安心 - みる会図書館


検索対象: 性犯罪被害にあうということ
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1. 性犯罪被害にあうということ

125 ゼロ地点 三年は安心」 犯人に刑を科すことで気持ちが楽になるわけではないけど、りようちゃんは、 ただ、事実を述べたくて、分かってほしくて、安心がほしくて、証言台に立った のだ。 「強いんじゃない。そのときのりようちゃんは、そうするしかなかったんだ。 同じ時期に被害にあった私とりようちゃん。 感じた気持ちのスタートは一緒だったはずだ。 私は、加害者がわからない。自分の気持ちと向き合うほかなかった。自分の気 持ちを回復させることだけに力を注いできた。 かたや、りようちゃんは、事件直後から、あっちこっちに駆り出され、自分の ことはそっちのけ。 「どっちが辛い ? 」 という話になった。

2. 性犯罪被害にあうということ

27 事件 泣いている私と、私の服を見て、彼は、 「何かされたのか」 と、驚いた顔で言った。何をされたのか、思い出したくない 「 : : : されたのか ? うなず 私は頷くのが精一杯だった。 「くそっ " 【」 彼のバイク用のヘルメットが、道路にたたきつけられた。 「ごめんなさい」 私は謝り続けた。 「警察に行くか ? 「帰るか ? 安心した私は、人目も気にせず、ぐちゃぐちゃに泣いていた。 「わかんない」 「ここにいても危ないだろ ? 」

3. 性犯罪被害にあうということ

201 それから と締めくくられていた。 弟は相変わらす、優しい 「」を見て、 「姉ちゃん、体調は大丈夫 ? 」 と心配してくれる テレビ番組の取材で、現場に行くときも、つき添ってくれた。 。前日の夜は、怖くて眠れず、何度も弟とメ 1 ルを交換 想像をすると怖い : した。 自分でも意外だったが、実際に現場に行ってみると、恐怖はあったものの、冷 静に思い出すことができた。弟がいてくれてこその安心感もあったが。 私の記憶は、目隠しされた状態でのものなのだ。 耳と、鼻と、肌。

4. 性犯罪被害にあうということ

135 放熱 カウンセラーが入ってきて、自己紹介をして私の前に座る。もう一人、私の斜 め後ろに若い女の人が座った。 「あの人は 「あ、記録をとってくれる人なんだけど : : : 嫌ですか ? 「 : : : ちょっと : 「わかりました。じゃあ、私と二人で」 記録係の女の子は退室した。 「ここには、被害にあった人がたくさん来るんですよね ? 」 そんな一言から始まったような気がする。 見ず知らずの人に自分のことを話すことに抵抗はなかった。 相手はプロだ。 私がどう取り乱したとしても、対処法を知っているはずだという安心感と、慣 れているはずという気持ちがあった。

5. 性犯罪被害にあうということ

1 10 「辛かったね」 と、ただ一言いっただけだった。 「シンちゃん」のように、感情をぶつけてくることもない。詳しいことを聞き出 すこともしなかった。 そしてまた、身体に触れてくる彼の手を払いのけることもできなかった。 「つき合っているのに、拒むなんて : : : 」 ずっとそう自分に言い聞かせていた。 アパ 1 トの賃貸契約更新を機会に、私はひとりの生活をやめて、彼と一緒に住 むことにした。 ひとりで泣くこともなくなるだろう。誰かが一緒なら、と、両親も安心してく れるかも : : : と、ほんの少しの期待を持って、引っ越しを決めたのだ。 実家に報告に行くと、父がすごい剣幕で私に怒鳴った。 「男と住むなんて、何を考えているんだ冗談じゃないー 一一度と家に顔を出

6. 性犯罪被害にあうということ

度でも抱きしめてくれたらどんなに安心したか : : : 』 私が求めているのはそんなことだった。それをそのまま母に伝えたこともある。 しかし私の母は、それができない。それは、きっと、母にとっては、母が「娘を 傷つけられた」当事者だから : ・ 『でもね、事件の当事者は私なんだ : : : 』 母は、それを見失うほどのショックを受けていたのかもしれない この母とのやりとりが端緒となり、私はことあるごとに「被害を受けた当事者」 と「被害者の家族・遺族」との間に横たわる「溝」について考えるようになった。 親だからこそ真意を分かってほしいという気持ちと、子どもを信じて一言葉をその まま受け止める親の気持ちのすれ違いは、この先も埋まることはないのかもしれ 後日、父にも母の口から事実が伝わったようだが、父は私に何も言ってこなか った。

7. 性犯罪被害にあうということ

162 また、毎日の生活の中で、『なぜレイプがいけないのか』と考え続けてもいた。 少なくとも、私にとってセックスは初めてのことではなかった。 飲みに行った席で初めて会った人や、不特定多数の異性と関係を持っ友人もい る。私はその友人に否定的な感情を抱いたことはないはすだ。「酒に酔った勢いで」。 そんな話もよく聞く。 そうした人たちは、罪悪感を抱き、何年も悩み続けるだろうか 家族との関係を見直したりするだろうか 同意のあるセックスとないセックス。何が違うのか、答えが見つからない。実 際違わないのではないか。『同じだ ! 』そう結論づけることで、安心したかったの だろ、つ 『私は汚れていない』 『悪くない』 『恥すかしいことじゃない』 『傷つく必要はない』 「特別なことじゃない』

8. 性犯罪被害にあうということ

131 事件から二年後、私は、同居していた彼と結婚した。 性に対する嫌悪感をこんなに抱えた私がなぜ結婚に至ったか。私もまさか、「シ ンちゃん」以外の人とセックスをし、ましてや結婚するなど夢にも思っていなか った。 「好きだったからでしよ」 そう言われてきたし、そう誰もが思うかもしれない。でも、私はかたちだけで も、順調に幸せと思われ、そう呼ばれる姿でありたかった。両親を安心させるた めでもない。 事件が一〇〇のマイナスであるなら、一〇〇のプラスを作らなければ自分が保 てなかった。そのためにできるだけ順調と思われることを、一つでも多く身につ けることに力を注いでいた。上辺を繕うことに精一杯だったのかもしれない。何 放熱

9. 性犯罪被害にあうということ

122 と返事をくれた。 すぐに私もまたメ 1 ルをし、それまでの経緯や、気持ちを話した。ここから、 私たちのメールによる交流が始まった。 この安心感は : 理解されている。「解るよ」という言葉を素直に受け止められたし、私も、りよ うちゃんの気持ちを解っていると思えた。 りようちゃんの事件の加害者は捕まり、刑事裁判中だった。 といっても、このときの私には、刑事も民事もわからない。 「裁判」という言葉でイメ 1 ジするものは、ドラマなどに出てくる法廷シ 1 ンく らい。りようちゃんの話だと、彼女の知らないところで裁判は進み、必要なとき だけどこかから連絡が来るよ、つだった。 『加害者が捕まって、裁判 ? ということは、思い出したくもない加害者の顔を、

10. 性犯罪被害にあうということ

129 ゼロ地点 家族から理解を得られず苦しむ前に、被害者駆け込みセンターがあったらどん なに気が楽だっただろう。警察みたいに捜査をするところじゃなくて、「怖かった ー」と泣きつける場所があったら。 そして、そこに駆け込むことが恥。すかしいことでも何でもないという社〈があ ったら。 「私はこんなだったよ」と泣きながら話せる場所があったら、事件直後に戸惑う ことなくそこへ向かったと思一つ。 安心できる場所、救われるかもしれない場所があることを広めること、これも 必要なこと。 実際、私は被害にあってみて、後になってから、そういうセンターや団体があ ることを知った。警察や裁判所に付き添ってくれる人もいる。しかし、こうした 情報を、警察や病院は教えてくれない。自力で探し当てるしかない。そんなパワ ーか、被害直後にあるだろうか : ないはずなのに :