特集刑事訴訟関連法の改正 刑事訴訟法等改正と実務への影響ー弁護士の立場から 行使する必要があると考える場合に、裁になる。 判所に公判前整理手続等に付する職権発弁護人が証拠開示制度の適用を受ける 動を求める申出をすることがあった。そために公判前整理手続等に付することを れに対して、検察官が法的義務によらな請求するに当たっては、公判前整理手続 い任意の証拠開示をする意向であるとしに付されることが「充実した公判の審理 ( 7 ) 前掲注 1 の「基本構想」 5 四頁。 ( 8 ) 第 189 回国会衆議院法務委員会議録第訂号頁 て、裁判所が公判前整理手続等の必要性を継続的、計画的かっ迅速に行うため」 の最高裁事務総局平木刑事局長答弁。 を認めないことが少なからずあった。 に必要であること ( 法 316 条の 2 第 1 しかし、刑訴法の規定によらない任意項 ) や、期日間整理手続に付されること ( 9 ) 法務省「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案要 綱」第一・六 の証拠開示は、公判前整理手続等におけ が「審理の経過にかんがみ必要」である こと ( 法 316 条の第 1 項 ) を的確に ( みやむら・けいた ) る証拠開示と直ちに同視することはでき ない。すなわち、公判前整理手続等にお示す必要がある。そして、請求を受けた ける証拠開示では、検察官が証拠開示に裁判所は、改正法が公判前整理手続等に 応じないときには不開示理由告知義務付することの請求権の付与を「証拠開示 217 条の ) を履行することに 制度の拡充」の一環として導入したこと よって、弁護人が開示を請求した証拠の ( 注 9 ) に留意して、充実した公判の前提 存否が明確にされるが、任意の証拠開示として証拠開示制度の適用が重要である にはその保障がない。また、公判前整理ことを十分に踏まえた判断をするべきで 手続等における証拠開示では、検察官がある 開示すべき証拠を開示しない場合には裁 判所に証拠開示命令を申し立てることが ( 注 ) できるが ( 法 316 久木の第 1 項 ) 、任 ( 1 ) 法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会「時代 に即した新たな刑事司法制度の基本構想」 7 頁。 意の証拠開示では開示するか否かの判断 権限が検察官に留保されている。さら ( 2 ) 第 189 回国会衆議院法務委員会議録第幻号 3 頁 の法務省林刑事局長答弁。 、前記した証拠の一覧表の交付手続が 導入されたことにより、今後はいっそ ( 3 ) 同第号 4 頁の法務省林刑事局長答弁。 う、公判前整理手続等における証拠開示 ( 4 ) 同第号頁の法務省林刑事局長答弁。 制度の適用を受ける必要性が高まること ( 5 ) 同第四号 5 頁の法務省林刑事局長答弁。 規 ( 6 ) 松本芳希「裁判員裁判と保釈の運用について」ジ ュリスト 1312 号 150 頁、三好幹夫「保釈の運用」 別冊判例タイムズ号「令状に関する理論と実務Ⅱ』 9 頁等。 47 ・法律のひろば 2016.9
特集刑事訴訟関連法の改正 刑事訴訟法等改正と実務への影響ー検察官の立場から 述録取書の「供述者の氏名」を記載するべきであり、証拠の一覧表の記載内容のもに、改正の趣旨を踏まえた即決裁判手 ことにより所定の不記載事由が認められ説明をめぐって公判前整理手続等がその続の適切な運用の在り方について検討す るのであれば、その当該供述者の氏名を初期の段階から停滞するような事態は避る必要があるであろう。 不記載とするのであって、当該供述録取けられるべきであろう。 書それ自体を証拠の一覧表上に一切記載 五おわりに しないという取扱いは想定されないとさ 3 自白事件の簡易迅速な処理のた れている ( 平成年 7 月川日第 189 回 改正法は、捜査・公判が取調べ及び供 めの措置 衆議院法務委員会における政府参考人答 述調書に過度に依存している状況を改め 弁参照。 ) 。 ) ことを踏まえ、不記載とす 即決裁判手続の申立てがなされた事件て、証拠収集方法の適正化・多様化と公 る場合の具体的な方法ないし要領も併せについて、被告人が即決裁判手続による判審理の充実化を図るために整備された て検討する必要があるであろう。なお、 ことについての同意を撤回したり否認に ものであり、検察としては、改正の趣旨 証拠の一覧表を交付した後に、そこに記転じるなどしたため申立てが却下されるを十分に踏まえて、謙虚に、かっ、着実 載された個々の証拠の趣旨や内容につい などして、検察官が公訴を取り消し公訴に、新時代の刑事司法制度に対応してい く必要がある て被告人側から説明を求められたとして棄却となった場合でも、再捜査を行った も、証拠の一覧表は、証拠の内容を記載上で再起訴ができることとされ、公訴取 ( やまぐち・たかあき ) するものではなく、飽くまでも被告人側消し後の再起訴制限 ( 刑訴法 340 条 ) が証拠開示請求をするための手がかりをが緩和されることとされた ( 改正刑訴法 与えるためのものであり、その記載事項 3 5 0 条の % ) 。 が一義的・形式的に明確な事項に限定さ検察官としては、即決裁判手続が相当 れた前記の法の趣旨からしても、制度と思われる自白事件においても、起訴後 上、検察官が、証拠の一覧表に記載したに被告人が否認に転じて通常公判におい 事項以上の説明をする必要はなく、被告て審理される場合に備えて、念のための 人側の説明の求めに応じる法的義務がな捜査を遂げて処理していたところ、この いことは明らかである。証拠の一覧表の改正により、自白事件についてはより一 交付を受けた後は、被告人側は、それを層捜査を合理化し、簡易・迅速に捜査処 手がかりとして、速やかに、類型証拠開理を行うことが可能となると考えられ 示請求・主張関連証拠開示請求等の公判る。法施行までに、捜査処理を担当する 前整理手続等の次の段階に移行していく 検察官を中心に改正内容を周知するとと 0 41 ・法律のひろば 2016.9
士や松尾教授に限らず、我が国の刑事訴できるためには、公判廷における審理実が図られた。裁判員制度の導入は、こ川 訟法研究者の間で、概ね共通に認識されを、そこから直接心証をとることができれらの刑訴法改正と一体となって、「調 てきたといえる ( 注リ。しかし、「精密る分かりやすいものに改める必要が生じ書裁判」としてその「形骸化」が問題視 されていた公判審理を「活性化 [ させる 司法」は、長年、不動の観を呈し、むしる。具体的には、刑事裁判の機能に即し、 ろ ひ ろその特異性の度合いを強める方向にあ公判審理において解明すべき事実を公訴働きを営んだといえる の った ( 注リ。平野博士の「絶望的」とい事実と重要な量刑事実に絞った上で、事松尾教授は、このような動きを指し法 う診断は、まさにそのことの表れにほか 件の争点に焦点を当て、証人の取調べをて、「『ガラパゴス的状況』からの脱却」 ならない。 と評した。もっとも、司法制度改革の一 中心とした簡明な証拠調べを行うことが もっとも、平野博士の診断には、「参求められることとなる。また、公判廷で環としての刑訴法改正では、前述した被 審か陪審でも採用しない限り」という留直接心証をとり、それに基づいた裁判を疑者国選弁護制度の導入を除き、捜査段 保が伴っていた ( 注リ。そして、司法制行うためには、時間の経過によって心証階の制度改革は行われなかった ( 注間 ) 。 度改革の一環として、我が国にも、刑事が失われないよう、公判の開廷間隔をな平野博士は、公判審理の在り方が変われ くし、連続的・集中的な審理を行うことば、「捜査記録も、要を得た、そして事 裁判に一般国民が参加する裁判員制度が 導入されるに至ると、「精密司法ーを取が不可欠となる。それは、裁判員の負担件の核心を突いた短いものにする必要」 り巻く状況にも変化が現れた ( 拘東期間 ) を軽減する上でも必要なこが生じ、「ひいては、取調べのやり方、 身柄拘東の長さにも影響を及ばすかもし 国民参加制度がとられる刑事裁判の公とである ( 注。 判審理は、一般国民に分かりやすく、ま 司法制度改革の一環として、裁判員制れない」との観測を述べていたが ( 注リ、 た、一般国民に過大な負担をかけないも度の導入と並行して行われた刑訴法改正裁判員制度が導入されたもとでも、平野 のであることが求められる。裁判員が参では、公判前整理手続が導入され、「充博士が問題視した「糺問的な取調べと 加する刑事裁判に関する法律 ( 以下、「裁実した公判の審理を継続的、計画的かっそれに依存した捜査の在り方に、直ちに 判員法」という ) にも、同旨の要請が見迅速に行うため」に「事件の争点及び証変化が生じることはなかったといえる られる ( 裁判員法訂条 ) 。このような観拠を整理する」仕組みが整備された ( 刑 ( 注。 点から見たとき、一般国民から選ばれた訴法 316 条の 2 以下 ) 。また、公判前 裁判員に、これまで職業裁判官が行って整理手続の一環として、証拠開示制度が 「時代に即した新たな刑事司法 きたように、公判廷外で供述調書等の書整備されるとともに、一定の重大事件に 制度」の構築 面を精読し、その内容の丹念な検討を求ついては、被疑者国選弁護制度が導入さ めることは、現実性に欠ける。そこで、 れ ( 刑訴法条の 2 ) 、実効的な争点整司法制度改革の後、捜査の在り方まで 裁判員がその職責を十分に果たすことが理の前提となる被告人側の防御準備の充含めた刑事司法改革の機会が訪れたの
していたうえ、一部ではあるものの、国 4 民の関心の高い重大事件の裁判を極めて 長期化させ、刑事裁判に対する国民の期 Y 待や信頼を少なからず損なわせる原因と の もなっていたといえる。そこで、このよ 律 法 うな状態を改めて、捜査における取調べ 早稲田大学教授井上正仁 とその結果である供述調書に過度に依存 一本年 5 月の第 19 0 回国会におい ニそもそも、司法制度改革において刑せす、公判における両当事者の活発な主 て、被疑者取調べの録音・録画の義務付事司法の改革が必要と考えられた由縁張・立証と証人の直接の証言などによる け、被疑者国選弁護や証拠開一小の拡充、は、被疑者の取調べを中核とする綿密な集中的で充実した審理を行い、そのこと 通信傍受の合理化・効率化、司法取引的捜査と検察官による慎重な選別を経た起を通じて手続の迅速化をも図ることが必 手法 ( 協議・合意制度 ) や刑事免責制度訴、そのような捜査の結果作成された供要だと考えられたのであった。 の導入など多くの改革を内容とする刑事述調書に大幅に依拠した公判審理と裁判 そのため、第一幕の改革では、両当事 訴訟法等一、部改正法案が成立した ( 注所による詳細にわたる事実認定 ( 判決書者間での適切な証拠開示を踏まえて争点 正 作成 ) などを特徴とするーーー「精密司法」と証拠を整理し審理計画を樹てる公判前 この改正法は、 1999 年以降広範囲とも称されるーー従来の刑事手続の運用整理手続等の新設などにより、連日的開 改 にわたって進められた司法制度改革の一実態にあった。このような実務運用は、廷の下に、集中的で、直接主義・ロ頭主 の 環としての刑事司法改革において積み残実務に深く根付き、構造化していたとす義の原則に立ち戻った充実した公判審理 されていたーー被疑者の取調べとその結らいえるが、これに対しては、当事者主を実現することが企図された。被疑者国 、冫 連果作成される供述調書に過度に依存した義や公判中心主義・ロ頭主義と〔 0 た現選弁護制度の導入により、捜査・公判を 捜査・立証の在り方を見直すというーー・行刑訴法本来の理念から大きくかけ離れ通じた一貫した弁護体制を整備すること 関 我が国の刑事司法にとって宿根的ともい ているばかりか、捜査機関が被疑者の身が図られたのも、一つには、集中し充実 うべき課題に対し、包括的・複合的な形柄を拘東して自白を追及することに傾注した公判審理の実現を担保しようとする で解決の道筋を拓いていこうとするものし過ぎる余り人権侵害や虚偽の自白を生ものであった。さらに、裁判員制度の導 である。先の刑事司法改革が改革の第一んだり、公判を形骸化させてしまってい 訴 入も、そのような公判の充実・迅速化に 幕であったとすれば、今次の改正法によるとの強い批判も投げかけられていた。 向けた改革を促進させる強力な動因とも る改革は、その第二幕を成すものと位置一般国民にとっても、このような従来のなることが期待されたのである 付けることができる 刑 在り方は、刑事司法を理解困難なものに これらの改革は、全面施行後 7 年余の 刑事司法改革の展望 ◆
拠の開示をした後、被告人又は弁護人 ( 以び証拠物が何千通・何千点にも及ぶことの氏名とされており ( 改正刑訴法 316 下「被告人側」という。 ) から請求があもある。そうすると、公判前整理手続等条のⅡ第 3 項 1 号ないし 3 号 ) 、証拠の ったときは、速やかに、検察官が保管すに付された事件において、相当な分量の内容、要旨、立証趣旨等を記載する必要 これは、証拠の一覧表の交付手 一件記録の証拠の一覧表を迅速かっ正確はない。 る証拠の一覧表を交付しなければならな いとするものである ( 改正刑訴法 316 に作成するためには、施行日までに、各続の目的が、証拠開示請求を円滑・迅速の 条のⅡ第 2 項ないし 5 項 ) 。 検察庁の実情に応じた合理的な作成手順ならしめるためにその手がかりを与える法 最近の実務の運用では、公判前整理や段取りなどを検討して準備する必要がことにあることを踏まえ、記載事項につ いては、その作成・交付が円滑・迅速に 手続等に付された事件においては、検察あるであろう。 官は、公判前整理手続等に付する旨の決また、証拠の一覧表の交付手続の対象行われ、かっ、証拠の一覧表の記載内容 定から約 2 週間程度で証明予定事実記載となる事件は、施行日以後に起訴されてに関する争いが生じないよう、作成する 書面を提出するとともに検察官請求証拠公判前整理手続等に付された事件に限ら個々の検察官の実質的な判断・評価を要 を開示していることが多いと思われる。 れるものではなく、施行日よりも前に既しない、一義的・形式的に明確な記載事 改正刑訴法の下では、検察官請求証拠のに起訴されて公判前整理手続等に付され項に限定する必要があるとされたからで 開示後、被告人側から証拠の一覧表の交ていても、施行日以後に公判前整理手続ある ( 平成年 7 月 7 日第 189 回国会 付請求があった場合には、「速やかに」等が行われれば、被告人側から証拠の一衆議院法務委員会における政府参考人答 月ロ 証拠の一覧表を交付しなければならない覧表の交付請求がなされた場合には、証弁参照。 ) 。そこで、施行日までに、蔔 の記載事項をどのような順序でどのよう のであるから、検察官は、公判前整理手拠の一覧表を交付しなければならない 続等の冒頭の慌ただしい時期に、証明予そうすると、施行日までに公判前整理手に記載するのかなどを検討して、検察官 定事実記載書面の起案や請求証拠の分類続等が終結せず施行日以後に公判前整理が作成・交付する証拠の一覧表の書式や 等の作業と並行しながら証拠の一覧表を手続等が行われる見込みがある事件の中作成要領等を定める必要があるであろ 迅速かっ正確に作成して、これを交付しにも、施行日以後に証拠の一覧表の交付う。また、証拠の一覧表については不記 なければならないことになる。しかも、 請求がなされる場合に備えておく必要が載事由が定められているところ ( 同条 4 検察官は、一般に、最良証拠による立証あるものもあるであろう。 項 1 号ないし 3 号 ) 、ある記載事項につ を行うとの観点から、検察官請求証拠を 証拠の一覧表の記載事項は、証拠物いて不記載事由が認められる場合であっ 厳選して請求しているのであって、検察についてはその品名・数量、供述録取書ても、当該事項を記載しないことができ 官請求証拠以外の不提出証拠を含めた一 についてはその標目・作成年月日・供述るにとどまり、当該証拠の存在自体を証 件記録の証拠は、検察官請求証拠の何倍者の氏名、供述録取書以外の証拠書類に拠の一覧表上に一切記載しないという取 もの分量があり、供述調書・証拠書類及ついてはその標目・作成年月日・作成者扱いは事実上想定されない ( 例えば、供
特集刑事訴訟関連法の改正 刑事訴訟法等改正と実務への影響ー検察官の立場から く、この点で、運用を担う検察の責任は度と理解される。 弁護人の選任に係る事項の教示 重大である。 そこで、刑事免責制度については、ど の拡充 その他、協議における手続面のルールのような事案のどのような証人について や留意事項、どのような場合にどの程度用いることが必要で、かっ、相当かとい 改正刑訴法では、被告人又は被疑者に の有利な取扱いをするか、合意内容書面う観点から、実務上の具体的な事案を念対して弁護人選任権を告げるに当たって の記載方法等、施行までの検討事項は頭に置きながら、その適用事例や適用場は、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を 様々あるので、今後、具体的事件を念頭面を検討していく必要があるであろう。指定して弁護人の選任を申し出ることが に置きながら検討していく必要があるで できる旨及びその申出先を教示すること あろ、つ。 を裁判所や捜査機関等に義務付けること 四 6 月施行について とされた ( 改正刑訴法間条 2 項、行条 2 ワ 3 0 6 月施行は、平成年月 2 日までに項、 203 条 3 項、 204 条 2 項、 2 刑事免責制度について 施行される。 7 条 3 項 ) 。 改正刑訴法 157 条の 2 及び 157 条 6 月施行の改正事項は、①弁護人の選そこで、施行日までに、関係部署の職 の 3 に規定される刑事免責制度は、検察任に係る事項の教示の拡充、②証拠の一員に対し、新たに義務付けられる教示事 官が、証人に自己負罪事項 ( 刑訴法 14 覧表の交付手続の導入、③公判前整理手項を確実に周知するとともに、弁解録取 6 条 ) を含んだ証言を求める場合に、裁続及び期日間整理手続の請求権の付与、 の際に用いる用紙の書式を新たな教示事 判所に請求して免責決定がなされること④類型証拠開示の対象の拡大、⑤証人等項を加えたものに改訂するなどした上、 により、当該証言のほか証言に基づいての氏名及び住居の開示に係る措置の導経過措置として設けられた事前教示の規 得られた証拠を、当該証人の刑事事件に入、⑥公開の法廷における証人等の氏名定 ( 改正刑訴法附則 5 条 ) を用いるなど おいて、当該証人に不利益な証拠とする等の秘匿措置の導入、⑦証人の勾引要件して、教示漏れが生じないよう適切に対 ことができなくなる ( 派生使用免責 ) との緩和、⑧証人の召喚規定の整備、⑨自応する必要がある。 ともに、証人は自己負罪拒否特権により白事件の簡易迅速な処理のための措置、 証言を拒絶できず証言を義務付けられる⑩通信傍受の対象犯罪の拡大と多岐にわ 2 証拠の一覧表の交付手続の導入 という制度である。同制度は、当該証人たる。ここでは、紙幅の関係上、①②⑨ の意思とは関係なく、裁判所の決定によ について記載する 証拠の一覧表の交付手続は、公判前ろ り派生使用免責を付与するとともに証言 整理手続及び期日間整理手続 ( 以下「公 を義務付けるものであって、交渉や取引 判前整理手続等」という。 ) に付された法 の要素はなく、合意制度とは全く別の制 事件において、検察官は、検察官請求証
特集刑事訴訟関連法の改正 刑事訴訟法等改正と実務への影響一裁判所の立場から ことに留意する必要がある ( 注 9 ) 。 四通信傍受 五裁量保釈の判断に当たって の考慮事項の明記 本改正により、現行法上、薬物関連犯 六公判前整理手続等の請求権 罪、銃器関連犯罪、集団密航の罪及び組本改正により、刑事訴訟法囲条が改正 の付与 織的殺人に限定されている対象犯罪に、 され、裁量保釈の判断に当たっての考慮 殺人、略取・誘拐、詐欺、窃盗等の罪が事項として、「保釈された場合に被告人本改正により、当事者に公判前整理手 追加される ( 通信傍受法 3 条、別表第 2 ) が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程続及び期日間整理手続の請求権が付与さ とともに、暗号技術を用いることによ度のほか、身体の拘東の継続により被告れた ( 刑事訴訟法 316 条の 2 ) 。 り、傍受の実施の適正を確保しつつ、通人が受ける健康上、経済上、社会生活上 この点、立法過程の議論において裁判 信事業者等の立会い・封印を伴うことな又は防御の準備上の不利益の程度その他所関係委員からも述べられているよう く、傍受を実施することができることとの事情」が明記されるに至った。 、従前の実務においても、当事者双方 された ( 同法跚条以下 ) 。 この規定に関しては、立法過程におい の意見を聴取し、事案の複雑性、争点の この点、対象犯罪の拡大に関連して、 て、保釈に限らず、勾留等身柄拘束一般内容、証拠の量等を考慮の上、必要性が 立法過程の議論においては、令状発付のに関する現在の実務運用について、身柄認められる場合には公判前整理手続等に 際の補充性の要件の判断に関し、裁判所拘東の必要のない者が拘東されていると付してきていたところである ( 注四。も 関係委員から、令状発付の要件である以 いう認識と、勾留却下率が近時上昇してっとも、同じく立法過程の議論において 上は、捜査機関の方で要件を充足するか いることなどに照らし適正に運用されて裁判所関係委員が指摘しているように、 どうかということを、資料に基づいて疎いるという認識が示されていたところで公判前整理手続等は当事者の積極的な行 明してもらうことが必要であり、今回のある。結局、立法過程において、現在の為・協力によって初めて円滑な運用が可 提案が採用されて、対象犯罪が拡大され運用についての認識は統一されなかった 能になる制度であるが、本改正によって た場合でも、この点は変わらない旨 ( 注ところであり、刑事訴訟法囲条の改正に当事者に請求権が付与されることによ 7 ) の発言がなされているところであついても、法務省立案担当者から、現在 り、これまで以上に、連日的開廷を前提 る。当然のことではあるが、令状発付のの運用についての特定の事実認識を前提とした集中審理の計画策定等について、引 要件を慎重に判断すべきとする従前の裁としない確認的な規定であり、もとよ当事者の協力が期待できることになろうの 法 判実務は、本改正によっても変わらない り、現在の運用を変更しようとするもの ( 注リ。 ものと思われる ではない旨の発言 ( 注 8 ) がなされている
選任を申し出ることができる旨及びその管するに至った証拠の一覧表を交付しな不服申立ての手続が設けられておらず、跖 申出先を教示しなければならないことと ければならない ( 同条 5 項 ) 。 一覧表の記載や交付に関して不服申立て ワ〕 0 っ 0 久木 一覧表に記載しなければならない事項をすることはできない された ( 間条 2 項、行条 2 項、 、ま ワ 3 0 / っ 0 ろ 3 項、 204 条 2 項、 は、次表のとおりであり、これらを証拠 ひ の 整理手続の請求権の付与 ごとに記載しなければならない ( 同条 3 律 項 ) 。 現行刑事訴訟法上、事件を整理手続に法 6 証拠開示制度の拡充 付するか否かは、裁判所の職権で決する 証拠の種類 記載事項 こととされているが、整理手続が行われ 証拠の一覧表の交付手続の導入 証拠物 ( 同項 1 号 ) 品名及び数量 ることとなるか否かは当事者の公判準備 証拠の一覧表の交付手続は、公判前整 理手続及び期日間整理手続 ( 以下「整理供述を録取した書面 に大きな影響を与えることに鑑み、当事 当該書面の標目作成 で供述者の署名又は 手続」と総称する。 ) において、被告人 の年月日及び供述者の者に整理手続の請求権を付与することと 押印のあるもの ( 同項 氏名 側による類型証拠又は主張関連証拠の開 された ( 316 条の 2 第 1 項、 2 号 ) 示請求が円滑・迅速に行われるようにす の第 1 項 ) 。 当該証拠書類の標目、 その他の証拠書類 ( 同 作成の年月日及び作成 裁判所は、当事者の請求があったとき ることにより、整理手続の円滑・迅速な項 3 号 ) 者の氏名 進行に資するようにするため、その開示 は、事件を整理手続に付する旨の決定又 もっとも、一覧表に記載することによは請求を却下する旨の決定をしなければ 請求の「手がかり」として、検察官がそ の保管する証拠の一覧表を被告人側に交り次のおそれがあると認めるものについ ならない。事件を整理手続に付するか否 かの判断基準は、現行法の下におけるの 付しなければならないこととするものでては、これを一覧表に記載しないことが と同じである。 ある ( 316 条のⅡ第 2 項 55 項 ) 。 できる ( 同条 4 項 ) 。 なお、これらの決定については、即時 検察官は、①検察官請求証拠の開示を①人の身体・財産に害を加え又は人を した後、被告人又は弁護人から請求があ畏怖・困惑させる行為がなされるおそ抗告をすることができる旨の規定は設け られておらず、抗告をすることはできな ったときは、速やかに、被告人又は弁護れ ( 同項 1 号 ) ( 420 条 1 項 ) 。 人に対し、検察官が保管する証拠の一覧②人の名誉・社会生活の平穏が著しく 表を交付しなければならず ( 同条 2 項 ) 、 害されるおそれ ( 同項 2 号 ) 類型証拠開示の対象の拡大 また、②その交付をした後、証拠を新た③犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を に保管するに至ったときは、速やかに、 生ずるおそれ ( 同項 3 号 ) 争点及び証拠の整理がより円滑・迅速 に行われるようにするとの観点から、類 被告人又は弁護人に対し、当該新たに保証拠の一覧表の交付手続については、 条項等 ) 。
被告人が公訴事実を争っている事案での捜査官が作成する捜査報告書等の書類にとした ( 法 316 条の第 4 項 ) 。一覧鮖 は、その表題が「捜査報告書 ( 犯行時刻表に記載しないことを正当化する「おそ 保釈の運用が注視されるべきである。 の特定経緯について ) 」「資料入手報告書れ」を緩やかに認める運用がなされたの では、結局は証拠の存否をめぐる紛糾を引 ( 被害店舗のジャ 1 ナルの入手につい 四証拠開示制度の拡充 て ) , というように記載されて、表題を誘発して、証拠の一覧表の交付手続が導の 見れば他の書類と識別し得るようにされ入された意義が没却されかねないから、 証拠の一覧表の交付手続の導入 ていることが少なくない。証拠の一覧表そのような「おそれ」を安易に認めない 公判前整理手続及び期日間整理手続の交付手続が導入された後も、捜査官の運用がなされる必要がある。 なお、一覧表に記載される証拠は「検 ( 以下「公判前整理手続等」という。 ) に作成する書類にそのような表題が付さ おいて証拠開示を請求する際に、これまれ、かっ、それが一覧表に「標目」とし察官が保管する証拠」に限定される。証 で、弁護人には検察官がどのような証拠て記載されれば、被告人側にとってまさ拠開示の対象になり得るその他の証拠 に証拠開示請求の手がかりとなり、証拠 ( すなわち、当該事件の捜査の過程で作 を保管しているかを知る術がないため、 手探りで証拠開示請求をせざるを得ず、開示をめぐる遣り取りを円滑に進めるこ成又は入手された書面等のうち、検察官 証拠の存否をめぐって紛糾することもあとができる。証拠の一覧表の交付手続のではない公務員が職務上現に保管し、検 った。改正法が施行されて証拠の一覧表導入に向けた検討過程では、一覧表には察官において入手することが容易なも 証拠の内容ないし要旨は記載されないこの ) は一覧表に記載されないから、その が被告人側に交付されるようになれば、 、 ' 内容ないし要旨存否について疑義が生じた場合には、検 証拠開示請求の手がかりが与えられ、検とが強調されてしたが、 察官の回答書と一覧表を対照することに が記載されないとしても、「標目」を記察官と弁護人の間で求釈明の遣り取りを よって開示漏れがないかをチェックする載するに当たっての具体性の程度には幅し、最終的には証拠開示命令の申立てを ことも可能になり、その実務上の意義はがあるから、捜査報告書等の書類を作成受けた裁判所がその存否を判断する対応 する捜査官及び一覧表を作成する検察官が今後も必要とされる 大きいと考えられる。 もっとも、証拠の一覧表がその役割をが改正法の趣旨を踏まえた記載をするこ 果たすためには、供述録取書以外の証拠とが望まれる 2 公判前整理手続等に付すること 書類の「標目」 ( 法 316 条のⅡ第 3 項また、改正法は、一覧表に記載するこ の請求権の付与 3 号 ) が、証拠開示請求の手がかりになとで「犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障 る程度に具体的に記載される運用が必要を生ずる」などのおそれがある事項につ従前から、弁護人が充実した公判に向 いて、一覧表に記載しないことができるけた防御準備のために証拠開示請求権を である。すなわち、現在の実務において、
特集刑事訴訟関連法の改正 刑事司法は変わるかー刑事訴訟法等改正の意義と課題 て、次のような指摘をした。「四世紀のた表現でもある。平野博士が「絶望的 , 現したのが平野博士の指摘であるとすれ 前半、チャ 1 ルズ・ダーウインは、南米という診断を導いたのも、同じ所見に基ば、同じことを、調書に頼りつつ、なお 大陸から 10 0 0 キロ離れたガラパゴスづく。 捜査とは独自のスタンスを保って事案の 諸島を訪ね、どことも異なる独自の生態 「精密司法ーの特異性として問題とな真相解明に努めようとする公判の在り方 系が繁栄しているのを見出して強烈な印る 1 つは、前記③のような公判審理の在の難しさとして婉曲的に表現したのが、 象を受け、それが後の進化論の構想につり方に見出される。それは、松尾教授の松尾教授の「名人芸」という言葉といえ ながったといわれる。 ・ : 現在の日本刑次のような指摘に示されている。「調書る。 事訴訟の『成功』は、その特異性の点で裁判と評される現状は、公判に多量の調 問題のいま 1 つは、前記①のような捜 一種のガラパゴス的状況を混在させてい書が提出され、裁判官は、何百頁、場合査の在り方の中に見出される。平野博士 るのではないかという懸念が払拭しきれによっては、何千頁という調書をひたすは、訴訟の実質が捜査手続に移ると、「捜 ない ( 注 7 ) 。 ら読み抜き、そこに矛盾はないかを問い 査機関にかなり強力な強制権限を与えざ 従来の「日本刑事訴訟の『成功』」を詰めて判決するというものです。このよるをえなくなる」と指摘し、捜査手続が 象徴的に示すのは、前記④の特色であろうな一種の名人芸に支えられた刑事手続「検察官・警察官による糺問手続」とし う。① 5 ③の手続を通じ、④の結果を導というものは、あまりに独自であり、敢て運用されている実態を問題視した ( 注 き出す「精密司法」のシステムは、必要えて言えば、不健全ではないかと思われ四。「捜査手続においては、捜査機関が な者だけを確実に有罪に導く点で、無駄ます」 ( 注 8 ) 。 被疑者の身柄を手元に拘東して、連日長 がなく効率的であり、また、事案の真相これは、平野博士が欧米の刑事裁判と時間にわたって自白を追及するという 解明を求める国民の期待にもよく応えて比較した日本の刑事裁判の特異性として『糺問的捜査』が行なわれ、それが、被 きたといえる。「ガラパゴス的」という述べた次のような指摘と表裏の関係に立疑者の人権を不当に侵害する結果ともな 表現には、ガラパゴス島の生態系が島のつ。「欧米の裁判所は『有罪か無罪かをつている」というのである ( 注リ。 環境に適合した生物の合理的進化・発展判断するところ』であるのに対して、日 の結果として形成され、栄えているよう本の裁判所は、『有罪であることを確認 一一一近時の刑事司法改革 我が国刑事司法も、それを取り巻くするところ』である」 ( 注 9 ) 。 環境に適合しつつ一定の合理性をもって 捜査段階で作成された調書に多くを頼 1 司法制度改革と裁判員制度の導 形成され、それ故、国民に受け入れられる裁判は、裁判所が直接証人や証拠を取 ろ 入 ひ 定着しているという見方が込められてい り調べ、心証を形成する場であるはずの の る。しかし、同時に、その特異性が限界公判の意義を減じ、刑事手続における捜前述のような「精密司法」に内在する法 に近づいていないかという反省が含まれ査の比重を高める。この問題を端的に表特異性は、その負の側面として、平野博 9