マーカス - みる会図書館


検索対象: 痕跡 (下)
24件見つかりました。

1. 痕跡 (下)

「彼が書いたものはずい、 ふん読んだわ」と、彼女はいった。リー ガルバッドのうえで 指を組んでいる。長い爪は完璧に手人れされ、深紅のマニキュアがぬられている。 「そうかい。それじゃ、プロファイリングなんてものはフォーチュンクッキーと同じ ぐらい当てになんねえ、とやつが考えてることも知ってるな」 「いやがらせをいわれるためにここへきたんじゃないんだけど」ウェーバー特別捜査 官はドクター・マーカスにいった。 「おっと、そりや悪かったな」マリーノがドクター・マーカスにいう。「彼女を追い はらうつもりはねえんだ。のプロファイラー課の専門家なら、微細な証拠のこ とをなんでも教えてくれるにちげえねえもんな」 「もうたくさんだ」ドクター・マーカスが腹立たしげにいった。「プロフェッショナ ルらしくふるまえないなら、でていってもらおう」 「いやいや、おれのことは気にしねえでくれ。おとなしくここにすわって話をきいて 下 るから。つづけてくれ」 跡 フィールディングはファイルフォルダーを見つめて、ゆっくり首をふっている。 痕 「話を先にすすめさせてもらうわ」と、スカーベッタはいった。もう気をつかうつも りも、如才なくするつもりもない 「ドクター・マーカス、ギリー・ポールソン事件

2. 痕跡 (下)

の微物についてきいたのは、 ) しまがはじめてよ。この事件の解明に協力してほしいと いうことでリッチモンドへ呼んでおきながら、その件については知らせなかったわ け ? 」ドクター・マーカスを見て、それからフィールディングに視線を移した。 「ぼくは知らないよ」フィールディングがいう。「証拠の採取をしたのはぼくだ。で も検査室からは結果の報告をもらっていない。電話もない。最近はいつもそうだけど ね。直接結果を知らせてもらうことはまずない。 この件も昨日の遅い時間に、はじめ てきいたんだ。帰りに車に乗ろうとしたとき、彼が」と、ドクター・マーカスをさ す。「そのことをいいだした」 「わたしも昨日遅くにはじめて知ったんだ」ドクター・マーカスがつつけんどんにい った。「アイスだかアイズだかってやつが、ここでの仕事のやりかたについての、ば かげたメモをしよっちゅう送ってよこす。自分ならもっとうまくできるといわんばか りにね。そのなかにまぎれこんでた。これまでの検査では、役にたつようなものは何 も見つかっていない。毛髪が数本と、何かの小片だけだ。塗膜片と思われるものもま じっているが、そんなものはどこにでもある。車のかもしれないし、ポールソンの家 のなかのものかもしれない。自転車やおもちゃということもありうる」 「車の塗料ならわかるはずよ」と、スカーベッタがいった。「家のなかのものとも、

3. 痕跡 (下)

おこなった。どが、 ナそれ以外にトラクター運転手のミスター・ホイットビーの検屍も 手がけた。そうだね ? 」 フィールディングはファイルフォルダーに目をおとし、黙っている。その顔は赤く はれて痛そうだ。 「検屍をしたとはいえないわ」とスカーベッタは答え、フィールディングをちらっと 見た。「いったいどういうことなの ? 」 「遺体にさわった ? 」と、カレン・ウェーバー特別捜査官がきく。 「ことのしだいがよくわからないんだけど。はトラクター運転手の死にもかか わっているの ? 」 「場合によってはね。必要なければし ) いけど。かかわる可能性は大いにあるわ」ウェ ー特別捜査官は、前の検屍局長であるスカーベッタを尋問するのを、楽しんでい るよ一つだ。 「遺体にさわったのか ? 」今度はドクター・マーカスがきいた。 「ええ。さわったわ」スカーベッタは答えた。 「もちろんきみもだな」ドクター・マーカスがフィールディングにいう。「外景検査 をして、それから解剖をはじめた。そのあと、遺体保管室で彼女といっしょにギリ

4. 痕跡 (下)

そのあとなんだから」 「もちろん証拠の採取はしなかっただろう」ドクター・マーカスは見下すようにいっ た。「だがひょっとして、ミスター・ホイットビーの検屍がすんでいないときにギリ ・ポールソンを調べて、またそっちへもどったんじゃないかと思って」 「先にミスター・ホイットビーから証拠を採取して、それから女の子を調べたんだ」 と、フィールディングがいった。「彼女からは何も採取しなかった。それははっきり している。そもそもトラクター運転手やほかのだれかの遺体につくような微物は、女 の子の遺体には残っていなかった」 「この件を説明するのは、わたしの責任ではない」と、ドクター・マーカスはいっ た。「何がおこったのかわたしにはさつばりわからないが、何かがおこったんだ。あ らゆる可能性をさぐる必要がある。どっちかの事件が法廷で裁かれることになった ら、弁護人は必ずそこをついてくるからな」 ー特別捜査官がいった。それがすでに 「ギリーの事件は裁判になるわ」と、ウェー 確定しているかのような、また死んだ十四歳の少女を個人的に知っていたかのような ロぶりだ。「検査室で何か手ちがいがあったのかもしれないわね。サンプルのラベル をはりまちがえたとか、サンプル同士がまじったとか。どちらも同じ人が検査したの

5. 痕跡 (下)

すぐに照合できるはずだわ」 「わたしが問題にしたいのは、が見つかっていないことだ。綿棒で採取したも ののなかには、 QZ< はなかった。これが殺人事件だとすれば、膣やロのなかから採 取された QZ< は、重要な意味をもつ。だからその塗膜片らしきものより、の 有無に注目していた。ところが昨日遅く、微物検査室からのメールで、とんでもない 事実を知った。トラクター運転手から採取したサンプルのなかに、ギ ンのものと同じ微物があるというんだ」ドクター・マーカスはフィールディングを見 つめた。 「その証拠の混人という事態は、具体的にどんなふうにおこったと考えてらっしやる の ? 」と、スカーベッタはきいた。 ドクター・マーカスはゆっくり大げさに両手をあげて、肩をすくめた。「こっちが ききたいね」 下 「そんなことがおこるはすないと思うけど。手袋はかえたし。もっとも、それもとく 跡 に必要はなかった。ギ リー・ポールソンの遺体から再度証拠を採取したわけではない 痕 から。そんなことをしてもむだでしよ。遺体は洗浄されたあと解剖され、証拠を採取 され、また洗浄され、そして遺体袋に一一週間保存された。検屍をやりなおしたのは、

6. 痕跡 (下)

「ゝ しいかげんにしてもらいたいのはこっちだ ! 」突然フィールディングがこぶしをテ ープルにたたきつけて、立ちあがった。テープルからはなれ、怒りにもえた目でみん ししか、このまぬけの大ばか なを見まわす。「何もかもくそくらえだ。やめてやる。 やろう」と、ドクター・マーカスにいう。「やめてやる。それからあんたもくそくら えだ」今度は宙につきだした人さし指をウェーバー特別捜査官にむけた。「の まぬけやろうどもめ。いったい何さまだと思ってやがるんだ。何も知らないくせに。 てめえのべッドで殺人がおこっても、どうしていいかわからないだろうが ! やめて やるぞ ! 」彼はドアのほうへあとずさりした。「いってやれよ、ピート。知ってるん だろう」と、マリーノを見つめていう。「ドクター・スカーベッタに本当のことを話 してやってくれ。さあ。だれかがいってやらなきや」 大またにでていき、大きな音をたててドアをしめた。 みな仰天して声もなく、部屋は静まりかえった。ややあって、ドクター・マーカス が口をひらいた。「驚いたな。見苦しいところをごらんにいれて申しわけない」と、 ウェー ー特別捜査官にいう。 「神経衰弱なのかしら ? 」と、彼女はいった。 「何かいいたいことがあるの ? 」スカーベッタはマリーノを見た。彼が何らかの情報

7. 痕跡 (下)

「むごい死にかただわ。ほんとにひどい」 「ごめんなさい、わたしの知らないことが何かあるのかしら ? 」と、ウェーバー特別 捜査官がいう 「あの子は殺されたんだ」と、マリーノが答えた。「それ以外には、知らないことは とくにねえと思うよ」 「ほんとにもう、こんなことをいわれてもがまんしなきゃいけないのかしら」彼女は ドクター・マーカスにいった。 「ああ、そうするしかねえだろうな」マリーノは彼にいった。「あんたが自分でおれ をこの部屋からつまみだすならともかく。そうでなきや、おれはここにちんまりすわ ししたいことをいわせてもらうぜ」 「こうしてみんなで腹をわって、率直に話しているあいだに、ぜひあなたの口から直 リー・ポールソンの事件にかかわっているのか」と、 接ききたいわ。がなぜギ スカーベッタがウェー ー特別捜査官にいった。 「ひとことでいえば、リッチモンド警察から応援を要請されたからよ」 「な、せワ・」 「それは彼らにきいたほうかいいんじゃない ? 」

8. 痕跡 (下)

・主な登場人物〈痕跡〉 ケイ・スカーベッタ法医学コンサルタントフランク・ポールソンギリーの父、医者 ピート・マリーノ元刑事 スザンナ・ポールソンギリーの母 ルーシースカーベッタの姪、元捜査官 シオドア・ホイットビートラクター運転手 べントン・ウェズリー元—心理分析官へンリ・ウォルデンルーシーの同居人 ・マーカス ジョエル ージニア州検屍局長ルーディ・ムージルルーシーの仕事仲間 やしき ジャック・フィールディング検屍局副局長ケイトルーシーの邸の隣人 ブルース検屍局の警備員 ブラウニング刑事 エドガー・アラン・ポーグ白人男性 カレン・ウェーバー —特別捜査官 ミセス・アーネットボーグを知る老女 ジュニアス・アイズ科学捜査官 ・ポールソン十四歳の少女 キット・トンプソンアイズの同僚

9. 痕跡 (下)

「途中でコーヒーを買った。セプンーイレプンで。それで検屍局の数プロック手前で タクシーをおりた。すこし歩いて頭をはっきりさせようと思ったんだ。それがちっと 。役にたった。半分生きかえったような気がしたぜ。で、なかへはいっていくと、彼 女がそこにいやがった」 「検屍局へいく前に、留守番電話のメッセージをきいた ? 」 「ああ、きいたかもしれねえ」 「そうでなければ、会議があることはわからなかったはずよ」 「いや。会議のことは知ってた。アイズがで話してたんだ。何かの情報をマー カスに伝えたと。メールで送ったといってた」そこで考えこむ。「うん。そうだ。 思いだした。マーカスはそのメールを見るとすぐアイズに電話してきて、翌朝会議 をひらくから必ず局内にいるようにといったらしい。会議で何か説明してもらうかも しれねえからと」 「じゃ、昨日の晩、会議の話をきいたのね」 「そうだ、ゆうべはじめてきいた。あんたも出席するようなことをアイズがいってた から、おれもいかなきやと思ったんだ」 「九時半からということも知ってたの ? 」

10. 痕跡 (下)

17 痕跡 ( 下 ) かしら ? 」 「アイズだったかな、両方ともそいつが検査した」と、ドクター・マーカスは答え た。「微物は彼が担当したが、毛髪のほうはべつのものがやった」 「また毛髪の話がでたけど。何のこと ? 」スカーベッタがきいた。「毛髪が見つかっ たというのも、はじめてきく話だけど」 「ギリー・ポールソンの死亡現場で何本か採集されたんだ。シーツについていたもの 、ら 1 レい」 「トラクター運転手のじゃねえとし ゝいけどな」と、マリーノかいう。「いや、むしろ そのほうがいいのかもしれねえ。運転手が女の子を殺し、罪の重さにたえかねて、自 分でトラクターに轢かれた。これで事件はきれいに解決だ」 彼かいったことをおもしろがるものはいない じゅうもう 「シーツや枕カバーに気道の絨毛上皮がついていないか、調べるようにたのんだんだ けど」スカーベッタはフィールディングにいった。 「枕カバーね。それについていた」と、フィールディングがいう。 予想どおりの結果に、ほっとしてもおかしくなかった。だがその生物学的証拠は、 ギリーが窒息死したことを示唆している。それを思うと胸が痛んだ