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検索対象: 痕跡 (下)
347件見つかりました。

1. 痕跡 (下)

ケイは姪を無条件に、熱烈に愛している。なぜケイが自分を無条件に、熱烈に愛して くれるのか、これまでべントンはいまひとっ理解できなかった。それがいま、やっと わかりはじめているのかもしれない。 ルーシーは肩でドアを押しあけて、ターミナルにはいってきた。両手にダッフルバ ッグをひとつずっさげている。べントンを見てびつくりしたような顔をした。 「もってあげるよ」べントンは彼女の手からバッグをひとっとった。 「迎えにきてくれるなんて思わなかったわ」と、ルーシーはいった。 「わたしはこっちにいるわけだし。きみもきてしまったようだし。まあ、できるだけ うまくやるしかないな」 獣の毛皮や革をまとった金持ち連中は、おそらくべントンとルーシーのことを、わ けありのカップルだと思っているだろう。べントンが金のある年かさの男で、ルーシ ーが彼の若く美しいガールフレンドか妻だ。彼女を娘だと思う人もいるかもしれな とべントンはふと思ったが、父親らしくふるまってはいない。恋人のようにふる まってもいないが、たぶん典型的な金持ちのカップルと見る人のほうが多いだろう。 べントンは毛皮も金製品も身につけておらず、いかにも金がありそうには見えない しかし金持ちは同類をかぎわける嗅覚をもっているし、彼は金持ちらしい雰囲気をた

2. 痕跡 (下)

マリーノはコーヒーに砂糖をどっさりいれた。精製された砂糖をとろうとすると は、よほど具合が悪いにちかいない彼が実践しているダイエットでは、それは禁じ られている。いまマリーノがもっとも口にすべきでないものがそれだ。 「そんなことしていいの ? 」と、スカーベッタがきいた。「後悔するわよ」 「彼女はここで何やってたんだ ? 」マリーノはスプーンに山盛りの砂糖をもう一杯い れた。「モルグにいたら、あの子の母親が廊下を歩いてくるじゃねえか。まさかギリ ーと対面するためにきたわけじゃねえだろう。遺体は見られるような状態じゃねえん 師だから。いったい何をやってたんだ ? 」 跡マリーノは昨日と同じ黒いカーゴパンツとウインドプレーカーに、の野球 警察友愛会 痕帽をかぶっている。ひげはそっておらず、疲れきった荒々しい目をしている。 のバーで飲んだあと、昔の女に会いにいったのかもしれない。ボウリング場で出会っ ロサンゼルス警察

3. 痕跡 (下)

「ヾ ーベキューグリルがある。パティオにでて、雪のうえで肉を焼くのが好きなん だ。露天風呂のそばで」 「露天風呂ねえ。寒い夜の闇のなかで、銃以外に何も身につけず、というわけね」 「わかってるよ。やつばりあの風呂にはいることはないだろうな」彼は玄関の前で立 ちどまり、ドアの鍵をあけた。 ふたりは足踏みして雪をおとした。雪をかいた道を歩いてきたので、ふりおとすほ どの雪はついていなかった。だがそうするくせがついているし、多少てれくささもあ ったのかもしれない。なかへはいると、べントンはドアをしめて彼女を抱きよせ、ふ たりは舌をからませてキスをした。もう塩の味はせず、スカーベッタは彼のあたたか くて力強い舌と、きれいにひげをそった肌の感触を味わった。 「髪がのびたわね」と、べントンのロのなかにささやき、指で彼の髪をすいた。 「忙しかったからな。切りにいくひまもなかった」と、べントンは答えた。彼の手は スカーベッタの体中をまさぐり、彼女の手もべントンの体をなでているが、コートが ふたりの邪魔をしている。 「忙しかったのは、、 へつの女性といっしょだったからでしよ」と、スカーベッタはい った。キスし、体にふれながら、互いにコートを脱ぐのを手伝う。「きいたわよ」

4. 痕跡 (下)

「玄関へきてちょうだい」スカーベッタはそういって、車をおりた。「ドアのところ にしる力、ら」 「↓よ ) 十 6 ) 。 わかったわ」ミセス・ポールソンは電話を切った。 「そこにすわってて」スカーベッタは車のなかへむかっていった。「彼女がドアをあ けるまででてこないで。窓からあなたの姿を見たら、いれてくれないでしようから」 運転席のドアをしめ、ポーチへむかうあいだ、マリーノは暗い車内でおとなしくす わっていた。ミセス・ポールソンが家のなかをとおって玄関へむかうにつれ、あちこ ちの明かりがともる。スカーベッタが待っていると、居間のカーテンに人影がうかん だ。カーテンが動いてミセス・ポールソンが外をのぞく。カーテンはしまり、ドアが あくとまたゆれた。彼女はファスナーのついたフランネルの赤いロープを着ていた。 枕にのっていた部分の髪がペちゃんこになり、はれぼったい目をしている。 「いったいどうしたの ? 」スカーベッタをなかにいれながらきいた。「なぜここへき 下 たの ? 何があったの ? 」 跡 「フェンスのむこうの家に住んでいる男のことだけど。彼を知ってた ? 」 痕 「男ってだれのこと ? 」彼女はとまどい、おびえているようだ。「フェンスって ? 」 「おたくの裏の家」スカーベッタは指さした。そろそろマリーノがくるころだ。「そ

5. 痕跡 (下)

7 し / 「彼女はあなたを傷つけたんでしよう」スカーベッタはべッドのそばに立って、マリ ーノを見おろした。「彼女にされたことを見せて」 「冗談じゃねえ ! できねえよ、そんなこと」マリーノは情けない声をだした。まる で十歳の子供のようだ。「できねえ。絶対に」 「カになってもらいたいんでしよう ? 何をされたにしろ、わたしにとってははじめ て見るものではないわ」 マリーノは両手で顔をおおった。「できねえ」 「それなら警察に電話する ? そうしたら署につれていかれて傷の写真をとられる わ。傷害事件ってことになるわね。そうしたいの ? それもいいかもしれない。彼女 かもう警察に訴えているなら。でも訴えていないと思うわ」 マリーノは手をおろして、彼女を見あげた。「なぜだ ? 」 「なぜそう思うかって ? 簡単な話よ。わたしたちがここに泊まってることは、みん な知ってるのよ。プラウニング刑事だって知ってるでしよう ? 彼はあなたの電話番 リー・ポールソンの母 号も知ってる。それならなぜあなたを逮捕しにこないの ? ギ 親が電話して、あなたにレイプされたと訴えたら、警察はとんでくると思わない ?

6. 痕跡 (下)

319 痕跡 ( 下 ) はトラクターに轢かれただけじゃないっていうのか ? やつの奥さんも大騒ぎして、 いろんな人間にいいカかりをつけてるんだ。まったくばかげた話だよ。おれはここに いたんだ。やつがたまたま、 いるべきじゃないところにいて、エンジンをいじって た。それだけのことだ」 「とにかく、なかを見る必要があるの。いっしょにきてもいいわよ。そうしてくれる とありがたいわ。ちょっと見たいだけなの。裏口は鍵がかかっているでしようね。鍵 はもっていないんだけど」 「そんなことはどうにでもなる」彼は建物をながめ、それから作業員たちのほうをふ りかえった。「おい、ポビー ! 裏口の戸の鍵をドリルで破ってくれないか ? すぐ やってくれ」そう声をかけてから、スカーベッタのほうをむいた。「いいよ。それじ や、なかへつれていってやる。ただし表のほうへは近づかないようにな。てっとりば やくすませてくれ」

7. 痕跡 (下)

155 痕跡 ( 下 ) は前と同じだ。トラクター運転手の場合は、塗膜片や骨のかけらが見つかってもつじ つまがあう。だがギ リー・ポールソンの事件では説明がっかない。なぜ同じ微細な証 拠が、彼女のロのなかからも見つかったのだろう ? 「同じゃっだ」アイズが確信ありげにいった。「病気の女の子のスライドを見せまし ようか。信じられませんよ、きっと」自分のデスクのうえからぶあつい封筒をとりあ げ、おりぶたのうえにはってあったテープをはがし、スライドがはいった厚紙のファ イルをとりだした。「彼女の証拠をずっと手近においてたんです。しよっちゅう見て たからね」スライドを載物台にのせる。「赤、白、青の塗膜片。金属片にくつついて いるものと、そうでないものがある」スライドを動かして、ピントをあわせた。「こ の塗料は単層で、たぶん工ポキシエナメルだろう。ぬりなおされているかもしれな つまり、最初は白だったが、そのうえにさらに塗料をぬった。具体的には赤、 白、青の塗料を。見てごらんなさい」 アイズはポールソン事件の証拠として提出された微物のなかから、それらの小片だ けを根気よくとりわけており、スライドには赤、白、青の塗膜片だけがのっていた。 それらは大きく色あざやかで、子供の積み木のように見えるが、形は不規則だ。つや のない銀色の金属にくつついているものと、塗膜だけのように見えるものがまざって

8. 痕跡 (下)

スカーベッタはマリーノをちらっと見た。昨夜、彼女が部屋をでていってから、ル シーに電話したにちがいない 「家にいなくてよかったよ」と、ルー一丁イカい一つ。「ほんとによかった」 「ルーディ、いったい何があったの ? 」と、スカーベッタはきいた。不安がつのって くる 「だれかがルーシーの家の郵便受けに爆弾をいれたんだ」ルーディが早ロでいった。 ゝ。レーシーからきいたほ , つかしし」 「こみいってて、ひと口には話せなし スカーベッタは車を駐車場へいれ、とまるかとまらないぐらいの速度で、訪間者用 スペースへむかってすすんだ。「いつのこと ? どんな爆弾 ? 」 「たったいま見つけたんだ。まだ一時間とたってない。家の様子を見にきて、郵便受 けに旗がたっていることに気づいて、へんだなと思った。あけたら、大きなプラスチ ックのカップがはいってた。カップはマジックでオレンジ色に、ふたはグリーンにぬ 下 ってある。ふたのまわりと、吸い口のうえにダクトテープがはってあった。なかに何 跡 がはいっているか見えないので、ガレージから長いポールをもってきた。なんていう 痕 んだろう。先につかむものがついていて、高いところにある電球をとりかえたりする ときに使うやつ。それでそのあやしげなものをつかんでとりだして、処理した」

9. 痕跡 (下)

23 痕跡 ( 下 ) やつが国土安全保障省にたれこんでることを考えると、それはかなりやばい いをさせてくれたという理由で、やつがパイロットの、とくに軍のパイロットの適格 性を承認するとしたら、とんでもねえ話だ。ところでが何より好きなのは、国 土安全保障省のスキャンダルをあばいて、やつらをこけにすることだ。だからことの なりゆきに不安を感じた州知事から依頼があったとき、しめたと思ったわけだ。そう だろ ? 」と、ウェーバ ー特別捜査官を見る。「に応援を要請したことがどうい う結果を生むかが、知事にわかってるとは思えねえ。やつらが応援と称して、べつの 連邦政府機関にしつべがえしをしようとしてるとは、思ってもいなかった。いってみ りや、これはすべて権力と金をめぐる話なんだ。まあ、世の中のあらゆることはそう だけどな」 しいえ、そんなことはないわ」スカーベッタがきびしい声でいった。これ以上耐え られなかった。「これは苦痛にみちたおそろしい死にかたをした、十四歳の少女の話 よ。ギリー・ポールソンの殺人についての話なのよ」椅子から立ちあがってプリーフ とって ケースをパチンととめ、革の把手をつかんでもった。そしてドクター・マーカスとウ エーバー特別捜査官を順に見た。「そのはずなんだけどね」

10. 痕跡 (下)

こに男が住んでたの。知ってるでしよう。あそこにだれかが住んでいたことは、知っ てるはずよ、ミセス・ポールソン」 マリーノがドアをノックした。ミセス・ポールソンはびくっとして、胸をおさえ た。「もう ! 今度は何 ? 」 スカーベッタがドアをあけると、マリーノがはいってきた。赤い顔をしている。ミ セス・ポ 1 ルソンのほうを見ずにドアをしめ、居間へはいった。 「何よ」ミセス・ポールソンは急に怒りだした。「はいってこないでほしいわ」と、 スカーベッタにいう。「でていかせて ! 」 「フェンスのむこうの男のことを話してちょうだい」と、スカーベッタはいった。 「裏の家に明かりがついているのを見たはずよ」 「やつはエドガー・アランとかアルと名のってたか ? それとも何かべつの名前だっ たか ? 」マリーノが彼女にいった。顔を紅潮させ、けわしい表情をしている。「でた らめいうんじゃねえぞ、スーズ。こっちはそういう気分じゃねえんだ。やつは何と名 のってたんだ ? やっと仲よくしてたんだろう」 「裏にいた男っていわれても、だれのことかわからないわ。ほんとよ。どうして ? その男が : : ? そう思ってるの : : : ? まさか」恐怖をたたえた目が涙で光ってい