部屋 - みる会図書館


検索対象: 5分間で心にしみるストーリー
13件見つかりました。

1. 5分間で心にしみるストーリー

高いマンションで、目がくらくらしてしまいました。 「お客様の部屋は六階になります」 エレベーター内で、このマンションについての説明を受けた気がしますが、まる で頭に入ってきませんでした。 ただ銀行で記憶を失っていただけの私が、こんな場所に住んでしまっても良いの でしようか ? ・ 「こちらの部屋です」 げんかん 案内された部屋も、これまた家賃が高そうなお部屋なのだろうと、玄関を見ただ けでわかります。 つまず 玄関に上がるとき、敷居に躓いて転び、右腕を強打してしまいました。まさかの 強打者の登場に、球界もざわっいていることでしよう。ドラフト一位指名も確実で す。 だいじようぶ 「大丈夫でしようか ? 」 銀行マンさんが慌てて駆けよってきます。 あわ しきい 35 記憶銀行

2. 5分間で心にしみるストーリー

お部屋の中心まで連れられ、その全体をじっくりと眺めてみました。このお部屋 の第一印象は『白い』でした。その白さといったら、買ったばかりのプラウスより も白く、汚れ一つさえ許されないでしよう。 その広く白いお部屋は、必要最低限の家具しか置いてありません。どことなく寂 しさを感じてしまうのは、贅沢というものでしようか 「私の案内はここまでです」 銀行マンさんが静かに告げました。 「ご案内いただき、ありがとうございました」 私が頭を下げると、銀行マンさんはまた静かに言います。 「いえいえ、これも当行のサービスの内ですから。そうそう、サービスと言えば いっしゅん 銀行マンさんの顔が一瞬にしてビジネスマンさんの顔に豹変しました ! 高価な っぽ 壺の一つや二つ、買わせていそうな顔ですー よ′ ) ぜいたく なが ひょうへん さび 37 記憶銀行

3. 5分間で心にしみるストーリー

きようがく そして僕も、驚愕した。 鞄の中身は、お金だった。 それも、大量の。 数万、数千万、いや、それ以上かもしれない。 とにかく、テレビドラマでしか見たことのない札の束が、わっさわっさと詰まっ ていた。 そりや、重たいはずだ。 「ちょっと居村さーん ! 手伝ってこれー ! 凄いよー ! 」 小部屋の中からカウンターに向かって声を張り上げると、一人の女性が立ち上が って、裏から小部屋にやって来た。 居村さんは、鞄の中を見て「ひえっ ! 」と悲鳴を上げた。 人が「ひえ」と明確に発音したのを、僕は初めて見た、否、聞いた。 いむら / / 考える人

4. 5分間で心にしみるストーリー

「当行では、記憶をお貸しするサービスも取り扱っております。興味を持たれまし たら、ぜひ当行へ足をお運びください」 そう言い残して、銀行マンさんは我が家を去りました。とても不思議な雰囲気を お持ちの方でした。 だだっ広い部屋に一人取り残された私は、その床に大の字になって寝転びます。 この部屋は、まるで私の記憶そのものです。必要な物しか置いておらず、そのほ かは空っぽ。 これから私色に染めてゆくのでしようか。でも、そもそも私色って何色でしよう やはりこの私のことですから、可愛らしいピンクでしようか ・これは願望で みわくむらさき すね。情熱の赤だったり、少し大人な青だったりするのかもしれません。魅惑の紫と いうこともあるでしよう。 それとも実は虹色とか、もしくはそれらを全部かき混ぜた凄くばっちい色なのか にじ あっか ゆか ふんいき

5. 5分間で心にしみるストーリー

ガチャッ その言葉の真意を確かめる前にドアは開かれた。 「こんにちは。老者委託課の三上です」 三上さんが笑顔で対応する。 「今日はわざわざお越しいただいて、すみません。狭いところですが、どうぞ」 すす 工藤さんに勧められ、僕達は部屋へ入った。 じよう そこは八畳ほどのワンルームで、その狭いスペースを大きな介護べッドが占領し ていた。 むだそうしよく 若い女性が居るというのに無駄な装飾品や雑貨などは一切なく、部屋の隅に置か れたポールハンガーに服が三、四着掛けられている他はほとんど病室と変わらない ような質素さだった。 「本当に、こんな汚いところでお恥ずかしいです。祖母はご覧の通り今は眠ってい るのですが、起きれば多少話せます」 は か せま ねむ せんりよう うばすて課 133

6. 5分間で心にしみるストーリー

「承知いたしました」 まばゅ 銀行マンさんは、また怪しい機械を取り出しました。それから眩い光が私の頭を 包みます。 頭の中がじわじわと空っぽになっていきます。私の頭は、またも私の部屋のよう になっていました。 いえ、私の部屋には確かに私が居ましたが、私の頭の中に、私が居るとは断言で きません。 記憶を失ってしまった私の口から出る言葉は、いったい誰の言葉なのでしよう。 すべて膨大な知識データによって喋らされているような、そんな気がします。 「記憶は確かにお返しいただきました。それでは : : : 」 銀行マンさんが慣れた口調で言い放った次の言葉は、私の空っぽな脳を激しく揺 らしました。 「続いて、利子をお支払いいただきます」 そのロぶりは、底の浅い記億の中でも、最も恐ろしく感じました。 ぼうだい しはら しやペ ゅ 記億銀行

7. 5分間で心にしみるストーリー

もしれません。 でも、今の私はどうにも空っぽで、強いて言うなら、つかみどころのない無色透 明が適切な気がして、この部屋の色に染まってしまいそうです。 真っ白でいるのは、なんだか人間味に欠けてしまっている気がします。何か色を 付けたくて仕方がありません。手つ取り早く色を付ける方法はないでしようか。 『当行では、記憶をお貸しするサービスも取り扱っております。興味を持たれまし たら、ぜひ当行へ足をお運びください』 そうでした。先ほど聞いたばかりだったではありませんか。空っぽの部屋が嫌な ら、物を詰め込んでしまえば解決です ! きちじっ 思い立ったが吉日、時は金なりといったところでしよう。なんにせよ、銀行に向 かうにはちょうど良いタイミングでした。 とうちゃく 銀行に到着すると、銀行マンさんが駆け寄ってきました。 「これはこれはお客様、何かお気に召さない点でもありましたか ? それとも : : : 」 こ 39 記憶銀行

8. 5分間で心にしみるストーリー

閉じろ 閉じろ・ 三上さんの言った通り、この部屋には工藤さんの強い想いがあふれていて、油断 するとすぐに飲み込まれそうだった。 罪悪感 自分に対する嫌悪 悲しみ 恐怖 そして、お祖母さんに対する愛情 こ。 工藤さんは小さなコーヒーテープルの上にお茶を出しながら申し訳なさそうにし 134

9. 5分間で心にしみるストーリー

大切だと思える人はいますか ? 私にはいます。 私は父親の顔を思い出せません。 母親の顔を思い出せません。 小さな頃、物心つく前から、この白い部屋ーー病室にいます。 同年代の友達はいません。 どこかの誰かの大切な人に届く前に。 自分の大切だったもの、大切にしたかったものの空の上を、 ほんの僅か、自分の想いを乗せたそれが、通り過ぎるような幸運を。 189 紙ひこうきの見た世界

10. 5分間で心にしみるストーリー

「ーーねえ、先生」 ふと、顔を上げる。 031 はいつの間にか席を立ち、窓を開けて、外の景色を眺めているようだった。 冷たい風が部屋の中に入り、それが、 0 31 のシャツを揺らしている。 彼の目には、この色づいた美しい木々たちが、景色が、どんなふうに映っている のだろうか 「ーー先生。もうすぐ、お別れだね」 やわらかな、声。 その言葉に、わたしは喉を鳴らす。 動揺する気持ちを悟られないよう、小さな声で、「そうね」とだけ返した。 の書類も加味して、どのロボットを買うか考えることになる のど なが 秋の学校で。