ドクター - みる会図書館


検索対象: 痕跡 (下)
67件見つかりました。

1. 痕跡 (下)

「何かあるだろう。盲腸の手術のあととか。何かない ? 」 「ありません」 「もうじゅうぶんだ」べントンがルーシーの耳のなかでいった。冷静な声のなかに、 怒りが感じられる。 だがまだじゅうぶんではない。 「今度は診察台からおりて、片足で立ってもらおう」と、ドクター・ポールソンがい 「もう服を着てもいいですか ? 」 「まだだ」 「もうじゅうぶんだ」べントンの声が耳のなかでひびく 「さあ立って」ドクター・ポールソンが命じた。 ルーシーは診察台にすわってフライトスーツをひつばりあげ、そでに腕をとおして ジッパーをあげた。時間がないのでプラはつけない。 , 彼女はドクター・ポールソンを 見つめた。緊張し、おびえたふりをするのは、もうやめている。ルーシーの変化に気 づき、彼の目が反応した。ルーシーは診察台からおりて、ドクター・ポールソンに近 ついた

2. 痕跡 (下)

ドクター・ポールソンはまず片方の孔房のしたに、ついでもう一方の乳房のしたに 聴診器をあて、彼女の体にさわった。ルーシーはじっとしている。呼吸がはやくな り、心臓が激しく打っている。恐怖ではなく怒りのためだが、彼女がこわがっている とドクター・ポールソンは思っているにちがいない。べントンの目にはどんな映像が うつっているのだろう ? ペン形カメラをさわりながら、ウエストのまわりのフライ トスーツの具合をさりげなくなおす。ドクター・ポールソンは彼女の体にふれなが ら、自分が見たりさわったりしているものに関心がないふりをしている。 「十度さげろ、もっと右だ」と、べントンが指示する。 ルーシーはさとられないようにペン形カメラの向きを調整した。ドクター・ポール ソンは彼女を前にかがませ、背中に聴診器をあてはじめた。「深呼吸して」と指示す る。診察しながら、巧妙にルーシーの体をさわったり、こすったり、手を丸めて乳房 下 を囲ったりする。その一方で、彼女に自分の体を強くおしつけていた。「傷あととか 跡 あざは ? 見たところ、何もないようだけど」ルーシーの体をなでまわしながら調べ 痕 る。 「ないと思います」

3. 痕跡 (下)

「彼が書いたものはずい、 ふん読んだわ」と、彼女はいった。リー ガルバッドのうえで 指を組んでいる。長い爪は完璧に手人れされ、深紅のマニキュアがぬられている。 「そうかい。それじゃ、プロファイリングなんてものはフォーチュンクッキーと同じ ぐらい当てになんねえ、とやつが考えてることも知ってるな」 「いやがらせをいわれるためにここへきたんじゃないんだけど」ウェーバー特別捜査 官はドクター・マーカスにいった。 「おっと、そりや悪かったな」マリーノがドクター・マーカスにいう。「彼女を追い はらうつもりはねえんだ。のプロファイラー課の専門家なら、微細な証拠のこ とをなんでも教えてくれるにちげえねえもんな」 「もうたくさんだ」ドクター・マーカスが腹立たしげにいった。「プロフェッショナ ルらしくふるまえないなら、でていってもらおう」 「いやいや、おれのことは気にしねえでくれ。おとなしくここにすわって話をきいて 下 るから。つづけてくれ」 跡 フィールディングはファイルフォルダーを見つめて、ゆっくり首をふっている。 痕 「話を先にすすめさせてもらうわ」と、スカーベッタはいった。もう気をつかうつも りも、如才なくするつもりもない 「ドクター・マーカス、ギリー・ポールソン事件

4. 痕跡 (下)

ドクター・スタンリー・フィルポットの診療所は、ファン地区のメイン・ストリー トに面した、れんが造りの白っぽいテラスハウスのなかにある。ドクター・フィルポ ットは一般開業医だ。昨夜遅く、スカーベッタが電話してエドガー・アランについて きかせてほしいとたのんだところ、とても丁寧に応対してくれた。 「ご承知でしようけど、患者のことはお話しできないんですよ」と、最初はいった。 「警察に令状をとってもらうこともできますけど」と、スカーベッタは答えた。「そ うすればすこし気が楽になるかしら」 「いや、それでも、ちょっと」 「彼の件でお話しする必要があるんです。明日の朝一番に、診療所へうかがってもい 下 いかしら ? お気の毒だけど、警察も何らかの形で彼のことをあなたからきくことに 跡 なると思 , つわ」 痕 ドクター・フィルポットは警察の人間とは会いたくないと思っている。パトカーが 診療所のそばへきたり、待合室へ刑事があらわれて患者を不安がらせたりするのはい

5. 痕跡 (下)

239 痕跡 ( 下 ) 「おすわりなさい」と、命じる 「何のまねだ ? 」彼は目をむいた。 「すわるのよ ! 」 ドクター・ポールソンは身動きせず、彼女を見つめている。ルーシーの経験では、 弱いものいじめをするやつはみな臆病だ。′ 彼もその例にもれず、びくついているよう だ。ルーシーはもっとおびえさせようとさらに近づき、胸ポケットからペン形カメラ をとりだし、接続コードが見えるようにもちあげてみせた。そして「周波数テスト、 おねがい」と、べントンにいった。階下の待合室とキッチンにしかけた盗聴用送信機 をチェックしてもらうためだ。 「異状なし」と、べントンの返事がかえってきた。 よかった。階下では何の物音もしていないようだ。「あんたはいま、とんでもなく 困ったはめにおちいってるのよ」ルーシーはドクター・ポールソンにいった。「ここ でおこってることをすべて、リアルタイムで見て、きいてる人がいるんだから。すわ って。すわるのよ ! 」彼女はペン形カメラをポケットにもどした。そのレンズはまっ すぐ彼のほうをむいている。 ドクター・ポールソンはよろよろと歩き、椅子をさぐってカウンターのしたからひ

6. 痕跡 (下)

の微物についてきいたのは、 ) しまがはじめてよ。この事件の解明に協力してほしいと いうことでリッチモンドへ呼んでおきながら、その件については知らせなかったわ け ? 」ドクター・マーカスを見て、それからフィールディングに視線を移した。 「ぼくは知らないよ」フィールディングがいう。「証拠の採取をしたのはぼくだ。で も検査室からは結果の報告をもらっていない。電話もない。最近はいつもそうだけど ね。直接結果を知らせてもらうことはまずない。 この件も昨日の遅い時間に、はじめ てきいたんだ。帰りに車に乗ろうとしたとき、彼が」と、ドクター・マーカスをさ す。「そのことをいいだした」 「わたしも昨日遅くにはじめて知ったんだ」ドクター・マーカスがつつけんどんにい った。「アイスだかアイズだかってやつが、ここでの仕事のやりかたについての、ば かげたメモをしよっちゅう送ってよこす。自分ならもっとうまくできるといわんばか りにね。そのなかにまぎれこんでた。これまでの検査では、役にたつようなものは何 も見つかっていない。毛髪が数本と、何かの小片だけだ。塗膜片と思われるものもま じっているが、そんなものはどこにでもある。車のかもしれないし、ポールソンの家 のなかのものかもしれない。自転車やおもちゃということもありうる」 「車の塗料ならわかるはずよ」と、スカーベッタがいった。「家のなかのものとも、

7. 痕跡 (下)

「ゝ しいかげんにしてもらいたいのはこっちだ ! 」突然フィールディングがこぶしをテ ープルにたたきつけて、立ちあがった。テープルからはなれ、怒りにもえた目でみん ししか、このまぬけの大ばか なを見まわす。「何もかもくそくらえだ。やめてやる。 やろう」と、ドクター・マーカスにいう。「やめてやる。それからあんたもくそくら えだ」今度は宙につきだした人さし指をウェーバー特別捜査官にむけた。「の まぬけやろうどもめ。いったい何さまだと思ってやがるんだ。何も知らないくせに。 てめえのべッドで殺人がおこっても、どうしていいかわからないだろうが ! やめて やるぞ ! 」彼はドアのほうへあとずさりした。「いってやれよ、ピート。知ってるん だろう」と、マリーノを見つめていう。「ドクター・スカーベッタに本当のことを話 してやってくれ。さあ。だれかがいってやらなきや」 大またにでていき、大きな音をたててドアをしめた。 みな仰天して声もなく、部屋は静まりかえった。ややあって、ドクター・マーカス が口をひらいた。「驚いたな。見苦しいところをごらんにいれて申しわけない」と、 ウェー ー特別捜査官にいう。 「神経衰弱なのかしら ? 」と、彼女はいった。 「何かいいたいことがあるの ? 」スカーベッタはマリーノを見た。彼が何らかの情報

8. 痕跡 (下)

「考えないわよ、そんなこと。いまはやめときましよう、そのことを考えるのは」会 議室へいき、木製の黒いドアをあけた。 マリーノはついてくるならついてきてもいいし、コーヒーマシンのそばで一日中砂 糖をなめていてもかまわない。なだめたりすかしたりするつもりはない。何が気にな 、 ) ) 。 ) まはドクター・マーカ っているのかさぐりだす必要があるが、それはあとてし スとの捜査官、それにゆうべ約束をすっぽかしたフィールディングとの会合が ある。フィールディングの皮膚炎はこの前よりさらにひどくなっている。スカーベッ タが席につくあいだ、だれも話しかけてこなかった。彼女についてはいってきて、と なりの席にすわったマリーノにも、だれも話しかけない。なるほど、審問というわけ ね、とスカーベッタは思った。 「では、はじめよう」ドクター・マーカスが切りだした。「もう紹介はすんでいると 思うが、のプロファイリング課のウェーバー特別捜査官だ」と、スカーベッタ 師にいった。課の名前をまちがえている。プロファイリング課ではなく、行動科学課 跡だ。「やっかいなことがおきた。ただでさえ面倒な問題をいろいろ抱えているという 痕のに」彼の表情はけわしく、めがねの奥で小さな目が冷たく光っている。「ドクタ ・スカーベッタ」と、声をはりあげた。「きみはギリー・ポールソンの検屍を再度

9. 痕跡 (下)

251 痕跡 ( 下 ) ドクター・ポールソンは彼女にむかって突進し、そのこぶしをまともにくらってひ つくりかえり、うめき声と悲鳴をあげて床にのびた。ルーシーは彼の背中に乗り、片 方のひざで右腕を、左手で左腕をおさえつけた。いまや彼の両腕は容赦なくねじあげ られ、背中に固定されている。 「はなしてくれ ! 」と、彼はわめいた。「痛いじゃないか ! 」 「ルーシー よせ ! 」と、べントンもいったが、ルーシーは耳をかさない 彼女はドクター・ポールソンの後頭部の髪をつかんだ。息をはずませ、怒りに身を まかせている。つかんだ髪をひいて、彼の頭をもちあげた。「今日は楽しんでもらえ たかしら、スイーティ」そういって、髪をぐいとひつばる。「頭をたたきわってやり たいところだわ。自分の娘にまで手をだしたの ? ゲームをしにきた変態どもにもや らせたの ? 去年の夏に家をでる前に、娘にいたずらしたの ? 彼女の寝室で ? 」そ ついいながら、彼の頭を床におしつける。白いタイルの床でおぼれさせようとするか のように、頬がひしやげるまで、力をこめておさえつけた。「いったいどれぐらいの 人を泣かせてきたの、このろくでなし」彼の頭を床に打ちつける。頭をたたきわられ るのでは、という恐怖を感じさせるほどの強さだ。ドクター・ポールソンはうめい て、叫び声をあげた。

10. 痕跡 (下)

ので、すぐに航空健康診断を受ける必要があるのだ、と。なぜそんなぎりぎりになる までほうっておいたのか、とドクター・ポールソンの診療所の女性はきいた。 ルーシーは自分がどんな芝居をうったかを、自慢げにべントンに話した。ロごもっ ておびえたような声をだしたのだという。ロごもりながら、健康診断を受けているひ まがなかったとその女性に話した。雇い主であるヘリコプターの所有者にあちこち飛 ばされて、どうしてもその時間がとれなかったのだと。それに個人的な間題もかかえ ていて。もし健康診断を受けられなかったら、飛行資格を失って、くびになるかもし れない このうえ仕事がなくなったら、どうしたらいいかわからないそう話すと、 女性はしばらく待つようにいった。そして電話口にもどってくると、ドクター・ポー ルソンが翌朝ーーっまり今朝のことだがーー十時に診察してやってもいいといってい る、といった。これはあなたの窮状を救うための特別のはからいだ、毎週恒例のダブ ルスの試合をキャンセルするのだから、という。予約を変更したりせずにちゃんとく 下 るように、社会的に多忙なドクター・ポールソンが特別にはからってくれたのだか 跡 しそえた。 ら、と女性はい ) 痕 これまでのところ、すべては計画どおりにすすんでいる。ルーシーは予約をとるこ とができた。いま航空医官の家にいる。べントンはデスクの前で待機しながら、窓の