うために旅費を節約したのかもしれない。 私たちがなかなか書かないので、肉でプ レッシャーをかけようという作戦なのだ ろう。 ト説「カゲロボ」は十六枚のまますす んでなかったが、とりあえず安心しても らうため、できている分だけ担当に渡す と、まさか原稿をもらえるとは思ってい なかったらしく、ものすごく喜んでくれ だった。今月は別の仕事で忙しいので、 ライターが楽をしようとしているとしか る。受け取ると、私たち二人の前で黙々 とりあえず、これだけでも片づけておこ 思えず、手に取ることはなかったが、こ と読み出す。本物の出版社の人の前で自 うと思い書き出す。 こにきて、こんなシンプルな。ハチンコの分の原稿が読まれる日が来るとは思って もいなかった。いろいろほめていただい 何の考えもなく書きはじめたが、あっ機械にはまってしまうとは、口惜しい。 と言う間に十六枚書けてしまったので、 。ハチンコには私の持論があって、それ たのは嬉しかったが、それより読み終え なんだいけそうじゃんと油断し、。ハチン を証明したくて、つい長くやってしまう。 ると、素早く原稿をカバンにしまった、 コ屋さんで遊んでしまう。。ハチンコはし証明といっても自分に証明したいだけで その手つきに感動する。おお、これぞ編 ばらくやっていなかったのだけれど、 ある。この意地のようなものは、一体な集者、という感じ。 んなのだろう。 「海物語」という機種にはまってしまい、 ここまで出来ていれば大丈夫だと思っ 再び行くようになってしまった。昔々、 た担当は機嫌よく帰っていった。肉の包 「海物語」が「ギンギラ。ハラダイス」と 八月十六日 みを開くと、超有名店の高級牛肉だった。 いう名前でとても小さな液晶。ハネルのと 「波ーの担当が肉を持ってやってくる。 ここのは、ついているヘッドからして違 きはよくやっていたが、「海物語」とい今まで、漬物とか、その程度のお土産だ うのだ。スー。ハーにあるのは真っ白で固 ゲう名前になってからは一切やっていなか ったのが、牛肉というのはちょっと怖い。 いのだが、ここのはつやつやと美しい。 った。「物語」とついた商品は、コピー 今回、編集長が来ていない。この肉を買初めて見たときは感動した。脂の人り方 * 木皿泉 " 和泉努と妻鹿年季子による夫婦の脚本家 「シン・プライハ」 7
とにかくヾ当たり前じゃない″ミステリ のミステリなのである。従来のミステリが ( いささか乱暴にまり詠坂雄二が作り上げたこの世界の状況を理解して、改め て驚愕する。なんという物語を読んでしまったのかと、脳が 括ってしまうと ) 人と人との関係に根ざした事件を提示し、 グラグ一フするのだ。実に新鮮なミステリ体験である。 その謎を論理的な手続きで解明する物語であったのに対し、 本書は、そんなものは描かない。人は確かに登場するが、固二〇〇七年にハードボイルド文体を用いた青春学園ミステ 有名詞を持った人物が登場していないことに象徴されるよう リ『リロ・グラ・シスタ the little glass sister 』で日本の ミステリ界に姿を現した詠坂雄二は、デビュー当初から徒な な物語を、詠坂雄二は綴っているのだ ( 具体的に「〇〇を描 いている」と書くと読者の興を削ぐことになるのでもどかしらぬものを書く作家であった。第二作『遠海事件佐藤誠は なぜ首を切断したのか ? 』で、作者と同名の人物を作中に登 い表現になっているが ) 。 その著者の趣向は、第四話「石ノ町」で旅人の素性が示さ場させたり、ドキュメンタリー風に作品を仕上げたり、巻末 れ、第五話「王ノ町」で彼女の決意と行動を見せつけられるに架空の広告を掲載したり、第三作『電氣人閒の虞』はあん ことで、よりくつきりと読み手のなかに浸透してくる。さらなことまでやって読者を驚かせたり、だ。そんな詠坂雄二が に第五話で提示される禁忌が、それを補強する。著者がどん辿り着いた一つの極北、それがこの『人ノ町』である。静か な世界を作り上げたのかが、この禁忌を通じて明確に読者にで美しく、そして異形のミステリを堪能して欲しい。 ( むらかみ・たかしミステリ書評家 ) 伝わるのだ。ちなみにその禁忌であるが、それが禁忌である 詠坂雄一一『人ノ町』 35033 一ー 6 発売中 こと自体にまず驚き、それが禁忌である理由を理解して、つ 5- っ 4 京 9 ・」・パラシオ作中井はるの訳定価】本体 1500 円 + 税ほ「阯 きっと、ふるえる 全世界 300 万部の 感動作
中条省平 辻原登は現代日本の純文学を代表する作家で、とくに波瀾れに見る言葉による官能の高み ( 泥沼 ? ) へと読者を拉しさ 万丈かっ詩的香気にみちた歴史ロマンで有名ですが、ここ数ってしまうのです。まずはこの小説のエロティックな言葉の 年、純文学とエンタティンメントを途方もない筆力で融合さ魔術をお楽しみください。 せるクライム・ノヴェルの執筆に力を注ぎこんでいます。本しかし、第 2 章でカョ子の夫である不動産業者の紙谷覚が 作は、その辻原登独自の犯罪小説シリーズの新作、『冬の旅』登場すると、話は思わぬ方向に逸れはじめ、ポケ老人から土 と『寂しい丘で狩りをする』につづく待望の第 3 弾です。 地を巻きあげる犯罪の話に変わっていきます。つまり、『籠 本作の特徴として最初に挙げるべきは、物語の流れの変幻の鸚鵡』は、手の込んだ詐欺の物語としてもじつに興味深く 自在ぶりでしよう。先ほど私は読者への手つとり早い紹介の読めるのです。 ために、本書を「クライム・ノヴェル ( 犯罪小説 ) 」という だが、それだけではありません。この詐欺に絡んで、和歌 ジャンルに分類しましたが、この小説ははじめ、和歌山の町山のヤクザ組織「春駒組」の若頭である峯尾宏が登場し、紙 役場で出納室長を務める中年の梶康男と、スナック・ハー 谷とカョ子の夫婦を恐喝し、物語はさらに新たな興味を加速 「 Bergman 」を経営するママ・増本カョ子の関係を描く情痴させます。こうなると読者は先の予想など放りだして、作者 小説のように展開します。真面目な梶をカョ子は妖しい蛇のの巧緻きわまる話術に付いていくほかありません。開巻以来、 ごとく誘惑しますが、彼女の手段はなんと手紙なのです。 ページを繰る手が止まらないのです。『籠の鸚鵡』は、辻原 その手紙のエロティックなこと ! 私は雑誌連載で本書の登の語り手としてのテクニックが最高度に発揮された一作に 第 1 章を読んだとき、ついに辻原登が本格的なポルノグラフ仕上がっています。 イに挑んだかと思いこんで興奮しました。それほど、手紙と ヤクザ峯尾の出現とともに、冒頭の梶とカョ子のエロティ いう反時代的なメディアを用いて、『籠の鸚鵡』は、近年まックな関係にも裏があったことが明かされます。読者はそう 途方もないクライム・ノヴェル ーー、辻原登『籠の鸚鵡』
これはまずいと感じる出会いが、今まで生きてきて何度か 、六冊の本がくつついてしまった。一つ一つの物語の完成 ある。この出会いは、自分の価値観を変えてしまうほどだ。度、満足感に、そんなことを思う。 全身が、甘く切ないものや黒く醜いもので満たされ過ぎてし 完成度とは言っても例えば文学史的価値があるとか、人間 まう。油断すれば心をまるごと食べられてしまう。そんな、 の思考を高みに導くとか、そういう難しいことを指して言葉 出会い。 を選んだわけではない。僕はそういうことにはあんまり興味 彩瀬まるさんという小説家との出会いもそういうものだと、 がない。単純に、収録されている六つの作品すべてが、エン 「朝が来るまでそばにいるーを拝読し、確信した。読んでいターテイメントとして面白いという意味だ。 る途中、文章から手が伸びてきて本の中に引きずりこまれる 六つの作品群の中で彩瀬まるさんは生と死について書いて かと田 5 った。 いる。こことここじゃない場所についての話をしている。そ 本作には彩瀬さんが数年にわたって執筆された短編が六話して、自己と他者についての物語を綴っている。それぞれ、 収録されている。短編集は長編とは違って一つの価値観を持決して交わることのないはずのものが触れ境界線が曖昧にな って描かれるわけではないから、ともすれば見えるものがぼる瞬間が描かれている。その瞬間の味わいにこそ、この本を やけてしまって味が薄くなるなんて、そんなことを考えてこ読むことの最高の面白さがあると、僕は思う。 の本を読みだすと、きっと面食らう。 その面白さは、スカッとする面白さや、大感動する面白さ、 何故なら、この本では正真正銘「彩瀬まるの小説」を六つとは違う。異質なものに触れた時、心のどこかをくすぐられ 読むことになる。短編が集まって一冊の本になったのではなるような怖さにも似た快感を抱く、そういう面白さ。 異なるものに手を伸ばす 彩瀬まる『朝が来るまでそばにいる』 住野よる
本格ファン必読、 " 夢の国〃のミステリ ーー七河迦南『わたしの隣の王国』 千街品之 二〇〇八年、『七つの海を照らす星』で第十八回鮎川哲也内の二ヶ所に同時に出現しないよう工夫されており、声優も 賞を受賞してデビューした七河迦南は、寡作ながらどの作品 シークレットとなっている。 あんな も高水準で、常にミステリ愛好家を唸らせている実力派だ。 空手とファンタジー小説を愛する若い女性・杏那と、その ゅう 短篇集『空耳の森』から四年ぶりの新作『わたしの隣の王恋人で研修医の優が、この物語の主人公である。。 ( ーク・ 国』は、ファンの期待を裏切らない緻密な本格ミステリ長篇ッピーファンタジアにやってきた二人は、本来なら部外者立 であり、同時に、今までの作風とは大きく異なるファンタジ入禁止となっている研究所の塔に足を踏み人れてしまい、そ ー・ミステリでもある。 のため事件に巻き込まれる。杏那のほうは、エレベーターか 本書の末尾には「この物語はフィクションであり、登場すら出た時、クマの騎士のキャラクターであるエドガーと遭遇、 る人物・団体・場所等は全て架空のものです」という但し書そこでエドガーと何者かが争っているのを目撃。気がつくと、 きがついている。わざわざこう記されている作品には大抵現先ほどまで彼女がいた現実とは異なるファンタジーの世界に 実のモデルが存在するものだが、本書の舞台となるのは、千迷い込んでいたのだ。その世界では、パーク・ 葉県浦安市の某アミューズメント。、ー ノクを連想させずにはおンタジアのキャラクタ 1 たちが ( 人間の人った着ぐるみとし かない巨大施設「。ハーク ・ハッピーファンタジア」。古今東てではなく ) 実在しており、科学の代わりに魔法が発達して 西のファンタジー小説やコミックをモチーフにしており、さいる ( ジョン・ディクスン・カーの小説の名探偵フル博士 まざまなアトラクションが人々を楽しませている。シンポルみたいな喋り方をする魔法使いも出てくる ) 。そんな異世界 キャラクターのハッピー ・。 ( ピーは、二本脚で立って人間ので杏那は、知恵と勇気を振り絞って魔王の勢力と戦いながら、 言葉を話す子大だ。。 ( ピーをはじめとするキャラクターは園四方の扉が監視下にあり、なおかっ呪文で扉が封じられた密
橋を渡れないからこそ舟を漕ぐ 「猪牙舟の特徴はなんといっても、船の先端部、水を切るを滑る猪牙舟が気持ちいいと言う。お花もまた、忘れたいこ とがあるのだろうか。 舳先を水押というが、それが、ぐんと突き出していること だ」 『ご破算で願いましては』『五弁の秋花』と続く、この「み 細身の舟だからすごく揺れる。いっ何時、川に投げ出されとや・お瑛仕入帖」は、長太郎お瑛の兄妹のまわりに集まる ても不思議ではない。その代わり、どの舟よりも速い。水面さまざまな人間模様を描く連作だが ( たくさんあるので、こ を切って、滑るように走る。お瑛がこの猪牙舟を操ることにこには書ききれない。印象的なドラマが多いということのみ ついては前作にこういう記述がある。 を記しておきたい ) 、物語の中心にあるのは、この猪牙舟と 「風を切って川面を走ると気持ちが良かった。お父つつあんいっていい。お瑛が猪牙舟を操るシ 1 ンが圧倒的に多いとい とおっ母さんが逝ってしまった悲しみも、借金で店屋敷を取うわけではないが、強い印象を残すのである。 られて、通りにほうり出された悔しさも、舟を漕いでいると前作の帯には「しつかり者の看板娘お瑛と若旦那気質の頼 きだけは忘れられた」 りない兄。凸凹コンビが活躍する下町よろず屋繁盛記」とあ しかも橋を渡ることが出来ないお瑛にとっては、対岸に渡 り、たしかにその通りではあったけれど、猪牙舟のシーンに る橋代わりにもなる。本書でも「みとや」の近くに惣菜屋を象徴されるように陰影までをもしつかりと描いているから胸 開いた元花魁の花巻ことお花が、お瑛の猪牙舟に乗るくだりに残るのだということを書いておきたい。 ( きたがみ・じろう評論家 ) が出てくる。お瑛が猪牙舟を操るときは形相が怖いほど変わ 梶よう子『五弁の秋花みとや・お瑛仕人帖』 336852 ー 6 発売中 るので、長太郎は乗るのを嫌がるほどなのだが、お花は川面 刑罰号 西滌奈加 みよし おいらん 展開測、艷不能 , 人類のあらゆる " 罪 . と対峙する物語。 ード方パ・ = ☆定価〕本体 1 「 / ⑥⑨円十税 吉川英治文学 新人賞作家 新たなる 代表作の誕生 ! 徳間書店 〒 105-8055 東京都港区芝大門 2-2-1 TEL. 048-451-5960 ( 受注 )http:〃www.tokuma.jp
ます。なぜ遠いかといえば、歴史的に韓国・朝鮮は中華帝国に日本を圧倒していた」とか、よく耳にしますよね。なぜで を中心とする華夷システム、べつの言葉だと冊封体制なるもしようか ? 韓国に関心がない人たちの無知につけこみ、そ のに属し、日本は属していなかったからです。うーんとひらう思わせたい勢力が、わが国でずーっと幅をきかせてきたか たくいえば韓国・朝鮮はずっと中華帝国の属国で、歴代の新らです。これは一種の情報操作であり、わたしは個人的に韓 羅王、高麗王、李氏朝鮮王は中華皇帝の臣下、家来だったの国シークレットプーツ作戦と名づけています。 に対し、日本はそうではなかったということ。 虚飾は、それが虚飾とわかった瞬間、侮蔑がめばえますか 「とはいっても古代は、朝鮮半島から文明がやってきたのでら、百害あって一利なし。シークレットプーツは、はいては は ? 」とお思いのあなた もとい、そう思わされているあならず、はかせてもならず、はかせられてもなりません。国 なた、そんなあなたには、時事通信のソウル特派員をつとめと国の友好は、さげすみも、おもねりも排し、等身大の実像 た室谷克実さんの名著『日韓がタブーにする半島の歴史』を見つめ合うに如かず、です。 ( 新潮新書 ) を是非ご一読なさるようお薦めします。歴史観、 古文という教科は国語にカテゴライズされていますが、あ 歴史認識というものが、どれほど史料をねじまげてご都合主れは立派な歴史教育だと思います。わたしたちは「こ・き・ 義的に捏造されやすいものかを知ることができます。 く・くる・くれ・こよ」だの「あり、をり、はべり、いまそ 早い話、韓国には古典がないのですよ。だがら「古文」と かり」だのを学び、「花の色はうつりにけりないたづらに」 いう教科もない。古典はその国の文化的資産で、文化的コンだの「春はあけぼの」「行く川の流れは絶えずして、しかも、 テンツで、文化の・ハロメータです。古典のない韓国が、日本もとの水にあらず」「いづれの御時にか、女御、更衣あまた に文化的影響を与えるなど、お日さまが西から昇ったとしてさぶらひたまひける中に」「つれづれなるままに、日暮らし、 もありえないことです。もう、ただそれだけの話です。韓国硯に向かひて」などと暗誦することで、ある意味リアルな歴 史上には紀貫之、清少納言、紫式部、鴨長明、吉田兼好らに史に触れ、歴史観、歴史感覚、歴史認識を養っているのです。 さんか 相当する人物がおらず、『山家集』のような歌集もなく、『十歴史をファンタジックなものに堕さしめない歯止めにもなっ ざよい 六夜日記』みたいな日記紀行文学もなく、『平家物語』ふうています。韓国にそんな国民的古典はありません。これこそ の軍記もない。世阿弥もおらず、西鶴、近松もいない。まさ が日本人と韓国人の決定的な違いです。韓国人の歴史観、歴 に「文化ないないづくし」の国が韓国です。それなのに「日史感覚、歴史認識がいきおい「ましかば、まし」的な反実仮 本は武の国、韓国は文の国」とか「近世以前、韓国は文化的想の色合いを深めるのは、ここに原因があるのですね。 さくう
異なるものに手を伸ばす この面白さに、特に彩瀬まるさんより若い読者の方達にこの説明をしていない。理由はこの本の魅力がどこにあるかと そ触れてほしいと思っている。例えばどこかの誰かが書いたいう点にある。これから読まれるならどうか、彩瀬まるさん 「君の膵臓をたべたい」という本を読み、分かりやすくて感の描く風景を探っていくように物語を楽しんでほしい。登場 動したと思ってくれるあなたにこそ、本作を読んで種類の違人物達の背景、関係性、不思議な出来事、一つ一つに自分の 手で触れ接し方を決めてほしい。 う感動を味わってほしいと思っている。 もう一つ、六つの作品を通して描かれていることは、「受最後に、恐れ多くも同業者という視点から一つ。とにかく、 け人れる」ということだ。現状、自分自身、自分以外のもの、変どのお話でも、決め台詞が上手い。気持ちいいポイントでそ えられるものもあれば変えられないものもある中で、受け人こまでに膨らませた風船を見事に割るような一文や台詞が用 れるか否か、そしてその方法を登場人物と一緒に考えること意されている。最高だ。最高で、悔しい。 恐らく、僕は彩瀬まるさんという小説家をこの先ずっと尊 になる。いっしか登場人物と自分すら曖昧になる瞬間が来る。 「朝が来るまでそばにいる」という題名の短編は収録されて敬し、そして嫉妬し続けると思う。日本語を捉える感覚や、 いない。そして、そのような台詞も今作には登場しない。し日常を捉えるセンスに。きっと、僕が小説を書かなくなるま かし読めば僕らは、「朝が来るまでそばにいる」と告げてくでずっと。そんな小説家がこの世界にいるということが、と る何かを受け人れるのかどうか、その選択をしなければならてつもなく幸せで、本当にほんの少しだけ、苦しい。 ( すみの・よる作家 ) ない時が来るのだと分かる。 彩瀬まる『朝が来るまでそばにいる』 33 一 963 ー 4 発売中 今回、書評を書かせてもらうにあたって、それぞれの短編 三歳から東京に住む台湾人作家が、 台湾・中国・日本、三つの母語の IOO 8 年代の青春 狭間で揺れ、惑いながら、自身の ルーツを探った四年の歩みを集約 ! 司修著 1900 円 大江健三郎作品の装幀を手がけ、同時 代を伴走してきた著者が、六〇年代の温又柔著 大江文学と向き合い、現代への鮮烈な 4 メッセージを掴み取る ! 台湾生まれ日本語育ち 2600 円 60 年代のを た訌文から説み解く現代への 鮮烈なメッセージ ! 日ム袂袒我住在日語 わたしは日本語に 本 = 弯仕んで。、ます。 東京都千代田区神田小川町 3-24 ht甲:/ん、いV. hakusuisha ・ co•jp/ Te1.03-3291-7811 ※価格は税別 白水社
青山七恵 哀しみと喜び、出会いと別れ、信頼と裏切り、生と死 : の手を握り、老いて思うままにならない体で。ハンケーキを焼 人間の営みに生じるさまざまなものを内包して、家はそこにくためにコンロの手すりを握る。一生を通して助産師という 暮らす人々を雨風から守る。一つ屋根の下に集う家族は寝食職業に誇りと喜びを感じ、地に足をつけて心に決めた道を歩 を共にし、互いの存在に安らぎを見出だす。しかし時としむ彼女の存在は、自ら築いた家の内外を明るく照らした。 て、家族を結びつけるはずの部屋の扉や壁こそが、彼らをお しかしその娘のラハヤは違う。写真技師という最先端の職 互いから遠く隔ててしまう。フィンランドの寒村に暮らす一を得、家のなかでは子どもたちと夫に囲まれていても、彼女 家族に流れた百年の時間を描いた本作は、そんな「家ーの物はどこか不安気ではぐれた風船のように頼りない。生まれ育 五ロ。こ 0 一三ロ子 / った母の家でも、戦後に夫が手ずから建てた家でも、彼女は 舞台はフィンランド北部に位置するオウル近郊の村。物語自分の居場所を探しつづけて、常に途方に暮れているように は大きく四つの章に分かれ、助産師のマリア、その娘で写真見える。一瞬の不安や疑念はみるみるうちに家じゅうに孤独 技師になったラハヤ、ラハヤの息子と結婚したカーリナ、ラの巣を張り、彼女を家族から遠ざける。迷子になった彼女が ハヤの夫のオンニの順に、それぞれの視点から秘められた家おずおず伸ばす手は誰にも握られず、むなしく宙を掴むだけ 族の歴史が綴られていく。 だ。夫と母に先立たれ、老いてますます孤立してくラハヤの 物語の冒頭に置かれたマリアの章は、なんとも力強い。悲すがたは痛々しい。 しい過去を抱え、血まみれの死産の場という悲惨な局面に怯しかしカーリナ、オンニと続く章を読んでいくと、孤独を えながらも新米助産師としてその手にプーツコ ( フィンラン抱えていたのはラハヤだけではないと知れる。そこに暮らす ドの伝統的な片刃のナイフ ) を握ったとき、彼女は自らの人誰もがそれぞれに痛みや秘密を抱え、それを分かちあえる誰 生をしかと握ったのだ。以後数十年、彼女は生まれてくる赤かに向かって手を伸ばしていたのだ。とりわけオンニの秘密 ん坊たちのために自転車のハンドルを握り、幼い娘や孫たちはマリアの章の前に据えられた短い病院のシ 1 ン ( ここでラ 迷い子たちの家 トンミ・キンヌネン『四人の交差点』 ( 新潮クレスト・ブックス )
ね kagü 新潮社主催イベント案内 2016 佐藤多佳子 x 朝井リョウ「新作大放談 ! ! 」 1 Ⅳ 5 ( 水 ) 19 : 00 ~ 20 : 30 の貴重な対話を、どうぞお聞き逃しなく。 2000 円 た国で共通するテーマに取り組んできた二人の小説家 れてきた中島京子さんの対談が実現します ! 遠く離れ が深く、また家族と歴史を主題とした物語を数多く執筆さ 初めて来日するトンミ・キンヌネンさんと、海外文学に造詣 ストセラーとなったデピュー作です。邦訳刊行にあたって れる、フィンランドの家族の百年にわたる物語。本国でべ 「四人の交差点」は、祖母、母、娘、そして父の声で語ら 「四人の交差点』 ( トンミ・キンヌネン著 / 古市真由美訳 ) 刊行記念 「家族を書く、歴史を書く」 トンミ・キンヌネン x 中島京子 1 Ⅳ 21 ( 金 ) 19 : ①① ~ 2 ① : 3 ① 0 四人の 交差点 トン・ミ・キンメネン占市真山美謝 「明るい夜に出かけて」 ( 佐藤多佳子著 ) 、「何様』 ( 朝井リョウ著 ) 刊行記念。 2 開 0 円 1 Ⅳ 12 ( 水 ) 19 : 00 ~ 20 : 30 いとうせいこう x 安田登 x 奥泉光 x 玉川奈々福「漱石ナイト能と儚十夜』」 「漱石と能」のトークと、フルート & 三味線伴奏で「夢十夜』の語りなど盛りだくさん。 2000 円 1 Ⅳ 2 ① ( 木 ) 18 : 50 ~ 20 : 30 小林秀雄と人生を読むタベ〈その 5 〉歴史と文学 第 1 回「満州の印象』。小林秀雄の著作を 1 編ずつ読む人気講座。お茶菓子付。 3 0 円 1 Ⅳ 22 ( 土 ) 12 : 00 ~ 18 : 00 、 1 ①′ 23 ( 日 ) 11 : 00 ~ 18 : 00 電車王国おもちゃの巨大鉄道模型がラカグに ! 20 開本を超えるレールをつなげた巨大な建造物で、子供が自由に遊べます ! 3 側円 kagü 2F 「 söko 」 チケット購買、イベント紹介はこちら www.舷 a 馳 . c ① m / e 東京メトロ東西線「神楽坂」駅 2 番出口徒歩 1 分 東京都新宿区矢来町 67 都営地下鉄大江戸線「牛込神楽坂」駅 AI 出口徒歩 7 分 kag ⅱとは新潮社の元書庫を改築した店舗で F にレクチャースペース「 söko 」が併設されています。 【お問い合わせ新潮社ラカグ室】 sokoinfo@shinchosha. CO. jp 03-3266 ー 7185 107