『成長』していく。 めずら 今や、『ロボット』という存在は世界中に広まり、別段珍しいものではなくなった。 とうさい さまざまな形、さまざまな機能を搭載したロボットが存在し、無論『ヒューマノ イド』と呼ばれる人間型のロポットも少なくない。 すなわち人工知能を搭載したロボットだ。 中でも特に好まれているのが、 基本的な機能をベースに、見聞きした情報を記憶、処理し、まるで人間のように さいせんたん まさに、最先端のロボットと言える。 けつかんひん ただし、その高度な性能故、『不良品』、『欠陥品』が出ることも多く、が搭載 されたロボットは工場から直接市場に出回ることはない。 ロボットたちには一定の期間、具体的には約一年という間、専用の学校で『学習』 はあく してもらいーーーその間に個々の個性や基本的な情報を把握し、それを『成績表』と いうカタチで書類にしておくのだ。 はんばい そして、生徒たちがいざ『販売される』となった時、客たちはビジュアルの他、こ きおく 6 9
ばくぜん なんだ』なんて漠然と考えてるみたいだけどさ。俺はそうは思わないよ。 性格悪そうなオバサンとか、気持ち悪いオッサンとか、そんなャツに買われて、 幸せになれるなんて思わない。 ロボットは、自分の幸せを望んじゃいけないのかな。 俺、ロボットだけどさ。やつばり幸せになりたいよ、先生。 人生、一度きりなんだから」 そこまで言ったところで、 0 31 は頭を掻いた。 「ロボットなのに、『人生』って言葉を使うのは変か」と笑う。 わたしは言葉を失いかけたけれどーー・、・かろうじて、声を出した。 「あなたにとっての、『幸せ』ってなんなの : : : ? 」 言いながらーーわたしは彼の、成績表のことを考えていた。 彼は、成績の良い生徒が優先的に、客に『買われる』ということを知っているの ではないか。 彼は、本当に『出来損ない』なのか 1 1 1 秋の学校で。
「ありえないね。仮に、万が一そうだとしても、君が気にやむことはない。どの道 —搭載ロボットに、不良はっきものだしな。 ・それに、相手はあくまで家電。人間じゃない。 大でもなければ猫でもない。生き物じゃない。テレビや電子レンジの部類だ。 売れなかったら、スクラップにして他の機械の部品にするなり、安価で海外に売 り飛ばすなり、方法はいくらでもある」 その言葉に、わたしは下を向いた。 チーフは持っていた成績表をわたしに手渡して、わきを通り過ぎる。 じぜん 「ーー天野。分かってるとは思うが、これはビジネスだ。慈善事業じゃない。 そっこく 利益になるロボットを作り、利益にならないロボットは、即刻製造を中止する。 もちろん、不良品は捨てる。これまでも、この先も。それの繰り返しだ」 もしそれに耐えられないのなら、この業界から抜けろ。 チーフはそれだけ言い残して、わたしのもとを去った。 106
の黒板が使われていたりする。 まして、この学校の生徒たちは、全員ロボットなのだ。 てんとう ロボットのためにお金をかけて設備を整えては本末転倒である。 『文化祭』。 黒板の真ん中に大きくその文字を書き、わたしはそれを仰いだ。 それを見た教室中の生徒たちが、ざわざわと話を始める。 「静かに」わたしは強い口調で言って、その文字をチョークの先で叩いた。 みな 「ーーー皆さんもう知っているでしようけれど、『文化祭』の時期が迫ってきています。 『いったい何をやるか』ーーーというのは各々考えていたこととは思いますが、今日は プリントを用意してきました。 ここには、去年や一昨年、文化祭でどんなことが行われたか、特にどんなものが 人気だったのか、というのが書いてあります。 もし何も考えていなかった、というヒトがいたら、是非参考にしてください。 逆に、何か考えていた、というヒトでも、一度は目を通しておいてください ぜひ あお せま 99 秋の学校で。
「起きなさい、 031 。他の生徒たちは、もう全員寮に戻りました。 戸締まりがあるから、あなたも早く教室を出なさい」 「なんでだよ。先生、昨日は俺にだけ『帰るな』って言ったくせに」 「居残りでしよう。あなただけテストの成績最悪だったから」 「でも俺、まだ眠いんだけどな」 「だったら、寮に帰ってから寝なさい」 というより、そもそも何が『痛い』というのだ。 何が『眠い』というのだ。 ロボットのくせに 95 秋の学校で。
「ーーねえ、先生」 ふと、顔を上げる。 031 はいつの間にか席を立ち、窓を開けて、外の景色を眺めているようだった。 冷たい風が部屋の中に入り、それが、 0 31 のシャツを揺らしている。 彼の目には、この色づいた美しい木々たちが、景色が、どんなふうに映っている のだろうか 「ーー先生。もうすぐ、お別れだね」 やわらかな、声。 その言葉に、わたしは喉を鳴らす。 動揺する気持ちを悟られないよう、小さな声で、「そうね」とだけ返した。 の書類も加味して、どのロボットを買うか考えることになる のど なが 秋の学校で。