特集刑事訴訟関連法の改正 新たな刑事司法制度に対する警察としての対応について 用上の課題として、例外事由の適用をめ また、取調べの録音・録画制度の対象由に該当するかどうかの判断であろう。 ぐる問題について検討する。 となる裁判員裁判対象事件は、特に重大また、公判における例外事由該当性の立 な犯罪であり、真相解明が強く求められ証責任は検察官にあることとされている るものであることから、同制度に的確にため、警察としても、例外事由に該当す 制度施行に向けた準備における 対応し、録音・録画の下でも被疑者からると判断し録音・録画を実施しなかった 課題 十分な供述を得られるよう取調べ技能の場合には、事後的に例外事由該当性につ 警察としては、対象事件がいつ、どの向上を図らなければならない。そのためい て適切に立証しておく必要がある。そ ようなタイミングで発生しても録音・録には、心理学等の科学的知見も踏まえた こで、今後の事例の積み重ねによって決 画義務を果たすことができるよう、必要取調べ技能に関する教育・訓練を強化しまってくる部分も多いとは思われるもの 十分な数の録音・録画機器が警察施設のていく必要がある。取調べの録音・録画の、各例外事由について、該当性判断を 取調べ室に整備されている必要がある。 の試行実施を始めて約 8 年が経過する行う際の捜査実務上の課題について検討 機器整備については、平成年度末まで ( 注 1 ) が、未だ取調べの録音・録画を経してみたい。 に全国で約 2000 台が整備される見込験したことのない捜査員も少なくない。 みであるが、全国には約 1200 の警察録音・録画されている状況下ではこれま 己録不能 ( 改正刑事訴訟法 301 条 署、合計 1 万強の取調べ室があることにでの取調べにはない圧迫感・緊張感があ の 2 第 4 項 1 号 ) 鑑みれば、現在の整備状況は未だ不十分ることからも、まずは各捜査員に必要な 第一の例外事由である「記録不能」は、 といえる。新たな機材として、取調べ室経験を積ませて録音・録画の下での取調機器の故障等の外部的・物理的要因によ の天井にマイクとカメラを埋め込む設置べに慣れさせることが先決であると考えり録音・録画を行うことができない場合 型機材が開発され、可搬型機材についてる。 にまで録音・録画義務を課すことが、捜 も小型化等の改良を進めているところで 査機関に不可能を強いることになること ある。 3 年後の制度施行を見据え、これ から例外事由とされたものである。した 2 制度運用上の課題ー例外事由の らの機材を中心に必要な数の機器を計画 がって、現実的・客観的に見て「録音・ 適用をめぐる問題 的に整備していく必要があり、そのため 録画ができない , 状況にあることが必要引 に、財政当局に対する予算要求等、必要今後、警察において取調べの録音・録であり、例えば、現に使用中の録音・録の となる措置を講じていかなければならな画制度を運用していく上で最も重要なポ画機材が故障しただけでは足りず、当該法 、 0 イントとなるのは、個別の事由が例外事警察署に他に使用できる機材がないこと
う場合には、法が定める例外事由に該当 する場合を除き、その全過程の録音・録 新たな刑事司法制度に対する、 画をしなければならなくなる ( 法 2 条に 警察としての対応について よる改正後の刑事訴訟法 ( 以下「改正刑タ 事訴訟法」という。 ) 301 条の 2 第 1 の 法 警察庁刑事企画課刑事指導室長、河原雄介 項及び 4 項 ) 。その上で、対象事件に係 る公判において、逮捕・勾留中に作成さ る。当然、これら以外にも証拠収集等へれた供述調書等の任意性が公判において 一はじめに の協力及び訴追に関する合意制度等、警争われたときは、検察官は、原則として、 本年 6 月 3 日に公布された「刑事訴訟察としても対応を要する諸制度が導入さ当該供述調書等が作成された取調べ等に 法等の一部を改正する法律」 ( 平成年れるが、本稿では、警察捜査にとって最係る録音・録画記録の証拠調べを請求し も重要ともいえるこれら 2 つの制度へのなければならず ( 改正刑事訴訟法 301 法律第号。以下「法」という。 ) は、 条の 2 第 1 項本文 ) 、該当する取調べ等 捜査・公判が取調べ及び供述調書に過度対応方策に絞って検討することとする に録音・録画義務違反がある時には、当 に依存している現状を改めて、証拠収集なお、本稿中、意見にわたる部分につい 方法の適正化及び多様化並びに公判審理ては、すべて筆者の私見であることを申該供述調書等の証拠調べ請求は却下され ることとされている ( 改正刑事訴訟法 3 の充実化を図るため、様々な制度を一体し添える のものとして整備し、もって時代に即し 01 条の 2 第 2 項 ) 。 警察においては、これまでも将来の制 た新たな刑事司法制度を構築しようとす 一一取調べの録音・録画制度に るものである。 度化の可能性を踏まえ、取調べの録音・ 対する対応 録画の試行実施を進めてきたところであ 法により導入される各種制度の中で るが、法的な録音・録画義務を伴う制度 も、取調べの録音・録画制度及び通信傍法により、 3 年以内に取調べの録音・ 受の合理化・効率化については、今後の録画制度が施行され、逮捕又は勾留されが導入されるということは、これまでの 警察捜査の在り方に大きな変化をもたらている被疑者を裁判員裁判対象事件又は試行実施とは全くフェーズの異なる、警 し得るものであり、警察としても、様々検察官独自捜査事件 ( 以下「対象事件」察にとって大変重たい課題である。そこ な観点から制度運用の在り方を十分に検という。 ) について取り調べる場合及びで、本章では、制度施行に向けた準備を 討し、万全の準備を整えて臨む必要があ対象事件についての弁解録取手続きを行進めていく上での課題と、今後の制度運
情もあったように考えられる すなわち、改正法は、録音・録画の必画とでは、取調官に録音・録画をするか 今後、取調べの一部ではなく全過程が要性が最も高いと考えられる類型の事件否かの裁量が認められるか否かの相違が o. 録音・録画される事件については、被疑として裁判員裁判対象事件及び検察独自ある。したがって、将来的には全ての事 者と取調官の間・におけるどのような遣り捜査事件を対象事件と定めたが、特別部件についての全ての取調べに録音・録画引 ひ の 取りを通じて供述調書が作成されたのか会が取りまとめた「新たな司法制度の構制度の対象が拡大されるべきであるが、 を事後的に検証することが可能になるか築についての調査審議の結果【案】」に改正法下での当面の運用においては、取法 ら、供述調書への署名押印を拒否する意おいては、「制度の対象とされていない 調官は前記した立法経過を踏まえて広く 義は従前よりも低下する。他方で、取調取調べであっても、・ : 実務上の運用にお録音・録画をするべきであり、この点の べが録音・録画されている状況下では、 いて、可能な限り、幅広い範囲で録音・運用が注視されなければならない。そし 被疑者に対して取調官が違法ないし不適録画がなされ、かっ、その記録媒体によて、裁判所は、録音・録画の有用性が認 正な働きかけをすることは困難になるかって供述の任意性・信用性が明らかにさめられた改正法の立法経過を踏まえて、 ら、被疑者が黙秘権を行使することは従れていくことを強く期待する」とされて録音・録画制度の対象外事件の被疑者の 来よりも容易になるはずである。取調べ いたし、改正法が成立する際の衆議院及供述、身体を拘東されていない被疑者の の録音・録画制度は被疑者が黙秘権を行び参議院の法務委員会による附帯決議で供述、又は共犯者等の供述について、取 使する条件を整えるものといえるから、 も、改正法によって義務付けられる場合調べの録音・録画が行われていない場合 弁護人が黙秘を助言することができるケ以外にも取調べの録音・録画を「できるには供述の任意性ないし信用性を容易に ースが増えるものと考えられる。 限り行、つよ、つに努めること」が求められは認めない判断を行、つべきである ている 以上の立法経過からすれば、改正法に 4 対象事件以外の事件についての 三裁量保釈の判断に当たって よって、録音・録画が義務付けられる取 取調べ等における録音・録画の運 の考慮事情の明確化 調べとそれ以外の取調べについてのダブ 用 ルスタンダードが是認されたものとは解 考慮事情が明確化されたことの 改正法が録音・録画制度の対象事件をされず、むしろ、それ以外の取調べにつ 意義 限定したからといって、それ以外の事件 いても「可能な限り」全過程の録音・録 の取調べについて、その全過程を録音・ 画をすることが求められているというべ 改正法によって、裁判所が裁量保釈の 録画する必要性が否定されたわけではなきである。前述したとおり、法的義務に判断をする際の考慮事情が、「保釈され 、 0 よる録音・録画と、運用による録音・録た場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅
大阪地検及び名古屋地検の 3 庁の特別捜調べの一部分の録音・録画に限らず全過 4 類型について本格実施へ移行し、それ 査部が取り扱う独自捜査事件で被疑者を程の録音・録画も実施するなど、試行的以外のものについても試行の範囲を拡大 逮捕した事件において取調べの録音・録に拡大してきた。 したことから、検察官が取調べの録音・ 画の試行を開始し、その後、その範囲を その上で、平成年川月以降、前記 4 録画を行う機会は飛躍的に増大してお ろ 全国川庁の特別刑事部が取り扱う独自捜類型については、それまでの試行と同様 り、新たな試行が始まる前の平成年 4 の 査事件に拡大し、さらに、それ以外の独の枠組みで本格実施に移行した。 月から同年 9 月までの半年間の検察庁に 自捜査事件にも拡大した。また、同年 4 さらに、前記 4 類型の本格実施に加えおける被疑者取調べの録音・録画実施件 月からは、知的障害によりコミュニケー て、同じく平成年川月以降、新たな試数が 4395 件であったのに対し、その ション能力に問題がある被疑者等に係る行として、①公判請求が見込まれる身柄 1 年後の平成年 4 月から同年 9 月まで 事件、平成年Ⅱ月からは、精神の障害事件であって、事案の内容や証拠関係等の半年間では、実施件数は 2 万 4705 等により責任能力の減退・喪失が疑われに照らし被疑者の供述が立証上重要であ件となっている る被疑者に係る事件についても、被疑者るものや、証拠関係や供述状況等に照ら また、被疑者取調べの録音・録画を実 取調べの録音・録画の試行を開始した。 し被疑者の取調べ状況をめぐって争いが施する部分についても、当初は、供述調 このように、検察における取調べの録生じる可能性があるものなど、被疑者の書を被疑者に読み聞かせて内容を確認す 音・録画は、これらの①裁判員裁判対象取調べを録音・録画することが必要である場面や取調べの終盤に供述の重要部分 事件、②独自捜査事件、③知的障害によると考えられる事件について、被疑者取を被疑者に確認する場面のみを録音・録 りコミュニケーション能力に問題がある調べの録音・録画を試行している上、②画するなどしていたところ、現在では、 被疑者等に係る事件、④精神の障害等に公判請求が見込まれる事件であって、被検察官の取調べをそのまま録音・録画す より責任能力の減退・喪失が疑われる被害者・参考人の供述が立証の中核となるるいわゆるライプ方式により、取調べの 疑者に係る事件の 4 類型の事件からスタ ことが見込まれるなどの個々の事情によ際の被疑者の入室時から退室時までを録 ートした。 り、被害者・参考人の取調べを録音・録音・録画することが通常となり、更には 画することが必要であると考えられる事弁解録取手続以降の検察官の取調べの全 件について、取調べの真相解明機能を損過程を録音・録画するなど、広範囲な録 ② 4 類型の本格実施と新たな試行 検察においては、前記 4 類型の事件に なわないよう留意しつつ被害者・参考人音・録画を行っている ついて録音・録画の試行を積極的に実施の取調べの録音・録画を試行している し、その範囲も、自白事件に限らず、否 録音・録画の運用の拡大 認事件や被疑者が黙秘している事件につ いても録音・録画の対象とするほか、取このように取調べの録音・録画が前記
つん 不十分である それでもなお、改正法による取調べの 刑事訴訟法等改正と実務〈の影型 録音・録画制度の創設は大きな意義をも ー弁護士の立場から っと考えられる。それは、対象事件にっ引 いての逮捕又は勾留されている被疑者のの 弁護士宮村啓太取調べは原則として全過程を録音・録画 することが義務付けられたからである。 及び本年肥月までに施行される証拠開示改正法の法案が国会に提出されるのに先 一はじめに 制度の拡充について、弁護人として刑事立って、法制審議会新時代の刑事司法制 2016 年 5 月日に成立した刑事訴事件に携わる弁護士の立場から、実務へ度特別部会 ( 以下「特別部会」という。 ) では、録音・録画の対象とする範囲を取 訟法等の一部を改正する法律 ( 以下「改の影響を検討する 調官の裁量に委ねる案も提示されていた 正法」という。 ) は、対象事件について が ( 注 1 ) 、そのような案は採用されず、 逮捕又は勾留されている被疑者を取り調 ニ取調べの録音・録画制度の 対象事件に関しては録音・録画を実施す べる場合の録音・録画を義務付ける制度 るかについて取調官の裁量を認めないこ を創設したほか、被疑者国選弁護制度の ととする制度が導入された。 対象を勾留状が発せられている全ての被 取調べの録音・録画が法制化さ 改正法について、取調べを録音・録画 疑者に拡大し、裁量保釈の判断に当たっ れたことの意義 する運用が既に広がりつつあることか ての考慮事情を明確化し、公判前整理手 続及び期日間整理手続における証拠一覧違法ないし不適正な取調べを防止するら、法制化されたことの意義は大きくな いとする見解もあり得る。しかし、法的 表交付手続の導入等により証拠開示制度必要性は、もとよりあらゆる事件につい を拡充するなどした。まだ多くの課題がてのあらゆる取調べにおいて認められる義務によらない運用による録音・録画で 残されているものの、全体としては刑事ものである。しかし、改正法において取は、取調官に取調べの一部を録音・録画 司法改革を前進させるものと評価するこ調べの録音・録画制度の対象とされたのの対象から除外することについての裁量 とができる は、いわゆる裁判員裁判対象事件及び検が留保される。その結果、これまでには、 本稿では、取調べの録音・録画制度の察独自捜査事件についての身体を拘東さ被疑者・被告人が、録音・録画を開始す 創設ほか、既に施行されている裁量保釈れた被疑者の取調べに限られた。この点る前あるいは録音・録画が停止された後 において、改正法による制度改革は未だの取調官の言動を問題にする事案もあっ の判断に当たっての考慮事情の明確化、
特集刑事訴訟関連法の改正 刑事訴訟法等改正と実務への影響ー検察官の立場から 対応するためには、検察庁における体制や、公判において分かりやすく効率的な 2 取調べの録音・録画制度への対 整備が必要である。 立証を行うという観点からの録音。録画 応等 例えば、録音・録画が実施できる執務下での取調べの在り方等については、引 運用の着実な実施 室 ( 取調室 ) を十分な数だけ確保するなき続き、検察の組織を挙げて取り組む必 改正法による改正後の刑事訴訟法 ( 以ど、引き続き、検察庁の庁舎の整備や執要があるであろう。 下「改正刑訴法」という。なお、本稿に務環境の見直し・改善等を検討する必要 おいて改正刑訴法〇条と記載しているもがあるであろう。 三 2 年施行について のは、改正刑訴法が全て施行された後の また、録音・録画の実施件数と実施時 条文番号を指す。 ) では、 301 条の 2 2 年施行は、平成年 6 月 2 日までに 間が増大することに伴い、事件記録に編 第 4 項において、身柄拘東中の被疑者をてっするプルーレイディスク等の枚数が施行される。 対象事件 ( 裁判員制度対象事件及び検察著しく増え、事件記録が厚くなることで 2 年施行の改正事項は、証拠収集等へ 官独自捜査事件 ) について取り調べる場庁舎内の記録保管のスペ 1 スの確保が困の協力及び訴追に関する合意制度 ( 以下 合には、原則として、その取調べの全過難になりつつあることや、録音・録画に 「合意制度」という。 ) の導入、刑事免責 程の録音・録画をしなければならないと伴う事務負担が増加することなどに対処制度の導入、被疑者国選弁護制度の対象 している する必要もある。録音・録画制度の施行事件の拡大、ビデオリンク方式による証 したがって、検察においては、 3 年施を見据え、事務負担の増加等の問題につ人尋問の拡充である。 行であるこの録音・録画制度の導入を見いては、更なる工夫を重ねて対応を検討 ここでは、紙幅の都合上、検察実務に 据えて、これに円滑かっ適切に対応するする必要もあるであろう。 とって影響が大きいと考えられる合意制 ことができるよう、引き続き、前記 1 の 度と刑事免責制度について記載する 運用による取調べの録音・録画を着実に その他 実施していくことが肝要である 録音・録画の実施件数が増大している 合意制度について 現状に加えて録音・録画制度が施行され 体制整備等 合意制度の意義等 ることからすると、捜査に携わる検察官 前記 1 のとおり、運用による録音・録等は、誰もが日常的に録音・録画の下で改正刑訴法 350 条の 2 以下に規定さ 画の実施件数は増大しているところ、録の取調べを実施することになると言ってれる合意制度は、一定の財政経済犯罪等ろ 音・録画制度の施行により、更に件数はも過言ではない。したがって、録音・録を対象として、検察官が、弁護人の同意の 増加し録音・録画時間も長時間となるこ画の下での取調べにおいて供述人からい がある場合に、被疑者・被告人との間法 とが予想されることから、これに確実にかにして真実の供述を得るかという観点で、被疑者・被告人が、「他人の刑事事聟
特集刑事訴訟関連法の改正 刑事訴訟法等改正と実務への影響ー弁護士の立場から た。改正法による取調べの録音・録画制めるとき」 ( 同項 2 号 ) との例外事由にしたのに伴って、取調べ対応に関する助 言の在り方が従前に増して活発に議論さ 度の下では、そのような取調官による恣該当せず ( 注 3 ) 、また、被疑者が録音・ 意的な運用は許されないことになり、こ録画を拒否する言動をした場合にも直ちれてきた。改正法の施行後は、対象事件 の点にこそ、取調べの録音・録画制度が について取調べを受ける身体を拘束され に当該例外事由には該当するわけではな 創設された意義があると考えられる。 いから、被疑者に録音・録画を拒否するている被疑者に対しては、取調べの全過 言動があったからといって直ちに録音・ 程が録音・録画されることを前提とした 録画をやめることは許されないこと ( 注助言をすることが必要になる 2 録音・録画義務の例外事由が厳 具体的な事案においてどのような助言 4 ) などがそれぞれ確認された。 格に解釈される必要性 録音・録画義務の例外事由に該当するが適切であるかを検討するに当たって は、被疑者が取調べで供述することのメ このような録音・録画制度の意義とのかは、具体的には、被疑者の取調べの録 リットとリスクを比較衡量することにな 関係では、録音・録画義務の例外事由 ( 法音・録画がなされなかった場合において 301 条の 2 第 4 項 1 号ないし 4 号 ) を検察官が取調べを請求した供述調書の証るが、特に被疑事実に争いがある事件 厳格に解釈・適用することが必要不可欠拠能力が認められるかが問題となる場面や、起訴されることが必至の重大事件に である。 で争われることが考えられる。そのようおいては、少なくとも被疑者が勾留され 改正法の法案審議経過においても、こな場合において、裁判所は、例外事由をて間もない初期の段階では、供述するこ の点については闊達な質疑がなされた。緩やかに認めたのでは原則として全過程とのメリットがリスクを上回ると判断す そして、ある取調室に配備されている機の録音・録画を義務付けた改正法の意義ることができる場合は少ないと考えられ 器が故障しても同じ警察署内の他の機器が没却されることを踏まえて、例外事由る。しかし、これまでの録音・録画され を用いることができるのであれば「記録に関する規定を厳格に解釈・適用するべていない取調べについては、被疑事実に きである。 争いがある事件であっても、弁護人は、 に必要な機器の故障その他のやむを得な 黙秘を助言するのではなく、供述した上 い事情により、記録をすることができな いとき」 ( 同項 1 号 ) との例外事由には で供述調書への署名・押印を拒否するこ 録音・録画制度下での弁護人の とを助言するケ 1 スが少なくなかったと 該当しないこと ( 注 2 ) 、被疑者が取調べ 、ま 助言の在り方 思われる。そのような助言がなされてき引 で否認や黙秘をしたことは直ちには「被 疑者が記録を拒んだことその他の被疑者被疑者国選弁護制度が導入・拡大された背景には、黙秘が最善の方針であるとの の言動により、記録をしたならば被疑者て、身体拘東されて間もない段階にある考えられる場合であっても、被疑者が黙法 が十分な供述をすることができないと認被疑者に弁護人が助一言をする機会が増大秘を貫くのは現実には困難であるとの事
音・録画の下では十分な供述をすることそのものが記録できなかった場合には、 が必要となると考えられている ができないと認められる場合にまで録別途機会を設け、そのような言動をした また、同号にいう「その他のやむを得 ない事情」については、機器の故障以外音・録画を義務付けると、得られるはず時の気持ちを語らせる場面を録音・録画 の外部的・物理的要因により録音・録画であった供述を得ることを断念することして記録化するなど、別の形で当該言動引 について証拠化することを検討した方がの を行うことができない場合のことを指となり、捜査にも大きな支障を生じるこ 法 よいと思われる し、例えば、警察署における録音・録画とから例外事由とされたものである。 「被疑者の拒否」とは録音・録画につ 機材が全て使用中の場合や、停電等によ 指定暴力団の構成員に係る事件 ( 改 いて拒否することであるため、被疑事実 り全ての機材の使用ができない場合のほ 正刑事訴訟法 301 条の 2 第 4 項 3 に関して黙秘していることはここでいう か、外国人被疑者について通訳人が録 音・録画されることを拒否しており、他「拒否」には当たらない。また、当該事号 ) 由に該当するためには、録音・録画を拒第三の例外事由である「指定暴力団の に協力を得られる通訳人が見付からない 場合も「やむを得ない事情に該当し得否したい旨の被疑者の発言等、被疑者の構成員に係る事件」は、指定暴力団の構 具体的な言動が外部に現れていることが成員による事件の実情を踏まえ、所属暴 ると考えられている いずれの場合であっても、事後的な立必要であり、単に捜査員の感覚として「こ力団からの報復等をおそれて十分な供述 証措置が不可欠であることはいうまでものまま録音・録画を続ければ被疑者からができなくなる場合があることから設け なく、その際には、その時点で取調べを十分な供述を得ることはできない」と認られた例外事由である。しかしながら、 ここで加害や報復のおそれそのものを要 継続する必要性が高かったことや、各種めただけでは該当しない。 したがって、被疑者が明示的に拒否し件としてしまうと、録音・録画を実施し 手段を尽くしたが録音・録画を実施でき る環境の整備ができなかったこと等を捜ている場面や、拒否をしないまでも「自なかったという外形的事実そのものから 査報告書等で立証しておく必要があると己の供述が全て記録されてしまうと、そ組織に不利益な供述をしたとの疑念を所 れが後でどのように使われるか不安でこ属組織に抱かれるおそれが大きく、結果 考えられる。 れ以上話せない」などの具体的な言動として、被疑者の不安等を払拭すること ができず、例外事由としても機能しなく 被疑者の拒否等 ( 改正刑事訴訟法 3 を、可能な限り録音・録画しておくこと が重要であると考えられる。これらの言なってしまうとの観点から、指定暴力団 01 条の 2 第 4 項 2 号 ) 第二の例外事由である「被疑者の拒否動の録音・録画が絶対条件というわけでの構成員に係る事件を一律に例外として はないが、 仮に具体的な言動をした場面いる 等」は、被疑者が拒否等をしており、録
変化をもたらすか ( もたらし得るか ) でを、裁判員制度の導入を契機とする公判院法務委員会と参議院法務委員会も、そロ ある 審理の在り方の変化と重ねると、どうなれぞれ、附帯決議において、「刑事訴訟 多岐にわたる制度改革のうち、前記課るか。比較的容易に導かれてくる我が国法 : : : の規定により被疑者の供述及びそ 題との関係で特に重要なのは、取調べの刑事司法の 1 つの将来像は、裁判員制度の状況を記録しておかなければならないタ 録音・録画制度であろう。供述の任意対象事件では、供述調書に依存した公判場合以外の場合 : : : であっても、取調べの 性・信用性の的確な立証・判断に資するの在り方にも、密室追及型の取調べに依等の録音・録画を、人的・物的負担、関 とともに、取調べの適正確保に資するこ存した捜査の在り方にも変化が現れ、公係者のプライバシー等にも留意しつつ、 とを目的とする取調べの録音・録画制度判中心のより透明性の高い刑事司法へとできる限り行うように努めること」を求 は、被疑者取調べの在り方に直接的な影改革が進む ( 注、これに対し、それ以めている ( 注 ) 。 響を及ばす。 外の事件の多くでは、公判にも捜査にも裁判員制度対象事件という我が国刑事 取調べの録音・録画制度が被疑者取調大きな変化は現れない、結果として、我司法が取り扱う最も重要な類型の事件に べとそれに依存した捜査の在り方にもた が国刑事司法の運用はダブル・スタンダおいて取調べの録音・録画義務を制度化 らす変化を占う上で、まず注目されるの ードとなって、それが固定化の方向を辿することは、録音・録画が、取調べの適 は、同制度において録音・録画が義務付るというものである ( 注。公判審理の正を確保しつつ、供述の任意性等の的確 けられる取調べの範囲である。これは、 な立証・判断ができるようにするための 活性化も取調べの録音・録画も、それに 同制度について、制度設計の段階以来、伴って生じる人・物の負担が決して少な最有力手段であることを示している。そ 最も議論が沸騰し、時間をかけて検討が くないとすると、意識的努力を欠けば、 の趣旨を汲み、制度の対象事件以外の事 重ねられた論点でもある。本法改正でこのような帰結に至る可能性も否定でき件でも、附帯事項や附帯決議が求めるよ は、制度の対象事件を裁判員制度対象事ない。 うな運用による録音・録画が広く行われ しかし、取調べの録音・録画につ 件と検察官独自捜査事件とした上で、逮 いるならば、将来像の展望も異なる。 捕・勾留中の被疑者を対象事件についてて、法制審議会は、答申に附帯事項を付 もっとも、そのような運用は、無為の 取り調べる場合 ( 弁解聴取を含む ) には、 して、「制度の対象とされていない取調ままに ( 制度化の効果のみで ) 実現する 列挙された例外事由に当たる場合を除べであっても、 : : : 実務上の運用におい ものではないであろう。この点で逆説的 き、その全過程を録音・録画することとて、可能な限り、幅広い範囲で録音・録 ながらも示唆的であるのは、制度設計の された ( 刑訴法 301 条の 2 ) 。これに画がなされ、かっ、その記録媒体によっ過程において退けられた、録音・録画の 対しては、対象事件の範囲が狭きに失すて供述の任意性・信用性が明らかにされ対象となる取調べの範囲を「取調官の一 るとの批判も少なくない ( 注。 ていくこと」に対し、強い期待を表明し定の裁量に委ねる」案 ( 裁量案 ) につい 本法改正による録音・録画制度の導入た ( 注 ) 。また、法律案を審査した衆議て、これに肯定的な立場から述べられた
当該取調べ等の開始から終了までを録対象事件についての弁解録取手続である由が設けられている ( 同項各号 ) 。例外 音・録画した記録媒体の証拠調べを請求 ( 301 条の 2 第 1 項本文・ 4 項柱書事由に該当するか否かは、取調べ等の時 しなければならないとするものであるき ) 。いわゆる在宅での取調べや起訴後点を基準として判断される。その判断者 ( 同条 1 項 ) 。 勾留中の取調べは含まれず、また、逮捕・は、第一次的には取調官であるが、取調引 勾留中の取調べであっても、参考人とし官が例外事由に該当すると判断して録の 録音・録画義務及ひ証拠調へ請求義て行われるもの ( 223 条 1 項 ) は含ま音・録画をしなかった場合に、公判で例法 務に共通する事項 れない。他方て、対象事件についての取外事由の存否が問題となったときは、裁 録音・録画制度の対象事件は、①死刑調べであれば、非対象事件で逮捕・勾留判所による審査の対象となり、検察官が 又は無期の懲役・禁錮に当たる罪に係るされている場合であっても、録音・録画例外事由の存在を立証しなければならな いこととなる 事件 ( 301 条の 2 第 1 項 1 号 ) 、②短制度の対象となり得る 期 1 年以上の有期の懲役・禁錮に当たる 例外事由の概要は、①機器の故障その 罪であって故意の犯罪行為により被害者 録音・録画義務 他のやむを得ない事情により、記録をす を死亡させたものに係る事件 ( 同項 2 録音・録画制度に関する規定は、法制ることができないとき ( 同項 1 号 ) 、② 号 ) 、③司法警察員が送致・送付した事的な観点から、「公判」の章 ( 2 編 3 章 ) 被疑者が記録を拒んだことその他の被疑 件以外の事件 ( ①及び②を除く。 ) ( 同項にまとめて置かれるとともに、まず証拠者の言動により、記録をすると被疑者が 3 号 ) である。本稿における「裁判員制調べ請求義務について規定した上で ( 3 十分な供述をすることができないと認め 度対象事件」とは、①及び②を指す ( 厳 01 条の 2 第 1 項 53 項 ) 、これに関連るとき ( 同項 2 号 ) 、③当該事件が指定 密には、①には、裁判員制度の対象となするものとして録音・録画義務について暴力団の構成員による犯罪に係るもので らない内乱事件の一部 ( 刑法行条 1 項 1 規定する ( 同条 4 項 ) という構成がとらあると認めるとき ( 同項 3 号 ) 、④被疑 号・ 2 号前段 ) も含まれる。 ) 。また、「検れているが、本稿においては、説明の便者の供述及びその状況が明らかにされた 察官独自捜査事件とは、③を指すもの宜上、まず録音・録画義務について説明場合には被疑者若しくはその親族の身 であり、検察官が直接告訴・告発等を受する。 体・財産に害を加え又はこれらの者を畏 け又は自ら認知して捜査を行う事件であ 録音・録画義務の履行として、取調官怖・困惑させる行為がなされるおそれが る。 は、取調べ等の開始から終了に至るまであることにより、記録をすると被疑者が 録音・録画制度の対象となる取調べ等の全過程を録音・録画しておかなければ十分な供述をすることができないと認め ならない。 は、逮捕・勾留中の被疑者の対象事件に るとき ( 同項 4 号 ) である。 ついての 198 条 1 項による取調べ及び も . っとも、録音・録画義務には例外事録音・録画義務の対象となる取調べ等