課 - みる会図書館


検索対象: 5分間で心にしみるストーリー
111件見つかりました。

1. 5分間で心にしみるストーリー

す トラブルやクレームも少ない。 赤ちゃんを抱え泣きながら飛び込んでくる人なんかも時々いたけれど、未来を見 据えるこの課にはどこか希望があふれていた。 おく ずんずんと奥へと進んでいく。 ふくし 生活保護申請を行う『生活福祉課』は、役所の中でも奥まった所にある。申請し に来た人が周りの目を気にするからだ。 生活福祉課の前も通りすぎる。 辿り着いた最奥の一角に、ひっそりといった感じで小さなプレートが下げられて 『老者委託課』 つうしよう 通称、うばすて課。 ここが僕の配属先だ。 たど いたく かか こ み うばすて課

2. 5分間で心にしみるストーリー

ピンポーン 建て替えられたばかりの、比較的大きな市役所。 大勢の人で賑わう中、呼び出しのベルが鳴った。 場所は、各課の中の一番奥の奥。 どうぞ一度ご相談にお越し下さい。 ここは、本当に困っているご家族を救う課です。 老者委託課。 通称うばすて課。 僕の職場だ。 「三十五番の札をお持ちの方、二番窓口にお越し下さい」 にぎ ひかく 144

3. 5分間で心にしみるストーリー

よりによってこんな所に配属されるなんて。 僕って奴は、なんてツィていないんだ。 この課だけは、嫌だった。 僕の勤める市役所は、平日の早い時間だというのに問い合わせや相談、申請をし にやって来た人々でごった返している。 半年前に建て替えられたばかりの比較的大きな市役所。 ピカピカの真新しい待合椅子は、ひっきりなしに入れ替わる人間を今日も健気に 支えている。 がみ 僕は、前の配属先だった『こども課』をうしろ髪を引かれる思いで通りすぎる。 こども課は良かった。 にんしん 妊娠出産に関する手続きや育児についての相談。 やっ しんせい けなげ

4. 5分間で心にしみるストーリー

ただただ 限り人との接触は皆無。管理され、只々生かされるだけ、というやり方に捨てたも 同然という反対意見が根強いことも、また事実。 それでも。ここに相談に来る人達のほとんどは、そうせざるを得ない状況を抱え ているのだ。 しかし費用に関しては全て国が賄うのだから、申請を全て受理するわけには当然 ケースワーカーは面談の中で要介護者の健康状態、介護者の精神状態等からへプ ンへの入所の必要性を判断する。 かんきよう 中には金はあるが出したくないという者や、十分介護に耐えうる環境下にありな めんどうくさ がら面倒臭いといった理由だけで申請に来る不届き者も確かに存在する。 本当に必要としている者と、そうでない者。それを選り分けるのが老者委託課 うばすて課だ。 僕は今日からここで、ケースワーカーとして勤務することになったのだ。 まかな よ た じようきよう うばすて課

5. 5分間で心にしみるストーリー

きたな 人の汚い本音を、嘘を、見抜くのだ。 ・ああ、なんて嫌な仕事なんだろう。 「三上さんは、嫌にならないんですか」 「なにがだ ? 」 みに・、 「この課では、人間の醜いところばかりを見るでしよう。嫌にならないんですか」 僕の質問にこちらを向いた三上さんは携帯灰皿に煙草をねじ込んだ。 「初日でもう辞めたくなったか ? 」 「お前の心が叫んでるぞ。こんな所、まっぴらだって」 もど 三上さんはフ、と笑って、そのまま課に戻ってしまった。 ▽ さけ うそ 126

6. 5分間で心にしみるストーリー

ノーガードの所に飛び込んでくるそれらは、ダメージでしかなかった。 もちろん 精神的には勿論のこと、あまりに強い思考の場合はあてられて実際に体調を崩す ことだってある。 成長するにつれ多少はコントロールが出来るようになったものの、大手を振って 使いたい能力じゃない。 だけど、この課ではその能力が役に立つ。 この能力のことを話せば、もしかしたら羨ましいと言う人もいるかもしれない。 実際のところ、デメリットの方が断然多い 敵意 悪意 嫌悪 ぞうお 憎悪 うらや ふ うばすて課 125

7. 5分間で心にしみるストーリー

先輩である三上さんは三十代後半のべテランケースワーカーで、先ほどの二枚舌 主婦を一刀両断した人だ。 噂では、この人はなかなか申請を通さないという。 たんたん 冷静に、淡々と、選り分ける。 おどろ あいさっ 数日前挨拶のため課を訪れた僕は、とても驚いた この人だけ。 読めなかったのだ。 僕の性質上、やりたいかやりたくないかは別として、向き不向きで言えばこのう ・向いているのだと思う。 ばすて課はハッキリと。 物心ついた頃からそうだった。 人の心が、読める。 自分の意思とは関係なく次々に流れ込んでくる他人の思考。 うわさ ころ 124

8. 5分間で心にしみるストーリー

カー 「この役所も広いからな。半年前の立て替え搬入でバタバタしてた時に、資料を探 してこども課に寄った」 「その時、読んだんですか ? 」 いや。普段から俺は閉じてるって言っただろ。お前はその時、受付時間外だ った電話に長々と捕まってた」 「子育て相談だったんだろうけど、お前は忙しい周りを尻目にずっと話を聞いてい ・それが、理由かな」 「い、意味が分からないです・ 「能力は後付けだ。しかも今のところお前のそれはクソの役にも立たねえじゃねー こ。 「う」 その通りすぎて、何も言い返せない・ 「 : ・・俺はな、世間でどう言われようと老者委託は、ヘブンは、必要な政策だった つか いそが はんにゆう しりめ うばすて課 141

9. 5分間で心にしみるストーリー

ガチャッ その言葉の真意を確かめる前にドアは開かれた。 「こんにちは。老者委託課の三上です」 三上さんが笑顔で対応する。 「今日はわざわざお越しいただいて、すみません。狭いところですが、どうぞ」 すす 工藤さんに勧められ、僕達は部屋へ入った。 じよう そこは八畳ほどのワンルームで、その狭いスペースを大きな介護べッドが占領し ていた。 むだそうしよく 若い女性が居るというのに無駄な装飾品や雑貨などは一切なく、部屋の隅に置か れたポールハンガーに服が三、四着掛けられている他はほとんど病室と変わらない ような質素さだった。 「本当に、こんな汚いところでお恥ずかしいです。祖母はご覧の通り今は眠ってい るのですが、起きれば多少話せます」 は か せま ねむ せんりよう うばすて課 133

10. 5分間で心にしみるストーリー

さあ、今日も一日が始まる。 うばすて課 145