一一 - みる会図書館


検索対象: 肩ごしの恋人
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1. 肩ごしの恋人

通って、いっそう自分の顔が好きになった。大事なことは、鼻筋が通ったことではなくて、 自分をちゃんと好きでいられるかということだ。 「室野さま」 エステティシャンから声がかかった。 「シミのお手入れ、どうなさってます ? 」 来たな、と思った。 「まあ、適当に」 痛みをこらえながらるり子は答えた。 「実は、集中的にシミをやつつける新しい美顔コースができたんです。すごい効果なんです。 どうでしよう、一度試されてみませんか」 猫なで声でエステティシャンが言う。こうして、どんどん深みにはめようとする。脱毛の 他に、フェイシャルと足痩せコースにも通っているというのに、まだやれと一一 = ロうのか。 「トライは先着十名様は無料ですし、ぜひ」 トライしたら、ノーとは言えなくなるに決まっている。プティックで、試着した後「いら 人 恋よ、 オし」と言う以上の勇気がいる。今のエステの費用は、すべて前の夫に払わせたものだから の どうでもいいが、これからとなるとさすがに家計のことを考える。このご時勢、信之の会社 肩 の業績も右下がりが続き、このままでは夏のポーナスもほとんどアテにできないだろう。 「考えておくわ」

2. 肩ごしの恋人

ら泣いてすがることも厭わないが、その対象が女だと鉄の意志を持つ。今更、止めても思い 止まるようなるり子じゃない。るり子が苦手なのは、迷うことだ。どんなことでも、ロにし た時はもう決めている。 、悪いは別にして。 「まあ、好きにすればし 、、けど」 「慰謝料、いくらぐらい取れるかしら。離婚の理由は明らかに信之の浮気でしよう。私に落 ち度はないわけだし。とりあえず弁護士に相談に行くつもり。前の二度の離婚の時、世活 , 1 一 1 ロ なった弁護士に」 心が離れると、氷より冷たい女になるのもるり子の特徴だ。取るものはきっちり取る。前 の二度の離婚の時もそうだった。最初の結婚相手は、それで実家の畑を売り払ったという話 だ。浮気したのだから自業自得とは言え、少しばかり、信之が可哀相になった。まだ安月給 の身で慰謝料をどうやって工面するのだろう。 「ねえ、柿崎さんとはどうなってるの ? 」 急に、話題をふられて困惑した。 「まあ、たまに会ってるけれど」 「たまにだなんてよく一一 = ロうわ。昨夜もそうだったんでしよう。うまく行ってるんだ」 「うまく行くって、どういうことかよくわかんないのよね」 「そりやまあ、柿崎さんは結婚してるしね」 「それなんだけど」

3. 肩ごしの恋人

エレベーターの前に行くと、面倒なことに、隣の奥さんと顔を合わせた。るり子より十歳 以上もとの噂好きで評判の奥さんだ。 「あらあ、室野さんの奥様、最近どうなさったの、ぜんぜんお顔を見ないから心配してたの すきま にこにこ顔の隙間から、好奇心が丸見えだった。もちろん、それに負けないくらいのにこ にこ顔でるり子も返した。 「ちょっと実家の母の具合が悪いんです。それで、ここのところ、あちらに行ってることが 多くて」 こんな嘘などへっちゃらだ。 「まあ、そうなの。それは大変ねえ。お母さまのお加減は ? 」 「おかげさまで、快方に向かってます。それじゃ、病院にお薬を取りにいくので、これで」 あちらも嘘だということはとっくに気づいているだろう。 るり子としては、別居していることがバレてもどうってことはなかった。男と女のスキャ 人ンダルは、たとえどんな種類のものであっても勲章だと思っている。何もない女よりかは百 しし。それでも嘘をついたのは、信之のためだ。信之は、それを恥ずかしいと思うタ 窈万倍も、 ごイプの人間だ。 駅まで行って、時計を見た。十一時半を少し過ぎたところだった。お腹もちょっと空いて きた。おいしいバスタが食べたい。それもこってりしたチーズクリームソースの。

4. 肩ごしの恋人

跖 言いながら、再び信之の手がるり子の。ハジャマのボタンをはずしにかかった。 「ダメだってば」 「せつかくの土曜日なのに」 「土曜日は来週もあるわ」 「来週は生理だろ」 「そうだっけ。だったら再来週」 「別に土曜日じゃなくてもいいんだけど、僕は」 「もちろん、私もよ。だけど今日はダメ」 信之は小さく息を吐いて、天井を見上げた。 「思うんだけど」 ナ : し - 「結婚してから、急にしたくなくなってない ? 」 「そうかな」 「そうだよ。前はいろんなこと、いろんなところで、やりまくっただろ。なのに今は、何か と一一 = ロ , っとダメって一一 = ロ , つ」 るり子は答えに少し時間をおき、鼻をすすり上げた。 「そんなこと言われると悲しいわ。しないと信くんに嫌われちゃうの ? 」 信之は慌てた声で言った。

5. 肩ごしの恋人

萌は彼女を呼び寄せた。さすがに、いくらかバツの悪そうな顔つきで美樹がやって来た。 「何か」 「何かってことはないでしよう。チェストを注文した時、間違った色指定をしたのはあなた でしよう。確か、前にもマタニテイドレスでサイズを間違えたことがあったわよね。注意し てもらわなければ困るわ」 いくらか鼻にかかった声で返事をする。ナメられてるような感じがする。 「本当にわかってるのかしら。少しは謝るこっちの身にもなって欲しいわね」 美樹が少し不満げに上目遣いをした。 「で・も」 「いいわよ、一一 = ロいたいことがあるなら一一 = ロって」 美樹は一呼吸置いた。 「だって、主任はクレーム処理をするのが仕事じゃないですか。だからお給料もその分多く もらってるわけでしよう。それそれに仕事分担があるんだから、それはそれでいいんじゃな いんですか」 一瞬、言葉に詰まった。それから、思わず声を高くした。

6. 肩ごしの恋人

出豆腐を顔に投げつけていただろう。 「気持ち悪がってる割りには、よく見てるわね。なかなかの観察だわ」 「梅ハイいいですか ? 」 「いいわよ」 崇が店員に注文する。萌も次の飲み物を何にしようかと考える。明日は休みだ。酔っても いいな、という気分になりつつある。九歳も年下の男の子と、飲みながらエロスの話をする のも悪くない。 「で、どんな女 ? 」 萌は残りのビールを飲み干した。 「何が ? 」 「最初の女よ。君に、女の身体は気持ち悪いと刷り込ませた女」 ちょうど二呼吸ぐらいの間があってから、崇はさつばりと答えた。 「母親だよ」 一瞬、一一 = ロ葉が詰まった。萌はちらりと彼を見てから、ゆっくりと店員に手を上げた。 人 てんぐまい 恋「冷酒、天狗舞、一一合でね」 梅ハイを崇は気持ちよさそうに飲み、サイコロステーキをまとめて三個、ロの中に放り込 肩 んだ。 「それは恐れ入る話だわね」

7. 肩ごしの恋人

「それで、あんたは何の用 ? こんなに遅く」 「信くんのことよ」 るり子が左手に持っトーストを齧り、右手に持っカップに急を吹き掛けた。使っているカ ップは、萌が持っている中でいちばん高いやつをちゃっかり使っている。 「ダンナがどうかしたの ? 」 「どうもこうも、浮気してるの」 「えつ」 思わず、コーヒーが気管に入りむせそうになった。 「今日、その相手の女に呼び出されたのよ。それが、ひどい女なの。若い以外何の取り柄も ない単なるバカよ」 ひじ 崇がテープルに肘をついて尋ねた。 「それって、いぬたまの帰りに見た、あの女 ? 」 「挈よっ」 人「浮気ぐらい平気だって、言ってたじゃないか」 窈「もちろん平気よ。でも、女によるわ。その女が、泣いて、信くんが好きとか、別れてくだ ごさい、とか一一 = ロうならわかるわよ。それが、信くんにしつこくデートにさそわれたから仕方な 肩 く付き合ったって、こう言うのよ、まったく、頭にくるわ」 一一 = ロいながら、るり子はトーストを齧る。歯形がくつきりと残る。

8. 肩ごしの恋人

「えっ ? 」 文ちゃんはばかんとした。 「ほんとに ? ・ 「どうしても金が欲しかったものだから、つい十八だって嘘ついちゃって」 文ちゃんが思わずため息をつく。 「まったく、最近のガキには呆れるわ。そんなの雇って、うちが営業停止にでもなったらど うしてくれるのよ。おお、こわ。で、学校には行ってないの ? 」 「ええ、ちょっといろいろあって今は休んでるんです」 、いけど。そう、残念、十五とはね。あと 「義務教育は終わってるんだから、好きにすればし 二年適当に働いて、十八になったらまたここにいらっしゃいよ。いいバイト料だけじゃなく、 いい男にもしてあげるから」 文ちゃんは、妙に色つばい目をした。 「あの、今の僕でもやれるようなバイト、ありませんか ? 」 人崇が殊勝な顔つきで言った。 窈「あら、本気なの」 ごと言ってから、文ちゃんは思い出したように萌を振り向いて、付け加えた。 「そう一言えば、あんたも会社を辞めたって言ってなかった ? 」 「よく覚えてるのね」

9. 肩ごしの恋人

と、萌の相変わらず素っ気ない返事があった。 「だったら、そっちに遊びに行くわ。部屋にいるんでしよう。タご飯、一緒に食べようよ」 「ダメ」 きつばりと萌は一一 = ロった。 「どうして」 「にしいの」 「今、別につて言ったじゃない」 返すと、萌は少し言葉をとぎらせた。 「いろいろあるのよ、今日はとにかくパス」 「ふうん」 ピンと来た。 「じゃあね」 るり子は携帯電話をバッグに押し込め、それから大通りに出てタクシーに手を上げた。も 人 恋ちろん、萌のマンションを訪ねるためだ。 肩「何なのよ」 ドアの向こうから、萌が目を丸くして顔を覗かせた。

10. 肩ごしの恋人

「私、水り」 「僕・も」 崇が一一 = ロうと、即座に萌が釘をさした。 「ダメ、君はウーロン茶」 崇が不満そうに頬を膨らませている。 「ムは、マッカラン年もの、ロックでね」 るり子がちょっと気取って言うと、文ちゃんが、値踏みするような目を向けた。 「あんたさ、もしかして」 文ちゃんがウイスキーをグラスに注ぎながら、るり子に言った。 「オカマ ? 」 隣で、萌と崇が噴き出した。 「違うわよ」 るり子は唇を尖らせて抗議した。 人「あら、そう。あんたみたいなオカマ、この辺にいつばいいるのよね」 窈やがて、それそれにグラスが差し出された。 ご「あれから、柿崎さん、どうした ? 」 萌が尋ねた。 「しばらく飲んで、帰ったわ」