警官 - みる会図書館


検索対象: リミット
107件見つかりました。

1. リミット

ろ 58 出来あがった臨月の右の脇腹にハサミで切り込みを入れる。そこがニューナンプを隠すた めのホルスタ 1 になる。マタニティ 1 をかぶり、右のポケットに穴をあけた。手を突っこん で腹綿に隠した拳銃を抜けるようにする。何度か練習してみた。 この作業の間、公子に雑念はなかった。きりきりとこめかみが軋むほどに集中し、拳銃携 帯の妊婦を作りあげた。 自分の目の前で射殺された制服警官を悼みながら、公子は武器を手にする。 米国スミス & ウェッソンをモデルに作られたミネべア製ニューナンプ三十八口径。全 長十九・八センチ、六百七十グラム。弾丸は六発入るが、警察では暴発予防のため撃針が当 たる部分の一発目は空けるようになっている。総弾数は五発だった。 警察には「拳銃事故防止三大鉄則」という標語がある。「取りだすな、指を入れるな、向 けるな人に」という五七七。これでは「ただ持っていればいい」と言わんばかりである。 実習もあまりやらない。警官たちは年に一一度、警務課から呼びだしがあって、深川の 術科センタ 1 で射撃訓練を行なう。一一十三メートル離れた直径五十センチの標的に向かっ て、五十発の実弾を撃つ。 だんこん 公子は教官から「こんなに弾痕不明が多くてどうする」と叱られてばかりだった。弾痕不 明とはつまり、標的のポードにすら当たらないということだ。射撃は苦手中の苦手である。 教官は握力の弱さが原因ではないかという。衝撃ではね上がった銃身を一兀の位置に補正でき

2. リミット

ろ 96 ノトカーの中に身を伏せた。 を潰す。ドアに手をかけて外に出ようとしていた警官たちは、。、 応援を呼ぶ警官の金切り声が聞こえる。 このまま警官たちを釘づけにして、校舎を回りこんで、裏の柵を越えれば外の道に出られ る。ニューナンプで撃ち返す警官がいたが、弾丸はどこへ飛んだのか分からない。泉水は邪 魔な蠅を追い払うように、ショットガンで掃射した。 一階の廊下に立った智永は、婦人警官が消えた方向へ足を向けた。三組の教室を覗き、婦 人警官の気配を感じたところでコルト・パイソンを目の高さに上げた。気配は思ったより近 くて、不意を突かれた。ドアの横に潜んでいた婦人警官が背中に飛びかかってきて、羽がい じめにされた。 その拍子に手から拳銃が落ちる。肉弾戦になった。びったりと背中から離れない婦人警官 ニューナンプを を振り落とそうと、智永は壁にぶち当てる。婦人警官はそれでも離れない。 持つ手が智永の首を絞めにかかっている。「子供はどこ」とせつばつまった母親の声が智永 の耳に熱くふりかかる。 「どこなの、子供は」 おたけ 背中に密着している婦人警官の腹。子供を世に送りだした子宮が雄叫びを上げているの か。智永は右の肘で攻撃する。手応えがあった。肘は婦人警官の横っ腹にめりこんで、首に はえ

3. リミット

三組の教室、机と机の間に体を隠していた公子は窓の外を覗いた。校庭の警官たちはやっ と車外に動き始めていた。公子にも時間の猶予はない。教室の床に転がっているニューナン かかっている手からカが失せた。智永は渾身のカで相手を振り落とす。教室の床に倒れた婦 人警官がニューナンプをこちらに向ける。撃たれる、という恐怖が智永を金縛りにしたが、 ためら 相手に一瞬の躊躇いがあった。智永は右足で蹴りあげ、婦人警官の手から拳銃が飛んだ。し かし智永のコルト・パイソンもない。素早く見回すと廊下に落ちている。智永は走った。そ の間に婦人警官は机の陰に隠れた。パイソンを掴んだ智永は教室内へ連射した。 35 7 マグ ナム弾を受けた机がはね上がった。ひとつ、ふたっ、みつつと宙に飛ぶ。智永も冷静さを失 っていた。婦人警官の姿を照準に捉らえられないまま、六発を撃ち尽くしてしまった。 「行けるぞ先生 ! 」 表から篤志の声がする。教室の暗がりに姿を消した婦人警官を深追いせず、智永は弾の装 填を諦めて玄関に向かった。 泉水のショットガンで蜂の巣になった三台のパトカ 1 は、鉄屑と化している。中に身を潜 めている警官に戦闘意欲などない。智永たちは楽々と逃走路を走ることができる。校舎を回 りこんで、金網の柵を越えた。セルシオとハイエースはワンプロック先の路上に止めてあ る。

4. リミット

408 カーラジオが台風の予想進路を説明していたことを思いだす。明日は大荒れの一日だとい ニュースはみなとみらいの拳銃乱射事件報道に多くの時間を割いていた。一億円を奪った 婦人警官は、死んだ警官から拳銃を奪って逃走しているということだった。 子供を奪われた香澄と心を通わせ、犯人からの電話に適切な応対をしていた婦人警官の顔 を白石は思い浮かべる。人間は分からない。ひと言でそう突き放し、人間理解を放棄するよ りない エレベーターを下りて、途中の酒屋で買ってきたビールの袋を左手に持ち替え、ポケット から鍵を取りだした時だった。 背後の闇から襲いかかってきた何者かに白石は背中を突かれ、ドアに体を押しつけられ た。肋に鉄の感触。銃口が突きつけられる。 「声を出さないで」 白石は促されて、ゆっくりと振り返ることができた。髪型は違っていたがあの婦人警官だ った。指名手配されている婦人警官がなぜ自分を襲うのか。 「ドアを開けて、中に入って」 言われた通り、白石は鍵を開けて、婦人警官に銃を突きつけられたまま自宅に入る。震え る手で電気をつける。ひとり住まいの二の床には昨日着たワイシャツが落ちている。現

5. リミット

240 マウスで資料をスクロ 1 ルした。ワンダーランドの被害者の則は古賀直樹。この写真を 撮った父親は古賀英寿。住所は横浜市神奈川区局島台。公子は素速く頭に叩きこむと、ダウ ン・ロ 1 ドされた資料を消去し、パソコンのスイッチを切る。あとは疾風だった。席を立っ て裏の通用門の扉を押したちょうどその時、店の正面に外勤警官三名が現われた。パソコノ を扱うコ 1 ナ 1 を店員に教えてもらって警官たちが足を踏みだした時には、公子がくぐった 通用扉は音もなく閉まった。 公子は通路から商品運搬口を抜ける。商品搬入の仕事をしていた店員にはうさん臭く見ら れたが、無事に店の裏通りに出ることができた。 周囲に目を配りながらファッション・ビルの前から表通りに出ようと角を曲がったところ で、外勤警官による職務質問の光景に出くわした。生命保険のセールス・レディのような女 性が身分証明を求められ、免許証を見せようとしている。 公子は大きく深呼吸をして怯えをかみ殺し、ガムを噛んでいるように口をくちゃくちゃと 動かし、一一十四歳のあか抜けない女が物々しい警官の様子に顔をしかめる、というリアクシ ョンを演じた。警官を無視したりすると逆に怪しまれる。 外勤警官と目があったが、そのアンテナに公子は引っかからなかった。警官はすぐに公子 から目をそらして、セールス・レディの免許証を確認する。 公子は表通りに出て駅前に向かおうとした。赤色灯をつけた一一一台の覆面車両が通りをやっ

6. リミット

ろ 45 るから」となだめているが、泣き声は止まらない。 乾いた銃声にも似た風船の破裂音に、誰よりもびくっと振り返った女がいた。青ざめた表 情をしていたが、音源は風船だと分かり、ほうっと大きな息を吐いた女は茶色のメッシュの 入った短髪、どことなく年齢不詳、丸い鼻。 ・コピ 1 を取 佐山巡査の目が引きつけられた。制服の胸ポケットから今朝配られたカラ 1 りだす。女と手元の写真を何度も見比べるうち、じりじりと隹つくような確信の念がみぞ おちから上ってくる。 保土ヶ谷署から一緒に配属された同僚警官のほうを見る。道に迷った年寄りの応対をして いた。一緒に警官詰め所までいってやる様子だ。 佐山巡査は応援を呼ぶことを諦め、公子の背後へと一歩踏みだす。十歩ほどで辿りつける 距離だった。 誘拐犯グループと共犯の可能性がある擎視庁の特殊犯捜査係の婦人警官を、職務質問によ って逮捕。神奈川県警の外勤警官としてはこれ以上の勲章はない。 泉水は智永の指示通りに、群衆の外周りを迂回し、婦人警官の背後に回りこんでいた。だ らりと垂らしたタンクトップのシャツの下には、ジーンズの腰に差しこんだミリタリー & ポ リスがある。

7. リミット

ろ 64 った脳死がその身にも訪れた。血液が流れでて心臓が止まれば、それは完璧な死に至る。冨 家の臓器は誰かのために役立つのだろうか。 部屋から車に戻って一時間ほどで婦人警官が現われた。今度は妊婦に変装かと智永は笑っ た。ほとんど時を同じくして、一台の車がマンションの前に止まった。どこかで見たことの ある男だと思った。どこかの部屋のインターホンを押して、宅配便の杢名を装ってオートロ ックの扉をくぐった。ワンダーランドでさらった子供の父親だ。他の被害者の親と並んでテ レビに出演したり、ミルク・パックに息子の写真を印刷して週刊誌で話題になったことがあ る。 婦人警官は四カ弖則の事件に突きあたることで、冨家の存在をあぶりだしたに違いない。 一一人が乗ったカリーナは走りだし、路地に消える。 婦人警官はみなとみらいの拳銃乱射事件で指名手配になっている。冨家の線から核心にど こまで迫っているのか分からないものの、智永たちは彼女が逮捕される前に決着をつけなけ ればならない。 婦人警官が知りえたことは、まだ警察当局には伝わっていないだろう。婦人警官が逃亡者 でいるうちに、彼女と、彼女の協力者となったあの父親を始末しなければならない。有働貴 之から聞きだした携帯電話の番号がある。電話一本で彼女は駆けつけてくるに違いない。対 決にふさわしい場所はどこだろうか、と智永はほくそ笑んで考える。

8. リミット

ろ 10 していた。足を棒にして地取りから帰ってきた捜査員たちが、担当課長に一日の報告をして いる。片野坂は玉川署の刑事課長に報生曇務があった。 有働公子が端末から閲覧していた連続幼児失踪事件の捜査ファイルをもとに、三件の被害 者宅を訪問したことをかいつまんで報告した。横浜在住の親は終日不在。川口と入間の親に は会うことができたが、有働公子らしき人間を見たことはないし、過去に会ったこともない と言われた。 「有働の写真を、君たち県警の連中は交番の警官にも持たせているそうだな」 報告のあと、刑事課長が片野坂に皮肉を言った。 その話は高津署の後輩から聞いていた。擎視庁から取り寄せた有働公子の写真を一一一千枚コ ピーして外勤警官に配った。外勤警官がもし職務質問で有働公子を逮捕できたとしたら、表 彰に値する。開けてみたら千円札一枚の「金一封」だろうが、擎視庁の婦人警官に手錠をか けた警官は後世までの語り草になるに違いない。気分的には賞金稼ぎだろう。 報告を終えて帰宅を許可された片野坂は、テープルの一角で自分を手招きしている曽根に 気づいた。 「埼玉まで歩き回ったそうだな。ま、一んでけよ」 片野坂の分も麦茶がある。曽根の向かい側に座った。 「どうですか、被害者対策のほうは」

9. リミット

189 リ 1 & ポリスが差しこまれている。開発されたのは一八九九年。四が登場するまで、アメ リカの軍や警察関係で最もポピュラーな拳銃だった。ボニ 1 とクライドが警官隊との銃撃戦 で使っていた。クライド役のウォーレン・ビ 1 ティが両手に持って撃ちまくっている姿に、 篤志はシビレた。今では骨董品になっているこの銃がどうしても欲しくて、グレイ・ウオン に無理を言って取り寄せてもらった。タイ国軍の払い下げだと聞いた。 婦人警官が内部に入ったら、篤志がべンツに駆け寄り、金を確保するという手筈だった。 がくぜん 婦人警官が子供の声に辿りついて、その正体に愕然として引き返した時には、すでに金は篤 志の車に積み替えられている。あとは智永と泉水に合流し、追いすがる婦人警官を振りきっ て走り去るだけだ。 グラウンド・コートの婦人警官が扉をくぐったのを見届け、篤志は腰をかがめてべンツへ と走った。 はや 公子は工場内に入ると、逸る気持ちを抑え、ゆっくりと暗闇に目を慣れさせた。こういう 状況では極力、ハンディ・ライトを使わないほうがいいと教則本に書いてある。敵に位置が 悟られてしまうし、何かの拍子にライトが手から離れた時、すぐに目が慣れず立ち往生して かび、さ しまう。公子は黴臭い闇の奥へと体をくぐらせた。 「お母さん、お母さん・ :

10. リミット

198 億入りのグラウンド・コートを後生大事に抱えていた篤志は、突然の乱入者を前にして足が 止まった。迫りくるポンネットをよけようと、両足でジャンプするのが精一杯だった。背中 に衝撃を食らう。一億円が手からふっ飛ぶ。篤志はべンツのポンネット上をトランポリンの ように跳ね、地面に叩きつけられた。何が起こったのだ。何がやってきたのだ。分かりきっ ている答えは、やがて目の前に現われた。車から飛びだしてきた婦人警官がのしかかり、篤 志の喉を締めつける。その手に拳銃が握られる。篤志のホルスターから奪い取ったミリタリ ー & ポリスだった。俺の銃に触るなと篤志は叫びたかった。 「子供はどこ」 ぎトっそう 婦人警官は鬼の形相だ。俺を心底憎んでいる。これほど他人に憎まれたのはいつ以来だろ う。怒れる婦人警官は左手で喉を締めつけ、右手にミリタリー & ポリスをかざしている。や はり女だ。締めつける力が弱い。お前は握力いくつだ ? そんな非力で警察官が勤まるの か ? 篤志は嘲笑った。 コ一一口いなさい。子供はどこ」 婦人警官が撃鉄に指をかける。これには篤志も参った。この古い銃は引き金があまい。撃 鉄が上がったら最後、いっ暴発してもおかしくないような銃だ、すげえ恐い、篤志は恐怖し ながら笑っていた。