移動度は電子などの、動き易さのめやすである。 さて、金属の場合、温度を上げて行くと、〃の方は殆ど変わらないが、温度の上昇にともな って、結品の熱エネルギ 1 は大きくなって来る。これは結晶格子を形成する原子の振動が大き くなってくる事に相当するので、電子はその間を走り抜け難くなってくる。こみ合う雑踏の中 を走り抜けるのが大変なのと同じで、これは結果として移動度〃の減少となって現われる。① 式で″が減れば、は大きくなる。これが第図の金属の場合である。 これに対して、半導体の場合は、温度が上がってくると、電子は熱エネルギーによって伝導 帯に叩きあげられ、同時に、価電子帯に正孔を残す。このどちらもが電気伝導に寄与するか ら、この場合には 1 と書かねばならない。すなわち、電子、正孔それぞれ〃という濃度となり、電子、正孔は、そ れぞれという移動度をもつわけである。温度を上げると、〃が非常に早く増大し、 が ( 金属の場合と同じ理由で ) 減少するよりもはるかに強く大きくなるから、結果として 半導体では第肥図の様に、温めると o- が減少するのである。 この他、光をあてると、抵抗率が減少する事もバンドモデルで具合よく理解することができ る。これは、光をあてると、光のエネルギーによって価電子が伝導帯に上げられるからであ る。
の方に移る事ができる様になってくる。ところが、同じく伝導帯でありながら、 << ととでは ・非常な違いがある。それは、 << の中では電子の移動度は大きいが、の中の移動度は非常に小 きいという事である。 したがって、電場が高くなると、 << の中にいて早く走っていた電子達の、かなりの部分は の方に引越しをする。そうすると走る早さが急に小さくなる。伝導率びが ・ : ( 25 ) という形で、移動度に比例する事から判る様に、この結果、そこに抵抗率の高い層が発生する わけである。 こうして、ガン効果のアウトラインは理解されて来た。正直にいうと、まだよく判らない事 もかなりある。けれど、大筋はこれで判ったといってよさそうである。 ガン効果は一九六五年、。フリンストン大学で開かれた固体電子装置会議では一つのセッショ ン ( 分科 ) の題目にまで昇格した。研究対象として重要で、その上面白いものとして充分な資 め格を与えられたのである。同時に、技術者達はよってたかってガン効果を本当に袋叩きにして を来たといってよい。特に米国の技術者達は、いつでもこの猛烈さを示す。何かが出れば、白か ヒヒ み日れ 黒か、良いか駄目か、そして、その本性は何か、という事を、最後の『めど』がつくまで短時 次日のうちに追いつめる。それは袋叩きという外はない。 ガン効果はこうして、物理学的にも、電子工学の対象としても、わずか三年の間に殆どの仕 事がすまされてしまった。 209
のである。 こういうことの一つの例がある。 結品の電気的な伝導率びは、先にも示した様に、 0 Ⅱ 2 ミ : という様にあらわされる。銘は伝導に寄与する電子 ( 或いは正孔 ) の濃度、クは電子の電荷 量、そして″が例の移動度である。くり返すけれども、移動度というのは、結品に、 一センチ メートルあたり一ポルトという電位差があるときの電場の強さのもとで、例えば電子がどの様 な速度で走るかを示す量で、判り易くいえば『電場のもとでの、動き易さ』を意味している。 ところで、私達の生活している様な温度では、結品を構成している原子は、その平均の位置 を中心に、熱エネルギーによって振動をつづけている。これらの熱運動は、原子ごとに勝手に 動くからこちらの原子が右へふれるときに、次の原子も右へという具合にいかない。従っ て、ちょうど 「気を付け』 の号命のかかっていない隊列で、隊員が勝手にがやがやと身体を動かしているところを走り抜 けようとすると、到るところで衝突するために走りにくいのと同様に、結品の中の電子は、少 し走っては衝突して運動の向きを変えることをくり返さねばならない。もしこういう衝突が無 ければ、原子と原子の間はいわば真空なのだから、電場のために電子は加速されてどんどん速 度を増して行くに違いない。実際は結品の中の電子はいくらでも早い速度になる事はなく、あ
がま 電圧がある値に達すると、電流電圧特性は突然振動に入ると 辺下 いう事であった。そして、この振動は電圧のある範囲内では夘 1 以 つづいて観測された。そして、その振動は雑音ではなく、特 —J 試 定の周期、すなわち決まった周波数をもつ、安定なもの のらさ 果かきであった。彼がこの時使った試料は第行図の様に一辺が数ミ 効大 ンの リ以下のサイコロ状の結品で、その向い合う面にも電極をつ ガ数で け、これに電圧をかけたのである。 図 そして、少なくとも次の様な関係がある事を彼は発見し 第 た。すなわち、結品の長さをんとし、振動が起きる時の電場 の大きさを、電子の移動度を佐とすると、起こっている振動の周期は、 : ( 24 ) 桑。 E という関係がほぼ満されるというのである。 この事は、当然、次の様なイメ 1 ジを我々に与える。 彼が見ている振動は、少なくとも『何ものか』が、結品の中を電子の速さで走って通ること によって起こされている。という事である。しかし、一様に分布している電子が結品の中を通 り抜けたとしても、それによって電流に振動が生じるという事は考えられない コンファレンス 現象の説明は不明に残されたが、ミシガン会議に集まった技術者達はこのガンの報告に一様
る一定の速度を平均として持っている。これはこういった衝突をくり返すためなのである。 さて、動き易さ ・ : 移動度 : : : を支配するもう一つのものが、実は不純物原子である。例 えは前にも書いた様に、アンチモン原子は結品に入ると、電子を一個結品中に解き放つ。とい う事は、その原子自身は。フラスの電荷を持って、結品中に固定されるわけである。 第四図に書いた様に、結品の中に、この様な。フラスの電荷があると、その近くを走って来た 電子は、自分自身のマイナスの電荷と、不純物原子の。フラスとが引き合うカの影響をうけて、 グ 1 ッと進路を曲げられる。まっすぐ来たものが、その進路をまげられるという事は、いわは 移動度が減った事に相当する。 この様に、電子又は正孔の動き易さ卩は、結晶の純粋さに非常に影響される。この様な事を 示す面白いデータがある。トランジスタの生みの親の一人、・ショックレーは、昔その著書 の中に、第図の様なグラフを掲げた。彼は報告される移動度の値が一九四五年以来、年と共 話に大きくなって来る事に気付いたのである。 の もちろん、半導体は生物ではないから、自分で年と共に進化す AJ 学 0 るわけはない。これは全く、技術者が『よりきれいな』「より完 工 AJ 図全に近い』結品を作る方法を考え出し、実現して来たからの事で 学 理子 第ある。たとえていえば、技術者によって、年々改良され、飼育さ 物電 れたと一一「ロ、つこともできる。 ショックレーは同じ本の中で、半導体から出てくる『雑音』に 十
一つ一つの結品粒の中では原子が規則正しく並 んでいるのだから、それぞれは単結晶である。し かし、単結晶の粒のよせ集めは、全体として単結 品にならない。この事を第訂図は示している。 ところで、何故、全体を単結品に仕上げないと いけないのだろうか ? 図 粒界という場所は、電子の流れに妨げとなるか 第らなのである。第図に書いた様に、走って来た 電子は、この粒界を通過する時にあたかも鋭くそ びえる丘を来り越えねばならない様な作用を受け る。それは粒界というものが、電子を捕えて、電 子に対するポテンシアルエ . ネルギ 1 を変え、これ が電子には邪魔なものとして働くからである。 こういう粒界が沢山あるという事は、したがっ て当然、電子や正孔の動き易さ、いいかえれば移動度を低める事になる。この事は、先に述べ たショックレ 1 の予言にも関係し、年と共に移動度が大きくなって来た一つの理由でもあっ て、はしめの頃研究に使っていたのは多結品であったのである。 だからトランジスタを作るのに、この様な粒界が邪魔になるのは当然で、結品そのもののも 電 結晶粒界 2
ついて述べているが、そこで 「今に、結品技術が進むにつれて、 もっと静かな結品ができる様になるに 違いない」 大 畄日 と書いている。これは、今日を見越し た、誠にすぐれた洞察であった。本当 共孔 と正 に、今日の結品は、昔の結品よりも雑 年〇 1 ま , 0 音が少なくてずっと静かである。それ 度電 3 は、結品作りの技術が進歩したからで ある。 よ 妬図 半導体結品の中が、均質で、規則正 0 0 1 人っ 0 しく、必要な不純物が、設計通りに結 〇第 品中に配分されている場合にのみ、半 導体装置はすばらしい性能を示す。同 時に、それが技術的に可能になった頃 から、半導体の物理学は急に発展しはじめた。そして、そのおかげで、また、新しい現象がみ つかり、新しいアイデアが生まれて、そこから工学の分野に波紋がひろがり出したのである。 移動度 ( crn2 / ポルト・秒 ) 5000 1000
ゲルマニウム原子は種結品の上につく。これがく り返されるので、丁度、沃度というエスカレータ ーに乗ってゲルマニウム原子は co から種へと移動 することになる。しかも、この反応はかなり低い 温度 ( ゲルマニウムの融点よりはるかに低い ! ) で進行するので、種結品の上につくゲルマニウム は良い単結品として成長するのである。 郎この時、ドナ 1 又はアクセ。フタ不純 型型型型型 0 ー Z Q. Z Q- 物原子を同時に運 子 ばせる様に工夫すれ 種 ば、成長した単結品 は、 A-A 型、 Z 型、い ずれにもなるし、ま たその抵抗率を加減 度 < 度 az することも易しい。 例えば第図 3 の様に、強い Z 型の結品、強い型の結品 rh の二つをアン。フルの両端において、温度分布を << の様にすれは種 (N 型 ) ゲルマニウム源 ゲルマニウム源 (P 型 ) 種子結晶 ゲルマニウム 第 65 図 ( b ) 160
2 物理学と工学との対話 まず、半導体と絶縁物の違いは、第図の様に、伝導帯と価電子帯との間にある、エネルギ ・ギャップの大きさの違いである。半導体に比べて、絶縁物の方がエネルギ 1 ・ギャツ。フが 大きい。 これが大きいと、例えば摂氏二〇度の温度で、結品の熱エネルギーをもらって、伝導帯へと び上がれる電子の数が非常に少なくなる。物理学の式を使うと、このギャツ。フが一寸大きくな っただけで、伝導帯に上がれる電子は指数函数的に減ってくる事が示される。 伝導帯の中の電子の数が減れば、それだけ電気伝導は減り、すなわち抵抗率は大きくなるこ とになる。こうして、半導体と絶縁体との違いは、共通の言葉の上で理解された。 次に、金属は反対にエネルギー・ギャツ。フがゼロに等しい場合と考える。この場合は、温度 をあげても、電流を運ぶ電子の数は増えない。実際に ら体 は、温度を上げると抵抗率が少し増加した。 ( 第図 ) 本吐絶 抵抗率 (e-) 、伝導率 ( び ) は、次の様な関係にあ / 構と る。 ギ導 1 ⅡⅡ 7 ミ ネた違 工みの ここで、〃は、電気伝導に関与しているもの ( 例えば 図 電子 ) の濃度、〃は電子の電荷量、″は単位の電場の モピリティ もとでの速さ、すなわち移動度とよばれる量である。 半導体 5 6
というのは、ある種の半導体の中の電子は、電場を極端に強く して行くと、やがて動き易さが減ってくるという傾向を示す事 が判っている。第図に示した様に、電流を電場に対してとっ てみると、はじめ電流は電場に比例して大きくなって行くけれ ども、ある程度以上電場が大きくなると、先に述べた衝突をす 図 る場合に、持っているエネルギ ] を充分に『結品を作る原子 達』に与えてしまえなくなり、このために、電子の平均のエネ ルギーが段々大きくなる。つまり、結品の持っエネルギ 1 より も、平均して高いエネルギーを電子達は保っている状態になっ てくるわけである。つまり、結品の平均の温度よりも、電子の 「平均の温度』の方が高くなってくる。たとえていえは、人間 の身体が、血液と筋肉とが平均して同じ温度につり合っている状態ではなくて、血液ばかりを 温めると、血液から筋肉にその熱が充分によく伝わって行かない場合には、筋肉よりも血液の 方が温度が高いという状態になる。 そこで、こういう様に、電子の方だけが電場からもらったエネルギーのために温かくなって 、 ~ かい電子」あるいは更に強くなると、『熱い電子』とよんでいる。 いる状態を、『日皿 電子が熱い状態になると、電子の流れが邪魔されるメカニズムが変わってくるために、動き 易さは減ってくる。つまり移動度はヘってくる事になる。これが第簡図の現象である。 電法 / ノル 電場 E 202