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検索対象: 性犯罪被害にあうということ
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1. 性犯罪被害にあうということ

97 ニ次被害 きにあなたに頼ってきたんじゃないの ? そういう区別ができなくなるときがあ るんだよ」 「そんなのわかんない。両親も、働くように娘に言ってほしいよ。もう一一十七 ( 歳 ) なんだから。できないなんて、通用しないでしょ 「じゃあさ、足のない人に「ちゃんと両足で歩きなさい』って言う ? 」 「言、つわけないでしよ」 「なんで ? 「だって、見ればわかるじゃんー 「なんで目に見えないことは分かろうとしないの ? 」 「だって、見えないもん。嘘つけるでしょ ! わかんない ! 」 目に見えないことは、理解できないと言う。私は少し、がっかりした。でも、 これが現実であり、多くの人の認識なんだと痛感した。以前は私もこのような考 え方をしていたかもしれない 事件後の私が、世間の″主流〃から外れた人間に感情移入しがちになっている

2. 性犯罪被害にあうということ

142 その一瞬の信頼を、裏切られた。 私にとっては、何より忘れられない瞬間で、ショックが大きかった。 誰かに「裏切られた」という怒りを感じたことがあるだろうか。裏切りという のは、一対一もしくはごく少数の人間が一人の人間に対して行うことだろう。そ して、裏切られた側には、相手を信じていたという前提がある 裏切られた人間は、大抵の場合、「非がないーと見られる。裏切った人間の「裏 切る」という行為に焦点が当たり、その人の信用や評価に影響を及ばすこともあ るだろう。だから、裏切られた人間は、「あの人ひどいんだよ ! と公言すること ができる しかしなぜだろう。 性犯罪被害者には、それができない。 「あなたは何も悪くない , と何度言われたことか。頭で理解できても、じゃあ、 「私、人に道を教えたら、車に引き込まれてレイプされたの ! と言えるか ? 「もう誰にも話さないでちょうだいね」と母に言われた一言が、世の中の″常識〃

3. 性犯罪被害にあうということ

138 だが「カウンセリングに行く」ことよ、、 ( しまだに般的なことではないようだ。 私は抵抗なく通えていたが、友人の中には、 「弱い人間が行くところだと思う」 と言、つ人もいれば、 「何 ? 情緒不安定なの ? 」 と茶化すよ、つに一言、つ人もいる 腹を立てたことも落ち込んだこともあるが、その気持ちをまたカウンセリング で聞いてもらえばいいやと気持ちを呑み込み、人間関係を続けることもできるよ 、つになったよ、つに思、つ そしてカウンセリングに行くのが、楽しみにもなっていった。 と同時に、『私に何かできることはないか』と思うようになった。 カウンセリングは、心理分析ではない のメド〃が立つようになった。

4. 性犯罪被害にあうということ

163 放熱 そう思える理由がほしかった。 相手がたまたま知らない人だっただけ、話す時間が短かっただけ、そう言い聞 かせよ、つとすることもあった。 また、こ、つも考えよ、つとした。 『あの人たち ( 加害者 ) はレイプを悪いことだと思わない人なんだ。私は悪いと 思う人間なんだ。価値観がちょっと違う。ただそれだけのこと』 しかし、いくら自分に言い聞かせ、納得させようとしても、自分の気持ちがお さまらない それならば、同じ価値観の人たちの間で事を済ませてほしい。 理由なんかはっきりわからなくても、私を含め、言いようのない気持ちで傷つ いている人間がいる。それが事実で、誰かにそう思わせることは、やはり悪いこ となのだ。 彼らは楽しんだ。自分たちの欲望や冒険心や好奇心を満たすために、私はその

5. 性犯罪被害にあうということ

いつもそんな歪んだ気持ちになり、また事件のことを思い出すのだった。何も できないでいる周りの人間に恨みを覚えることさえあった。 ほんの少しのいたずらや痴漢行為が、私には人の何倍にもダメージになった。 いたすらをした人間がもしも人の困る顔を見たくてするのなら、その期待には大 いに応えていただろう 蘇ってくる感情について、時間を追って少し書きたいと思う。 正確に言えば、「感情」という表現は適切ではない。感覚とか反応、症状という ほ、つか近いかもしれない まず、引き金となるのは、事件を連想させる状況である。 例えば、暗かったり、大きな音を聞いたり、性的な言葉を聞いたり : ・ : ・ ( 私が レイプされたときのことを、できる限り「事件」という言葉に置き換えるのも、 少なからず「レイプ」という言葉に嫌悪感が残っているからだ ) 。 しかし、実際はそれだけではない。そんな引き金やきっかけなどなくても突然、 それはやってくる。津波に呑み込まれるかのように、目覚めたとき・電車に乗っ ゆが

6. 性犯罪被害にあうということ

73 日常生活 『しようがないじゃん。他人の手で生活や気持ち、身体までを乱されたんだから。 私のせいじゃないんだから、あんたたちがどうにかしてよ』 と、いつも誰かに責任を押しつけて周囲に甘えていた。 『私の身体が理解しているからそれでいい』 と、自分本位に理解しているつもりだった。 そんな勝手な理解からか、思い込みからか、 『私が事件にあったことを知る人には、私を護る義務がある ! 』 という押しつけがましく依存的な、信念にも近い強い感情が生まれた。事件の ことを武器のように切り出し、周囲の人間を、私を護らなければいけない状況に 追い込んでいた。 人に押しつけつばなしだった。 『護られて当たり前』 とさえ思っていた。

7. 性犯罪被害にあうということ

「私」という人間を構成する一部になってしまったのだ。それに伴う感情も、身 体反応も。 つら 誤解を招きそうなので伝えておきたいのが、これは寂しいことでも辛いことで もない。だから、消す必要も、忘れる必要もない。乗り越える必要もない、とい うこと。事件にあうということが人の身体の構成には必要のないものであること も確かだと感じている。ないことのほうが望ましいと思う。少なくとも、喜ぶべ きことではないから。 両親の前では、泣き言も許されなかった。私も辛いかもしれないが、親だって 辛いんだ、その言い合いで、衝突ばかり。 分かってほしくても、どんなに説明しても、お互いに自分の気持ちで精一杯だ った。 「レイプされたのは、私だよねー 理解しあえない憤りは、膨らむ一方。 ふく

8. 性犯罪被害にあうということ

『このための質問 ? 』 正直に答えたことを後悔した。怒りがこみ上げてきて、講師から目をそらし、 話も聞かずにいた。 「他に誰か ? 」 という講師の質問に、もう誰も答えなかった。 授業の後、生徒の何人かに「熱いよねーと言われた。 驚いた。自分が「熱い人間だとは認識していなかったから。 そう思われているなら、イメ 1 ジどおり、どんどん食いついてやろう。毎回の 授業でも、思いつくままに質問をしていった。「決めつけるな」と力説していた講 「通り魔みたいに、自分の欲求を満たすためだけに人に手を下したり、殺人や危 害を加えることは、絶対的に悪いことですね ?

9. 性犯罪被害にあうということ

151 放熱 また、被害者支援都民センタ 1 で、何か手伝えることはないかと思ったのも同 じ頃だった。 「ボランティアや職員の募集はしていませんか ? 「何でこちらをお知りになりましたか ? 「私自身、性犯罪の被害にあった者です。知人にセンターの存在を聞いて、私に もできることはないかと思いまして : : : 」 「それは大変でしたね。お声を伺った感じ、お若い方のように思いますが、おい くつですか ? 」 「二十六です」 「そうですか現在、職員の募集はしておりません。ボランティア募集はありま すが、四十歳以上の方に限らせていただいています , 「では、私のような年代の人間にはできることはないのでしようか」 「あなたがそうやって誰かに、被害者の思いや存在を話すことも、被害者支援の 活動と言えるのですよ」

10. 性犯罪被害にあうということ

29 事件 大きな怪我がないことを確認され、写真を撮られた。血のついたシャツを着て、 「いかにもいま、何かありました」といった感じの私の写真を。この血は、私自身 のものだった。自分の生理の血を、誰かの手によって服や身体につけられること があるなんて、想像したこともなかった。カメラを向けられ、まさか笑うわけも なく、ただ呆然と、立っていただけ。正面からと横向きを二、三枚撮られた。フ ラッシュがまぶしくて、恥ずかしくも感じた。屈辱と感じたのは、後になってか らだった。同時に、撮る側の心情も気になった。 『服の乱れた、泣いている人間の写真を撮るというのは、どんな気持ちなのだろ 、つ』 「ベルトは ? 」 と刑事さんから聞かれ、私はカバンから切断されたベルトを出し、手渡した。 という刑事さんの声に、また涙が出た。