足立先生があまりあっさりいったので、子どもたちはしばらくその意味をとりかねてい 「先生のおにいちゃんは、みさえのおにいちゃんみたいに本を読むのが好きやった。死ん だとき、文庫本の『シートンの動物記』がポロポロになってポケットにはいっとった。な ん回も読んだんやろなア 足立先生は遠いところを見るような眼をした。 「ドロポーして平気な人間はおらんわいな。先生は一生後悔するような勘ちがいをしとっ たんや。先生はおにいちゃんの命をたべとったんや。先生はおにいちゃんの命をたべて大 きくなったんや」 子どもたちはしーんとしている。 「先生だけやない。いまの人はみんな人間の命を食べて生きている。戦争で死んだ人の命 をたべて生きていゑ戦争に反対して殺された人の命をたべて生きている。平気で命を食 べている人がいる。苦しそうに命をたべている人もいる」 眼足立先生はそういってまた眼をとじた。 の「先生のおにいちゃんがかわいそうやー 兎みさえがしくしく泣きだした。 足立先生はやさしくみさえをだきしめた。 「みさえは心のきれいないい子やな。ほら見てごらん。また流れ星がながれた。あの星は
募集しておったんで、なにをする会社かよう調べもせんと、ただ朝鮮に行ける、朝鮮で働 ける、それだけで応募してしもたんです。そのとき、わしゃちょっとでも罪ほろ・ほしをせ にゃならんと思うとったんでしよう」 小谷先生はからだをかたくしてきいていた。身一つ動かしてもわるいような気がした。 「わしはその会社の量地課というところにまわされたです。しばらくしてその課がなにを するところか、じきにわかったです。わしや日本人の悪ちえにびつくりしたですわい。な んのことはない朝鮮人をごまかして、人の土地を自分のものにしてしまうちゅうことです わい。その当時、朝鮮の農民は字の読めん人が多かったですが、そういう人におっそろし くむずかしい申告書をかかせますんじゃ。あたりまえのことですけんど、ほとんどなにも かけませんわい。すると所有者不明白な土地ということにして、没収してしまいますんじ ゃ。そういう土地をタダみたいな値で払いさげてもらって、日本人の移民に売りつける仕 事をその会社はやっとったわけですが、おしまいのころには、ごまかす方の仕事もひきう けてやっておったようです。わしや、からくりがわかると、むしろその会社にはいったこ 眼とをよろこびました」 の 、、ハクじいさんはそこでことばをきった。 兎「どうしてですか」と小谷先生はたずねた。 「わしや、すこしでも朝鮮人の味方をして、とりあげられる土地をすくなくしてやろうと 思ったんですわい。けんど、それはあまい考えでしたわい。三カ月ほどして、わしゃ憲兵
今次大戦末、九州大学で行われた外国人捕虜の生 遠藤周作体実験。この非人道的行為をモチーフに、日本人 海と毒薬 の罪責意識を根源的に問う問題長編。 豊かな人生経験を持ち、古今東西の文学に精通す 一迅藤周作る著者が、わかりやすく男女間の心の機微を鋭く 恋愛とは何か 解明した、全女性必読の愛のバイプル。 山里に庵を結ぶ狐狸庵山人が、彼一流の機知と諧 ぐ、ったら生舌入門遠藤周作謔のうちに、鋭い人間観察と、真実に謙虚に生き セ ることへのすすめをこめたユーモアェッセイ。 鹿田二郎は入社早々、渡辺クミ子に出逢った。 ス 遠藤周作「気持ちは優しいが、少し間が抜けた世話やき姉 天使 べ ちゃん」と先輩は言うが : 庫 堺の富を後ろ楯に持つ「水の人 . 小西行長と、自分 遠藤周作しか頼れなかった「土の人」加藤清正。出発から違 蚊宿敵国国 っていた二人はやがて死闘を演じる宿敵となった。 角 人の心の不思議さ、心と現実世界の密接な関係を 遠藤周作対談の名手・遠藤周作が、河合隼雄、カール・べ 心の海を探る ッカーらと語り合う。人の心の深淵をのぞく一冊。 O のテルコはマモちゃんにべタ惚れ。全てが彼 愛がなんだ 角田光代最優先で会社もクビ寸前。だが彼はテルコに恋し ていない。直木賞作家が綴る、極上″片思い〃小説。
294 るんです。給食のおばさんのご苦労もさることながら、食物によその学校以上に神経をつ かわなくてはならないというのは、われわれ父兄としてほうっておくわけこま、 ) 。・ ~ し、刀子′、し日ー 題です。一部の人の待遇の問題で、この地区全体の人が不利益をこうむるというのはおか しいと思うんです。全体のことを考えていただきたいですわ」 一「三人が発言をしたが、いずれも同じような意見だった。 「ほかにちがった意見をおもちの方はおりませんかー と議長がうながした。 うしろの方で手をあげた者があった。勝一の父だった。 「ひとっふたっきかしてほしいことがありますねん。ひとつは処理所の人たちにおたずね したい。あんさんらはどうしてご自分でストライキをしないでかわいい子どもさんにそれ をやらせるのか。もうひとつは瀬古さんという方におたずねしたい。もし、お宅の子ども さんが埋立地から通学せないかんということになったらどないしやはりまっか 徳治の父が答弁に立った。 「わしらは学問がおまへんよって、うまいことりくつはよういいまへんが、思っとること だけはいうておきます。さっき瀬古さんとかいう方が身内の問題で人にめいわくをかける なというとられましたが、そらそのとおりだす。そう思っとるから、わしらはストライキ をせん。労働者はストライキをする権利をもっております。それでもわたしらはぎりぎり しんぼうしておるのです。自分の子どもを学校にやらなかったら、自分の子どもの勉強が
に落とされる。もちろんその前に、ゴミは燃えるものと燃えないものに、あらく分けられ ている。燃えにくかろうとくすぶろうと、燃えきるまで、ただ時間をかけてまっている。 だから焼却口から落とすゴミのかげんで、能率がよかったりわるかったりした。だ、こ、 二十四時間で一区切りがついて、灰が落ちる。灰のたまるところは地下室ふうになってい るが、とり出しロは運ばんのつごうで道路に面している。 灰のとり出しは午前中におこなわれた。灰をかぶるので、たいてい作業員はふんどし一 あき つで、そばで見ていると、なかなかそうれつだ。しかし、ときにはスプレーの空カンが破 れっしたり、ガラスの破片で手足を切ったり、たいへん、きけんな仕事でもあった。焼却 場のよこには大きな雨天体操場のような建物があった。処理しきれないゴミをここにため ておく。梅雨のころに、ここにゴミがたまると、くさったものの熱で、部屋全体がむっと した。 この建物からすこしはなれたところに、処理所で働いている人たちの家屋が、十四、五 けんハーモニカ長屋ふうにならんでいた。 鉄三の家はこの長屋のいちばん東のはしにある。 ここで働いている人たちは、大まかにいって二つに分けられた。 一つは役所の職員でコンクリート の建物の中で事務をとったり、現場で働いている人た ちのかんとくをしたりしている人で、この人たちは夕方になると、それそれの家へかえっ ていった。
「なにあの人」と江川先生はたずねた。 「ちょっと説明がしにくいわ」 小谷先生はこまっている。 「やあやあ、こんどはなんの商いでござるか」 この人にはヘんなところばっかり見られると、小谷先生はちょっとはずかしい気持だ。 「このあいだはありがとうございました」 それでもちゃんと礼をいった。 「オッチャン、あたいらストライキをしてるねん 「ストライキ ? 」 せっしゃのオッサンは。ほかんとした。 「学校にまいらぬのか」 「そう、ストライキ中」 眼「学校の先生も生徒といっしょに、ストライキをいたされるのか」 の 小谷先生はどういっていいのかこまってしまった。どうもこの人に会うとなんだかへん 兎になってしまう。 「純ちゃん、説明してあげて」 純が話をした。
裏切 総会で一方の決議文が否決されたとき、足立先生は青ざめてつぶやいた。 「これで攻撃される方にまわってしまった」 そのことばはすぐ具体的な形になってあらわれてきた。 功の父が役所に呼び出された。埋立地への転居を承知すれば職員に採用して班長の地位 をあたえるというのであった。 功の父はその場で課長をどなりつけてかえってきたので、そのときはたいしたことにな らなかった。 五人の先生も役所に呼び出された。指導主事がまっていた。手にビラをもっている。 「このビラにかいてある教員有志というのは先生方のことですかー 眼「そうです」 の「五人だけですかー 兎「ざんねんながら五人だけです」 足立先生の言い方がおかしかったのか指導主事はちょっと笑った。 「あなた方の熱意には敬服しているんですー
280 「いろいろわけがあってむずかしいんだけど、鉄三ちゃんの住んでいる処理所が、おひっ こしをしなければならなくなったの。みんなだって、お家がかわったら学校もかわるでし よ。こまっていることはね、処理所の人たちがおひっこしをしたいわけじゃなくて、お役 所のつごうでおひっこしをしなければならなくなったの。お役所のつごうということは、 このへんに住んでいる人たちのつごうということになるから、それで、たいへんこまって いるの」 子どもたちはわかったようなわからないような顔をした。 「がっこうに、はいがふるからいけないんでしよ」 道子がいった。 「そうよ」 「おかしいなあ」と道子は首をかしげた。 「それだったら、しよりじよだけおひっこしをして、てっそうちゃんたちはわたしらみた いにこのへんにすんだらいいんでしよう。わたしのおとうさんだって、おしごとはでんし やにのっていくのよ」 そのとおりだ、こんな一年生の子どもでもわかっていることを、役所の人たちはどうし て本気で考えてくれないのだろう、と小谷先生は思った。 「てっそうちゃんはこのごろいいことばっかりしているのにね」 いつのまにきていたのか、たけしがぼつんといった。
134 隊にしよっぴいていかれました。ほんとうにわしは神さまをのろいますじゃ。ほんの三カ 月ほど朝鮮の人の味方をしたばっかりに、わしは朝鮮独立の運動をしている人を、二、 人知ってしまったんです。憲兵隊の拷問は警察のなん倍もなん倍もひどいもんですわい 先生のような若い女がきいたら、きくだけで気絶してしまいますやろ。わしは恐ろしいだ けでなしに、人にはいえんはずかしい拷問を受けたです。肉体より先に心がずたずたにな ってしもうたですー バクじいさんはそのときの苦痛を思い出したのか、じっと眼をとじた。小谷先生は心の 中でひめいをあげた。 「人間ちゅうもんは、ほんとうによわいもんですわい。わしはたった三日ともたんで、な にもかもしゃべってしもうたです。それから二日ほどして、わしゃ憲兵に自分のしゃべっ た結果を見せられました。さあ十二、三げんも家があったんでしようか。後かたもなく焼 きはらわれており、黒こげの死体があちこちにころがっておったです。小さな死体もあり ましたから、女、子どものようしゃなく、みな殺しだったんでありましよう。人間ちゅう もんはじき悪魔になれると、さっきいいましたが、あれはわしにいうたことなんですわい。 その死体を見て、たいへんなことをしてしもたと思うより先に、これで自分の命がたすか ると、吹き出てくるよろこびに身をまかせておったんですわい。わしは金にどういうてあ やまればいいですか、金のおっかさんにどういうてあやまればいいですか」 バクじいさんは、じっと涙をこらえているようだった。 ひと
る そ の と き 教 、室 の が あ 並 先 の 顔 が に ゆ う と っ き 出 た だ ょ ち し し ら く ク ツ ノ 27 兎 いグ はう ン首人夏ねた打子予報 報カ っち は出 て尸 つね いて しも らナ ゆな にら でを とれ わナ なせ いる やも よす 。る で句 き生 い青 いき なか いあ てた へ寛 にだ いな の カ ス タ ネ ッ ト の 力、 ん 局 日 が 教 室 中 をよ ね ま っ つ て 子 ど も た ち も 谷 生 も 気 で あ タ ン タ タ タ タ タ タ ン で き 、人め は を ふ て る け で も の じ ま す よ う は タ タ タ いだ先 ま は だ人く いそせ と いカ、か いらな はお子 く めれも き て 、ん ち う の なめ谷をわ ←生 、はて の休 み を 遊 。び し か な ど ち に 大 だ小子あら と っ そ 、ん な 日 ど も ん な く 人小しれけ る よ う な じ で 。る 年・ 四 組 の 教 室 て な く て の よ き は で な く て 力、 ら の か わ り か ら だ で リ ズ ム の いれた いんち さ の 声 が て そるあ う く ず冫 て も はだぬ い文よ いはな ス モ ツ 警 し、 の る う クセ ・つ た 秋 が 近 の か も し れ な 教 員 ヤ ク ザ 足 先 生 2