し、また、反対に、「手伝ってやろうか ? 」という人もいるに違いなかった。それな 「終わったら、みんな、もどしておけよ」 とだけいった校長先生は、 ( なんて、素晴らしい ) と、ママは、この話をトットち ゃんから聞いて思った。 ぜったい この事件以来、トットちゃんは、〃トイレに入ったとき、絶対に下を見なくなっ た % それから校長先生を、〃心から信頼てきる人〃と思ったし、〃前よリももっと先 生を好き〃になったのたった。 トットちゃんは、校長先生との約束どおリ、山をくすして、完全に、もとのトイレ の池に、もどした。汲むときは、あんなに大変だったのに、もどすときは早かった。 けず たい よそれから、水分のしみこんだ土も、ひしやくて削って、少し、もどした。地面を平ら と にして、コンクリートの蓋を、キチンと、もとの通リにして、ひしやくも、物置きに ど返した。 も その晩、眠る前に、トットちゃんは、暗やみに落ちていく、きれいなお財布の姿を 思い出してやつばリ ( なっかしい ) と考えながら、昼間の疲れて、早く、眠くなっ ねむ ふた
「あなたか、鎌倉に出かけて、すく」 それから、ママは、いそいて、つけ足した ずいぶん 「随分さがしたのよ遠くまて行ってみたし、みんなにも聞いてみたけど、どこに も、いないのよあなたに、なんていったら、いいか、ママは考えていたんだけど : ごめんなさいね : そのとき、トットちゃんは、はっきリと、わかった。 ロッキーは、死んだんだ。 ( ママは、私を悲しませないように、いってるけど、ロッキーは死んたんた ) こ トットちゃんには、はっきリしていた。今まて、トットちゃんが、どんなに違くに っ とおで く出かけても、ロッキーは、絶対に、遠出をすることは、なかった。なせなら、トット な ちゃんが、必す帰って来ることを知っていたからたった。 カ ( 私に、なにもいわすに、ロッキーが出かけて行くなんて、絶対に、ない ) かくしん それは、確信に近かった。 トットちゃんは、それ以上、ママに何もいわなかった。ママの気持ちは、充分に、 わかったからたった。トットちゃんは、下をむいたまま、いった。
はくぼく 291 ひとくぎ 音符の授業は、音楽が一区切リすると、校長先生が降リて来て、ひとリすつのを見 まわ て廻る、というやリかたたった そして、 「いいよ とか、 「ここは、ハタハタしゃなくて、スキップたったよ とか、いってくたさった。そして、みんなが、ちゃんと直すと、先生は、もう一 度、弾いて、みんなも、そのリズムを正確に、たしかめて、納得するのだった。こう いうとき、校長先生は、どんなに忙しくても、人まかせにすることは、絶対になかっ た。そして、生徒たちも、小林校長先生しゃなくちゃ、絶対に、面白くなかった。 ところて、この音符のあと、掃除が、かなリ、大変たった。ます、黒板消して、は ぞうきん くぼくを拭き、そのあとは、みんなが共同て、モップだの、お雑巾だのて、すっか リ、床を、きれいにするのたった。それても、講堂しゅう全部を拭くのは、大ごとだ った。 こんなわけて、トモ工のみんなは、「らく書きや、いたすら書きをしたら、あとが お
電車が来る 今日、学校の昼休みに、 「今晩、新しい電車、来るわよー むすめ と、ミョちゃんが、いった。ミョちゃんは、校長先生の三番目の娘て、トットちゃ んと同級たった。 それ以来、落語を聞くのは、バヾ ノとママが留守のとき、秘密に、ということになっ はなしかじようず た。噺家が上手だと、トットちゃんは、大声て笑ってしまう。もし、誰か大人が、こ の様子を見ていたら、「よく、こんな小さい子が、このむすかしい話て笑うな」と思 ったかもしれないけど、実際の話、子供は、どんなに幼く見えても、本当に面白いも のは、絶対に、わかるのだった。
て帰って来てちっともかまわない , と、校長先生は説明した。 かいちゅう トットちゃんは、ママから懐中電灯を借リて来た。「なくさないてね」とママはい った。男の子の中には、 「オバケをつかまえる」 ちょうちょうと といって、蝶々を採るア三とか、 「オバケを、しばってやる」 といって、縄を持って来た子もいた。 校長先生が、説明したリ、ジャンケンてグループを決めているうちに、かなリ暗く なってきていよいよ、第一のグループは、 し「出発していい」 試ということになった。みんな興奮して、キイキイいいながら、校門を出ていった。 そして、いよいよ、トットちゃん達のグループの番になった。 ( 九品仏のお寺に行くまては、オバケ出ない、と先生はいったけど、絶対に、途中て 出ないかな : : : ) なわ
132 「さあ、いいてすね というと、運動靴の右と左が逆だったから、はき直す、という子がいたリ、その間 中、すーっと緊張してポーズをとっていて、本当に、 「しや、いきますよ ! というときに、 「ああ、疲れた。もうタメだ ! といって、ねっころがる子もいて、とっても時間がかかった ても、海をうしろにして、思い思いのポーズをして撮った写真は、子供たちの宝物 になった。その写真を見れば、船のことも、温泉のことも、おばけの話のことも、 「オットットットット ! の子のことも、一度に思い出せるからだった。 こうして、トットちゃんの初めての夏休みは、絶対に忘れることの出来ない、いろ んな楽しい思い出を残して過きていった。 また東京ても、近くの池には、ザリガ一一がたくさんいて、大きい牛が、ゴ三屋さん の車を引っはって歩いている頃の、ことだった。 きんちょう
124 じようず チェロのトップの斎藤秀雄さんが、一番、ドイツ語が上手たったのて、 「みんなは、一生懸命やっているのたけど、技術が、おいっかないのてす。絶対に、 わさとてはないのてす」 なぐさ と代表して、気持ちを伝え、慰めるのだった。こういういきさつは、トットちゃん は知らなかったけど、ときどき、ローゼン、ンユトックさんが、顔を真っ赤にして、頭 ( ドイツ語 ) から湯気が出るみたいになって、外国語て、どなっているのを見ることがあった。そ ういうとき、トットちゃんは、ほおづえをついて、いつも、のぞいている自分用の窓 から頭をひっこめ、ロッキーと一緒に地面にしやがんて息をひそめ、また音楽の始ま るのを待つのだった。 ても、ふたんのローゼンシュトックさんは、やさしく、日本語は、面白かった。み んなの演奏がうまくいくと、 「クロヤナギサン ! トテモ、イイデスー とか、 「スパラシイデス ! とかいった。 さいとうひでお いっしょ
文庫版あとがき 「窓きわのトットちゃん」の単行本が出てから今日まて、まだ三年しか経っていない のに、あんまリ、いろんなことが次々と起ったのて、うれしいと同時に、びつくリし ている、というのが本当のところてす。私は、自分が大好きだった校長先生と、絶対 に忘れることが出来なかったトモ工学園のことを書いたとき、こんなベストセラーに なるたろう、なんて考えてもいませんてした。それが、発売後、一年間て四百五十万 港部。現在ては、 , ハ百万部に近づこうとしています 「日本の出版界て、初めてのことてすよ」、といわれても、私には、実感として、よ くわかリませんてした。ても、日本しゅうから、毎日、数え切れないお手紙が届き、 それを読んてるうちに、 ( 本当に、沢山のかたが読んて下さってるんたな ) と、わか ってきたのてす。どのお手紙も、心を打たれるものてした。五歳から百三歳まて、あ
310 た。この顔のときは、自信があリ、いい子だと、自分ても思っているときたった ひざ 先生は、膝を、のリ出すようにして聞いた。 「なんだい ? ー トットちゃんは、まるて、先生の、お姉さんか、お母さんのように、ゆっくリと、 やさしく、いった。 かなら 「私、大きくなったら、この学校の先生に、なってあげる必す、 先生は、笑うかと思ったら、そうしゃなく、ましめな顔をして、トットちゃんに聞 した 「約東するかい ? ー 先生の顔は、本当に、トットちゃんに、「なってほしい、と思っているように見え た。トットちゃんは、大きくうなすくと、 「約束 ! と、いった。いいながら、 ( 本当に。絶対に、なる ! ) と自分にも、 ずいぶん しゅんかん この瞬間、はしめて、トモ工に来た朝のこと : : : 随分むかしに思えるけど、あの一 年生のときの : : : はしめて、先生に、校長室て逢ったときのことを思い出していた いいきかせた
イ やすあき 泰明ちゃんのことて、トモ工のみんなは、すーっと悲しかった。特にトットちゃん イのクラスは、朝、電車の教室て、もう、いくら授業が始まる時間になって泰明ちゃん ちこく が来なくても、それは遅刻しゃなくて、絶対に来ないのた、と馴れるのに時間が、か かった。一クラスが、たったの十人というのは、ふたんはいいけど、こういうときに ス つごう は、 ( とても、都合が悪い ) 、と、みんなは思った。 「泰明ちゃんがいない」 ( 私だって、泰明ちゃんのこと、忘れない ! ) 明るい春の陽さしが : 、初めて泰明ちゃんと、電車の教室て逢った日と同し、春 の陽さしが、トットちゃんのまわリを、とリかこんていた。ても、涙が、いまトット ほお ちゃんの頬を伝わっているのが、初めて逢った日と、違っていた。