146 発電所のポイラー機関が黒煙をあげて燃えていた。市内のすべての消防隊が集中し消火作業 にあたる。時折、炎の中で小爆発が起こる。見物に訪れた住民が、やって来たかと思うとこれ はまずいと避難準備に駆け戻る、そんな光景が繰り返された。 必死の消火活動でも一向に収まらない爆炎を見たダラス ・ハワードは、自分を伴った保安官 を促すように頷いた。エディ・モラレス保安官が頷き返し、トランシー ーに向かって通信係 の名を叫ぶ。 「アグネス、アグネス。コロラド・スプリングスの州兵に無線を入れてくれ。この火事には彼 らの助けが必要だ」 ネイサン・コリンズの言葉を借りるまでもなく、もはや町の保安官の手に余る事態に発展し ていた。州兵は国軍の予備部隊であると同時に、州単位の治安維持と災害救助にもあたる軍事 組織だ。シュリーヴァー空軍基地とフォートカーソン陸軍基地を擁するコロラド・スプリング スは、ガニソンから 10 0 マイルほど東のあたり、デン・、 ーの南に位置するコロラド州で第二 の地方都市である。要請が受け入れられ町に近い一個中隊が派遣されるにしても、到着には最 低数十分はかかるだろう。まだまだ保安官の仕事に休みはなかった。 黒煙の昇る上空に雲が集まっていた。雨雲がたちこめている、炎の熱気が大気の対流を促し 雨を呼んだのか。呆然と消火活動を見守るダラスとモラレスの視線が、あたふたと火事の灯り に駆け寄る少年たちの姿を捉えた。リッキー、とダラスが叫ぶ。仇敵やジェシーらしき少女と
150 何度も電話してきて、訳の分からないことを言うんですよ』 交換手の困惑がダラスにも分かった。保安官は彼女に問い質す。 「みんなが何を言ってるんだ ? 」 『少なくとも巧件以上の目撃報告を受けたんです。その : : : 怪物が出た、と』 モラレスの顔が硬直した。怪物 : : : しかも多数の目撃者。返答に戸惑う彼を見て、いよいよ 町が異常事態に包まれたとダラスは実感した。 「救援を呼ぶんだろ、エディ」 責任のないぶん、より理性を残したダラスが保安官を促す。保安官は我に返り、不明を恥じ る視線をダラスに戻した。 911 との通話を打ち切り、事務所に回線をまわす。 「 : : : アグネス、こっちに向かっている州兵の指揮官に連絡して、回線をこのトランシー につなぐんだ」 呼び出しと接続を待って、モラレス保安官とダラスは車に戻った。 建物を出て歩く途中で通信回路が整った。弟たちを乗せたステーション・ワゴンの無事を確 かめ、ダラスはあたりを警戒する。保安官がトランシー ーで州兵の長に報告を開始した。 『こちらはコロラド州兵、第部隊のウッズ中尉だ。被害の詳細を話せ』 「中尉、こちらはコロラド州ガニソンの保安官、エディ・モラレスです。すでに 3 つの死体と 二人の行方不明者がーーそれとは別件で、発電所の爆発がありました』
鬪 A R I E R 主な登場人物 . 工ラ : ・イ・モラレス コロラド州ガニソンて生まれ育った若き保安官 タ・ラス、・ノ、ワー・ト 刑期を終えたばかりの青年。モラレスとは旧知の仲 リッキ・ ・ノ、ワーード 17 歳の高校生。ダラスの弟で、ピサ店でアルバイトをしている。 ・オプ・ライ。工 . ン 27 歳の女性兵士。 2 年ふりにガニソンに帰還する。 ティノ、・オ・プ・ライエ . ン 優しく献身的なケリーの夫。 ・オ・プ、ライエ . ン 7 歳になるケリーとテイムの娘。 ジ、ェシカ ( ジェシ - ー ) ・・サリンジャ リッキーが思いを寄せる同級生。 ・デ・イ ) レ・コリンス、 リッキーの同級生。ジェシカと交際中で、リッキーを目の敵にしている。 レイ・ファタ、 LX ス 副保安官で、モラレスの部下。 DR -204 旧 BN978-4-8124-3349-2 C0174 ¥ 619E 9 7 8 4 8 1 2 4 5 5 4 9 2 定価本体 619 円 + 税 A V P 1 9 2 0 1 7 4 0 0 6 1 9 8 ALIENS VS. PREDATOR . REQUIEM 南極大陸の奥深くに眠るピラミッドでの死闘は、序章に過ぎなかった・・・ コロラド州の田舎町ガニソンの森に、ある日突然、謎の物体が墜落。それは 太陽系を離れようとしていたはずのプレデターの宇宙船だった。標本用のフェ イスハガーがうごめく船内では、ェイリアンとプレデターの血を受け継ぐ新種 。プレデリアン " が誕生し、急速に成長しつつあった。外界へと放たれた彼 らの襲来により、ガニソンはたちまち大混乱に陥る。もはや町を捨てて逃げ るしかないのか。追いつめられた住人たちの前に現れたのは、工イリアン駆 逐を生業とする新たなるプレデター。ザ・クリーナー”。かくして人類の眼前 で、恐るべきクリーチャーたちの壮絶な戦いが幕を開ける・・・・・・。果たして地 球に明日はあるのか ? <>mN ェイリアンズプレデター ^ M 声 2 ・フプタ、 LX ス キャリ 出産を間近に控えるレイの妻。 ・′ヾン、ノン キャリーの友人。夫と息子が森の中で行方不明となる。 シェーン・サラーノ . 工 . イリアンス、 VS . プレデ、ター ンエーン・サラーノ [ 脚本 ] 山下慧 [ 編著 ] A V P A V P 02007Twentieth Century Fox Film Corporation. AII Rights Reserved. [ オフィシャル・サイト ] AVP2. JP ブックテサイン = 石橋成哲 、イ 竹書房文庫 竹書房文庫
H A R A I [ R 主な登場人物 工ディ・モラレス コロラド州ガニソンで生まれ育った 33 歳の保安官 ダラス・ハワード 刑期を終えたばかりの青年。モラレスとは旧知の仲。 リッキー・ハワード 17 歳の高校生。ダラスの弟で、ピサ店でアルバイトをしている。 リッキーの同級生。ジェシカと交際中で、リッキーを目の敵にしている。 ティル・コリンズ リッキーが思いを寄せる同級生。 ジェシカ ( ジェシー ) ・サリンジャー 7 歳になるケリーとテイムの娘。 モリー・オブライエン 優しく献身的なケリーの夫。 テイム・オブライエン 27 歳の女性兵士。 2 年ぶりにガニソンに帰還する。 ケリー・オプライエン キャリーの友人。夫と息子が森の中で行方不明となる。 ターシー・べンソン 出産を間近に控えるレイの妻。 キャリー・アダムス 副保安官で、モラレスの部下。 レイ・アダムス
コロラド州ガニソンの上空、高度 100 キロメートルあたりの夜空に鮮やかな閃光がきらめ いた。小さな物体が宇宙空間から大気圏に突入し、最後の空気摩擦を耐え抜いて成層圏を突き 抜けた歓喜の輝きだ。だが猛ス。ヒードで対流圏を落下するその物体は、仮に閃光の目撃者がい たとしても、視線に捉えることは出来なかった。 光学迷彩を施した個体用シャトルポッドは、目標通り、ガ = ソン市外森林地帯の湖に突っ込 んだ。盛大な水しぶきが上がり、眠りについた鳥が闇雲に飛び立つ。本能が狂っていなければ、 この鳥は二度と戻らないだろう。 湖のさざ波が収まった頃、それは水中からゆっくりと姿を現わした。人型をかたどった水の 揺らぎ。空に浮かんだ水滴が重力に引かれ、人の輪郭をなそってすべり落ちているのだが、人 物の本体は透明だ。水面には下半身ぶんの穴が開いている。人型の水滴と水面の穴は岸辺に向 かって移動し、やがて電光をスパークさせた。 光学迷彩が解かれ、プレデターが本体を現わした。性能は高めてあるが、やはり光学迷彩は
るから、この闇夜でも怪物を判断できるだろう。ケリーは流れるような動作でカービンを やはり戦場が自分の生きる場所なのか ? 扱い、本来の自分を取り戻した錯覚に襲われた。 保安官も含め、皆が慣れぬ軍用装備に手間取るなか、ダラスは一度でライフルの構えまでを 器用に真似し、マガジンの再装填後、ロックをかけ非戦闘時の状態に持ち替えてみせた。 「よし、分かったそ」と納得する。 「無線はどうなんだ ? 」 慎重に取り回しをこなした保安官がケリーに訊ねる。もう彼女がこの分野のエキスパートだ と了解したようだ。ケリーがストライカー装甲車を指差す。保安官は後部ハッチから中に入り、 生きたままの無線マイクを掌につかんだ。 「州兵、誰か聞いてるか ? 繰り返す。州兵の部隊はいないか ? 」 雑音が流れ、高音が乱れ途切れる。ラジオ / イズに人の声が混じり、やがて相手がこの周波 数を捉えた。 こちらは合衆国軍、スティーヴンス大佐だ。君の階級は ? 』 「コロラド州ガニソンの、エディ・モラレス保安官です」 無線の相手を確認し、保安官が安堵の表情を見せた。 「そちらの : : : 州兵の指揮官はどうした ? 』 「大佐、中尉は死にました。隊全体が消え失せたんです」
・オプライエンは、すぐさまへリコ。フターの進路を口 上空に昇っての機体を見たケリー ー・ハワードの隣で窓のガラスに貼り付いたモリ ッキー山脈に連なる山並みに向けた。リッキ ーが、遠くに爆音を残すジェット機の機影を探す。夜の闇はまだ深い。 「ママ ? ・」 「ここにいるわよ、モリ 。大丈夫、目を閉じなさい、いい子だからね」 リッキーは、素直に両目を閉じる子供を見守った。このまま眠ってしまって、すべての出来 争ごとが、この子にとって全部夢になってしまえばいいのに、彼はそう思った。モリーに代わっ 存てジェット機の行方を探す。遠ざかる上空の一点に、何かがきらめいた気がした。 「リッキー」と兄の声に呼ばれた。ヘリコプターが急激に傾き、山の背後に入ろうとする。 章 第 お前も目を閉じた方がいいんじゃないか、と兄がからかうように言った。肩の傷はどんど ん痛みを増している。ちえつ、と舌打ちし、兄の勝利の記念碑を奪いにかかった。 ダラス、ケリー、 君たちは正しかった。 「ごめんよ」と保安官が絶望して答えた。 から落とされた可変威力型核爆弾圏の閃光が走った。コロラド州ガニソンの町すべて が一瞬ののちに消減した。
172 「待て、保安官、待機してくれ」 ウッズ中尉が無線交信相手のエディ・モラレス保安官に言ったのは、雨の音をついて不気味 カニソンのメインストリートで な呼吸音を聞いた時だった。すでにコロラド州兵第部隊は、。 防衛態勢を敷いたあとだ。国道号から入ったメインストリー トを北上し、まさにこの態勢を 取り直した時にガニソンの保安官から通信を受けたのだった。 第部隊が、通常の州知事からの指令ではなく、合衆国中央の指令によって緊急出動に赴い てから数十分が経過している。途中で一度、同じ保安官から最初の報告を受けた。状況報告を 伝えたモラレス保安官は「単なる火事災害の救援要請ではないのです」と語ったが、ウッズ中 非常ドアを押し開け、警報を働かせたのはケンドラとカーティスの姉弟だった。二人は警報 の鳴り響く夜の外階段を駆け降り、自分たちの。ヒックアップ・トラックに急いだ。とにかく逃 げ出し、北部の家に帰り着くことしか考えなかった。雨が降り始めた。車で飛び出したメイン かっぽ ストリートは、すでに成長したウオリアー ・エイリアンが闊歩することを、二人はまだ知らな しメインストリ トを進行するひとつの特殊部隊に、そのウオリアーがいま襲いかからんと していることも、やはり知る由はなかった。
〈ガニソン・ ( レー病院〉は、北部から中央部までの地域で最大の総合病院だ。かかりつけの 医師を持たない人や緊急の事故の場合など外科から内科まですべて、何かにつけ北の住民がま ず足を運ぶのはこの病院だった。町が得体の知れない異変を迎え、病院はこれまでにない活気 を強いられた。 今しも一台の救急車が正面玄関に到着し、慌ただしくストレッチャーを排出し 2 名の救命士 と共に中へ駆け込んでいく。専用の入口はもはや別の救急車で埋められたらしく、の担当 医が玄関から入った受付ロビーで、次々と搬入される患者を瞬間的に診ては治療室に振り分け た。簡単な手当ては暗いロビーの長椅子でも行なった。あたかも野戦病院の状態だった。 建物までは慣れぬ運転で救急車を追い掛け、玄関に到着してはストレッチャーを追い掛ける 姉弟も、この軍医のような担当医にようやく巡り合えた。 変 「ドクター、診てください、ドクター 異 章叫んでいるのはケンドラと呼ばれる歳の黒人の少女だ。コロラド州が運転免許を与えるの 第は歳以降だが、まもなく資格を得る彼女は個人的に私道で運転を学び、密かに家の車を操る ことができるようになっていた。公道を無免許運転で走ることはめったにないし、子供が早く
強力そうなショットガンを選んだ。 5 人それそれが銃を手にする間に、保安官は警察用短波無線器を探し出した。自分のトラン ーをコネクターで接続し、周波数を専用の緊急チャンネルに合わせる。装置が正常に機 能し、スビーカーから送受信時のノイズが流れた。 「モラレス保安官からコロラド州兵、第部隊へ。聞こえますか、どうそ ? 」 雑音に様々な通話の音声が小さく混じる。保安官の声を耳にした全員が、銃を調べる手を休 め、通話の内容にそばだてた。まもなく無線器が答えた。 『ウッズだ。どうそ、保安官』 「今どちらですか、中尉 ? 」 『 13 5 号のメインストリートど 短く歓呼の声が上がった。もう州兵がガニソンを南北に貫く大通りに入った、助けは近い これでライフルもお役御免になりそうだ : : : その時、無線器の奥から異様な呼吸音が聞こえた。 ノ 、とジェシーが洩らした。『待て、保安官、待機してくれ』と無線の中尉が言った。ジェ シーやリッキーたちの表情から、それが″怪物〃の発する声だと察せられた。 6 人全員が、固 唾を飲んで無線器の中継に聞き入った。 かた