自分 - みる会図書館


検索対象: 痕跡 (下)
120件見つかりました。

1. 痕跡 (下)

294 その瞬間は自分が神であることがわかっていた。神はもはや神ではなかった。ボク が神だった。フェンスのむこうの医者がサインしない場合はですね、ミセス・アーネ ノトぼくがなんとかしますから、ご心配なく。 どうやって ? 方法はいろいろあります。 あんたはほんとにいい子だね。彼女は枕に頭をのせたままいった。あんたのお母さ んはしあわせものだよ。 おふくろはそう思っていませんでした。 じゃ、ひねくれものだったんだね。 ぼくが自分でサインしますよ、とポーグは約束した。ああいう診断書は毎日見てま ) よ、どうでもいいと思ってる医者がサインしてるんですから。 すけど、半分ぐらし。 みんなどうでもいいと思ってるんだよ、エドガー・アラン。 必要とあらば、サインを偽造しますよ。だから、つまらないことで心配しないでく ほんとにやさしい子だね、あんたは。わたしのもってるもののなかで、何かほしい ものはあるかい ? 遺言を書いて、この家を売れないようにしたんだよ。こっぴどく

2. 痕跡 (下)

灰色にけぶる吹雪をながめた。わずか数分のうちにさらにおりてきて、山の頂の上 半分が見えなくなっている。風も強くなってきた。「ここへきてからずっとこんな調 子だ。ほとんど毎日雪がふる。たいていタ方からだ。十五センチぐらいつもる。とこ ろで話は変わるが、いざ自分が犯罪の標的になると、冷静には対処できないものだ。 犯罪者と戦うときは、彼らが被害者を見るのと同じように、こちらも敵を客観的に見 ることが多い。だが自分が対象とされた場合、つまり被害者になったときには、そう . ′し , 刀オし ヘンリにとっては、きみがねらうべき対象だ。きみは被害者なんだ。そ のことばを使われるのがどんなにいやでもね。出会う前から、すでに対象として選ば れていた。きみが魅力的だったので、彼女はきみを支配したいと思った。、 へつの意味 で、ポーグもきみを対象として選んだ。ヘンリとはちがう、彼なりの理由でね。彼は きみと寝たいとは思っていない。きみのような生活を送りたいとも、きみのようにな りたいとも思っていない。きみに苦しみを味わわせたいだけだ」 下 「ヘンリではなく、あたしをねらっている、とほんとに思う ? 」 跡 「ああ。やつのねらいはきみだ。きみが対象だ」ことばのあいまに、ストックをつき 痕 たてる音と、スノーシューズが雪にあたる音がはいる。「すこし体んでもいいかな ? 」 2 彼はまだ大丈夫だったが、ノ レーシーにはまちがいなく休憩が必要だ。 いただき

3. 痕跡 (下)

ー一五で武装している。«æ- 一五はストームのような捜索用の軽量の銃ではなく、 銃身が五十センチ以上ある、強力な戦闘用の武器だ。約三百メートル先の敵でも倒す ことができる。彼には家のなかの敵を一掃するための武器は必要なかった。自分のほ うが先にたてこもっているからだ。ルーディは戸口から、シンクのうえのこわれた窓 大型ごみ収集箱 のところへ移動した。四、五十メートルはなれたダンプスターのかげで、人影が動く のが見える。 <cz—一五をシンクのはしで支え、銃身をくさりかけた窓枠のうえにのせた。スコ ープをのぞくと、ダンプスターのうしろに最初の獲物がうずくまっているのが見え た。黒い服を着た体が、わずかにのぞいている。ルーディは引き金をひいた。銃が鋭 い音を発し、捜査官は悲鳴をあげた。、 へつの捜査官がどこからかとびだしてきて、ヤ シの木のかげに身をふせる。ルーディはそいつも撃った。その捜査官が叫んだり、声 をあげたりするのはきこえなかった。ルーディは窓からバリケードでふさがれた戸口 へ移動し、テープルや椅子を荒々しくけとばし、ほうりなげた。そうして自分が築い たバリケードを突破して家の表側へいき、居間の窓ガラスをわって、撃ちはじめた。 五分もしないうちに、五人の捜査官全員にゴム弾がたたきこまれていた。だが彼らは 前進するのをやめず、ついにルーディは無線で彼らにとまるよう命じた。

4. 痕跡 (下)

277 痕跡 ( 下 ) ンパワーはなくてもそれなりの火力があり、至近距離で使える銃がほしいときだ。ホ テルの部屋のなかで、四〇口径、四五口径の弾丸や、ハイパワーのライフル弾を使う ことはさけたい。ヘンリに会ったら何というか、まだ考えていない。彼女を見てどん な気持ちになるかもわからない 期待しちゃだめよ、と自分にいいきかせた。あたしに会ってヘンリがうれしそうな 顔をするとか、やさしく思いやりのある態度をとるなんてはずないんだから。ルーシ ーはべッドにすわってスエットパンツを脱ぎ、シャツをつかんで頭から脱いだ。そ して等身大の鏡の前に立ち、自分の姿をながめて、加齢と重力の影響がでていないか 調べた。大丈夫。当然といえば当然だ。まだ三十にもなっていないのだから。 彼女の体は筋肉質でしまっているが、少年のような体つきではない。ルーシーは自 分の容姿に不満はもっていないが、鏡にうつった自分を仔細に見ると、いつも奇妙な 感覚にとらわれる。その肉体が自分のものではないような、外観と中身とがちがうよ うな気がするのだ。肉体のほうが魅力的かどうかではなく、自分の感じているものと ちがうというだけだ。セックスを何回しようと、自分の肉体や愛撫を相手がどう感じ るかは、わからないだろう、とぼんやり考える。それを知りたいとねがういっぽう で、わからなくてよかったとも思う。

5. 痕跡 (下)

シャツを脱いで。ズボンもよ。ゅうべ彼女が仕組んだ、ぞっとするようなゲームで何 をされたか見せて。そのために必要なものは全部脱いで」 「これを見たらおれのことをどう思うかな」マリーノは黒のポロシャツを頭から脱ぎ ながらいった。胸一面にかみ傷や吸ったあとがついており、布でこすれると痛いの で、そろそろと脱ぐ。 「まあ。じっとしてて。ひどいものね。なぜもっと早く見せなかったの ? 手当てし ないと、化膿するわ。こんなことされたのに、彼女が警察に訴えるんじゃないかと心 いいながら、傷の写真をとっ 配してるの ? ばかじゃないの ? 」スカーベッタはそう た。カメラをあちこち動かして、それぞれの傷のクローズアップをとる。 「ただ、おれのほうが彼女に何をやったかは見てねえからな」マリーノはすこしおち ついてきた。スカーベッタに診てもらうのも、思ったほど悪くないかもしれないと悟 ったのだ。 「この半分でも彼女にしていたら、歯が痛むはずよ」 マリーノは自分の歯に注意をむけたが、痛みは感じなかった。いつもとかわらない 感触だ。ありがたいことに、歯は痛くない 「背中は ? 」スカーベッタは彼を見おろしてきいた。

6. 痕跡 (下)

るのを見守った。ルーシーがバッグをもって、軽やかにおりてくる。身のこなしはア スリートのように優雅で自信にみちており、ためらいなどみじんも感じられない。彼 女はいつも自分がどこへむかっているか知っている。それを知る権利がないときでさ ルーシーにはここへくる権利はない。べントンはくるなといった。ルーシーが電話 してきたとき、だめだ、ルーシー ここへきてはいけよ ) 、 といった。いまはまず 時機がよくないと。 ふたりは言い争わなかった。何時間も議論することもできたが、かっとなって理屈 にあわないことをわめいたり、同じことをくどくどくりかえしたりして、長々と互い の主張をぶつけあうのは、どちらも気がすすまなかった。以前はともかく、いまはも うそういうことはしたくない。だから最近はさっと手短にいいあって、おしまいにす ることが多い。ときとともにふたりの性格が似てくることを、自分が好ましく思って 下 しるのかどうか、べントンにはよくわからない。だが似てきたのはまちがいないし 跡 かもそれはますますはっきりしてくる。自分とケイとの関係を説明する鍵がもしある 痕 とすれば、ルーシーと自分が似ているという事実がそれかもしれない。瞬時にものご とを分類し、記憶し、処理するべントンの分析的な頭脳は、そう考えはじめている。

7. 痕跡 (下)

た。何に使われているか知りながら、野球のバットには近よらず、見て見ぬふりをし ていたのだ 粉砕機を買うべきだったわ。鳥がいなくなった餌箱を見ながら、スカーベッタは思 った。自腹を切ってでも買うべきだった。野球のバットを使うようなことを、許すべ きではなかった。いまだったら絶対に許さない これ」ドクター・フィルポットがキッチンにもどってきて、エドガー・アラ ン・ポーグの名前が書かれたぶあついファイルフォルダーを彼女にわたした。「わた しは診察にもどらなきゃならない。でも何か必要なものはないか、またのぞきにきま すよ」 本当のことをいうと、スカーベッタは遺体処置部にあまり関心がなかった。自分は 法医学者であり、法律家であって、葬儀屋でも遺体整復師でもない。その部門で扱う 死者たちには、自分に語りかけたいことは何もないはず、とずっと思っていた。彼ら の死には、不審な点がないからだ。安らかな死というものがもしあるとしたら、彼ら の死はまさにそれだった。彼女の使命は、安らかな死をむかえられなかった人、非業 の死、突然死、不審死をとげた人たちの手助けをすることだ。ホルマリン槽のなかの 遺体と話をしたいとは思わなかった。だから当時、自分の城の地下の部分へは足を運

8. 痕跡 (下)

ししい男ねといって、足でドアをしめ 家のなかへひつばりこんだ。声をたてて笑 ) た。彼の頭のなかで霧がうずをまいている。タクシーで彼女の家へむかうとき、ヘッ ドライトの光のなかでうずをまいていた霧のように。あのとき、自分が未知の世界へ むかおうとしているのはわかっていた。だがいってしまった。すると彼女がポケット に手をつつこんで、笑いながら彼を居間へひつばっていった。迷彩色のシャッと戦 闘用プーツしか身につけずに。彼女は体をおしつけてきた。彼女がマリーノの体を感 じていることはわかっていた。彼女も、びったりおしつけた自分のやわらかな体をマ リーノが感じていることを知っていた。 「スーズはキッチンからバーポンのびんをだしてきた」と、マリーノはいった。自分 の声はきこえるが、スカーベッタに話しているあいだ、部屋のなかのものは何も目に はいっていない。夢見ごこちのような状態でしゃべりつづけた。「彼女が酒をついだ ので、もういらねえといった。いや、いわなかったかもしれねえ。わからねえ。彼女 はおれに飲ませつづけてな。それで、どういえばいいんだ ? その気にさせたんだ その迷彩服はなんのまねだときいたら、フランクが好きだったの、といった。コスプ レってやつだ。 / 彼女にコスチュームをつけさせて、プレイしてたらしい」 「そ一つい一つとき、ギリーはそばにいたのかしら ? 」

9. 痕跡 (下)

116 るのだ。彼がつぎに何というか待った 「だからさ」マリーノは沈黙がつづくことに耐えられずにいった。「何にふみこむん だよ ? それだけ教えてくれよ。おれがふみこむ必要があるのは精神病院じゃねえの か頭がおかしくなっちまったような気分だよ、いまは」 「自分がおそれているもののなかにふみこむのよ。警察をおそれているのよね。ミセ ス・ポールソンが通報したかもしれないとまだ思ってるから。でも通報なんかしてな いし、この先もしないわよ。思いきってやってしまえば、もうおそれなくてもすむ 「おそれてるわけじゃねえ。ばかみてえに思われるのがいやなだけだ」と、マリーノ 。ししカえした 「よかった。それじゃ、プラウニング刑事かだれかに電話できるわね。電話しなかっ たら、それこそばかよ。そろそろ自分の部屋へもどるわ」椅子から立ちあがり、窓ぎ わへもどす。「八時にロビーで会いましよう」

10. 痕跡 (下)

353 痕跡 ( 下 ) べントンと肌をあわせるのは、どんな気持ちだろうと考えている。そして自分自身の 気持ちがどうなのかも、たしかめようとしている。「あれを仕組んだのはマリーノ 「リッチモンドのあのしゃれたたばこ専門店で、あいつがキューバの葉巻を買うとこ ろを見たかったな」 「禁制品のキューバものを売ってるのはそこじゃないのよ。それはそうと、ばかげた 話だと思わない ? この国ではキューバの葉巻がマリファナのように扱われてるんで すものね。そのしゃれたたばこ店で、手がかりになる情報をつかんだの。それをどん どんたどっていって、最後にそのハリウッドの銃砲店にいきついたわけ。マリーノ一 流のやりかたでね。ほんとにたいしたものだわ」 「なるほど」と、べントンはいったが、細かいことにはあまり関心はないようだ。彼 の関心がいまどこにあるのか、スカーベッタには察しがついている。しかしそれに対 して自分がどうしたいのかよくわからなかった。 「お手柄なのはマリーノよ、わたしじゃなくて。それをいいたいだけ。彼、たいへん な思いをしたんだから。ここですこしほめてあげなきや。おなかがすいたわ。何をご ちそうしてくれるの ? 」