200 だろ、つと思っていた。 だから、前にも書いたが、兄には私の言葉で事件のことを伝えたことはない。 兄からのメ 1 ルには、こんな言葉が 時間が解決をするのではなく、時間が経って、「言えない」心理と「乗り越えた」 心理か何かを導いてくれるんだろう。兄はあの時、何をやっていたのだろうか ? 一部始終を記事で初めて知った。いままで「誤解していた」。それは、美佳のせい すがすが じゃない。美佳の写真にも、清々しさかあった。 そして、最後は、 兄として謝る。あの時なにもできなくてごめん。でも、今は、 身大の女性を、これからも応援します。がんばろうー ハ林美佳という等
101 ゼロ地点 と、彼は露骨に困った顔をした。 それでも私は泣きやまず、自分がおかしくなったのかと思うくらい、「一人にし ないで」「また襲われるよ ! 」と、叫び続けた。 彼の、困った顔が許せなかったのだ。 『私はこの前レイプされたんだよ、心配じゃないの ? 心配でしょ ? 』 そう思っていた。 彼が私の両親に電話をして助けを求め、まもなく近くに住む両親が私のアパ トの部屋に来た。 「何してるんだ美佳、彼だって困ってるじゃないか怖いなら、一緒に家に帰ろ 「いや ! 帰らない ! 」 「なんでそんなわがまま言うんだ ? 「怖いよ、ここにいてよ 「シンくん、美佳の言うことばかり聞かなくていい、帰りなさい」
し私が死ぬほど苦しかったとしても、母さんが死ぬことないよ、生きててほしい もんー 「うん、でもね、死んじゃう子だっているじゃない。父さんだって、ずっとそれ を心配してたのよ。それに、あんたがどう思っていようと、母さんは、あんたが 死んだら死ぬって決めてたの」 「なんで、あのときにそう言ってくれなかったの ? 」 「バカね、あのときのあんたの前で死ぬ話なんてできるわけないじゃないー 母は続けた。 「女の子は、誰かと一緒に幸せになるまでは、自分のことなんて、隠してでも、 精一杯良く見せていたほうが、楽だと思うのよ。美佳にもそうやって幸せになっ てほしい。だけど、わざわざ人前で自分が被害にあったことを話すのは、すごく 遠回りをしているように見えて : : : どうして美佳はそんな生き方を選ぶの ? 私は、初めて母の本心を聞いた。 事件があった真夏の暑い中、母が近くの交番でスタンガンをもらおうとしたこ
性犯罪被害にあうということ 林美佳
87 ニ次被害 どんなに大切な人でも、その人を一時も目を離さす見守ることなどできない。 どんな慰めの言葉も意味を成さず、「無理なこと」と、人は割り切ろうとする。そ れならば、助けを求めることも、信用することも、無駄なことなのか 事実関係を 私はカウンセリングを受け、カウンセラ 1 育成の専門学校に通い、 傍観することを教えられた。両親のせいではなく、私のせいでもないことは、事 件が起きたその瞬間から分かっている。 私は毎朝一人で起きて、母が用意しておいてくれるドーナッとジュ 1 スを持っ て学校に行く。 「美佳は放っておいても大丈夫」 両親にはそう思っていてほしかった。 その私が、「大丈夫」じゃないと思われることをしてしまった : ・ 私が誰かに甘え、頼ろうとしている姿を見て、母は、 「そんなの美佳じゃない」 と言った。 そ、つ思った。
林美佳 性犯罪被害にあうということ 性犯一非被圭口に あう ということ 1 S B N 9 7 8 ー 4 ー 0 2 ー 2 5 0 4 2 1 ー O 9 7 8 4 0 2 2 5 0 4 2 1 0 C 0 0 5 6 \ 1 2 0 0 E 定価 . 本体 1200 円 + 税 朝日新聞出版 1 9 2 0 0 5 6 0 1 2 0 0 8 林 佳 朝日新聞出版
小林美佳 ( こばやし・みか ) 1975 年生まれ。東京都出身。 大学卒業後、 O*-Äを経て司法書士事務所、弁護士会に就職。 司法書士事務所に勤務していた 2000 年 8 月、性犯罪事件に巻き込まれる。 その経験を踏まえ、性犯罪被害者自助グループ運営に携わるなど、 犯罪被害者支援を考える。
197 それから 「 : : : 痛いです。胸が」 「目でごめんねと伝えるしかない」 と、そのカメラマンは答えてくれた あのときの刑事さんは、どう感じていただろうか 「私たちは、美佳さんを近くで見させてもらっているぶん、編集やここにいない スタッフが好き勝手なことを言ってくると、すごい討論になるんです。ちゃんと 向き合わないと分からないことだって、私たちも学んだ」 こんな一言を、ディレクターとカメラマンと音声担当者からもらった。 私が当たり前だと思っていたことでも、「伝える」ことの意味を、ほんの少しだ け感じられた。
192 ちゃんに相談する 「話しておいで、同じ意見だよーと背中を押してくれた。 シンポジウム当日、 すぐにサインを出してね。隣にいるから」 「イヤになったらいつでもやめていい。 という仲間たちのサポ 1 トを受け、 「小林美佳です。七年前に、性犯罪の被害にあいました」 と、発言した。 シンポジウムが終わると、たくさんの記者が、 「記事にするときは、名前を出していいのですか ? 」 と、確認に来た。 そんなに珍しいことなのかと驚いた。 この発言が、私に新たな発見と機会を与えてくれることになった。
203 それから 「どうしてわざわざバラすの : と言われた。 相変わらずだなあと感じていたが、ある日、母から、父が出張でいないから、 泊まりに来てほしいと電話があり、実家に行った。 その晩、母と並んで寝た。 「私は、どうしても、美佳のやろうとしてることが、理解できないの」 と、母が話してきた。 「やろうとしてること ? 」 と、聞き返すと、 「母さんはね、事件のことを思い出したくないの。あんたは私たちのことを恨ん でいるかもしれないけど、母さんね、もしもあんたが自殺なんかしちゃったら、 お父さんたちには悪いけど、一緒に死のうって決めてたのよ。だって、わかって あげられないんだもの : 「大丈夫だよ。いま生きてるし、自殺する勇気なんてなかったよ。それにね、も