女性 - みる会図書館


検索対象: 痕跡 (下)
39件見つかりました。

1. 痕跡 (下)

141 痕跡 ( 下 ) ために尽力した女性の名前を借りようと考えたのか ? きっとハリウッドではそれが リべラルな、かっこ ) しいこととされているのだろ一つ。皮肉っぽくそう考えて、三件目 をクリックした。 これは『ハリウッド・レポーター』誌の短い記事だった。十月なかばに掲載された ものだ。 今度の役はほんもの 女優からロサンゼルス警察の警官に転身したヘンリ・ウォルデンは、このたび国 際的な私立捜査機関として知られる、ザ・ラスト・プリシンクトに就職することが きまった。同社のオーナー兼最高責任者で、ヘリコプターを操縦しフェラーリを運 転する元特別捜査官、ルーシー・ファリネリは、『ドクター刑事クインシー』のむ こうをはる著名な検屍官、ドクター・ケイ・スカーベッタの姪でもある。ラスト・ プリシンクトはハリウッド ( かの有名なハリウッドではなく、フロリダにある町 ) に本社があるが、最近ロサンゼルスに支社をひらき、スターの身辺保護のための諜 報活動もおこなうようになった。顧客の氏名は極秘とされているが、本紙がっかん

2. 痕跡 (下)

358 索する、ミクロの世界へいざなわれることになる。 今回、スカーベッタはルーシーの助けをあてにすることができない ルーシーは新 たな同性の恋人がストーカーにおそわれ、殺されかけるというべつの事件にかかりき りになっているからだ。そのストーキング事件と、スカーベッタらがかかわっている 事件とのつながりもしだいに見えてくるが、リッチモンドでの捜査をになうのは、あ くまでもスカーベッタとマリーノだ というわけで、前作『黒蠅』では、捜査のうえではやや影のうすかったスカーベッ タが、本書では存分にその手腕を発揮し、謎をときあかし、犯人を追いつめるため に、マリーノとともに活躍する。 破滅的な生きかたにより、いつもスカーベッタと読者をやきもきさせるそのマリー ノが、今回はいつになくさっそうと登場する。不健康な生活をあらためようと、ダイ ェットに挑戦してスリムになり、禁煙まではたしているのだ。決意のほどを示すかの ように、さびしくなっていた頭を、きつばりと丸めている。だが外見はともかくとし て、やはりマリーノはマリーノ。ロの悪さや傍若無人な態度はあいかわらずだ。しか も今回もまた、女性がらみでひと騒動おこす。懲りないやっ、とスカーベッタはあき れながらも、満身創痍になったうえ、重罪で訴えられかねないという窮状におちいっ

3. 痕跡 (下)

ので、すぐに航空健康診断を受ける必要があるのだ、と。なぜそんなぎりぎりになる までほうっておいたのか、とドクター・ポールソンの診療所の女性はきいた。 ルーシーは自分がどんな芝居をうったかを、自慢げにべントンに話した。ロごもっ ておびえたような声をだしたのだという。ロごもりながら、健康診断を受けているひ まがなかったとその女性に話した。雇い主であるヘリコプターの所有者にあちこち飛 ばされて、どうしてもその時間がとれなかったのだと。それに個人的な間題もかかえ ていて。もし健康診断を受けられなかったら、飛行資格を失って、くびになるかもし れない このうえ仕事がなくなったら、どうしたらいいかわからないそう話すと、 女性はしばらく待つようにいった。そして電話口にもどってくると、ドクター・ポー ルソンが翌朝ーーっまり今朝のことだがーー十時に診察してやってもいいといってい る、といった。これはあなたの窮状を救うための特別のはからいだ、毎週恒例のダブ ルスの試合をキャンセルするのだから、という。予約を変更したりせずにちゃんとく 下 るように、社会的に多忙なドクター・ポールソンが特別にはからってくれたのだか 跡 しそえた。 ら、と女性はい ) 痕 これまでのところ、すべては計画どおりにすすんでいる。ルーシーは予約をとるこ とができた。いま航空医官の家にいる。べントンはデスクの前で待機しながら、窓の

4. 痕跡 (下)

Ⅷない女優だったときのヘンリは、最初のうちたしかジェン・トマスとかなんとかい う、印象に残らない名前を芸名にしていた。画面を見つめたままペプシに手をのばし た。自分の幸運が信じられなかった。検索の結果、三件のヒットがあったのだ。 「何か意味のあるものであってくれよ」だれもいないオフィスにむかっていいなが ら、一件目をクリックする。 ージニア州リンチバーグに住む裕福な女 ヘンリエッタ・タフト・ウォルデンは、、、 性で、奴隷制度廃止論者だったらしい。彼女は百年前に死んでいる。当時、その主張 ーノニアで奴隷制度 に耳をかたむけるものがいたのだろうか ? 南北戦争のころこヾ 廃止をとなえるなど、想像もできない。さぞかしガッツのある女性だったのだろう。 二件目をクリックする。今度のヘンリエッタ・ウォルデンは存命しているが、高齢 だ。やはりバージニアに住んでおり、農場で馬術ショー用の馬を飼育している。最 近、全米黒人地位向上協会に百万ドル寄付している。たぶん最初のヘンリエッタ・ウ ォルデンの子孫だろう。ひとりは故人、もうひとりは生きているが、どちらも注目す べき差別廃止論者だ。ジェン・トマスはヘンリエッタ・ウォルデンといういまの芸名 を、彼女たちからとったのだろうか ? もしそうなら、なぜ ? プロンド美人のヘン リの、人を見下すような高慢な態度を思いうかべた。なぜ彼女が、黒人の苦境を救う

5. 痕跡 (下)

くつかおかれている。テープルのうえにはろうそくがたっている力、ポーグかきたと きにそれが灯っていたためしはない。部屋のすみには玉突き台がおかれている。だが そこで玉突きをやっている人は見たことがない。 この店の客は、そんなものには興味 がないのだろう。赤いフェルトが張られた傷だらけの台は、前世紀の遺物のようだ。 昔はアザーウェイもいまとはちがう種類の店だったのだろう。あらゆるものが昔とは ちがっている。 「もう一杯たのみたいんだけど」と、ポーグはいった。 ここで働いている女性たちはウェートレスではなく、ホステスだ。だからホステス として扱われることを期待している。アザーウェイに出人りする男たちは、店の女性 を呼ぶのに指をならしたりしない。彼女たちはホステスなので、敬意をもって接しな ければならないからだ。女性たちがあまりいばっているので、ポーグは彼女たちの好 意で自分は店にこさせてもらい、どろどろの赤いプリーディング・サンセットに金を 使わせてもらっているような気がするほどだ。薄闇のなかでポーグの目が動き、赤毛 の女をとらえた。彼女はびっちりした短い黒のジャンパードレスを着ている。したに プラウスを着るようにつくられたものだが、彼女は着ていない。ジャンパードレスは 隠すべきものをかろうじて隠している。テープルクロスのうえのかけらをはらいおと

6. 痕跡 (下)

216 翌朝十時。ルーシーは部屋のなかを歩きまわったり、雑誌を手にとったりして、 かにも退屈していらだっているふりをしていた。テレビのそばにすわっているヘリコ プター操縦士の診察の順番が早くくるか、緊急の電話がはいって彼がでていけばいい のにと思っている。ここは医療センターの近くにある家の居間だ。ルーシーは古めか ス , 「リ・ーー A 」、そこに しい波形のガラスをはめた窓の前で足をとめ、窓の外のバ 並ぶ歴史的建造物をながめた。観光客がチャールストンへおしよせるのは春になって からなので、いまは外に見える人の姿もまばらだ。 この家のベルをならしたのは十五分ほど前だ。太った年配の女性がドアをあけ、ル ーシーを待合室に案内した。その部屋は正面玄関からすこしはいったところにあっ た。この家が栄華を誇っていた時代には、おそらく格式のある小さな客間として使わ れていたのだろう。その女性は連邦航空局 (=<<) の記人用紙をルーシ 1 にわたし た。それはルーシーが過去十年間、二年おきに必要事項を記人している用紙と同じも のだった。それに書きいれるようにいうと、女性はみがきあげた長い木の階段をのぼ

7. 痕跡 (下)

「いっかいっしょにツーリングできるかもしれないわ。猫とうまくやってね」 ヘリの操縦士は笑った。やがて彼が無愛想な太った女性に話しかけながら、階段を あがっていくのがきこえた。女房とであったとき、彼女は猫をどうしても手ばなそう じんましん とせず、そいつが彼女のべッドで眠るもので、こっちはここぞというときに蕁麻疹が でて弱った、という話をしている。ルーシーが階下にひとりでいられる時間が、すく なくとも一分あった。あの女性が新しい用紙をとって、またおりてくるまでの時間 だ。ルーシーは綿の手袋をはめ、室内をすばやく動きまわって、自分がさわった雑誌 から指紋をふきとった。 最初にしかけた盗聴器は、無線マイクつき音声送信機をチュープにカスタムマウン トしたもので、たばこの吸い殻ぐらいの大きさだ。防水加工したプラスチックのチュ ープは、植物のような緑色をしていて、一見したところ何かわからない。盗聴器はた ) いてい外見を何かに似せてあるが、正体不明のほうがよい場合もある。ルーシーはコ ーヒーテープルのうえの、青々した人工観葉植物をいれた色あざやかな陶製の鉢のな 跡 かに、その緑色のチュープをおいた。すばやく家の奥へいき、ダイニングキッチンの 痕 テープルのうえの人工観葉植物にも、正体不明の緑色の盗聴器をしかける。そのとき あの女性が階段をおりる音がきこえてきた。

8. 痕跡 (下)

の人たちのこと ? あなたやフランクといっしょにゲームをした人たち ? 」 「よくそんなでたらめがいえるわね ! 」ミセス・ポールソンは大声でいった。怒りと 屈辱に顔をゆがめている。「ゲームなんて知らないわ」 「でたらめはほかにもいつばいあるわ。それにもっとでてくるでしようね」スカーベ ッタはべッドに近づいて、手袋をはめた手でふとんをめくった。「シーツをとりかえ ていないようね。よかった。シーツのこのあたりに血がついてるでしよう ? これは マリーノの血よね。賭けてもいいわ。あなたの血ではない」そういってミセス・ポー ルソンをじっと見た。「彼は出血していて、あなたはなんともない。ふしぎね。この へんに血のついたタオルもあるはずだけど」と、あたりを見まわす。「もう洗ったの かもしれないけど、かまわないわ。洗ったものからでも、必要な情報はえられるか 「あたしがあんなことをされたというのに。あなたはあいつよりもっとひどいわ」と ミセス・ポールソンはいったが、その表情は前とはちがっている。「女性なら、せめ て同情はしてくれると思ったのに」 「相手に傷をおわせておいて、おそわれたといいがかりをつける人に ? そんな人に 同情するまともな女性はどこにもいないと思うけどね、ミセス・ポールソン」スカー

9. 痕跡 (下)

「なんてこと」ルーシーは目をとじた。 「ハリウッドにあるしけたバーでウェートレスをしてる女性だ。そのバーから通りを へだてたところにシェルのガソリンスタンドがあってね。なんとそこで、『キャッ ト・イン・ザ・ハット』のカップでビッグ・ガルプを売ってるんだ。被害者はひどい やけどをおったけど、命は助かるもようだ。やつは彼女がっとめていた店によくいっ てたらしい。アザーウェイ・ラウンジっていうんだが。きいたことあるか ? 」 「ないわ」やけどをおった女性のことを思いながら、ききとれないほどの声でいっ た。「なんてことよ」 「それでいま、そのへん一帯を調べてる。うちの人間も何人か送りこんでる。新人の 連中じゃないよ。やつらはわが社の精鋭ってわけじゃないからな」 「なんてことなの」ルーシーはほかにいうべきことばを思いっかない。「何かまとも なことはおこらないのかしら ? 」 下 「前よりはまともになってきてるよ。ほかに二件ある。きみのおばさんによると、ポ 跡 ーグはかつらをつけてるかもしれない。長くて黒い縮れ毛のかつらだ。本物の人毛を 痕 黒く染めたものらしい。ミトコンドリアの検査結果は、おかしなことになった だろうな。コカインを手にいれるために、かつらのメーカーに髪を売った売春婦か何

10. 痕跡 (下)

105 痕跡 ( 下 ) ろへいった。ドアをあけると、ベルがチリンチリンと鳴った。彼はドリンク類のマシ ンがならんでいる奥へむかった。カウンターのうしろの女性は、ポテトチップとビー ルの半ダースパックとガソリンの代金をレジに打ちこんでいるところで、彼のほうは 見ていない。 コーヒーマシンのそばにソーダマシンがおかれている。ポーグはいちばん大きなプ ラスチックカップとふたを五つもって、カウンターへいった。カップは漫画が描かれ た色あざやかなものだ。ふたは白で小さな飲み口がついたものを選んである。彼はカ ップとふたをカウンターにおいた。 「グリーンのストローのついた、プラスチックのオレンジある ? オレンジドリン ク ? 」カウンターのうしろの女性にきく。 「えっ ? 」彼女は眉をよせてカップをとりあげた。「何もはいってないじゃない。ビ ッグスラープを買うの、買わないの ? 」 「買わない。カップとふただけほしいんだ」 「カップだけ売るわけによ ) ゝ 。し力ないわ」 「でもほしいのはカップだけなんだ」 彼女はめがねのふちごしにポーグの顔をしげしげとながめた。ああやってぼくの顔