相田みつを美術館館長相田人 夏だったと思うまだ借宿町というところに住んでいた頃のことだから、父は四十前後だった。 開け放ったアトリエの片隅に座って話をしていた。相手は親しい人であろう、何故なら仕事場に 他人を気安く入れたりはしなかったから。小学生だった私は母に代わってお茶を出していたので はなかったか。 「こういうことを長くやっているといつの間にか型ができてくるんですよ土台みたいなものか なあいい悪いは別にしてね。上台の上に立っているのは楽ですけど、それじや先に進むことは できないんですね。だから、型ができたなと気づいたら、いったん土台を金槌で叩き割って壊さ ないとだめなんです。でも、またしばらくすると別な土台ができるそうしたらまた金槌で壊す 書くということはその繰り返しです」 その時父がランニングシャツ姿で首にはタオルを巻いていたことは不思議に鮮やかだが、もち ろん一字一句までは記憶してはいないおおよそそんなことを来客を相手に語っていたと覚えて いるだけである 年端のいかぬ子どもに理解できるはすはない。しかし、私はごく当たり前のことと感じたので ある今考えると、父の創作スタイルがまさにその通りであり、絶えず変貌していることを直に 見ていたからだろう。だから、強い印象を残したのではないか。 もしかして父は私を意識していたのかもしれない誰がわかろうがわかるまいが語るべきもの は語る。父はそ、ついう人間だった。 あかねぐも 本書には、出発点である第一回個展の作品 ( 「茜雲」 ) から絶筆 ( 「一とは原点」 ) までが収録され ている構成にあたっては、書家として詩人として相田みつをが何を成し、何を壊してきたのか か判然とするよう心掛けた。父が金槌をふるった跡を見ていただければ幸いである 『おかげさん』『いのちいつばい』に加えて、も、つ一冊ダイヤモンド社から本をと父は約東していた 亡くなって十一一年目の夏、このような形で果たせたことを関係各位に深く感謝申し上げたい。 平成十五年七月編集を終えた日に 壊すー解題に代えて かなづち 105
乍ロリスト ( 上部の数字は掲載ページです ) 詩「馴れ」 2 かはしいとごには : 4 貴きもの : 6 真実 : ・ 8 草野心平の詩にありました : 何を見るといふこともなく : 河下の遠き浅瀬を : 坂道へきたら : ・ 筆を信じきれば : 自転車をころがして : 爲背伸びをすると : 9 間口をひろげると : 幻かねもできました家もできました : 伊津志天出毛 : 水中の陣 幻百萬円以上あれば : 色即是空の眼が覚めて : 色即是空の眼をあけて : 肥佛 3 いとい、つ ) 」には . 自我の根 鬨筆を持っと : 犯予防線張りて警戒する言葉 : ・ あざやかに : 囀おれがわるかった 検事や裁判官はごまかせても : 人間をよろこばすことは : 茜雲 / 聖澤雲天何以報臣心 : 旅の荷物は : わたしは今日の一日を : 旅 永遠の過去 : アノネよくかんかえてごらん : アナタの主人公は : 夢中で仕事をしているときは : どろをかぶらすに : 現代版禅問答 た挽歌『業』 時 土俵のけがは : 爲アノネじぶんのもの : 一切我今皆懺悔・ : まだまだダメとい、つ : 死ぬまでは生きてゆくさと : 新極楽を : 、つしろをふりか、んると : 囲〕帥一匠とは : 2 ノ そっとしておいて 真正面からまともに当たりながら : どんな雑草でも : 生きていてよかった : 一とは原点・ 104