が高いこととの直接的な関係も見出した。 この研究者らによれば、「高血糖症 ( 血糖の上昇 ) は、糖尿病と認知機能の低下をつなぐ一 因かもしれない」ということだ。続けて彼らは、「高血糖症は、『終末糖化産物』の形成、炎症、 微小血管疾患というメカニズムを通じて認知機能障害の一因となるかもしれないーと述べてい る。 ここで初めて出てきた「終末糖化産物」とは何か、そしてそれがどのように形成されるのか について説明する前に、二〇〇八年に行なわれたメイヨークリニックによるもう一つの研究を 見てみよう。 『アーカイプスオプニューロロジー』に掲載された研究は、人がどのくらいの期間にわた って糖尿病をわずらっているかということと、認知低下の重症度の関係を調べたものだ。 そこには明白な関連があった。糖尿病の発症が六五歳以前だと、軽度認知機能障害のリスク は、二二〇パーセントというとんでもない値になるというのである。そして一〇年以上糖尿病 を抱え続けた人たちの軽度認知機能障害のリスクは一七六。 ーセントまで上昇する。インスリ ンを摂取している人たちなら、リスクは二〇〇パ 1 セントまで上がる。 この論文の著者たちも、高血糖が続いていることとアルッハイマー病のつながりを説明する ために「終末糖化産物の形成の増大ーについて言及した。
糖尿病はどのように認知症に関与するのかという疑問だ。 まず、インスリン抵抗性があれば、体内では、脳疾患を伴う脳のプラークを形成するタンパ ク質 ( アミロイド ) を分解できないだろう 次に、高血糖によって、体を傷つける脅威的な生体反応が引き起こされる。その方法は、細 がんさんそぶんし 胞にダメージを与える、特定の含酸素分子を生成し、結果として ( 脳以外は言うまでもなく ) 0 よ・つさ′、 脳内の血管を硬化させ狭窄させる炎症を引き起こすという具合だ。この症状は、アテローム性 動脈硬化症として知られているもので、血管性認知症につながる。この血管性認知症は血管の 閉塞や発作で脳細胞が死ぬと発症する。アテローム性動脈硬化症は心臓と関連して考えられる 傾向にあるが、脳も同じように動脈内膜の変化による影響を受けるのだ。 二〇〇四年、オーストラリアの研究者たちは論文ではっきりと次のように述べた。「いまで は、アテロ 1 ム性動脈硬化症は、動脈内膜での脂質やタンパク質の酸化を特徴とする酸化スト レスが増大した状態を示しているというコンセンサスがある」 加えて、そういった酸化は炎症に対する反応だということも指摘した。 とりわけ心配な発見は二〇一一年に日本人研究者たちによって行なわれたものだ。 そのとき、研究者たちは六〇歳以上の男女一〇〇〇人を調べ、「糖尿病をわずらう人たちは ほかの被験者と比べて、一五年以内にアルッハイマー病を発症する可能性が二倍であり、また 1 36
ルテンを消化できる人や、グルテン過敏症の検査で陰性だった人にさえ当てはまる。私は医者 としてそれを日々、目にしている。私はどんな者にも食事からグルテンをいっさい取り除く ように指示するが、その結果に私自身でさえ絶えず驚かされる。 脳疾患も含めてすべての変性疾患を引き起こすのが「炎症」であることは、研究者たちには かなり前から知られていた。そして研究者たちは、グルテン、さらに言えば高炭水化物の食事 が脳に達する炎症反応の原因になっていることを見出しつつある。 ふだん、腸内ガス、膨満感、便秘、そして下痢などは比較的すぐに症状が現われるので、消 イ器系疾患や食物アレルギ 1 には気づきやすい。ところが、脳はとくにわかりにくい 器官だと いうことだ。分子レベルではあなたが気づかないうちにずっと激しい攻撃に耐えているのかも か しれない。頭痛を治そうとしたり、明らかな神経系の問題に対処したりしないかぎり、脳で何 の る か起こっているのかはわからず、とうとう手遅れということになり得る。脳疾に関して言え て き ば、いったん認知症などの診断が下されると、そこからの方向転換は難しいのだ。 起 しい知らせもある 何 たとえあなたが神経系の病気を発症しやすいという性質を生まれつき持っていても、その遺中 伝的必然をコントロ 1 ルする方法があるということだ。そのためにはみんなが信じている通説頭 から抜け出す必要があるだろう。もっともよくない二つの通説は、
動をすると、最終的にインスリン感受性は改善され、ヘモグロビン <'*O を減らすことができ る。 また現在では、ヘモグロビン < 10 と将来のうつ病のリスクの直接的関係も示されている。 ある研究では、平均年齢六三歳の四〇〇〇人以上の男女の調査によって、ヘモグロビン と「うつ症状」の直接の相関関係が証明された。 グルコースの代謝がよくないことは、うつ病の発症リスク因子とされる。タンパク質の糖化 反応は脳にとってはよくないのである。 % ・内臓脂肪はそれ自体が悪い炎症を起こす つま 血糖値を正常にするためには、すい臓は長時間にわたって働き続けなくてはならない。 り糖尿病は、インスリン値が上がってからずいぶんと経ったのちに血糖値が上昇して発症する のがわかる。だから「空腹時血糖」だけではなく、「空腹時インスリン値」も調べることが非 常に重要なのだ。 空腹時インスリン値が上昇していれば、それはすい臓が血糖値を正常に保とうと必死にがん ばっているという証拠だ。おまけにあなたが炭水化物を摂りすぎていることも明確に示してい 1 86
の形成と維持を促進し、炎症を助長する。インスリン値が高いときには、ほかのホルモンはイン スリンのせいで増加するか減少する。それを受けて、体は不健康で混沌としたパターンにならざ るを得ない。すると、体は正常代謝に戻れなくなる。 ( いったん細 人が糖尿病を発症するか否かにおいて、遺伝が関係しているのは確かだ。さらこ、 胞が高血糖に耐えられなくなると、どの時点で糖尿病スイッチが入るのかも遺伝によって決まる。 糖尿病の中でも「一型糖尿病」は自己免疫疾患と考えられる別の疾患だ。糖尿病全症例のたっ た五パーセントを占めるにすぎない 一型糖尿病の患者がインスリンをほとんど、あるいはまっ たく分泌できないのは、インスリンを分泌するすい臓の細胞が免疫系によって傷つけられたり破 壊されたりするからだ。したがって、この重要なホルモンを日常的に注射して血糖の均衡を保つ 必要がある。 「二型糖尿病」は通常、長い時間をかけてグルコースを過剰摂取し、体を酷使した大人が発症す るものだが、 「一型」はこれとは違い、一般的に子供にも大人にも見られる。 さらに「二型ーは食事や生活習慣の変化を通じて回復可能だが、「一型」には治療法がない。 つまり、「一型糖尿病」の発症に遺伝子が強く影響を与えているといっても、環境も無関係では ないと頭に置いておく必要がある。
も一一一口えるのだ。 炎症とはそもそも比較的短い日数で治るものだ。長い時間にわたって続くものではないし、 ましていつまでも続くものは決してない。ところが、この続くはずのないものが、いまや何百 万人もの人たちにおいては続いているのである。もしも体が常に刺激物にさらされて絶えす攻 撃を受けていたら炎症反応も続いたままだ。しかも血流を介して体のあらゆる部分に広がって みいだ しまう。その結果、私たちは血液検査を通じてこの種の広範囲におよぶ炎症を見出せるという わけだ。 炎症が本来の目的から逸脱すると、さまざまな化学物質がつくられ、それらが細胞にとって は直接的に有毒になる。これによって、細胞の機能が低下し、やがて細胞は破壊される。抑え のきかない炎症は、冠状動脈疾患 ( 心臓発作 ) 、がん、糖尿病、アルッハイマー病、それに実 質上、思い浮かぶかぎりすべての慢性疾患に伴う病的な状態、あるいは死の根本的原因である ことがわかっている。 たとえば、炎症が止められず、それが関節炎のような問題を引き起こすのだと理解しても拡 大解釈ではない。どちらにしても、その症状の処理をするのに一般的に用いられる薬 ( イププ ロフェン、アスピリンなど ) は「抗炎症剤」として売られている。 最近では、心臓発作は、これまでいわれたような高コレステロールよりも炎症に深く関係す 0
ぎようけっ ると考える人が増えている。これは、アスピリンが抗凝血作用の性質を持つのに加え、心臓 発作だけではなく脳卒中のリスクを軽減するのに有益な理由でもある。 しかし、「脳の炎症」がパーキンソン病からさまざまな多発性硬化症、癲癇、自閉症、アル ッハイマー病、うつ病にいたるまでのあらゆる病気とは、何ら関係がないと思ってしまいがち な理由の一つは、畄には体のほかの部分と違って、痛みを感じる受容体がないためだろう。っ まり、脳の炎症を感じることかできないのだ。 炎症は関節炎やぜん息といった疾状に関係していることは、私たちの誰もがよく知っている。 しかし、さまざまな神経変性疾患を考えるときに、その原因が炎症にあるとはっきり指摘する研 カ 究が行なわれてきたのはここ一〇年ほどにすぎない の る 一九九〇年代までさかのばると、イププロフェンやナプロキセンのような非ステロイド系の抗 て き 炎症剤を二年あるいはそれ以上服用すると、アルッハイマー病やパーキンソン病にかかる危険が 起 (5)(2) か 四〇パーセント以上低減することが研究によって示されていた。同時に、アルッハイマー病やパ 何 ーキンソン病をはじめとして脳変性疾戡に苦しむ人たちの脳内では、細胞間で炎症の情報を伝達中 こんにち の 頭 するサイトカインが急上昇することを明確に示す研究もあった。今日、新しい画像技術のおかげ で、アルッハイマ 1 病患者の脳内では、細胞が炎症性サイトカインの産生に活発に関与するとこ
こ変えれば 何よりうれしいことに、炭水化物に頼る代謝から、脂肪やタンパク質に頼る代謝。 , すぐに目標は達成しやすくなる。たとえば、苦労せずに継続的に体重を減らすとか、一日中も っと元気でいられるとか、よく眠れるとか、もっと記憶力を磨いて脳の働きがよくなるとか、 よりよい性生活を送れるといった目標だ。もちろん、それよりも脳を守るほうが先決であるこ とは一一一一口、つまで、もか 6 い ・・炎症が大脳に達するとき この本の一つのキ 1 ワードである炎症について考えておこう。 ごく一般的な意味で「炎症 , が何を示すのかは誰でもだいたいわかる。虫に刺されたあとに すぐ現われる赤さとか、いつまでも続く関節炎の痛みとか、体に何らかのストレスがかかって いるときに体の自然な反応として腫れや痛みが現われることはほとんどの人がわかっている。 これらの炎症は必ずしも悪い反応ではない。体にとって有害であろうと思われるものに対する 自己防衛を試みていることを示すという役目もあるのだ。 しかし、この炎症がコントロ 1 ルできなくなると問題が持ち上がる。一日グラス一杯分のワ インなら体によくても、毎日何杯も飲めば健康上のリスクがあるのと同じようなことが炎症に 59 頭の中で何が起きているのか
を温め、保護するほかにたくさんの機能を持っている。内臓脂肪とは、肝臓、腎臓、すい臓、 心臓、腸などの体内にある器官を包み込む脂肪だ。最近、マスコミでも盛んに取り上げられる ようになったこの脂肪は、健康にとって影響が大きいことかわかっている。 多くの人が太ももの太さ、脇腹の出っ張り、セルライト ( お尻や太ももなどの皮膚の表面に できるデコボコ ) 、大きな尻について嘆くかもしれないが、もっともよくない脂肪は、私たち の目には見えす、感じられす、触れられないものだ。 極端な場合には、体の中の内部器官が分厚い脂肪にくるまれているという徴候である、ふく らんだお腹ゃべルトからはみ出したぜい肉に見られる。まさにこの理由から、ウエストまわり は健康の測定値とされる。将来の健康上の問題や死亡率が予測できるからだ。ウエストまわり が太ければ太いほど、疾患や死亡のリスクはますます高まるのだ。 内臓脂肪は、体内での炎症反応を引き起こし、体における正常なホルモンの作用を妨害する 分子に、シグナルを送っていることが実証されている。それに、炎症を誘発する要因になるだ けではない。内臓脂肪それ自体が炎症を起こすのだ。 この種の脂肪は大量の炎症性白血球を蓄えている。そして内臓脂肪がつくり出すホルモン分 子、および炎症分子は肝臓に直接放り出され、肝臓は再び攻撃的手段 ( すなわち炎症と内分泌 攪乱物質 ) で応戦する。 か′、一らん 1 89 脳を糖 ' でベトベトにするな
およぶ研究を終えた。 その研究では、グルテン過敏症である人たちの五六。 ーセント、セリアック病である人たち の三〇パーセントに慢性頭痛が見られることが示された ( グルテン過敏症とされた人たちはセ リアック病の検査で陽性反応を示さなかったが、小麦を含む食べ物を口にすると症状が見られ ると報告した ) 。 さらに、炎症性腸疾患をわすらう人たちの二三パ】セントにも性頭痛が見られることがわ かった。セリアック病患者のグループ三一。 1 セント ) や炎症性腸疾患患者のグループ ( 一 四パ 1 セント ) は、そうではないグル 1 プ ( 六。 ーセント ) よりも偏頭痛の罹患率が高かった。 この結びつきについて研究リ 1 ダーであるアレクサンドラ・デイミトローヴァ博士は、すべ ての事柄の究極的な犯人を「炎症」だとほのめかした。 「炎症性腸疾患を抱える患者たちは一般的な炎症反応を示す可能性もあり、これはセリアック 病の患者も同じだ。患者は、脳も含めた全身で炎症の影響を受けているのだ。 : ほ、か」 ~ 可北 性があるのは、セリアック病に抗体が存在し、その抗体が : : : 神経系を網羅している脳細胞と 細胞膜を攻撃して頭痛を引き起こすというものだ。私たちが確信できるのは、健康な対照グル 1 プと比べて、どんな頭痛も ( 偏頭痛も含めて ) 罹患率が高いことだ」 222