一緒に - みる会図書館


検索対象: 肩ごしの恋人
39件見つかりました。

1. 肩ごしの恋人

祐「ね、ちょっと早いけど、タご飯、一緒に食べましようよ。 ししでしょ , っ ? 」 と言うと、無邪気に「うん」という答えが返って来た。それで決まりだった。 夕食はすき焼きにした。その材料の買出しにマーケットに 一緒に行こうと崇を誘ったのは、 もちろんるり子だ。こんな可愛い男の子を、いったいどこから拉致して来たのか、どうせ萌 は話してくれないに決まっている。崇から聞き出すしかない。 しらたき るり子に言われる通り、牛肉や白滝をカゴの中に放り込みながら、昨夜、萌の会社のバイ トで知り合って、一緒に飲みにいき、電車がなくなったので泊めてもらった、と崇は言った。 その後、彼が十五歳だと知って、さすがのるり子も参った。かなりの年下だということはわ かっていたが、まさかそこまで少年とは思わなかった。萌も大胆なことをやるものだ。高校 一年生となると、もしかしたら淫行というのに引っ掛かるのではないか。かと言って、寝た しゅうちしん の ? とはさすがに聞けない。すごく聞きたいが、るり子にも爪の先ほどの羞恥心というも のがある。 すき焼きの間中、萌はビールばかり飲んでいた。るり子はかいがいしく肉や豆腐を崇の器 に取ってやった。その間も、質問は続いている。 「へえ、じゃあ崇くんのお父さまってお医者さまなの。それも心臓外科の、すごいわねえ。 せいじよう わから それで自宅は ? えつ、成城。もちろん一戸建よね。敷地面積ってどれくらい ? ないか、残念。高校は ? わあ、すごい、高校と言えば進学校でしよう、それもおばっち やまばっかり通ってるっていう。それで、その崇くんが何でバイトなんかしたの ? お金持

2. 肩ごしの恋人

「やつばり萌だわ」 翌日は、だらだら過ごした。 ひとりのだらだらもひどいが、三人のだらだらとなると相当のものだ。 萌は住む場所を、るり子はお金を出すわけだから、崇には労働を提供することを提案した。 崇はいくらか不満を口にしたが、自分の立場を考えて、しぶしぶ承知した。 だからもちろん、朝食は崇が作った。昼食はコンビニに買い出しに出掛けた。夕食は焼肉 を食べることになった。駅前でるり子の、いや、信之のキャッシュカードでお金を下ろした。 久しぶりのカルビと石焼きビビンバは、ものすごくおいしかった。 「聞いても、 だらだらと帰り道を歩きながら、崇が尋ねた。 「ダメ」 即座に、萌は答えた。 「ゆうべ、一緒にいた男、恋人 ? 」 どうせ聞くなら、尋ねるなと思う。 「どうでもいいでしよ」 当然のことながら、るり子が口を挟んだ。 「あら、萌、ゆうべ柿崎さんと一緒だったの」

3. 肩ごしの恋人

「るり子、私のことは気にしなくていいから。早く新しい部屋を探しなさいよ」 言うと、るり子はいくらか頬を膨らませた。 「仲間外れにしないでよ」 「そんなこと言ってないでしよ」 「私ね、その子は萌と私の子供だと思ってるの。考えてみたら、お母さんがふたりいるなん て、なんてラッキーな子なのかしら。それも、こんな美人のお母さんなのよ」 萌は声のトーンを落とした。 「るり子を巻き込みたくないのよ」 「今更何を言ってるのよ。五歳の時から一緒なのよ。別れて暮らしたって、きっと気になっ ていつも萌んとこ来てるわ。だったら同じことよ。 しいじゃないの、一緒に暮らそうよ。こ ういう運命なのよ、私たち」 萌は言葉に詰まった。何か言うと、泣いてしまいそうな気がした。 るり子が付け加えた。 「三人で暮らしたら、きっとすごく楽しいわ。それでね、いっかリョウもモノにするから、 彼も引っ張り込んで四人で暮らすの。あ、そうすると文ちゃんもついて来たりするかなあ。 ま、それもし 、いけどね。みんなまとめて家族になればいいんだから」 「るり子」

4. 肩ごしの恋人

いかにも大人の店という感じがする。 メニューを広げながら、柿崎が頷いた。 「だろう。この間、タクシーで前を通ったんだ。その時から気になってて、君と一緒に来た いなあって思ってた」 のどもと 萌は返す言葉を喉元で飲み込んだ。君と一緒に、そんなセリフを、まるで書いてあるメニ ューを読み上げるようなさりげなさでロにする、そんな柿崎を前にしていると、この男が真 じめ 面目なのか遊び慣れているのか、わからなくなる。 かも あっかん 柿崎は、天せいろを、萌はとろろ蕎麦を注文した。運ばれてくる間に、熱燗と卵焼きと鴨 くんせい 却の燻製も頼んだ。最近、萌は熱燗が好きになった。冷たいのも悪くはないが、身体にしみ てゆくような酔い心地はやはり熱燗ならではだと思う。 「今度、温泉にでも行かないか ? 」 不意に柿崎が言った。 「どうしたの、急に」 しところがあるんだ。東京を離れて、のんびりするのもいいなあと思ってさ」 人「伊豆にい、 ちゅうちょ 少し躊躇した後「いいわね」と、萌は答えた。 し 「行きたくない ? 」 肩 「ど一 , っして ? 」 「何か、そんな感じがした」

5. 肩ごしの恋人

女なのよ。私、男がわかんなくなったわ。女は綺麗で、セックスがよくて、一緒にいて楽し いこと以外、何が必要なの ? 」 二回の離婚でも、るり子はまったく何の学習もしていないのだった。 萌は男の左手薬指に目をやった。まだ新しいプラチナのマリッジリングが光っている。あ のるり子に落ちなかった、というだけで、萌はいくらか関心を持った。それで、わざと聞い てみた。 「るり子とは、どちらで ? 」 「半年ちょっと前くらいに、彼女が派遣されてた会社で一緒だったんです」 ドイツ車専門の輸入会社だ。るり子は二回目の離婚が成立すると同時に派遣会社に登録し、 三カ月から半年という短い期間で会社を転々とするようになっていた。受付が主な仕事で、 美人で愛想のいいるり子はなかなか評判がよかったそうだが、もちろん彼女は労働に生きが いを見付けられるタイプではなく、目的は新たな男を探すことだった。そのためにも、会社 がちよくちよく変わる派遣社員は都合がよかったというわけだ。 お色直しを終えてるり子が入って来た。萌は思わずワインをこばしそうになった。ドレス はピンクで、スカートのレースは段々になっていて、おまけに腰に大きなリポンが結ばれて いた。頭のティアラが揺れている。るり子がきゅっと唇の両端を持ち上げて笑っている。 ちばん得意な時の表情だ。さすがに二十七歳になってのふりふりやびらびらはつらいのでは ないかと思うが、新郎は照れながらもどこか嬉しそうだ。

6. 肩ごしの恋人

「一緒にタご飯食べようって言ったでしよう」 「断った」 しししゃないの、せつかくこうして来たんだから」 と、部屋に入ろうとするるり子を、萌が身体で阻止した。 「どうしたの」 「部屋、ひどい状態なの」 「やつばりね」 るり子はウエストに手を当て、何もかもお見通しというように、萌を上から下まで眺めた。 「何が」 「中に誰かいるんでしよう」 「柿崎さんじゃないわよね、彼だったら今さら隠すことないんだし」 「、ないって言ってるでしよ」 「まさか、うちの信くんとヨリが戻ったとか ? 」 「新しい男 ? ・」 「違うわよ」 るり子は萌を見つめる。萌も意地になって目を逸らさない。るり子は仕方ない、といった

7. 肩ごしの恋人

と、萌の相変わらず素っ気ない返事があった。 「だったら、そっちに遊びに行くわ。部屋にいるんでしよう。タご飯、一緒に食べようよ」 「ダメ」 きつばりと萌は一一 = ロった。 「どうして」 「にしいの」 「今、別につて言ったじゃない」 返すと、萌は少し言葉をとぎらせた。 「いろいろあるのよ、今日はとにかくパス」 「ふうん」 ピンと来た。 「じゃあね」 るり子は携帯電話をバッグに押し込め、それから大通りに出てタクシーに手を上げた。も 人 恋ちろん、萌のマンションを訪ねるためだ。 肩「何なのよ」 ドアの向こうから、萌が目を丸くして顔を覗かせた。

8. 肩ごしの恋人

もったいないと悔しいとに揺れながら、荷物を整理していた。 そんな時、携帯電話が鳴り始めた。 し」 「ああ、るり子さん、僕、柿崎だけど」 「あら、どうしたの ? 」 柿崎から連絡が入るなんてめずらしい 「今、いいかな ? 」 「もちろんよ」 「実は萌さんのことで、ちょっと話したいことがあるんだ」 とことなく堅さのようなものがあった。 柿崎の声に : 「何があったの ? 」 「何て言うか、早い話、会ってくれないんだ。どころか、ほとんど電話にも出てくれない」 るり子は皮肉を込めて言い返した。 「だって柿崎さん、奥さんが家に戻って来たんでしよう。それでいて、萌ともうまくやろう なんてちょっと虫が良すぎやしない ? 」 「いや、妻とは正式に離婚したよ」 「あら」 「色々もめたけど、ようやく話がついたんだ。だから萌さんに、これからのことを一緒に考

9. 肩ごしの恋人

「るり子さん、あんまり夜遊びしすぎないようにね。もう、そんなに若くないんだから」 「失礼ね、わかってるわよ」 「萌さん」 萌が頷く。 「本当に、ありがとうございました。短い間だったけれど、一緒に暮らせたのは僕にとって かけがえのない時間です」 「私もよ」 短く、素っ気なく、萌は答える。 「じゃあ」 崇がドアを開け、出てゆく。風が入り込んで来て、るり子と萌の足元を揺らす。 崇の背中が消えてしまうと、るり子は長く息を吐き出した。 「本当に行っちゃったね」 「そうね」 男が去ってゆく時、淋しい気持ちはあっても、心のどこかでホッとしているのも否めない。 けれども、今日はそれがなかった。本当に、心から、崇のこれからの人生に祝福を送りたい 気持ちでいつばいだった。 新しい毎日が始まった。

10. 肩ごしの恋人

「ああ」 萌は振り向き、鏡の前でさかんにネクタイの結び目を気にしてる男に目をやった。名前を 聞いてなかったことに、その時、初めて気が付いた。 「違うわよ」 「披露宴の時、結構、親密に話してたの見てたんだから。帰りも一緒だったのも、ちゃんと 知ってるんだから」 「さすがだけど、違うわ」 「どうだった彼 ? 」 「だから、誰」 「今さらそういうの、面倒臭いからやめようよ」 萌は思わず肩をすくめた。 「わかったわ、るり子が新婚旅行から帰って来たら、ゆっくり話すから」 「ほんと、ぜったいよ、楽しみにしてるから。じゃあ今はここまでにしておいてあげる」 はしゃいだ声を上げて、るり子が電話を切った。 人 恋「趣味が悪いよ、そういうの」 男の声に、萌は振り返った。 四「彼女と、僕の品定めをするつもりなんだろう」