などがある。性格特性がいくつか集まったものが性格である。こういう考え方が特性論である。 性格検査はすべて特性論に基づいて作られている。そうすると、そういう共通の特性をいくっ仮 定すれば、 しいかが大問題である。 100 年以上前から、多くの心理学者が研究を続けている。 ギルフアドは開発されたばかりの因子分析法 ( 前述の変数のまとめ方の手法 ) を使って、さま ざまな質問項目を少数のグループにまとめようとした。 1940 年代にはコンピューターがなか ったので、セントロイド法という近似計算であったが、それでも、 1 回計算するためには数週間 が必要だった。因子分析の結果、順次、因子性格検査、因子性格検査、 因子性格検査が編成された。名称のアルファベットは因子の頭文字である。ギルフアドらによる との性格因子になったが、すべての質問項目の相関関係を分析したものではない。 はそのうち男性性因子を省略し、肥の因子から項目を抜粋して翻訳したものである。暫 夫 大定版の 240 項目の質問紙を大学生 200 名に実施し、各因子ごとに高得点者名、低得点者 名を選んだ。そして、二つの群の質問項目に対する回答を比較し、統計的に有意差のある項目を ス テ 格選んだのが 156 項目の旧である。この旧を 120 項目に縮小したのが現である 性 る この手続きは、暫定版質問紙の合計得点と整合性のある質問項目を残す手法で、項目分析とい あ 1 ワ」 0 X 評う。項目分析からは、 120 項目のが因子で構成されるという証明はできない。 120 の相関行列を作り、因子分析して、実際にのグル 1 プに分かれることを実証しないとい 章 第 けない。 >-q(.-D は本当に肥因子なのだろうか 171
* 8 この基本的な問題に焦点を当てたのが、續・織田・鈴木の研究である。を高校生と大学生 合計 600 名に実施し、 120 項目の相関行列を作成し、因子分析を行った。因子は最大七つ求 められたが、 第三因子までで・ 2 % が説明できた。つまり、の質問項目を分類すると 3 グ ループとなった。質問項目の内容を検討すると、「対人関係」「劣等感」「活動性」に関する尺度 になる A 」い、つ 結局、のの性格特性は幻想にすぎなかった。研究論文が掲載されたのは、教育心理学研 究という有名な学術誌である。専門家なら誰でも読めるはずだ。この程度のことも知らない研究 者や人事担当者が多過ぎる。人の採用にを使うのは無知の証明にほかならない 性格特性論の世界のすう勢 特性論の歴史を簡単にまとめておこう。 ・オ 1 ルポ 1 トとオドバ ートは 1936 年にウエプスターの新国際辞典から性格特性用語を 4504 語抽出した。同時に、特性論を提案し、大きな影響を与えた。 ・ギルフアドは 1930 年頃から因子分析法で性格因子を探求し、因子性格検査 ( 1940 年 ) 、因子性格検査、—因子性格検査 ( 19 4 3 年 ) 、ギルフアド・ ツイママーン気質調査 ( 年 ) などを作成した。↓日本では前三者から抜粋して 172
ずれの分析でも 5 因子が得られた。↓村上・村上が主要 5 因子性格検査を作成した ( 19 ・村上 ( 2002 年、 2003 年 ) は「広辞苑」から性格表現用語 934 語を収集し、大学 生に 553 語で自己評価させ、 317 語を因子分析した結果、外向性、協調性、勤勉性、 情緒安定性、知性の因子が得られた。日本語でも 5 因子であることを初めて実証した。 現代心理学では、基本的な性格の次元は、外向性、協調性、勤勉性 ( 良識性 ) 、情緒安定性、 * 9 知性の五つであるというビッグ・ファイブ仮説が広く認められるようになった。は 1940 年代の理論の産物で、つまり、生きた化石というわけだ。 恥ずかしながら >O を論ず については何も説明しなかった。 1993 年の「最新コンピュータ診断性格テスト」でも 何も書かなかった。の成立過程を調べると、研究らしい研究もなかったし、恥ずかしくて紹 介できるような内容ではなかった。しかし、ここでは何故恥ずかしいのか、説明しておこう。 も 19 4 0 年代のギルフアドとマーチンの三つの性格検査とギルフアド・ツイママーン性 格検査から質問項目を抜粋・翻案して構成した性格検査である。早稲田大学の本明らが 1976 年に作成した。 174
第 4 章定評ある性格テストは大丈夫か が成立した。 ・アイゼンクはギルフアドの研究を基に、性格を外向性と神経症傾向の次元より記述してモ 1959 年 ) を作成した。その後精神病質傾向の次元を追加して、ア ーズレイ性格検査 ( イゼンク性格検査 ( は 19 7 5 年、は 19 9 2 年 ) を作成した。 、バートのリストを特性用語対肪にまとめ、 ・キャテルは 19 4 0 年代にオ 1 ルポートとオト 因子分析法を適用して根元的特性はであると主張した。質問紙固有の因子を四つ追加し、 人格検査という性格検査 ( 初版は 1941 年、改訂版は 1967 年 ) を作成した。 年 ) 、ディグマンとタケモト・チ フィスク ( 19 4 9 年 ) 、タベスとクリスタル ( 19 61 ョク ( 1981 年 ) などがキャテルの再分析を行った。いずれも因子数は 5 であることが 判明した。 年 ) に戻り、性 ・ノ 1 マン ( 19 6 7 年 ) はウエプスタ 1 の新国際辞典 ( 第 3 版、 格表現用語を再収集し、整理して 1631 語のリストを作成した。最終的にのカテゴリ 類義語 5 71 セットを見いだした。 ・ゴウルドバ 1 グは 1980 年代からノーマンのリストに基づいて因子分析を繰り返し、 * 8 】續有恒、織田揮準、鈴木眞雄「質問型式による性格診断の方法論的吟味ー性格検査の場合ー」 、 1 っ 0 -4 ・ 教育心理学研究、 173
作成方法を見てみよう。まず、ギルフアドらの四つの性格検査の各因子からⅡ個ずつ質問項目 を抜粋し、翻訳して 168 項目の予備検査を作った。それを中学生 123 名に実施し、尺度ごと に高得点者と低得点者の弁別力が劣る質問項目を一一つ削除すると検査のできあがりである。 でも 240 項目から出発しているし、項目分析の人数も 200 名である。 1970 年代の は 1950 年代のの猿まね以下である 1 ー 0 年代ならコンピューター環境も整備されていたので、と同じ方法で作成する理由 はまったくない。續たちの研究で見たように、全質問項目を因子分析することも可能だった。た だ、もし、そのような分析をすると、 3 因子しか出なかっただろうし、行き詰まることは目に見 えていた。だからものまねに終始したという訳だ。それにしても、翻訳した項目数や項目分析の 知被験者数を見ると、いかに手抜きをしたかがわかる。 大その代わり、標準化の人数は頑張って 2682 名である。中学生、高校生が対象である。しか し、多ければ、 しいという訳でもない。の流行を横目で眺め、タ 1 ゲットを学校教育に絞り、 ス テ 格素早く、安直に作成したのがである。肝心の作成方法は非常に貧弱である。 るの解説書・ 105 ) には面白いデ 1 タがある。正常者群と非行群を比較したデータだ。 定 年。 * 9 【村上宣寛・村上千恵子「性格は五次元だった」培風館、 章 * 川】本明寛・久米稔・織田正美「本明・ギルフォ 1 ド性格検査手引き」日本図書文化協会、 1976 第 年。 スロ 175
攻撃性得点は、正常群が 4 ・ 90 、非行群が 3 ・ 76 で、統計的に有意である。つまり、 によると、普通少年は攻撃的で、非行少年は攻撃的でないという訳だ。本当だろうか。尺度が 間違っているとしか思えない。 また、尺度との相関もある。それによると、神経質 Z と抑うつは 0 ・ 7 程度で、類似の 結果が得られるが、その他の尺度は 0 ・ 4 から 0 ・ 6 程度であり、気楽さは 0 ・ 0 とまったく 関連性がない。だから、で「気楽である」でも、では「気楽でない」となる場合が大い にあり得る。我がゼミ生たちのプロファイルがかなり食い違ったのも当たり前である。 で、どちらが正しいのかと言えば、もちろん、どちらも間違いだ。もも古代の化石で ある。特性尺度は因子分析の結果、作成されたものではない。それに、現在は、ビッグ・ファイ こんなことも知らないのでは専門家 プという五つの性格特性を測定しなければ、話にならない とは言えない。だから、やを使っている人を見たら、密かに軽蔑のまなざしを向けても 問題ないだろう。 総括するとーーねつ造、すり替え、ウソの大盤振る舞い の総括をしてみよう。 ・肥の性格特性が測定されていると思うのは幻想である。續らの分析では 3 因子しか得られ 176
が得られた。それをまとめると、 ・主導性 : : : 支配性 < 、社交性 ・情緒安定性 : : : 循環性 0 、神経質 z 、客観性 0 、抑うつ、劣等感— ・活動性 : : : 活動性、客観性 0 など となったという。しかし、 8 因子なら 8 グル 1 プになるはすだが、あまりにも数が多過ぎるの で、辻岡が無理にまとめたようだ。分類には一貫性がないし、なぜこんなグル 1 プにしたのか、 理解できない。しかも 156 項目の旧を使った分析である。 大昔のこと、コンピューター雑誌に統計プログラムを書いていた頃、私もの尺度を分類し たことがある。グループセントロイド法という昔の因子分析法のプログラムである。大学生 10 2 名に実施したの尺度を分類してみた。その結果は、 ・抑うつ、劣等感—、神経質 Z 、思考性、支配性 < 、社交性 ・循環性 0 、気楽さ、攻撃性 <<b0 つまり、大きく分けると 2 グル 1 プになったわけである。広い意味での外向性と気分の変化 156
大部分の学生が型だった。 型といえばプラックリスト・タイプ。解説書によれば、情緒不安定で、問題を起こす非行少 女である。白衣の天使の正体か。しかし、私の見るかぎり、型の看護学生は、意見をはっきり と言い、積極的で、勉強熱心な優秀な学生が多かった。プラックリストに載るような人たちでは なかった。 一方、受検者の大部分が型になる場合もある。教員採用試験や就職試験で、適性検査として が使われた場合だ。就職の合否に関係するとなると、気分の変化が少なく情緒が安定してい るし、対人関係も良好で、自分の意見もはっきり言えるという態度でに回答する。その結果、 指導者タイプの型が続々と現れてしまう。 >-4Q5 のコンピューター・サービスでは、こういう態 知度を検知する工夫があるが、あまり効力はない。をよく理解している人なら、採用試験には 大は決して使わない。しかし、の流行は続いている。人事担当者の心理テストの理解が初 心者と変わらないという証拠だ ス テ 性何を根拠にした分類だったのか る あ 評 肥の尺度を情緒安定性、社会的適応性、外向性の三つのグループにまとめる話は、辻岡の 19 定 57 年の論文にあり、 1972 年の専門書にも再録されている。つまり、旧を大学生 200 章 第名に実施して、尺度の因子分析をしたところ、相互関連のある八つの因子 ( グルーピングの単位 ) 155
主要 5 因子性格検査システム by Dr. Barnum システム開発 : 村上宣寛 臨床的貢献 処理年月日 2005 / 02 / 04 時刻 9 : 55 : 53 [ 被験者の記録 ] ファイル : 51504002 氏名 : 性別 : FEMALE 年齢 : 22 歳 実施日 : 実施者 : 住所 : 学歴 : 職業 : 婚姻状態 : 兄弟姉妹 : 主症状 : : 村上千恵子 この「主要 5 因子性格検査システム」は、基本的な性格の次元が、外向性、協調性 、勤勉性、情緒安定性、知性であるという欧米の性格理論をもとに 70 項目で構成され ています。住民票の無作為抽出による有効回答者 1169 名を、青年期 ( 12 ~ 22 歳 ) 、成 人前期 ( 23 ~ 39 歳 ) 、成人中期 ( 40 ~ 59 歳 ) 、成人後期 ( 60 歳以上 ) に区分し、世代 別に標準化が行われました。 自動解釈は客観的で、経験的な法則に基づいて構成されており、あなたの性格を理 解するために有用な情報が含まれています。しかし、ここで提供される情報は仮説的 なもので、自動解釈が個々の人に完全に当てはまるわけではありません。自動解釈レ ポートは、自分の性格や生き方を振り返るための参考資料としてご活用ください。 このシステムを用いて ( 株 ) 学芸図書以外の事業者が有料の解釈サービスを行うこ とはできません。なお、あなたはくく青年期基準 > > で分析されました。 ( 図 2 ) ドクター・バーナムの実行結果 62
心理テスト はウソ IIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII 9 7 8 4 8 2 2 2 4 4 4 6 0 旧ⅢⅢ川ⅧⅧ刪 II 1 9 2 0 0 9 5 01 5 0 0 2 工 S B N 4 ー 8 2 2 2 ー 4 4 4 6 ー 6 C 0 0 9 5 \ 1 5 0 0 E 定価 ( 本体 1500 円十税 ) 発行日経 B P 社 発売日経 B P 出版センター 心理テス上はウソでした。受けたみんなか馬鹿を見た 村上宣寛 ( むらかみ・よしひろ ) 富山大学教育学部教授。四 76 年京都大学大学院修了。わ が国唯一といっていい包括的な心理テストの教科書「臨 床心理アセスメントハンドブック」の著者。認知心理学、 統計分析、性格測定に関するプログラム開発等が専門。 その他の著作に「主要 5 因子性格検査ハンドブック」「コン ピュータ心理診断法」「ロールシャッハ・テスト」等がある。 季けたみんなカ鹿を見に でした。 村上宣寛 4446 日経 BP 社 @PhiIipLau 「 ell/ 」 ohner/amana