アイズ - みる会図書館


検索対象: 痕跡 (下)
23件見つかりました。

1. 痕跡 (下)

の微物についてきいたのは、 ) しまがはじめてよ。この事件の解明に協力してほしいと いうことでリッチモンドへ呼んでおきながら、その件については知らせなかったわ け ? 」ドクター・マーカスを見て、それからフィールディングに視線を移した。 「ぼくは知らないよ」フィールディングがいう。「証拠の採取をしたのはぼくだ。で も検査室からは結果の報告をもらっていない。電話もない。最近はいつもそうだけど ね。直接結果を知らせてもらうことはまずない。 この件も昨日の遅い時間に、はじめ てきいたんだ。帰りに車に乗ろうとしたとき、彼が」と、ドクター・マーカスをさ す。「そのことをいいだした」 「わたしも昨日遅くにはじめて知ったんだ」ドクター・マーカスがつつけんどんにい った。「アイスだかアイズだかってやつが、ここでの仕事のやりかたについての、ば かげたメモをしよっちゅう送ってよこす。自分ならもっとうまくできるといわんばか りにね。そのなかにまぎれこんでた。これまでの検査では、役にたつようなものは何 も見つかっていない。毛髪が数本と、何かの小片だけだ。塗膜片と思われるものもま じっているが、そんなものはどこにでもある。車のかもしれないし、ポールソンの家 のなかのものかもしれない。自転車やおもちゃということもありうる」 「車の塗料ならわかるはずよ」と、スカーベッタがいった。「家のなかのものとも、

2. 痕跡 (下)

「キットのことをおぼえてます ? 」アイズはキットがそばにいるかのようにきいた。 だが彼女の姿は見えない。「今日はきてないんだけど。病気で休んでいてね。まった く、だれもかれもがインフルエンザにかかっているみたいだ。きっと彼女もあいさっ したかったと思いますよ。会えなかったことを残念がるだろうな」 「わたしも残念だったと伝えてね」三人はアイズの作業スペースにある、細長い黒の カウンターのところへきた。 「ええと、電話のある静かなところがどっかにないか ? 」と、マリーノかきいた 「あるとも。角をまがったところに、室長の部屋がある。今日は法廷にでていていな いから、そこを使ってくれ。彼女は気にしやしないよ」 「それじゃ、あんたたちは泥あそびしててくれ」マリーノはむこうへいった。長時間 がにまた気味にゆっくり歩いてい 荒馬に乗ったあとのカウポーイのように、 アイズはカウンターにまっさらの白い紙を敷いた。スカーベッタは黒いケースをあ けて、土のサンプルをとりだした。複合顕微鏡を見るときにスカーベッタがとなりに すわれるよう、アイズは椅子をもう一脚ひきよせ、彼女に検査用手袋をわたした。こ の作業は一連の手順をふんでおこなうが、最初のステップがいちばん簡単だ。アイズ はスチール製の小さなへらをビニール袋につつこみ、赤土と砂のまじった泥をほんの

3. 痕跡 (下)

からスカーベッタが局長に復帰してリッチモンドへもどるという話をアイズとプラウ ニングがしはじめたとき、どんな気持ちになったかも忘れてはいない。彼女はそんな ことを何もいっていなかった。ほのめかしもしなかった。マリーノは屈辱を感じ、腹 をたてた。ビールからバーポンへうつったのは、そのときだ。 前からセクシーだと思ってた、とアイズのばかがあっかましくもぬかした。そして しいおつばいしてる 彼もバーポンを飲みはじめた。しばらくするとアイズはさらに、 よなといって、おわんの形にした両手を胸にあて、にやにやした。あの白衣のなかに はいってみたいぜ。あんたは昔からずっといっしょに仕事してるだろ ? だからもう なれちまって、いい女だってことがわからなくなってるんだよ。プラウニングも、ま だ見たことはないがうわさはきいたことがあるといって、やはりにやっとした。 マリーノは何といえばいいのかわからなかったので、最初のバーポンを飲みほして 一一杯目を注文した。アイズが彼女の体をじろじろ見ていると思うと、なぐってやりた い気分になった。もちろんそんなことはしなかったが。マリーノはプースにすわって 飲みながら、スカーベッタが白衣を脱ぎ、それを椅子にかけたり、ドアの裏のフック にさげたりする様子を、思いうかべまいとした。現場でスーツの上着を脱いだり、プ ラウスのそでのボタンをはずしたり、死体が待っているときにいろんなものをつけた

4. 痕跡 (下)

「途中でコーヒーを買った。セプンーイレプンで。それで検屍局の数プロック手前で タクシーをおりた。すこし歩いて頭をはっきりさせようと思ったんだ。それがちっと 。役にたった。半分生きかえったような気がしたぜ。で、なかへはいっていくと、彼 女がそこにいやがった」 「検屍局へいく前に、留守番電話のメッセージをきいた ? 」 「ああ、きいたかもしれねえ」 「そうでなければ、会議があることはわからなかったはずよ」 「いや。会議のことは知ってた。アイズがで話してたんだ。何かの情報をマー カスに伝えたと。メールで送ったといってた」そこで考えこむ。「うん。そうだ。 思いだした。マーカスはそのメールを見るとすぐアイズに電話してきて、翌朝会議 をひらくから必ず局内にいるようにといったらしい。会議で何か説明してもらうかも しれねえからと」 「じゃ、昨日の晩、会議の話をきいたのね」 「そうだ、ゆうべはじめてきいた。あんたも出席するようなことをアイズがいってた から、おれもいかなきやと思ったんだ」 「九時半からということも知ってたの ? 」

5. 痕跡 (下)

っとくけど、おれにとっ 「びんいりのバドワイザーを六本。レギュラーサイズだ。い ちやたいした量じゃねえ。平気さ。ビール六本なんて、あんたにとっての半本ぐらい 「まさか。その計算については、またあとで話しましよう」 「説教はいらねえ」マリーノはつぶやいて、スカーベッタをちらっと見た。それから むつつり黙りこんで、彼女をじっと見つめた。 「ビール六本とステーキとサラダね。で、ジュニアス・アイズとプラウニング 刑事といっしょに。わたしがリッチモンドへもどるといううわさをきいたのは、ゝ ごろ ? 三人で食事しているとき ? 」 「あれこれ考えあわせてるわけだな」マリーノが不機嫌そうにいう。 アイズとプラウニングは、プースで彼のむかいにすわっていた。球状の赤いガラス 下 容器のなかでろうそくの炎がゆれ、全員がビールを飲んでいた。アイズが、スカーベ 跡 ッタのことをどう思ってるのか、正直なところを教えてくれ、とマリーノにいった。 痕 医者で局長の、えらい先生なのか ? ほんとはどんなふうなんだ ? えらい先生だけ ど、えらぶったりはしねえ。マリーノはそういった。それだけはおぼえている。それ

6. 痕跡 (下)

いわ」そう答えたとき、ステンレスの扉があいて、ジュニアス・アイズの姿があらわ れた。彼は白い廊下でふたりを待っていたのだ。 「ジュニアス、どうもありがとう」スカーベッタは手をさしだした。「また会えてう れしいわ」 「喜んでお手伝いさせてもらいますよ」アイズはちょっとめんくらっているようだ。 彼はうすい色の目をした、いつぶう変わった男だ。上くちびるのまんなかが割れ こうがいれつ て、そこから細い傷あとが鼻のところまでつづいている。先天性ロ蓋裂の治療のため の形成術がうまくいかないと、こんなふうになる。これまでに同じような例を何度も 見たことがあった。外見はともかく、彼はどことなくふつうとちがっている。スカー ペッタは昔から、検査室で出会うたびにそう思っていた。当時はあまり話はしなかっ たが、何らかの事件で彼の助言を求めることがたまにあった。局長だったころ、彼女 は愛想よくふるまったし、検査官たちを尊敬していたので、その気持ちを態度にもあ らわした。しかし必要以上に親しくはしなかった。科学者たちが検査室で作業してい る様子が見える、大きなガラス窓のあるいりくんだ白い廊下をアイズといっしょに歩 きながら、スカーベッタは当時のことを思った。あのころ、自分がとつつきにくく、 よそよそしいと思われていたことを知っている。局長として尊敬されてはいたが、慕

7. 痕跡 (下)

35 痕跡 ( 下 ) 暗号のような自己流の速記を使うのだ。 スカーベッタはクリップポードをもった男に名前をきき、彼はバド・ライトだと答 えた。ヾ い「・ ) フイト ヒールみたいでマリーノにはおぼえやすい名前だ。といっても、 であれ、ミラー・ライトであれ、ミケロプ・ライトであれ、ライトとっくものは彼の 好みではないが。スカーベッタは、土のサンプルをとりたいので、テッドが倒れてい た正確な位置を知りたい、 とバドにいっている。バドはすこしもふしぎそうな顔をし なかった。建設作業員がトラクターに轢かれると、必ず美人の女性検屍官と の野球帽をかぶった大男の警官がきて、土のサンプルをとっていくものだと思ってい るのだろうか。彼らはまた深い泥のなかを歩いて、ビルへ近づいた。マリーノはその あいだずっとスーズのことを考えていた。 昨夜、マリーノはのバーで、ウイスキーをもう一杯飲もうとしているところ だった。昔から彼がのろまのアイズと呼んでいるジュニアス・アイズとざっくばらん な会話を楽しんでいるところだった。プラウニングはもう帰ってしまっており、マリ ーノはひとりでしゃべりまくっていた。そのとき携帯電話が鳴った。この時点ですで にかなりいい気分になっていたので、電話にでるべきではなかったのかもしれない 電源を切っておけばよかったのだが、そうしていなかった。すこし前に、ベルを鳴ら

8. 痕跡 (下)

153 痕跡 ( 下 ) すこし、スライドにぬりつけた。そしてそのスライドを顕微鏡の載物台にのせた。レ ンズをのぞきながらピントを調節し、ゆっくりスライドを動かす。スカーベッタはそ ばで見ているが、スライドになすりつけられた、しめった赤っぽい泥のほかは何も見 ータオルのうえにおき、同じ方 えない。アイズはそのスライドをはずして白いペー 法でさらに数枚のスライドを用意した。 ビニール袋にはいっているのは、スカーベッタが解体現場で採取した土だ。ふたっ めの袋の土を調べはじめたとき、アイズがようやく何か見つけた。 「実際に見なきや、とても信じられないな」接眼レンズから顔をあげていう。「どう ぞ」自分の椅子をうしろに押しさげて、スカーベッタのために場所をあけた。 彼女は顕微鏡に近づき、レンズをのぞいた。さながら小さなごみ捨て場のように、 砂などの鉱物、植物や昆虫の断片、たばこの小片などが散らばっている。汚い駐車場 にふつうに見られるものばかりだが、やがて金属のかけらが見えた。一部がつやのな い銀色をしている。これはあまり一般的ではない。先のとがったものがないか探し、 手の届くところにいくつかあるのを見つけた。それを使ってそれらの金属片を注意深 く動かし、他のものからはなした。このスライドには、それが三個ある。みな石英や 石などの粒の大きなものより、わずかに大きい。ふたつは赤い色をしており、ひとっ

9. 痕跡 (下)

155 痕跡 ( 下 ) は前と同じだ。トラクター運転手の場合は、塗膜片や骨のかけらが見つかってもつじ つまがあう。だがギ リー・ポールソンの事件では説明がっかない。なぜ同じ微細な証 拠が、彼女のロのなかからも見つかったのだろう ? 「同じゃっだ」アイズが確信ありげにいった。「病気の女の子のスライドを見せまし ようか。信じられませんよ、きっと」自分のデスクのうえからぶあつい封筒をとりあ げ、おりぶたのうえにはってあったテープをはがし、スライドがはいった厚紙のファ イルをとりだした。「彼女の証拠をずっと手近においてたんです。しよっちゅう見て たからね」スライドを載物台にのせる。「赤、白、青の塗膜片。金属片にくつついて いるものと、そうでないものがある」スライドを動かして、ピントをあわせた。「こ の塗料は単層で、たぶん工ポキシエナメルだろう。ぬりなおされているかもしれな つまり、最初は白だったが、そのうえにさらに塗料をぬった。具体的には赤、 白、青の塗料を。見てごらんなさい」 アイズはポールソン事件の証拠として提出された微物のなかから、それらの小片だ けを根気よくとりわけており、スライドには赤、白、青の塗膜片だけがのっていた。 それらは大きく色あざやかで、子供の積み木のように見えるが、形は不規則だ。つや のない銀色の金属にくつついているものと、塗膜だけのように見えるものがまざって

10. 痕跡 (下)

。し。い。なんだか頭が破裂しそうになってきた。べつのことを話してもいいです 「ど一つそ」 「やれやれ。骨に関してはあなたのほうがくわしい。それはたしかだ」彼はスライド をギリー・ポールソンのフォルダーにもどした。「でも塗料のことはぼくもかなり知 っている。病気の女の子とトラクター運転手のどちらの場合にも、上塗り剤と下塗り 剤は見られない。だからあの塗膜は自動車のものではない。塗料のしたの金属は磁石 にひきつけられないから、鉄はふくまれていない。まっさきにそれを調べたんです。 で、結論をいうと、あれはアルミニウムです」 「赤、白、青のエナメル塗料がぬってある、アルミニウムでできたもの」スカーベッ タは考えていることを声にだした。「それと骨のかけらがまじっている」 「おてあげだな」と、アイズかいう 下 「いまのところはわたしも同じだわ」 跡 「骨のかけらは人間のものですか ? 」 痕 「新しいものでないとわからないわね」 「新しいって、どれくらい ? 」