『よい結品検波器を作るには、どんな考え方で方針をたてれば て よいのだろう ? 』 た という発想法をとった。つまり、理論的に考えて理づめにしてみ 器針器 流に波ようというわけである。 整面検 ン表品そこで『理論的』に考える時に助けとなる理論そのものがど レの結 セ上たの位あるかという事を第一に検討した。 そうしてみると、第図 3 の様な、例えばセレン整流器に対す る理論はあったけれど、今扱わねばならない 2 の様な結品検波器 図 については、まだ充分な理論は形成されていなかった。特に、結 第 品検波器では、金属の鋭い針先が結品表面に圧着されているだけ の構造で、それをどう扱ったらよいかまだ不明の点が多かったのである。 しかし、少なくとも出発点として選ぶとすれば、一応このセレン整流器などに通用している 理論を足がかりにする他にない。そこでべンザーはその頃通用しているモデルを取りあげた。 これは第図の様に、半導体の表面と金属とが接触している部分に、電気的二重層ができてい 本の中の方に向 るという図式である。半導体の表面上にマイナスの電荷がっき、そこから半導イ って。フラスの電荷が分布する、これが電気的二重層の正体である。 何故半導体の方にひろがって、金属の中の方にひろがらないかというと、金属は半導体にく らべて自由な電子がはるかに沢山あるので、その中はどこも常に殆ど同じ電位にあり、空聞的 ( b) 102
しい。基本的な理論と現象との間に、まだ相当のへだたりがあるからで、実験の進み方をにら んでいて 「そこは、こんな測定をやってごらん。その結果がこう出たら、次はこんな工夫をしてみる と、バンド構造の性質が顔を出すだろう」 といった風に、進歩の方向をしつかり握っていて指針を与えることが仲々難しい。 マサチ = ーセッツ工科大学のレディカーが、æZ 接合レーザ 1 を開発した時の理論家の協力 を冗談ましりにこう話した事がある。 「理論屋さんには、『これこれのことをやったら、一体どうなるでしよう ? 』と相談したっ て駄目だ。実験をすましてから、『こうやったら、こうなりました。どうしてでしよう ? 』 と尋ねるべきなんだ」 そういって彼は独特のかん高い声を上げて、カラカラと笑った。これは、理論屋を皮肉ったの ではなく、理論屋への期待と、その仕事の難しさとを表現している。 やがて一九六五年九月になって、今度は米国のベル研究所のモルトンが、先のカシマーの見 解に対する批判をふくめた議論をス・ヘクトラム』という雑誌にのせた。モルトン も、トランジスタ一族は、そのはたらき、信頼性、値段のどの面からみても、殆ど本質的な限 界に近づいていると認めている。そして、この行きづまりを打開する迄は、過去十五年に起こ った様な華々しさを期待することは望めまいという意見である。 しかし、カシマ 1 のハネムーン論に一つの異を唱えているところが面白い。 248
式回をもとにして逆に電荷 0 を出してみると、理論的に予想される⑨式による e の値に対し Q'S Q10 ( 12 ) となっている事が判った。いいかえると、実験の電流変化から求めた電荷の量は、コンデンサ の容量から推論される量の 1 以下である事が判明したのである。 コンデンサである以上、⑨式による電荷量が誘起されている事は明らかである。してみる と、式囮の結果は 『電荷は誘起されるが、その殆どは、ゲルマニウムの中を動かない』 という事をあらわしている。これは当時、まだはっきり説明できない事であった。 さて、失敗つづきのショックレ 1 は、研究の進め方について考え直さねばならなくなった。 ここで、彼は彼自身の考え方 ( フイロソフィ 1 ) を適用した。 例えば 『うまく行かない様な現象が起こる時は、どうしたらうまく行くかを考えるよりも、どうい う方法を意識的にとったら、ひどく悪くなるかを調べる方がいい』 といった様な、いろいろのフイロソフィ 1 を駆使する彼が、ここでとった方法は 『失敗の連続の原因を調べるために、一度物理学に立帰ろう』 という事であった。そして思い切った研究の方向転換を実行した。 ショックレ 1 のこの様なやり方は、米国の技術開発の仕事の中にいつも見られるところであ
く装置であるため、頭の中がどうしても混乱する。 そこで、ある人は『対応』理論を作りあげた。これは、真空管のあたまを、トランジスタの あたまに切りかえる理論である。つまり、トランジスタ回路の電流を、真空管回路の電圧に、 インダクタンス キャパシタンス 一方の容量 (o) を、他方の誘導ア ) に、一方の抵抗 ( ) を、他方の伝導 (e) に、 という様に、それぞれ対応させてやると、全く同じ形の回路理論の式がそのまま共通に通用す る事を示したのである。 しかし、こういう真空管にこだわった考え方は、結局はそれ程の価値のないものである事が 判って来た。そして、技術者は、真空管から離れて別個のものとして、トランジスタ回路を 扱う感覚を学び、身につけはじめたのである。これは、やはり大きな革新といわねばならなか った。 字宙技術をはじめ、ひろく通信技術その他の面で、トランジスタ以来の驚異的な進歩は、例 をあげると殆ど際限がない。 特に電子技術が医療に生かされつつある様子は、最近ではしばしば紹介されている。聴診器 がトランジスタによって高感度になったり、消化器の内部の温度、圧力、酸度をしらべるため に、小さいトランジスタ発振装置を封入したカ。フセルを患者に飲ませ、それから出る電波を追 跡する方法がとられたり、いろいろな成果が報告され、実用化されている。最近では、ボタ 。フルの心電計がトランジスタで作られ、電池四個で働き、虫めがねでオシロスコープのパター ンを観測する様になっていて、目方がわずか三求ンドなので、必要に応じてどこにでも持って
くつかの試みが出されたが、はじめのうちは正しいものとはいえないのが多かった。 一九三八年を過ぎると、セレン整流器や、亜酸化銅整流器についてはかなりよく現象を説明 できる理論ができて来た。しかし、これとても、整流器工業にすぐ生かされる様なものという より、もっとアカデミックな色彩が強かった。これらの整流の理論が、英国やドイツで生まれ 育ったものである事も、こういう性格の一つの原因だったといえるだろう。 さて、そこにマイクロ波工学の進歩と、レーダーなど応用面からの強い要求によって、鉱石 検波器の改良の必要が生まれた。国防上のコントラクト研究 ( とよばれた ) も組織さ れた。この大きな規模の研究に、 二つの流れがあった。一つはベル電話研究所など、大会社の 付属研究所で、こういったところでは、結品を加工したり、純化処理をしたりするやり方で 技術面の進歩に寄与する仕事が開拓されて行った。当然沢山の技術者達をうまくコントロ 1 ル 明 夜して力を結集し、金を効果的につぎこんで、飛躍的な技術の進歩を得ようという活発な仕事が ス多かった。 もう一つは、同じくこのコントラクトに乗った大学の教授達である。かの有名なハンス・べ 1 テ ( 原子物理学 ) や、ワイスコップフ ( 同上 ) など、半導体とは一寸縁の無さそうな教授達 レ までが、鉱石検波器の電気的な特性を理論的に扱う様な仕事をかなりやっていたのもこの頃の 代ことである。 この後者の中に、インディアナにあるパデ = (Purdue) 大学のべンザ 1 がいた。この人 1 の
傾きは大体「」という値になるべきである。ところが、砒化ガリウムの接合の特性をい くらしらべても、こうはならない。第図⑤の曲線の様に、理論よりもはるかに横に寝た感し の結果ばかり出てくるのである。つまりク紅となるべき傾きが、この値よりも半分、 1 一 3 、時 にはもっと低い値にさえなってくる。 リンカン研究所のグループの大将レディカーは、ここでもう一段立入った理論と対比する事 を考えた。というのは、この傾き 4 が実験で低い値に出てくる一つの理由は、接合の部 分に第図に書いた様な不純物のエネルギー準位が沢山あるためだという理論があったのであ る。もし、この種の不純物が沢山あると、この不純物を経由して電子と正孔が非常に早く消滅 する。そういう場合には、式は成立たないというのである。 レディカーは、それなら、 ( もし本当にそういう事が起こっているというのなら ) 、その時外 に出てくる光の波長は、第図のに対応しているのだから、砒化ガリウムのバンド・ギャッ て。フから期待される光の波長よりも長い波長が観測される筈だと考えた。そこで赤外光線に感 求ずる感光装置を作って試してみたのである。 性ところが驚いた事に、感光装置の針が振り切ってしまった。波長がに対応するかに対 ヒヒ 応するかをしらべる前に、に対応する波長付近をみているだけで、指示メーターの針が右へ ハネ切ってしまったのである。これは、とにかく信じられない程強い光が Z 接合から出てい る事を意味している。 間題は急旋回をはじめた。 233
一理論的な基本概念 半導体の純粋に物理学的な性質や、それを理解するための理論について、くわしく述べるこ とは、この本の目標に入らない。しかし、これまでに触れてきた、半導体らしさと呼んださま ざまな性質や、これから述べようとする新しい諸現象について、少し立入った話をする上に、 ある程度の基本的な概念はどうしても必要である。 そこで、必要な範囲で最小限度の物理学的な概念を、ここで整理しておくことにしようと思 、つ 前にも述べたが、半導体という材料は、よくは判らないままに、その便利な性質は比較的早 くから経験的に見つけられ、また利用されてきた。整流現象、光に感ずる現象、温度差で起電 力が生する現象など、皆かなり使われてきたのである。しかし、その現象の本質が理解される 様になったのは一九三〇年頃を境としてであって、それまで我々は極めて乏しい知識しか持ち 合わせていなかったのである。 少し前にさかのぼって考えてみると、物理学には やはり半導体というものには、それらしい特色があるわけで、ここに述べたのが、その例で あり、そして、話を判りよくするために、特に現象論的にそれをならべてみたのである。
これをきいて、トランジスタの生まれる前の彼の失敗の連続がどんなにかこの人にとって痛手 だったのだろうと私は想像した。 そのショックレーが珍らしく将来について何かを述べた事がある。一九六五年十月に、スタ ンフォード大学で行なわれた新しいビルディングの記念式の招待講演である。 「半導体の将来を決める鍵は、材料科学であろう。恐らくこれは輝かしい将来をもつに違い ない。しかし、どんな事が実際に行なわれるかを今指摘する事はできない。 つまり、その将来を決定するものは予想されない突然の発見が作るきっかけであろう。 ただ、どうしても見当をつけろと言われれば、 物質の強さ、特に材料の疲労に対する強さ。 2 ・今よりもっと小さい場所の中で、もっと高い能率で電気的、磁気的な作用を起こせない という様な事を考えるのが大切な課題となるだろう。 ・、、ハンド構造のもっともっとくわしい事を解 一番大切なことの一つは、結品のエネルギー 明する仕事であろう。例えていえば、電子という自動車をつめ込む駐車用ガレージとして びどんなエネルギー構造をもっ半導体がよいか、そしてそれをどうやって作ったら良いかとい す う間題を考える事である」 む ショックレーの一一 = ロ葉を待つまでもなく、こういう仕事は、特に理論家達にとって常に大切な 課題であった。しかし、半導体に関しては、まだ理論家が実験家の隣りに坐る事はかなり難か
1 まえがき 半導体 : からくりに満ちた電気材料 可能性の宝庫・ 技術革新の立役者 : 半導体の持ち味・ 2 物理学と工学との対話 半導体をなかだちにして 理解する前に使われた・ 半導体らしさ・ 理論的な基本概念・ 工学から物理学へ じ 70 52 39 : ・〔三九〕
図の例では、両側に型の領域がありその間に Z 型の部分がはさまれている。この、 Z 、 p-«、というサンドイッチ構造を作れば、これはトランジスタになるたろうというのがショ ックレーの予一言であった。 実際には、結品の中に型にする部分には例えばインジウムの原子を、型にする部分には 例えばアンチモン原子をわずかずつ加えておけばよいわけである。 ただ、ここに条件がある。それは、真中の Z 型の領域の厚さを、非常に薄くしなければいけ ない。たとえば、少なくとも五〇ミクロン ( 一ミクロンは一〇〇〇分の一 ミリメートル ) 以下 にしなければ駄目だという事である。そうしなければ、使いものになるだけの増巾作用は得ら れない。 この事は、点接触トランジスタの場合に、二本の針を充分に近づけて立てないと増巾現象が 嘘得られなか 0 たのと同じである。 ショックレーはこの型の構造をもとにして、物理的な解析から出発して、トランジスタの設 時 ス計理論 (Design Theory) を展開した。 この点は点接触トランジスタの場合と全く対照的である。点接触トランジスタは、『予想し ない奇妙な現象の発見」から生まれ出た。大が歩いて棒にあたった様な偶然がそこにあった。 ク レ しかし、新型のトラジジスタについては、原理を踏まえた上での論理的な操作が骨格をなし 工 ている。まだ実験的に何もできていない段階で既に設計理論がまとまったのである。土台とな 5 った原理は、点接触トランジスタを解明する仕事の中で生まれたものである。つまりショック