122 どうして、と子どもたちはふしぎそうな顔をした。 「だって先生のはお金で買っただけのものでしよ。あなたたちは自分で大事にしていたも のをあげたのだから、その方がずっとまごころがこもってるわー 「まごころよりチョコレートのほうがええ」 芳吉は正直なことをいった。 話しているうちに、子どもたちはそれそれなにか大事なものをもっているらしいことが わかった。 「見せてほしいナ」 と小谷先生がいうと、子どもたちはいっせいに眼をかがやかせて、 「見せてやるよー とさけんだ。そして、われさきにとかけ出していった。 小谷先生がみさえにおみまいを手わたしていると、大きな箱をかかえて功がいちばんの りした。 小谷先生にはよくわからないが、功のあつめているのは機械のこわれたものらしい。ラ ジオとか時計はわかった。 「おれ、エンジン組み立てられるよー 功は得意そうにいって、ばらばらの金物を手ばやく組み立てた。小谷先生は感心してな がめていた。
「フアフア、フアフア」 バクじいさんはなにやらいっしようけんめいさがしている。そばにいた功の父は気がっ 「入れ歯や、バクじいさん入れ歯を落としよったんや」 大笑いになった。みんなでさがしてやっと入れ歯はみつかった。水道の水であらって口 に入れると、やっともとの、、ハクじいさんにもどった。 鉄三は声をあげて笑った。小谷先生は鉄三の手を引いてたしなめているが、自分でも笑 こうしている。 いをころすのにへい 「出発 ! 」 功はどなった。そんなにうれしそうに笑っているときじゃないんだ、なにもかもこれか らなんだそ、功のきびしい声はそういっているようだった。 出発ーーなんていいことばだろう、小谷先生は鉄三の手をしつかりにぎりながら、しみ じみ思うのであった。 眼大八車はまたぶきような歌をうたいはじめた。 の 兎
そうじゃ どうやら悪人ではないらしい。純はふたたび腰をおろした。小谷先生もしやがんでみた もののなんだか落ちつかない。 「みなさんのご関係は。まさか親子ではありますまいな」 「学校の先生、おれは生徒」 アイスキャンデーをしゃぶりながら純はいった。 「これはまたおどろきいった。またまたなにゆえに、学校の先生がクズ屋をやっておられ るのか」 純はじゃまくさそうにあらましの話をした。 「おどろきいったる美談、せっしゃいたく感激もうした。いやいやみあげたご心底」 「オッチャン、オッチャンは時代劇みたいなもののいい方するねんなア」 みさえがいた 「せっしやは現代がきらいでござる。電気も自動車もみんなきらいでな、しかしアイスキ 眼ャンデーは好きでござる のみさえは笑った。 兎「よし、それではせっしやにまかされよー けったいなオッサンはそういって立ちあがった。そして大八車を自分で引いて歩きはじ めた。オッサンはさっそうとしていた。
「そりや、だれでもこまるわな」 足立先生も真顔になった。 このあいだ、・ トロポーの被害で、おみまいをもらっている小谷先生は、たいへんつらい 思いがした。 「そいで、なんか金もうけをみんなで考えとったんやけど、そないかんたんにお金はもう かれへんな」 功はしょん・ほりしている。 「学校でカンパをつのっても、やったことがやったことやから、ちょっとあつまらんやろ な」 と、太田先生はいった。 「功ちゃん、こんどお給料もらったら、わたしいくらか出すわー 小谷先生がそういうと足立先生はうらめしそうな顔をした。 「それをいうてくれるなよ。おれは飲み屋の借金でびいびいいうてるんやから」 眼「六万円か。えらいまたたいへんな襲撃をやったもんやな。戦争は勝っても負けても高く 兎折橋先生は折橋先生らしいことをいっている。 「せつかく買ってきたんやから、たべろよ」 足立先生はみんなにたいこ焼をすすめた。
165 兎の眼 当番がまわってこなくても、この仕事のたいへんさは、子どもたちによくわかっている ようだった。 当番の二、三日前になると、すでに当番のおわった者のところへいって、いろいろみな 子のことをたずねている。淳一はさしずめみな子の専門家だ。だれがききにきても、淳一 はていねいに教えてやっている。 小谷先生は当番のはじまった日から学級通信の発行をはしめた。みなこ当番のようすを 中心に、その日のクラスのできごとを家庭に知らせるのだった。小谷先生は通信のはじめ に、このあいだの淳一のことばを大きな字で印刷した。 みなこちゃんがノートやぶったけど おこらんかってん 本をやぶってもおこらんかってん ふでばこやけしゴムとられたけど おこらんかってん おこらんと でんしやごっこしてあそんだってん おこらんかったら みなこちゃんがすきになったで
「さあーと、小谷先生はいじがわるい 「くるよ、な、せんせい」 二、三人の子がたまりかねたようにいオ 「きてほしい ? 」 「うん、きてほしい」 子どもたちは声をそろえていった。 「めいわくをかけられてもきてほしいの」 「いいよ」 たけしが、ひときわ大きな声でいって、みんなはいっせいにうなずいた。 みな子が、そのクエゲストとかいう山につれていかれてはたまらないと、子どもたちは 思ったのかもしれない。 さいしょの試練が小谷先生にやってきた。職員室で子どもの作文を読んでいると、教頭 先生がちょっとと呼びにきた。 眼「校長室や」 の教頭先生はあまり、きげんがよくない。 兎校長室にいくと、小谷学級の子どもの親たちが十四、五名も立っている。 「ご父兄があなたと話をしたいということでみえられているんだが : : : 」 校長先生はこまったような顔をしている。 っこ 0
「功くん、それクロッキーするときこ、 冫しいワ。また貸してよ 「いいよ、貸してやるよ」 子どもたちはつぎつぎ、いろいろなものをもってきた。ガラクタばかりなのだが、なか 冫はいろいろおもしろいものがあった。 「恵子ちゃん、それなに」 「なんやと思う。あててみ先生ー 功がよこからいった。 ガラスにはちがいないのだが、さまざまな形だし、色もひとつひとっちがっている。き れいなピンクがかかっていたり、陶器のようにしぶい青があったりする。恵子はそれをた くさんもっていた。 「きれいなもんねえ。なんなのいったい、教えて」 「あのね先生、ビンがとけてできるんよ。ゴミの中にビンがまじっていることがあって、 知らないで燃やしてしまうでしよ。そうすると長い時間焼かれていて、こんなのができる 眼の。灰の中にまじってる の へえ 1 と、また小谷先生は感心する。 兎「ひとつ、あげよかー 「だって恵子ちゃんの大事なもんでしよう 「先生がほしかったらあげるワ
「おありがとうございますー と頭をさげて、投げられたものを、うしろにかくした。そこで子どもたちはキャッキャ ッと夭一つ。 つぎの子は女の子で、 「はい、おこじきさん」といって、諭の前に白いものをおいた。 諭はまた、おありがとうございますといって、頭を下げた。 「かわいそうなおこじきさん。ちゃんとおちょうだいをしなさい」 これも女の子がままごとするような調子でいった。諭はにやにや笑いながら、いわれた とおり、手をかさねておちょうだいをした。 そのとき小谷先生は諭に近づいてそれを見ていたので、手の上におかれたものが給食の ハンであることを知った。 「なにをしているのー 思わずするどい声になっていた。諭があわてて、うしろのものをかくした。 「諭ちゃん、それを見せなさい」 眼 諭はしぶしぶそれを前に出した。十四、五枚の給食のパンだった。 の 兎 / 、谷先生はこわい顔をしていた。 いいなさい照江ちゃん 「だれがこんな遊びをはじめたの、え、 「だれって : : : みんながしているから、わたしもしたの」
「なん匹くらいおるやろ」 「百匹くらいやろか」 「二百匹はおるで」 子どもたちはひそひそ話したが、この中から一羽のキンタロウをみつけだすのは、とう ていむりなように思われた。 それでも子どもたちはねっしんに見ていった。 「こらっ ! 」 とっぜん大声でどなられて、子どもたちはとびあがった。おどろいた鳩がものすごい羽 音を立ててとび立った。 鳩と子どもたちはひっしで逃げた。鳩はつかまっても学校に報告されないが、おれたち はそうはいかん、職員室でねちねちゃられるのはたまらんわい とちゅうで芳吉がひっくりかえったが、はよおきろと功に尻をけられて、半泣きで走っ た。やっとの思いでヘいをよじの・ほって、おいかけてきた守衛のオッサンに悪たれをつい 眼 「デブ、くやしかったらここまでこい」 の 兎つかまった者はだれもいなかったが、とうとうキンタロウはみつからなかった。 子どもたちはがっかりしていた。 芳吉はひざから血を流している。
足立先生は浩二のカバンを見てたずねた。 「学校へいってん」 「学校って、姫松小学校へか」 「うん」 「そうか、おまえもがんばるなア」 足立先生はしみじみいった。 浩二は処理所の中へかけこんでいった。浩二はホームランを打った野球選手のように、 からだ中、あちこちたたかれながら、大歓迎をうけた。 浩二についてきた足立先生はそのようすをたのもしそうにながめていうのだった。 「おまえたちが大きくなったら、どんな世の中になるやろなア」 浩二は夕方まで処理所で遊んでいた。日が沈むと浩二はしょん・ほりした。浩二がなにを 考えているのか、子どもたちにはよくわかった。 「浩一一、かえるか 眼功は、浩二をはげますようにいっこ。 の 「うん」と浩二は元気がない。 兎「送っていってやるワ、な、みんな」 「うん、送ってやる」 子どもたちは浩二を中心にして、いっせいにかけだした。浩二を送っていくと、かえり