ほらあな 気がつくと、洞穴のなかにべッドがあった。 目の前には老人がすわっていて、ステッキをふりまわし 「だってさ、たし算やひき算とか、かけ算だったら、 「どうして ? 」 り算好きじゃないんだ」 まで、待ってくれてもよかったのに。それにさ、ぼく、わ 「もうはじめるの」と、ロバートがたずねた。「眠りこむ 「起きろ、ロバート。きようは、わり算だ」 ている ど 46 ばいすう ぐうすう 「かけ算とおんなじことでしよ。ただし逆にやるんだけ イ 5 十 3 9 + 3 んなふうに」 だって、おんなじように簡単にわりきれる。たとえば、 いつもすっきりした答になる。簡単じゃないか。 5 の倍数 「そうさ」。ロバートが言った。「偶数だと、 2 でわれば、 だけで、わりきれるか、余りが残るか、わかる数もあるぞ」 数の悪魔が説明した。「そこが大切なんだ。ちょっと見た 「余りが残る場合と、残らない場合があるということだ」。 「場合って、どういうこと」と、ロバートがたずねた 「場合によりけりだ」 ないか」 がう。わりきれなくて、余りが残る。すっきりしないじゃ んな計算でも答がちゃんと出るでしよ。でも、わり算はち
第 8 夜いったい何通りあるの ? せき ートは黒板の前に立っていた。 1 列目の席にはクラ ロノヾ スで一番の親友がすわっていた。サッカーの好きなアルバ ートと、おさげのべッティーナだ。いつものように、ふた りはけんかしている。 こいつはまずいぞ。ロバートは思った。学校の夢なんか 見ちゃってる そのときドアがあいた。入ってきたのは、ポッケル先生 ではなく、なんと数の悪魔だった。 「おはよう」と悪魔が言った。「また、けんかしてるみた いだな。どうした ? 」 「べッティーナが、ばくの席にすわってるんだ」。アルバ 「なにを ? 」 「ロバート、黒板に書いてくれ」。老人が言った。 「やだ、って言うんだ」。アルバートがさけんだ。 「じゃ、替わればいいだろう」 ートがさけんだ。 145 ら、ま、いいか かなくちゃならないんだ。でも、悪魔がおもしろがるのな ロノヾー トにはわからなかった。どうしてこんなこと、書 書くんだ。アルバートを左に、べッティーナを右に」 「アルバート Albert を A 、べッティーナ Bettina を B と
第 3 夜素数の秘密 「さあ、いいか」と、老人はロバートに言った。「いいこ とを教えてやろう」。ロバートは老人のそばに顔を近づけ た。あまり近くに寄りすぎたので、老人のひげがロバ の耳にあたって、くすぐったかった。数の悪魔はロバ ひみつ の耳もとで秘密をささやいた。 「まず区別をしておこう。わることのできる、ごく普通 の数と、わることのできない数とがある。わたしはな、わ りきれない数のほうが好きだ。なぜだか、わかるか。素数 というすばらしい数だからだ。数学者たちは何千年もまえ から、この素数に手こずってきた。不思議な数なんじゃ。 11 とか 15 とか 17 というのが、素数だぞ」 ートはおどろいた。数の悪魔が突然、おいしいもの ロノヾ を舌の上でとろけさせているみたいに、うっとりとした顔 になったからだ 「じゃ、言ってこらん、ロバート。最初の素数をいくつ そすう 「 0 はだめ」。そうさけんで、またもやステッキをふりま 「 0 」とロバートが言うと、老人が怒った。 わした
第 5 夜ヤシの実で三角形をつくる 「となりあってる 2 つの < 三角形の数 > の、差だ」 ートは、水に浮かんでいる数をじっと見つめて、考 ロノヾ えた イ 3 もイ 0 イ 5 2 づ 2 を 36 孕 5 55 ′ 「 5 ひく 1 は 2 。 6 ひく 5 は 5 。 10 ひく 6 は 4 。あれつ、 1 じゅんばん から 10 までの数が全部、順番に出てくるよ。すつごい。だ ったら、ずうっとこの調子で出てくるんでしよ」 せなか 「そうだ」。数の悪魔は、満足そうにデッキチェアに背中 をもたせかけた。「しかも、それだけじゃない。こんどは、 好きな数を言ってごらん。 5 個以下の < 三角形の数 > を使 って、おまえの好きな数を書いてやろう」 「じゃ、 51 」 「簡単だね。 2 個でできる。ほら」 らイ 「 8 引 「よし」 8 3 。 「 12 」 あさめしまえ 「朝飯前じゃ」 イ 2 ー イ 5 + 36 イ 0 + 28 や牛 5 イ + 4 + イ 0 91
「そうだ」と老先生が言った。「ところで、興味があるん なら、 1.618 ・・・・・・つていう数が、ほかにどんなことができ るのか、教えてやろう。スクリーンには、恐ろしいものが 登場した。 7.6 7 日・・ 1 7 1 1 1 1 「分数じゃないか」とロバートはさけんだ。「見ただけで 目が痛くなっちゃう。おまけにさ、この分数、絶対に終わ らないんでしよ。分数なんて、大きらいだ。ポッケル先生 は分数が好きで、いつもばくらをいじめるんだ。お願い、 この怪物、どっかやっちゃって」 れんふんすう 「そんなに騒ぐな。ただの連分数だよ。ただな、この狂 った分数には、すばらしいところがある。どんどん小さく なっていく 1 だけから、 1.618 ・・・・・・を呼び出せるんだ。ど うだ、降参したか」 「ああ、なんでも認めるよ。でも、分数だけはやめて。 とくにさ、終わりにならない分数ってのは勘弁してよ」 「よかろう、ロバート。ちょっとおどろかせたかっただ けなんだ。連分数がきらいなら、じゃ、ほかのことをやろ う。これから五角形を描いてみよう」 かんべん 192
第 11 夜証明はむすかしい 「そういう言い方、ないだろう。ポッケル先生は、来る 日も来る日も、おまえたちの宿題を見なくちゃならんから、 うんざりしてるんだよ。悪魔にはカリキュラムなんてない から、好きなように気のむくまま、石から石へ跳んでるけ れど、ポッケル先生にはそんな暇がない。ほんとに気の毒 なことだ。ところでポッケル先生、宿題のノートをチェッ クするため、家に帰ったらしい」 ートは通りを見おろしてみた。実際、通りには物音 ロノヾ ひとつ、人影ひとつなかった。 「仲間のなかには」と老先生が言った。「ポッケル先生よ り、ずうっと苦労している悪魔がおる。たとえば、わたし ねんばい どうりよう きよう の同僚で、年配のイギリス人のラッセル卿は、あるとき、 1 十 1 = 2 を証明しようと決心した。ほら、この紙切れに 写しておいたが、これがラッセル卿のやった証明じゃ」 2 一彡本 一、彡ッ 217
第 10 夜雪片のマジック 日日石ニ 7 ヨ 4 を + 7 ヨ〃日 7 ヨ + / 旧ヨ / / 日子 / 望 : 」召 9 「わかったよ」とロバートが言った。「で、どうするの、 これから ? 」 「フィポナッチ数とおんなじことをする。わり算だ。わ るんだ。さ、やってごらん」 スクリーンには、ロバートが打った数字があらわれた。 日日 + / 7 / 旧 + 石 = れ圧リ」日 / 望 + / / 日ニた引日壑襯 ヨ日 + / 9 / = 日 7 日田 こんな具合に。 生 5 : ′。 545 り 54 : れ皐ロ召当日 + 卩日こ L 印 7 円己 「これも狂った数ばっかりだよ」。ロバートがさけんだ。 「わかんないなあ。どんな数でも、 こういうことできる こうなるの ? 最初に好きな数を の ? ほんとにいつも、 2 つもってくれば、いいわけ ? どんな数でもいいの ? 」 191
「ああ、まさに自然ってのは、そんなものさ」。老人は、 折りたたみ椅子の上で気持ちよさそうに体を揺すった。 「まさにフイボナッチ数って、そんなものさ」。ロバ がお返しをした。「悪魔の教えてくれる数って、どれも、無 限にいっちゃうんだよね。そういうのって、ばく、好きな のか、きらいなのか、わかんないや」 「いま見たように、まったく逆もあるんだぞ。最初の場 所に、つまり 1 にさ、もどってきただろ」 こうしてふたりは仲良く別れた。最後に残った 1 組のウ サギのことなど気にしないで。数の悪魔は、数の楽園に住 む昔なじみのフィポナッチのところへ、そしてまた、そこ であいかわらず新しい悪魔の数学に頭を悩ましている連中 めざ のところへ向かった。ロバートは夢も見ず、目覚まし時計 が嶋るまで眠りつづけた。鳴ったのは、 ごく普通の目覚ま し時計だった。ウサギ時計でなくて、ロノヾートはうれしか った。 114
「じゃ、さ、みじめな悪魔に夢で会えることだって、あ りがたい話なわけだね」 「誤解するなよ」。ロバートの友だちが言った。ふたりは 昔なじみのようになっていたのだ。「楽園でポスたちが頭 をひねっているのは、悪いことを考えてるからじゃない。 わたしが特別に好きなボスに、フィポナッチという悪魔が きまえ おる。発見したことを気前よく教えてくれたこともある。 イタリア人でな。残念ながら、とっくの昔に亡くなったが、 そんなこと、数の悪魔の世界じゃ、問題にならん。感じの いい悪魔だった、おお、なっかしのフィポナッチ。ところ でそのフィポナッチは、 0 というものを理解した最初のひ とりでな。 0 を発明したわけではないが、そのかわりフィ ポナッチ数というものを考えた。すごい数なんだぞ。すば らしいアイデアはたいていそうだが、フィポナッチの発明 も 1 からはじまった。正確にいうと、 2 つの 1 からはじま った。 1 十 1 = 2 だ りかい この式で、最後の 2 つの数を とりだして、加える 2 ; 5 5 くわ つまり・・ それから・・ またおなじように最後の 2 つの数をとりだして、加える、 という具合にするんだ。 102
素数の秘密 壁にこ すって書かれた数が浮かんでいる。そして洞穴が、柔らか だよっているだけだった。ロバートの目の前には 第夜 59 なぜそうなるのか、説明することはできないけれど。 27 でやってみてごらん。絶対にいつも、できるんだ。 55 = 5 十イ 9 十 3 イ すると、 こうなる。 2 つの素数じゃなくて、 3 つの素数でだけどね。 55 を例に その数も、素数だけでつくることができるんだ。ただし 55 でもいいし、 27 でもかまわない。 つ考えてみよう。ただし 5 より大きい数をだ。たとえは、 くって、畚薮にもトリックがあるんだよ。好きな数をひと にもうひとつトリックを教えてあげよう。偶数だけじゃな さて、きみは ? まだ居眠りしてないんだったら、最後 いねむ これまでこんなによく眠ったことはなかった。 なった。 い雲のようになっていった。まっ白な真綿の山脈のように まわたさんみやく 数のことを思い出そうとしたが、頭のなかは、どんどん白 くて暖かい毛布のように思えた。ロバートは、不思議な素 もうふ