことが、ふつうの学校と違っていたけど、 夏の終わリの月は、前よリもっと仲良くなった、この包帯たらけの女の子と、もう 絶対に「狼ごっこ」をやらない大を、庭の少し上のほうから、見ていたようだった。 ずいぶん
校長先生は、朝、校庭て、みんなに、この新しい生徒を、こう紹介した。 「宮崎君だ。アメリカて生まれて、育ったから、日本語は、あまリ上手しゃない。だ から、ふつうの学校よリ、トモ工のほうが、友達も、すく出来るだろうし、ゆっくリ 勉強てきるんしゃないか、という事て、今日から、みんなと一緒たよ何年生がいい かなあどうだい、タアーちゃん達と一緒の、五年生しや」 絵の上手な、五年生のタアーちゃんは、いつものようにお兄さんらしく、いった。 「いいよー 校長先生は、につこリ笑うと、いった 「日本語は、うまくない、といったけど、英語は得意だからね、教えてもらうとい いだけど、日本の生活に馴れていないから、いろいろ教えてあげてくださいアメ 子リカの生活の話も、聞いてごらん。面白いからしや、 の 宮崎君は、自分よリ、すーっと、小さい同級生に、おしきをした。タアーちゃん達 語 のクラスだけしゃなく、他の子も、みんな、おしきをしたリ、手を振ったリした 英 お昼休みに、宮崎君が、校長先生の、家のほうに行くと、みんなも、ゾロゾロつい たたみ て行った。そしたら、宮崎君は、家にあがるとき、靴をはいたまま、畳にあがろうと
電車の教室 トットちゃんが、きのう、校長先生から教えていただいた、自分の教室てある、電 だれ 車のドアに手をかけたとき、まだ校庭には、誰の姿も見えなかった。今と違って、昔 とって の電車は、外から開くように、ドアに取手がついていた。両手て、その取手を持っ て、右に引くと、ドアは、すく開いた。トットちゃんは、ドキドキしながら、そーっ と、首をつつこんて、中を見てみた。 「わあーいリ あみだな これなら、勉強しながら、いつも旅行をしてるみたいしゃない。網棚もあるし、窓 も全部、そのままたし。違うところは、運転手さんの席のところに黒板があるのと、 電車の長い腰かけを、はすして、生徒用の机と腰かけが進行方向にむいて並んている てんじようゆか のと、つリ革がないところだけ。あとは、天井も床も、全部、電車のままになってい こし かわ
312 トちゃんも、先生がうれしそうなのを見て、安心して、笑った。 トモ工の先生になるリ なんて、すばらしいことだろう ( 私が、先生になったら : : : ) トットちゃんが、いろいろ想像して、思いついたことは、次のようなことだった。 のじゅく 「勉強は、あんまリ、やらないてさ。運動会とか、ハンゴウスイサンとか、野宿と か、いつばいやって、それから、散歩 ! 小林先生は、よろこんていた。大きくなったトットちゃんを想像するのは、むすか しかったけど、きっと、トモ工の先生になれるだろう、と考えていた。そして、どの 子も、トモ工を卒業した子は、小さい子供の心を忘れるはすはないのだから、どの子 も、トモ工の先生になれるはすたと考えていた。 ばくだん 日本の空に、、 しつアメリカの飛行機が爆弾をつんて、姿を見せるか、それは、時間 の問題、といわれているとき、この、電車が校庭に並んているトモ工学園の中ては、 校長先生と、生徒が、十年以上も先の、約束を、していた。
いたリ、温泉に入ったリ出来る、という、「臨海学校」のお知らせたった。二三日 べっそう トモ工の生徒のお父さんの別荘が、そこにあリ、一年から六年まての全校生徒、約五 とま もちろん 十人が泊れる、ということだった。ママは、勿論、賛成した。 したく そんなわけて、今日、トモ工の生徒は、温泉旅行に出かける支度をして、学校に集 まったのたった。校庭にみんなが来ると、校長先生は、いった。 「いいかい ? 汽車にも船にも乗るよ。迷子にたけは、なるなよな。しや、出発 校長先生の注意は、これたけたった。ても、自由が丘の駅から東横線に乗リこんた となり みんなは、びつくリするほど、静かて、走リ回る子もいなかったし、話すときは、隣 ぎようぎ にいる子たけと、おとなしく話した。トモ工の生徒は一回も、「一列にお行儀よく並 行んて歩くこと ! , とか、「電車の中は静かに ! 」とか、「たべものの、かすを捨てては 旅いけません」とか、学校て教わったことはなかった。たた、自分よリ小さい人や弱い らんぼう 人を押しのけることや、乱暴をするのは、恥すかしいことだ、ということや、散らか そうじ っているところを見たら、自分て勝手に掃除をする、とか、人の迷惑になることは、 盟なるべくしないように、というようなことが、毎日の生活の中て、いつの間にか、体 温 まい′」