172 「待て、保安官、待機してくれ」 ウッズ中尉が無線交信相手のエディ・モラレス保安官に言ったのは、雨の音をついて不気味 カニソンのメインストリートで な呼吸音を聞いた時だった。すでにコロラド州兵第部隊は、。 防衛態勢を敷いたあとだ。国道号から入ったメインストリー トを北上し、まさにこの態勢を 取り直した時にガニソンの保安官から通信を受けたのだった。 第部隊が、通常の州知事からの指令ではなく、合衆国中央の指令によって緊急出動に赴い てから数十分が経過している。途中で一度、同じ保安官から最初の報告を受けた。状況報告を 伝えたモラレス保安官は「単なる火事災害の救援要請ではないのです」と語ったが、ウッズ中 非常ドアを押し開け、警報を働かせたのはケンドラとカーティスの姉弟だった。二人は警報 の鳴り響く夜の外階段を駆け降り、自分たちの。ヒックアップ・トラックに急いだ。とにかく逃 げ出し、北部の家に帰り着くことしか考えなかった。雨が降り始めた。車で飛び出したメイン かっぽ ストリートは、すでに成長したウオリアー ・エイリアンが闊歩することを、二人はまだ知らな しメインストリ トを進行するひとつの特殊部隊に、そのウオリアーがいま襲いかからんと していることも、やはり知る由はなかった。
ストライカーは兵員輸送車としても使われるのだと教えられた。後部から保安官たちが中に乗 り込む。ケリーがハッチを閉めかかって、ダーシーの腕に抱かれたモリーを見た。モリーはケ リーに腕を伸ばし、母親を求めた。 彼女はそれが出来る女になったのだ。 ケリーが戦士の顔に母性を同居させた。 / 「ママの側にいるのよ、いい ? ・」 従順にモリーが頷いた。娘を抱きかかえ、ストライカー装甲車の前部に移る。操縦席の隣に モリーを押し込み、自分は操縦席に潜り込んだ。後部ハッチがオートロックで閉まり、ダラス かキャリくー 0 5 の銃座につく。出発だ。ストライカーは進行方向を変えて、メインストリート を南に向かった。市の中心地、ギリアム・サークルへと : エンジンが停止した。電気系統は生かしたままだが、静寂がストライカーの車内を襲った。 外のメインストリートは怪物に蹂躙された傷跡を残し、郊外のゴールドラッシ、の開拓村に 残る、廃墟の匂いを深刻に漂わせる。怪物はやはり州兵部隊との戦場だけに現われたのではな 変 町中の、おそらく人間のいるところに何体も出現したのだろう。 異 「どうして停めたんだ ? 」 章 第 タウンカーの後部座席から身を乗り出す要領で、モラレス保安官が操縦席のケリーに訊ねる。 ケリーは上半身を捻り、後部の皆に話しかける。ダラスも上部 ( ッチから中を覗いた。 じゅうりん
敗北の戦場は異常な様相を呈していた。メインストリート上に散乱する廃棄車の向こうで、 戦闘車両 3 台が正しく応戦の陣形を取っている。その周辺には大量の血液が流れ、雨で薄めら れて言葉通り、路上を血の海と化した。被害の甚大さは予想すべくもないが、戦場を見慣れた ケリー・オ。フライエンでなくとも、誰もがその痕跡に首を傾げ、不気味に思うだろう。 「何が起きてるんだ、エディ ? 」とダラスが保安官に訊ねた。 「これって、救援隊なの ? 」と弟のリッキーは困惑する。 どれほど雨が降り続けても血が流れ切らない舗道を見回し、モラレス保安官がその奇怪な事 変実を指摘した。 いったい、死体はどうなったんだ ? 」 章 第第部隊は怪物の襲撃を受けて全減した、それはディスカウントショップを脱出して通りを 駆けている間に予想したことだ。だがこの戦場跡には、怪物に倒されたはずの州兵の遺体がひ ター、お前だけは許さないー 残る左肩のプラズマ・キャ / ンと腰に付けた武器を駆使し、プレデター の死闘が始まった。 ・クリーナーの本当
204 「ギリアム・サークルから空輸してくれるんだってよ。トラックの o 無線にたしかな情報が 入ってる。あんたも一緒に来いよ、保安官」 「ちょっと待っててくれ」 モラレスはトラックを引き留めた。気付けば、メインストリート を南下するのはこの 1 台だ けではなかった。荷台に人を満載し、これ以上乗せられないトラックが一行を追い抜いていく。 彼方から、個人の車もやって来た。情報が流れ本格的な避難が始まっている、このトラックは 他の車と一緒になって、通りの生存者を拾いつつ進んでいるのだ。 「リッキー ! 」と荷台からダラスの弟を呼ぶ声があった。〈ビザ・ワン〉のマネージャート リーが荷台を飛び降りてリッキーに駆け寄った。店の制服を着たままの彼は、ずぶ濡れで薄 汚れ、震えていた。 「大丈夫なの ? 」 リッキーの問いに首を振る。彼も恐怖に遭遇したのだろう、まともな言葉を出せない。怪物 は町中にいた、そしてドリ = ーたちを襲ったヤッらはもう北部から別の場所へ移動したという ことなのだ。仲間をトラックへ誘導しかける保安官に先んじて、ダラスは力強く宣言する。 「みんな、選ぶんだ。今すぐにだ。俺は病院に行くそ ! 」 「俺たちは町の中心に行くんだ ! 」 負けじと保安官が声を張り上げる。保護者を選ぶ住民投票が始まった。
強力そうなショットガンを選んだ。 5 人それそれが銃を手にする間に、保安官は警察用短波無線器を探し出した。自分のトラン ーをコネクターで接続し、周波数を専用の緊急チャンネルに合わせる。装置が正常に機 能し、スビーカーから送受信時のノイズが流れた。 「モラレス保安官からコロラド州兵、第部隊へ。聞こえますか、どうそ ? 」 雑音に様々な通話の音声が小さく混じる。保安官の声を耳にした全員が、銃を調べる手を休 め、通話の内容にそばだてた。まもなく無線器が答えた。 『ウッズだ。どうそ、保安官』 「今どちらですか、中尉 ? 」 『 13 5 号のメインストリートど 短く歓呼の声が上がった。もう州兵がガニソンを南北に貫く大通りに入った、助けは近い これでライフルもお役御免になりそうだ : : : その時、無線器の奥から異様な呼吸音が聞こえた。 ノ 、とジェシーが洩らした。『待て、保安官、待機してくれ』と無線の中尉が言った。ジェ シーやリッキーたちの表情から、それが″怪物〃の発する声だと察せられた。 6 人全員が、固 唾を飲んで無線器の中継に聞き入った。 かた
構えない人間を無視し、エイリアンを追った。 行くのよ ! 直感的にケリーが叫び、人間たち 7 人もディルを追った。 もうすぐで玄関のドアに到達する、ディルが喜びに顔を崩した時、それは恐怖の泣き顔にす り変わった。棚と天井を跳ねて、ウオリアーがディルにつかみかかったのだ。押し倒されたデ イルが喚き声をあげウオリアーの下でもがいた。走ってきた 7 人がブレーキをかけ、彼を助け ようとその取っ組み合いに回りこむ。 再び赤い 3 つの光点がウオリアーの光る体表をなめた。保安官やダラスたちが身体を屈め、 青白いプラズマ砲がウオリアーの頭部を貫いた。細長いエイリアンの頭頂部はばっくりと穴を 空け、強酸の体液をディルに降り注いだ。顔が焼け、蝋人形のように溶けていく。 ディル・コリンズだったものの断末魔が身体の芯まで染み込み、 7 人の人間は我を忘れ玄関 に逃げ出した。気が狂わないのが不思議なほどの恐慌だった。 ・クリーナーは、冷徹な視線を逃げていく人間に ようやく所期の任務を達成したプレデター 向けた。彼らは狩るべき獲物か否か。 変 モラレス保安官、ダラスとリッキーの兄弟、ジェシーとダーシー、それにケリ 1 とモリ 異 章親子は、玄関前のステーション・ワゴンに群がった。だがキーは亡きディルの手の中だ。 第 「メインストリートだ ! 行け、走れ ! 」 保安官の号令で、全員がもう一度あざや擦り傷だらけの身体を奮い立たせ、通りを駆け出し
ハワード兄弟 ハイスクールを出発したモラレス保安官のステーション・ワゴンは、ダラス・ 変と弟の同級生を乗せて市街の通りに入った。住民の車が右往左往し、時折小渋滞を作って車は 章なかなかスビードを上げられなかった。住民の退避が始まっている。だが発電所に続く 135 第号のメインストリート を北上するものもあり、爆破事故から逃げているわけでもないと分かっ た。遠くに銃声も聞こえた。明らかに、停電に合わせて何かの異変が町全体を襲ったのだ。 を地面に置いて開いた両手を前に示した。身体でモリーを墓石に隠し、狙撃手がいるはずの闇 をじっと見据えた。 第二射は来なかった。また 3 点レーザー・ポイントの光条を認めたら、すぐ銃を握ってモリ ーから遠ざかるつもりだ。雨が、頬に一滴降り注いだ。。ほっり。ほっりと草が雨音を奏でる。頭 部をなくしたカールの残骸を見て、泣き声まじりにモリ 1 がささやいた。 ママ、あたし目を覚ましたい、今すぐに目を覚ましたい : 銃を諦め、上半身を起こして娘を抱きしめた。大丈夫、大丈夫、とロの中で呟く。モリーを 抱え、墓石を盾にしながらゆっくりと南側へ腰だめで下がる。墓石で狙撃手から隠せない距離 まで離れ、翻って走った。雨が、二人の上に降り始めた。
97 第 3 章ザ・クリナー やマーク、ニックらの悪童には拷問に等しいだろう。演説が途切れたかと思うと、トーマス先 生は黒板に今日のメインテーマを大きく書きなぐる。 「今まで地球上に存在した種の四・ 9 パーセントは絶減種」。そしてまた演説を続ける。 稀な例では、種全体がたった一度の壊滅的な事件によって一掃されてしまう場合もある のです。これは学説ではありませんが、たとえば古代の恐竜、隕石の墜落とか火山の大噴火に よって環境が激変し、その変化に適応できずに一度に減びたという話がありますね。氷河期で いくつかの種が減んだという説は事実です。そんな長期的な事件だけじゃなく、少数の人間が 肉食や毛皮取りや趣味嗜好のために乱獲し、あっという間に絶滅した小動物は枚挙に暇ありま せん。狩猟道具や銃の発達がそれを手助けしましたが、野生動物としてはか弱い人間がそれを なし得たのだから、同等かそれ以上の知性を持った、肉体的にももっと優れた野獣が突然現れ たとしたら、人間もこの一度の壊減的な事件でたちまち減んでしまうかもしれません : 教室に目線を配らない先生をよそに、先程からディルが二つ前の席のリッキーにちょっかい 一を出している。 「リッキーおいリッキー」 どうせ意味のない呼び掛けだろうと、リッキーは無視を決めこんだ。それでも丸めた紙屑を 投げ小声をあげる悪童に、その隣のジェシーが反応する。 「一アイル、彼のことはほっといてよ」
121 第 4 章ハンティング 区域からの順路を部下のカールに任せる。 あずか ・エイリアンには与り知らぬ だがそんな事情は、警告サインの原因の一つであるウオリアー ことだ。地下下水道のトラップ戦から逃け出したウオリアーたちは本能のおもむくまま分散し、 1 体がこの発電所に忍び込んだ。そして高熱と高温の蒸気に燻され、鉄パイ。フや機械装置に埋 め尽くされた一画で、今度こそ殺戮の本能を満足させる獲物に出会えたのだ。その獲物は、機 ーで誰かと会話し、の 械装置のあちこちゃ蒸気を噴くパイプを覗き込みながら、トランシー んびりと歩き回っている。 「あの保安官は役立たずだな」と、ネイサンと呼ばれる獲物が言った。 『そうだな、そろそろ俺たちの誰かが、あの職に就くべきだと思うね』と獲物の手元の小さな 機械が音声を洩らす。 「誰かってのはもちろん俺の : : : 」 第二区画の、ネイサンの 8 フィート 頭上の鉄柵路を平行して移動していたウオリアーは、会 話途中にもかかわらずするすると。ハイプ群の隙間を滑り降りた。手元に・ほそ・ほそと話しかける 獲物に最後まで語らせず、手を伸ばしてその頭部を攫み上けた。手足をばたっかせる獲物がウ オリアーの顔面に引き寄せられ、開かれた顎を見た途端に恐怖に顔を引き攣らせた。ウオリア ーは第二の顎を使うことをやめて、ネイサン・コリンズと呼ばれた人間の頭部を両手で引きち ぎった。 つか
120 ェイリアンの軌跡を追って道路脇の林に入り、木々を跳び移り、市街を見渡せる崖に走る。 遠くに発電所が見えた。常夜灯に照らされ、青白く施設の壁を浮かび上がらせている。 発電所に近寄った。フェイスマスクを通した熱源モードでは、施設の持っ主熱源が全体を赤 白く染め上げ、細部をうまく判別できない。人間の装置で一一一口えば、暗視装置を通して明るい場 所を見た状態だ。ェイリアン・モ ードに切り替えても強い熱源が邪魔をする。 建物を順にサーチする。巨大な発熱体の中空域を素早く走る影。ズームアップすると、ウォ リアーの 1 体が施設の壁を登っていた。ショルダー・プラズマ・キヤノンを起動させ、フェイ スマスクから照準器で狙う。 3 点のレーザー・ポイントがエイリアンにロックされた時、それ は屋根まで登りきり姿を消した。 肩を震わせ、クリーナーは発電所の施設に走った。 発電所の第二区域を、ネイサン・コリンズが巡回する。中央コントロールルームでオペレー ター職に就いていたこの所長は、中央変圧器の異常警告サインに気付き、自ら変圧器周辺の。ハ トロールに出掛けたのであった。まだ設備に異常が出たわけではなく、具体的な危険の予兆は わからない。野良犬が紛れ込んで警備システムに干渉したか、ガタの来た部品が過剰に蒸気を 洩らし始めたか、。 とのみちちょっとねじを締め直すぐらいで警報のスイッチをリセットすれば 、その程度の気楽な考えで夜勤の部屋を出た。第二区域からの巡回路は自分が回り、第三