特集刑事訴訟関連法の改正 新たな刑事司法制度に対する警察としての対応について また、事件自体に何らかの組織的背景合」を例外にするという意味では第二のう。 ) の改正も行われた。今回の通信傍 があることも必要としていない。という例外事由と同趣旨ではあるが、被疑者側受法の改正は、大きく分けて、①通信傍 のも、捜査の初期段階では事件に組織的の具体的な言動等は要件としていない。 受法の対象となる犯罪の拡大 ( 法 6 条に 背景があるかどうか判然としない場合が被疑者の具体的な行為を要することとすよる改正後の通信傍受法 ( 以下「改正通 多いほか、私生活上の行為でも犯行前後ると、第三の例外事由同様、そうした行信傍受法」という。 ) 3 条 1 項及び別表 の行動や犯行動機等の捜査で暴力団の構為自体から被疑者が所属組織等を裏切っ 2 関係 ) 、②暗号技術を活用する新たな 成員としての活動状況等について取り調て捜査に協力したのではないかとの疑念傍受の実施方法の導入 ( 改正通信傍受法 条 5 四条関係 ) の 2 つを内容とするも べる必要がある場合も多いなど、事件のを抱かれることになるためである。した 背景事情によらず例外事由としておく必がって、組織的に行われた犯行であるこのである。このうち、特に新たな傍受の 要性が高いと考えられるためである。加となどの「犯罪の性質」、共犯者が被疑実施方法の導入については、法律の条文 えて、被疑者自身が指定暴力団の構成員者に対して威迫を伴うロ止めをしているからだけでは傍受実施のための具体的な でなくても、他の共犯者が指定暴力団のことなどの「関係者の言動」、被疑者が手続きが分かりづらい面がある。そこ で、本章では、対象事件の拡大について 構成員である場合には、この例外事由の警察に敵対的な暴力犯罪集団のメンバー 適用を受けるものとされている であることなどの「被疑者がその構成員概説した後、現時点で想定される新たな である団体の性格」等といった、被疑者傍受方式における具体的な実施手続きに 本人又は親族等に対する報復のおその具体的な行為以外の事情から、本人又ついて説明を試みることとしたい。 れ ( 改正刑事訴訟法 301 条の 2 第 4 はその親族等に対する加害行為等がなさ 項 4 号 ) れるおそれがある場合を認定して例外事 対象犯罪の拡大 第四の例外事由である「本人又は親族由とすることとしている。 これまでの通信傍受法の対象犯罪は、 等に対する報復のおそれ」は、組織的な 薬物犯罪、銃器犯罪、組織的殺人、集団 犯罪等において、本人又は親族等が組織 三通信傍受の合理化・効率化 密航の 4 罪種のみであったが、今般の通 からの報復を受けるおそれがあるために に対する対応 信傍受法の改正により、これら 4 罪種に 被疑者が十分な供述をすることができな ろ い場合があり得るとの観点から設けられ この度、法により、「犯罪捜査のため加え、殺傷犯関係、逮捕・監禁、略取・の たものである。 の通信傍受に関する法律」 ( 平成Ⅱ年法誘拐関係、窃盗・強盗関係、詐欺・恐喝法 関係、児童ポルノ関係が追加された ( 注引 「十分な供述をすることができない場律第 137 号。以下「通信傍受法」とい
「刑事訴訟法等の一部を改正 , 一一本法。制定経緯等 する法律」の概要について 法制審議会の答申に至るまでの ; ろ ひ 経緯 の 律 法務省刑事局参事官吉田雅之 平成年川月、厚生労働省元局長無罪法 事件等の一連の事態を受けて、法務大臣 裁量保釈の判断に当たっての考慮事情のの下に「検察の在り方検討会議」が設け 一はじめに られた。平成年 3 月、同会議において 明確化、⑤弁護人による援助の充実化、 平成年 5 月日、刑事訴訟法等の一⑥証拠開示制度の拡充、⑦犯罪被害者等提言が取りまとめられ、その中で、同様 部を改正する法律 ( 平成年法律第及び証人を保護するための措置の導入、 の事態を二度と引き起こさないようにす 号。以下「本法」という。 ) が成立し、⑧証拠隠滅等の罪等の法定刑の引上げるためには現在の刑事司法制度が抱える 同年 6 月 3 日、公布された。 問題点に正面から取り組む必要があると 等、⑨自白事件の簡易迅速な処理のため 本法は、捜査・公判が取調べ及び供述の措置の導入を内容としている。 の認識から、取調べ及び供述調書に過度 以下、本法の制定経緯等を紹介しつ 調書に過度に依存している状況を改め、 に依存した捜査・公判の在り方を抜本的 時代に即した新たな刑事司法制度を構築つ、本法の概要について解説することとに見直し、新たな刑事司法制度を構築す するため、刑事訴訟法、犯罪捜査のためしたい。なお、本稿において条項番号のるための検討を行う必要があるとされ の通信傍受に関する法律 ( 以下「通信傍みを記す場合は、本法が全て施行された 受法」という。 ) 、刑法等を改正して、刑 後の刑事訴訟法 ( 三 3 においては、通信これを受け、同年 5 月、法務大臣から、 事手続における証拠の収集方法の適正傍受法 ) のものを指す。また、①から⑨法制審議会に対し、時代に即した新たな ・多様化及び公判審理の充実化を図るまでの施行期日は、本稿末尾の「施行期刑事司法制度を構築するための法整備の 日一覧表」においてまとめて示すことと在り方についての諮問が発せられ、同審 ものである。具体的には、①取調べの録 音・録画制度 ( 以下「録音・録画制度」する 議会の下に「新時代の刑事司法制度特別 という。 ) の導入、②証拠収集等への協本稿中、意見にわたる部分は、もとよ部会」が設置された。同部会においては、 り私見である。 論点整理等を経た上で、 カ及び訴追に関する合意制度 ( 以下「合 〇被疑者取調べの録音・録画制度の導 意制度」という。 ) 及び刑事免責制度の 入を始め、取調べへの過度の依存を改 導入、③通信傍受の合理化・効率化、 ④
大阪地検及び名古屋地検の 3 庁の特別捜調べの一部分の録音・録画に限らず全過 4 類型について本格実施へ移行し、それ 査部が取り扱う独自捜査事件で被疑者を程の録音・録画も実施するなど、試行的以外のものについても試行の範囲を拡大 逮捕した事件において取調べの録音・録に拡大してきた。 したことから、検察官が取調べの録音・ 画の試行を開始し、その後、その範囲を その上で、平成年川月以降、前記 4 録画を行う機会は飛躍的に増大してお ろ 全国川庁の特別刑事部が取り扱う独自捜類型については、それまでの試行と同様 り、新たな試行が始まる前の平成年 4 の 査事件に拡大し、さらに、それ以外の独の枠組みで本格実施に移行した。 月から同年 9 月までの半年間の検察庁に 自捜査事件にも拡大した。また、同年 4 さらに、前記 4 類型の本格実施に加えおける被疑者取調べの録音・録画実施件 月からは、知的障害によりコミュニケー て、同じく平成年川月以降、新たな試数が 4395 件であったのに対し、その ション能力に問題がある被疑者等に係る行として、①公判請求が見込まれる身柄 1 年後の平成年 4 月から同年 9 月まで 事件、平成年Ⅱ月からは、精神の障害事件であって、事案の内容や証拠関係等の半年間では、実施件数は 2 万 4705 等により責任能力の減退・喪失が疑われに照らし被疑者の供述が立証上重要であ件となっている る被疑者に係る事件についても、被疑者るものや、証拠関係や供述状況等に照ら また、被疑者取調べの録音・録画を実 取調べの録音・録画の試行を開始した。 し被疑者の取調べ状況をめぐって争いが施する部分についても、当初は、供述調 このように、検察における取調べの録生じる可能性があるものなど、被疑者の書を被疑者に読み聞かせて内容を確認す 音・録画は、これらの①裁判員裁判対象取調べを録音・録画することが必要である場面や取調べの終盤に供述の重要部分 事件、②独自捜査事件、③知的障害によると考えられる事件について、被疑者取を被疑者に確認する場面のみを録音・録 りコミュニケーション能力に問題がある調べの録音・録画を試行している上、②画するなどしていたところ、現在では、 被疑者等に係る事件、④精神の障害等に公判請求が見込まれる事件であって、被検察官の取調べをそのまま録音・録画す より責任能力の減退・喪失が疑われる被害者・参考人の供述が立証の中核となるるいわゆるライプ方式により、取調べの 疑者に係る事件の 4 類型の事件からスタ ことが見込まれるなどの個々の事情によ際の被疑者の入室時から退室時までを録 ートした。 り、被害者・参考人の取調べを録音・録音・録画することが通常となり、更には 画することが必要であると考えられる事弁解録取手続以降の検察官の取調べの全 件について、取調べの真相解明機能を損過程を録音・録画するなど、広範囲な録 ② 4 類型の本格実施と新たな試行 検察においては、前記 4 類型の事件に なわないよう留意しつつ被害者・参考人音・録画を行っている ついて録音・録画の試行を積極的に実施の取調べの録音・録画を試行している し、その範囲も、自白事件に限らず、否 録音・録画の運用の拡大 認事件や被疑者が黙秘している事件につ いても録音・録画の対象とするほか、取このように取調べの録音・録画が前記
法律のひろば 日刑事訴訟関連法の改正 平成 28 年 9 月 1 日発行 ( 毎月 1 回 1 日発行 ) 昭和 24 年 2 月イ日第 3 種郵便物認 刑事司法改革の展望 / 井上正仁 刑事司法は変わるかー刑事訴訟法等改正の意義と課題 / 大澤裕 「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」の概要について / 吉田雅之 刑事訴訟法等改正と実務への影響 裁判所の立場から / 関洋太 検察官の立場から / 山口貴売 弁護士の立場から / 宮村啓太 新たな刑事司法制度に対する警察としての対応について / 河原雄介 HOU RITSU NOoHIROBA Sep. 2016 VOL69 / No. 9 読み切り 民法の一部を改正する法律の概要 / 合田章子 きようせい
う場合には、法が定める例外事由に該当 する場合を除き、その全過程の録音・録 新たな刑事司法制度に対する、 画をしなければならなくなる ( 法 2 条に 警察としての対応について よる改正後の刑事訴訟法 ( 以下「改正刑タ 事訴訟法」という。 ) 301 条の 2 第 1 の 法 警察庁刑事企画課刑事指導室長、河原雄介 項及び 4 項 ) 。その上で、対象事件に係 る公判において、逮捕・勾留中に作成さ る。当然、これら以外にも証拠収集等へれた供述調書等の任意性が公判において 一はじめに の協力及び訴追に関する合意制度等、警争われたときは、検察官は、原則として、 本年 6 月 3 日に公布された「刑事訴訟察としても対応を要する諸制度が導入さ当該供述調書等が作成された取調べ等に 法等の一部を改正する法律」 ( 平成年れるが、本稿では、警察捜査にとって最係る録音・録画記録の証拠調べを請求し も重要ともいえるこれら 2 つの制度へのなければならず ( 改正刑事訴訟法 301 法律第号。以下「法」という。 ) は、 条の 2 第 1 項本文 ) 、該当する取調べ等 捜査・公判が取調べ及び供述調書に過度対応方策に絞って検討することとする に録音・録画義務違反がある時には、当 に依存している現状を改めて、証拠収集なお、本稿中、意見にわたる部分につい 方法の適正化及び多様化並びに公判審理ては、すべて筆者の私見であることを申該供述調書等の証拠調べ請求は却下され ることとされている ( 改正刑事訴訟法 3 の充実化を図るため、様々な制度を一体し添える のものとして整備し、もって時代に即し 01 条の 2 第 2 項 ) 。 警察においては、これまでも将来の制 た新たな刑事司法制度を構築しようとす 一一取調べの録音・録画制度に るものである。 度化の可能性を踏まえ、取調べの録音・ 対する対応 録画の試行実施を進めてきたところであ 法により導入される各種制度の中で るが、法的な録音・録画義務を伴う制度 も、取調べの録音・録画制度及び通信傍法により、 3 年以内に取調べの録音・ 受の合理化・効率化については、今後の録画制度が施行され、逮捕又は勾留されが導入されるということは、これまでの 警察捜査の在り方に大きな変化をもたらている被疑者を裁判員裁判対象事件又は試行実施とは全くフェーズの異なる、警 し得るものであり、警察としても、様々検察官独自捜査事件 ( 以下「対象事件」察にとって大変重たい課題である。そこ な観点から制度運用の在り方を十分に検という。 ) について取り調べる場合及びで、本章では、制度施行に向けた準備を 討し、万全の準備を整えて臨む必要があ対象事件についての弁解録取手続きを行進めていく上での課題と、今後の制度運
2 ) 。これにより、特殊詐欺や組織窃盗、考えられている。 〇捜査機関施設において、立会人によ 暴力団事犯等の組織犯罪の捜査において る立会いや封印を要することなく傍受 も通信傍受を活用できることとなる。 の実施を可能とする仕組み ( 特定電子 暗号技術を活用する新たな傍受 ろ 一方、拡大対象犯罪については、現行 計算機を用いる傍受 ) ひ の実施方法の導入 の通信傍受の実施要件に加え、組織的な という新たな傍受の実施方法が導入されの 法 犯罪に適切に対処するとの通信傍受法の現在、通信傍受の実施に当たっては通ることとなった。 趣旨を全うする観点から、「当該罪に当信事業者等による立会いや傍受の原記録 たる行為が、あらかじめ定められた役割の封印等の手続が法定されており、傍受 通信内容の事後的再生・聴取 の分担に従って行動する人の結合体によの実施の場所の提供や立会人の確保とい 本方式には、通信事業者施設における り行われるもの」との一定の組織要件がったことが事業者の負担となっているの場合、捜査機関施設における場合の 2 種 必要であると規定されている ( 改正通信みならず、事業者施設に多数の捜査員を類があるが、ここでは通信事業者施設に 傍受法 3 条 1 項各号 ) 。ただし、当該組長期にわたり出張させなければならない おける事後的再生・聴取について説明す 織要件は、従来から対象犯罪であった「組警察にとっても負担となっている。 る ( 捜査機関施設については②参照 ) 。 織的殺人」で求められる組織要件 ( 注 3 ) さらに、通信の内容をリアルタイムで事業者施設において事後的再生型傍受 よりは緩やかなものが想定されており、聴きながら、その場で傍受令状に記載さを実施したいという場合には、令状請求 具体的には、複数の者が、事前に定められた傍受すべき通信に該当するか否かをの際に併せて事後的再生型傍受の許可を れた何らかの役割分担を担った上で犯罪判断しなければならないため、捜査員は請求することとなる。また、裁判官は、 が遂行されたことが必要とされている もとより立会人も実際に通話が行われて当該請求を許可するときは、傍受令状に 例えば、特殊詐欺事件であれば、グルー いない間の待機を強いられている その旨の記載をすることとなる プ内において架け子役、出し子役、現金こうした現状を踏まえ、暗号技術を活通信事業者は、捜査機関から指定され 回収役等といった役割分担、組織的な自用することにより通信傍受の適正性を担た期間中、傍受の対象となる通信の内容 動車盗事件であれば、グル 1 プ内におい保しつつ、 を暗号化した上で一時的に保存し、当該 て下見役、実行役、車両処分役等といっ〇通信内容を暗号化して一たん記録し期間が終了した後、通信事業者が通信の た役割分担が事前になされ、それに従っ ておき、事後的に再生・聴取すること内容の復号を用い、捜査機関は通信事業 て犯罪が遂行されたことを疎明できれ を可能とする仕組み ( 通信内容の事後者等の立会いの下で再生・聴取すること となる。 ば、ここでいう組織要件は満たされると 的再生・聴取 )
特集刑事訴訟関連法の改正 新たな刑事司法制度に対する警察としての対応について 用上の課題として、例外事由の適用をめ また、取調べの録音・録画制度の対象由に該当するかどうかの判断であろう。 ぐる問題について検討する。 となる裁判員裁判対象事件は、特に重大また、公判における例外事由該当性の立 な犯罪であり、真相解明が強く求められ証責任は検察官にあることとされている るものであることから、同制度に的確にため、警察としても、例外事由に該当す 制度施行に向けた準備における 対応し、録音・録画の下でも被疑者からると判断し録音・録画を実施しなかった 課題 十分な供述を得られるよう取調べ技能の場合には、事後的に例外事由該当性につ 警察としては、対象事件がいつ、どの向上を図らなければならない。そのためい て適切に立証しておく必要がある。そ ようなタイミングで発生しても録音・録には、心理学等の科学的知見も踏まえた こで、今後の事例の積み重ねによって決 画義務を果たすことができるよう、必要取調べ技能に関する教育・訓練を強化しまってくる部分も多いとは思われるもの 十分な数の録音・録画機器が警察施設のていく必要がある。取調べの録音・録画の、各例外事由について、該当性判断を 取調べ室に整備されている必要がある。 の試行実施を始めて約 8 年が経過する行う際の捜査実務上の課題について検討 機器整備については、平成年度末まで ( 注 1 ) が、未だ取調べの録音・録画を経してみたい。 に全国で約 2000 台が整備される見込験したことのない捜査員も少なくない。 みであるが、全国には約 1200 の警察録音・録画されている状況下ではこれま 己録不能 ( 改正刑事訴訟法 301 条 署、合計 1 万強の取調べ室があることにでの取調べにはない圧迫感・緊張感があ の 2 第 4 項 1 号 ) 鑑みれば、現在の整備状況は未だ不十分ることからも、まずは各捜査員に必要な 第一の例外事由である「記録不能」は、 といえる。新たな機材として、取調べ室経験を積ませて録音・録画の下での取調機器の故障等の外部的・物理的要因によ の天井にマイクとカメラを埋め込む設置べに慣れさせることが先決であると考えり録音・録画を行うことができない場合 型機材が開発され、可搬型機材についてる。 にまで録音・録画義務を課すことが、捜 も小型化等の改良を進めているところで 査機関に不可能を強いることになること ある。 3 年後の制度施行を見据え、これ から例外事由とされたものである。した 2 制度運用上の課題ー例外事由の らの機材を中心に必要な数の機器を計画 がって、現実的・客観的に見て「録音・ 適用をめぐる問題 的に整備していく必要があり、そのため 録画ができない , 状況にあることが必要引 に、財政当局に対する予算要求等、必要今後、警察において取調べの録音・録であり、例えば、現に使用中の録音・録の となる措置を講じていかなければならな画制度を運用していく上で最も重要なポ画機材が故障しただけでは足りず、当該法 、 0 イントとなるのは、個別の事由が例外事警察署に他に使用できる機材がないこと
特集刑事訴訟関連法の改正 刑事訴訟法等改正と実務への影響ー検察官の立場から 施行される 3 年施行の改正事項は、取調べの録 音・録画制度の導入と通信傍受の手続の 合理化・効率化である。後者について は、警察と協議しつつ、新たな暗号化の 方法による傍受の機器が整備される状況 最高検察庁新制度準備室検事山口貴亮 を踏まえながら施行準備を行っていく必 ている。そこで、本稿では、それ以外の要があり、今後、より具体的な検討を行 一はじめに 3 年施行、 2 年施行及び 6 月施行の改正っていくこととなる。 第 190 回国会において成立した「刑事項の中から主なものを取り上げ、検察そこで、ここでは、以下、前者の取調 事訴訟法等の一部を改正する法律」 ( 平における施行準備や運用上の課題とい、つべの録音・録画制度の施行準備等につい 成年法律第号。以下「改正法」とい観点から、現時点でのおおよその方向性て記載する。 う。 ) は、平成年 6 月 3 日に公布されを記載することとしたい。 た。改正法は、その改正事項によって、 なお、検察においては、改正法が成立 検察における取調べの録音・録 公布の日から起算して日を経過したしたことを受けて、平成年 6 月 1 日付 画の運用状況について 日、公布の日から起算して 6 月を超えな けで、最高検察庁に新制度準備室が置か 1 4 類型の事件における試行 い範囲内において政令で定める日、公布れた。同室は、改正法により新たに導入 の日から起算して 2 年を超えない範囲内される各制度の下で、検察がその役割を検察庁では、取調べの録音・録画を行 において政令で定める日、公布の日から十分に果たすことができるよう、円滑なう範囲を順次拡大している 起算して 3 年を超えない範囲内において実施に向けた準備を行うことを目的とし まず、身柄拘東中の被疑者の取調べに 政令で定める日の 4 段階に分けて段階的ている。本職は同室のメンバ 1 として施ついては、裁判員裁判の施行を控えた平 に施行されることとされている 行準備に当たっているものではあるが、成幻年 4 月から、自白の任意性に関し、 このうち、日施行の改正事項であ本稿で意見や評価にわたる部分は、もと裁判員にも分かりやすく、効果的・効率 る、①裁量保釈の判断に当たっての考慮より本職の私見である 的な立証を遂げ立証責任を果たすため、 事情の明確化、②証拠隠滅等の罪等の法 裁判員裁判対象事件について取調べの録ろ 定刑の引上げについては、既に平成年 音・録画を実施することとした。そしの ニ 3 年施行について 6 月日に施行されており、適切な運用 て、いわゆる厚労省元局長無罪事件等を法 ないし対応がなされていることと承知し 3 年施行は、平成訂年 6 月 2 日までに踏まえて、平成年 3 月から、東京地検、あ 刑事訴訟法等改正と実務〈の影型 ー検察官の立場から
選任を申し出ることができる旨及びその管するに至った証拠の一覧表を交付しな不服申立ての手続が設けられておらず、跖 申出先を教示しなければならないことと ければならない ( 同条 5 項 ) 。 一覧表の記載や交付に関して不服申立て ワ〕 0 っ 0 久木 一覧表に記載しなければならない事項をすることはできない された ( 間条 2 項、行条 2 項、 、ま ワ 3 0 / っ 0 ろ 3 項、 204 条 2 項、 は、次表のとおりであり、これらを証拠 ひ の 整理手続の請求権の付与 ごとに記載しなければならない ( 同条 3 律 項 ) 。 現行刑事訴訟法上、事件を整理手続に法 6 証拠開示制度の拡充 付するか否かは、裁判所の職権で決する 証拠の種類 記載事項 こととされているが、整理手続が行われ 証拠の一覧表の交付手続の導入 証拠物 ( 同項 1 号 ) 品名及び数量 ることとなるか否かは当事者の公判準備 証拠の一覧表の交付手続は、公判前整 理手続及び期日間整理手続 ( 以下「整理供述を録取した書面 に大きな影響を与えることに鑑み、当事 当該書面の標目作成 で供述者の署名又は 手続」と総称する。 ) において、被告人 の年月日及び供述者の者に整理手続の請求権を付与することと 押印のあるもの ( 同項 氏名 側による類型証拠又は主張関連証拠の開 された ( 316 条の 2 第 1 項、 2 号 ) 示請求が円滑・迅速に行われるようにす の第 1 項 ) 。 当該証拠書類の標目、 その他の証拠書類 ( 同 作成の年月日及び作成 裁判所は、当事者の請求があったとき ることにより、整理手続の円滑・迅速な項 3 号 ) 者の氏名 進行に資するようにするため、その開示 は、事件を整理手続に付する旨の決定又 もっとも、一覧表に記載することによは請求を却下する旨の決定をしなければ 請求の「手がかり」として、検察官がそ の保管する証拠の一覧表を被告人側に交り次のおそれがあると認めるものについ ならない。事件を整理手続に付するか否 かの判断基準は、現行法の下におけるの 付しなければならないこととするものでては、これを一覧表に記載しないことが と同じである。 ある ( 316 条のⅡ第 2 項 55 項 ) 。 できる ( 同条 4 項 ) 。 なお、これらの決定については、即時 検察官は、①検察官請求証拠の開示を①人の身体・財産に害を加え又は人を した後、被告人又は弁護人から請求があ畏怖・困惑させる行為がなされるおそ抗告をすることができる旨の規定は設け られておらず、抗告をすることはできな ったときは、速やかに、被告人又は弁護れ ( 同項 1 号 ) ( 420 条 1 項 ) 。 人に対し、検察官が保管する証拠の一覧②人の名誉・社会生活の平穏が著しく 表を交付しなければならず ( 同条 2 項 ) 、 害されるおそれ ( 同項 2 号 ) 類型証拠開示の対象の拡大 また、②その交付をした後、証拠を新た③犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を に保管するに至ったときは、速やかに、 生ずるおそれ ( 同項 3 号 ) 争点及び証拠の整理がより円滑・迅速 に行われるようにするとの観点から、類 被告人又は弁護人に対し、当該新たに保証拠の一覧表の交付手続については、 条項等 ) 。
月刊法律のひろば 2016 VOL69 No. 9 September ◆特集◆ 刑事訴訟関連法の改正 ー刑事司法改革の展望 / 井上正仁 4 ー刑事司法は変わるか ー刑事訴訟法等改正の意義と課題 / 大澤裕 8 ー「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」の概要について ー刑事訴訟法等改正と実務への影響 裁判所の立場から / 関洋太引 検察官の立場から / 山口貴亮 35 弁護士の立場から / 宮村啓太 42 ー新たな刑事司法制度に対する警察としての対応について ◆読み切り◆ 民法の一部を改正する法律の概要 / 合田章子 56 ◆連載◆ バンコクからの法整備支援ー違いを超えて 第 3 回再会と別れ / 柴田紀子 64 ひろば時論 2 ■更生保護施設ー薬物事犯者に対する取組を中心に ■ B 型肝炎訴訟とアスベスト訴訟について ・ひろばの書棚「交通事故損害賠償法〔第 2 版〕」 / 72 ・ひろば法律速報 / 73 弊社新刊図書・雑誌のご案内・・・・・ h p : //gyosei. jp ・次号予告 / 55 77 ・訟務情報 / / 吉田雅之 16 / 河原雄介 48 装丁 /Kaz イラスト /Nao