婦人警官 - みる会図書館


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1. リミット

リご、、 273 智永は採石工場の食堂に倒れていた婦人警官の顔を思いだす。包囲網をくぐり抜けてやっ てきたのは称賛に値する。犯人側と接触できる時をチャンスと思って採石工場に乗りこんで きて、グラウンド・コートに十キロの札束を隠すという芸当を見せた。が、詰めがあまかっ た。食堂の床に大の字に転がった婦人警官を見て、我が子可愛さで誘拐犯に協力してしまっ た哀れな女だ、と智永は嘲笑した。 被害者対策を担当していた特殊班の婦人警官が誘拐犯に加担したという事態に、警察内部 は揺れに揺れているらしいと聟水は聞いている。味方の筋からの情報だった。報道協定が解 かれるまでは報じることはないだろうが、今頃、あの婦人警官は息子の名前を呼びながら丹 さまよ 沢あたりの山を彷徨っているに違いない。逮捕されるのは時間の問題だ。 むなさき 公子の子供の行く末も、過去の三人と同様、グレイ・ウオンの胸先三寸で決まる。 に選り分けられて体が不自由な人々のお役に立つか、性的自由に恵まれていない人々のお役 に立つか、どちらかだった。子供にとってはたして地獄はどちらだろう。 ドアチャイムが鳴った。その音に三人は揃って緊張した。来訪者が誰かは分かっていて も、べッドの一億円が神経過敏にさせる。 篤志がドアホールを覗く。泉水が札束にべッドカバーをかぶせる。 篤志が智永を振り返って「奴だ」と言った。鍵をふたっ解いてドアを開けると、 し力。

2. リミット

198 億入りのグラウンド・コートを後生大事に抱えていた篤志は、突然の乱入者を前にして足が 止まった。迫りくるポンネットをよけようと、両足でジャンプするのが精一杯だった。背中 に衝撃を食らう。一億円が手からふっ飛ぶ。篤志はべンツのポンネット上をトランポリンの ように跳ね、地面に叩きつけられた。何が起こったのだ。何がやってきたのだ。分かりきっ ている答えは、やがて目の前に現われた。車から飛びだしてきた婦人警官がのしかかり、篤 志の喉を締めつける。その手に拳銃が握られる。篤志のホルスターから奪い取ったミリタリ ー & ポリスだった。俺の銃に触るなと篤志は叫びたかった。 「子供はどこ」 ぎトっそう 婦人警官は鬼の形相だ。俺を心底憎んでいる。これほど他人に憎まれたのはいつ以来だろ う。怒れる婦人警官は左手で喉を締めつけ、右手にミリタリー & ポリスをかざしている。や はり女だ。締めつける力が弱い。お前は握力いくつだ ? そんな非力で警察官が勤まるの か ? 篤志は嘲笑った。 コ一一口いなさい。子供はどこ」 婦人警官が撃鉄に指をかける。これには篤志も参った。この古い銃は引き金があまい。撃 鉄が上がったら最後、いっ暴発してもおかしくないような銃だ、すげえ恐い、篤志は恐怖し ながら笑っていた。

3. リミット

ろ 96 ノトカーの中に身を伏せた。 を潰す。ドアに手をかけて外に出ようとしていた警官たちは、。、 応援を呼ぶ警官の金切り声が聞こえる。 このまま警官たちを釘づけにして、校舎を回りこんで、裏の柵を越えれば外の道に出られ る。ニューナンプで撃ち返す警官がいたが、弾丸はどこへ飛んだのか分からない。泉水は邪 魔な蠅を追い払うように、ショットガンで掃射した。 一階の廊下に立った智永は、婦人警官が消えた方向へ足を向けた。三組の教室を覗き、婦 人警官の気配を感じたところでコルト・パイソンを目の高さに上げた。気配は思ったより近 くて、不意を突かれた。ドアの横に潜んでいた婦人警官が背中に飛びかかってきて、羽がい じめにされた。 その拍子に手から拳銃が落ちる。肉弾戦になった。びったりと背中から離れない婦人警官 ニューナンプを を振り落とそうと、智永は壁にぶち当てる。婦人警官はそれでも離れない。 持つ手が智永の首を絞めにかかっている。「子供はどこ」とせつばつまった母親の声が智永 の耳に熱くふりかかる。 「どこなの、子供は」 おたけ 背中に密着している婦人警官の腹。子供を世に送りだした子宮が雄叫びを上げているの か。智永は右の肘で攻撃する。手応えがあった。肘は婦人警官の横っ腹にめりこんで、首に はえ

4. リミット

408 カーラジオが台風の予想進路を説明していたことを思いだす。明日は大荒れの一日だとい ニュースはみなとみらいの拳銃乱射事件報道に多くの時間を割いていた。一億円を奪った 婦人警官は、死んだ警官から拳銃を奪って逃走しているということだった。 子供を奪われた香澄と心を通わせ、犯人からの電話に適切な応対をしていた婦人警官の顔 を白石は思い浮かべる。人間は分からない。ひと言でそう突き放し、人間理解を放棄するよ りない エレベーターを下りて、途中の酒屋で買ってきたビールの袋を左手に持ち替え、ポケット から鍵を取りだした時だった。 背後の闇から襲いかかってきた何者かに白石は背中を突かれ、ドアに体を押しつけられ た。肋に鉄の感触。銃口が突きつけられる。 「声を出さないで」 白石は促されて、ゆっくりと振り返ることができた。髪型は違っていたがあの婦人警官だ った。指名手配されている婦人警官がなぜ自分を襲うのか。 「ドアを開けて、中に入って」 言われた通り、白石は鍵を開けて、婦人警官に銃を突きつけられたまま自宅に入る。震え る手で電気をつける。ひとり住まいの二の床には昨日着たワイシャツが落ちている。現

5. リミット

三組の教室、机と机の間に体を隠していた公子は窓の外を覗いた。校庭の警官たちはやっ と車外に動き始めていた。公子にも時間の猶予はない。教室の床に転がっているニューナン かかっている手からカが失せた。智永は渾身のカで相手を振り落とす。教室の床に倒れた婦 人警官がニューナンプをこちらに向ける。撃たれる、という恐怖が智永を金縛りにしたが、 ためら 相手に一瞬の躊躇いがあった。智永は右足で蹴りあげ、婦人警官の手から拳銃が飛んだ。し かし智永のコルト・パイソンもない。素早く見回すと廊下に落ちている。智永は走った。そ の間に婦人警官は机の陰に隠れた。パイソンを掴んだ智永は教室内へ連射した。 35 7 マグ ナム弾を受けた机がはね上がった。ひとつ、ふたっ、みつつと宙に飛ぶ。智永も冷静さを失 っていた。婦人警官の姿を照準に捉らえられないまま、六発を撃ち尽くしてしまった。 「行けるぞ先生 ! 」 表から篤志の声がする。教室の暗がりに姿を消した婦人警官を深追いせず、智永は弾の装 填を諦めて玄関に向かった。 泉水のショットガンで蜂の巣になった三台のパトカ 1 は、鉄屑と化している。中に身を潜 めている警官に戦闘意欲などない。智永たちは楽々と逃走路を走ることができる。校舎を回 りこんで、金網の柵を越えた。セルシオとハイエースはワンプロック先の路上に止めてあ る。

6. リミット

56 ろ マンションからワンプロック離れた道端に智永のセルシオが止まっていた。 エントランスから男に支えられた婦人警官がもつれるようにして出てくるのが見えた。西 陽を受け、白く血の気を失った婦人警官の表情が、智永のいるところからでも分かる。 冨家の始末は終わった。しかしあの婦人警官は、また別の糸をたぐり寄せるに違いない 篤志と泉水の顔を見られている。泉水の一一一一口う通りだ。採石工場で殺しておけばよかったと智 永も後海した。 あの時は、床に倒れた無防備な人間に銃弾を浴びせる勇気がなかった。今なら智永は何だ ってできる。この手で人を殺してきたばかりだ。 冨家とその愛人に銃をつきつけ、リビングのソフアに並んで座らせた。愛人のモデルは銃 口にひるみながらも、いきなり訪ねてきた智永に「何なのよあんた」と歯をむき、蒼白な表 情で固まっている冨家に「この女、あんたの何なのよ」と吠えたてた。金切り声がうるさか ったので、智永はまず女のほうを黙らせた。くぐもった銃声で、クッションから羽毛が吹き 上がり、部屋にふわふわと雪が降った。初めての殺人だった。四カ月前、間接的に子供たち の命を奪ってはいたが、自分の指一本で他人の心臓を止めるというのは初めての経験だ。特 に感慨はなかった。智永はソフアにもたれた女の体を眺め、男たちにとってはさぞ金のかか る体だっただろうと考える余裕すらあった。 冨家の命乞いは言葉になっていなかった。智永が一一発撃ちこむと、冨家が愛してやまなか

7. リミット

ろ 64 った脳死がその身にも訪れた。血液が流れでて心臓が止まれば、それは完璧な死に至る。冨 家の臓器は誰かのために役立つのだろうか。 部屋から車に戻って一時間ほどで婦人警官が現われた。今度は妊婦に変装かと智永は笑っ た。ほとんど時を同じくして、一台の車がマンションの前に止まった。どこかで見たことの ある男だと思った。どこかの部屋のインターホンを押して、宅配便の杢名を装ってオートロ ックの扉をくぐった。ワンダーランドでさらった子供の父親だ。他の被害者の親と並んでテ レビに出演したり、ミルク・パックに息子の写真を印刷して週刊誌で話題になったことがあ る。 婦人警官は四カ弖則の事件に突きあたることで、冨家の存在をあぶりだしたに違いない。 一一人が乗ったカリーナは走りだし、路地に消える。 婦人警官はみなとみらいの拳銃乱射事件で指名手配になっている。冨家の線から核心にど こまで迫っているのか分からないものの、智永たちは彼女が逮捕される前に決着をつけなけ ればならない。 婦人警官が知りえたことは、まだ警察当局には伝わっていないだろう。婦人警官が逃亡者 でいるうちに、彼女と、彼女の協力者となったあの父親を始末しなければならない。有働貴 之から聞きだした携帯電話の番号がある。電話一本で彼女は駆けつけてくるに違いない。対 決にふさわしい場所はどこだろうか、と智永はほくそ笑んで考える。

8. リミット

189 リ 1 & ポリスが差しこまれている。開発されたのは一八九九年。四が登場するまで、アメ リカの軍や警察関係で最もポピュラーな拳銃だった。ボニ 1 とクライドが警官隊との銃撃戦 で使っていた。クライド役のウォーレン・ビ 1 ティが両手に持って撃ちまくっている姿に、 篤志はシビレた。今では骨董品になっているこの銃がどうしても欲しくて、グレイ・ウオン に無理を言って取り寄せてもらった。タイ国軍の払い下げだと聞いた。 婦人警官が内部に入ったら、篤志がべンツに駆け寄り、金を確保するという手筈だった。 がくぜん 婦人警官が子供の声に辿りついて、その正体に愕然として引き返した時には、すでに金は篤 志の車に積み替えられている。あとは智永と泉水に合流し、追いすがる婦人警官を振りきっ て走り去るだけだ。 グラウンド・コートの婦人警官が扉をくぐったのを見届け、篤志は腰をかがめてべンツへ と走った。 はや 公子は工場内に入ると、逸る気持ちを抑え、ゆっくりと暗闇に目を慣れさせた。こういう 状況では極力、ハンディ・ライトを使わないほうがいいと教則本に書いてある。敵に位置が 悟られてしまうし、何かの拍子にライトが手から離れた時、すぐに目が慣れず立ち往生して かび、さ しまう。公子は黴臭い闇の奥へと体をくぐらせた。 「お母さん、お母さん・ :

9. リミット

419 奪計画と比べたら正攻法で、不確定要素も絡んでくる。警察が台風直撃という悪条件でも頑 張りを見せ、身代金受け渡しを阻止するようであれば、あっさりと計画を中止するつもりだ つつ」 0 智永の狙いは今や、金ではない。 あの婦人警官はすでに冨家と楢崎彰一のつながりに気づいているに違いない。一一度目の計 画では、楢崎彰一が被害者づらをしてこちらに金を届けにくることも分かっているだろう。 こちらが楢崎彰一と接触する時を狙い、婦人警官は必ず逆襲に転じてくると智永は確信して 指名手配中の婦人警官が、いかにして警察に追跡された楢崎彰一の動きを捉らえることが できるものか。お手並み拝見、という気分だ。 婦人警官をあぶりだすことが今の智永の最優先課題だった。 名則は有働公子というらしい 有働公子は智永のうなじに唇を押し当てて「子供はどこ」と囁き、首に腕を絡めてきた。 呼吸ができなくなった時に、一瞬、セックスの高みにも似た咸覺が智永を襲った。それは快 ぎんみ 感なのか恐怖なのかをゆっくりと吟味する余裕もなく、有働公子を背中から振り落とした。 有働公子を征服したい。 この感情は何なのか。母親の強さに畏怖しているのだろうか。立ちはだかるあの女を倒さ

10. リミット

156 電気的な犯人の声が聞こえてきた。「警察の責任者に替わってください。そこにいます ね ? もうあなたの下手な芝居は聞きたくない。どうせ警察官が電話に出てくるならば、責 任者をだしてください」 公子は曽根に受話器を差しだした。頷いた曽根がヘッドホンを外して、公子の持っ受話器 と交換する。 「私が話を聞こう」 「では要求します。これまで電話で母親役を演じて、私たちを欺いてきた婦人警官に金を持 たせ、車で運んでもらいます。行く先を指示するための携帯電話を一台用意してください」 表向きはその携帯電話に指示をするが、本当の行く先は例の中古ドコモにかけて知らせる つもりだ。 曽根は、特殊班の携帯電話の誉万を告げた。 「午後四時、窓にシールを貼っていない車に婦人警官が乗り、こちらの指一小を待ってくださ 。車の後部座席に警官を潜ませたりしないように。また、車の前方や後方に追跡車両を見 かけた時は、その時点で取引を中止します。運転するのは自分たちの仲間なんですから、前 回や前々回のようにことさら神経質になる必要はないでしよう。その婦人警官は信頼に値す る同僚ですかフ 「信頼している」曽根が憮然と答える。