西島なるべく載せるように骨折って見ましよう。しかし静子それでもあなたが是非出そうとお思いになれば、ゆ かないことはないのでしよ。 あの作一つでそう反響を得ることは出来ないでしよう。 広次静ちゃん ! 広次それは私も知っています。 ( 静子お茶と菓子をもって登場 ) 静子それでも私、今出すとおっしやって戴かないともう 広次静子かい。 出して戴けないような気がするのですもの。 広次そんな勝手なことを云うものではないよ。 静子は、。 広次妹です。 静子私はいいものだと伺った以上は日参をしてでも出し 静子よくいらっしやって下さいました。 て戴きますわ。皆さんはあんな盲目に何が出来ると云っ らよっと 西島始めて。 ていらっしゃいますわ。それに私一寸心配なことも御座 ( 二人挨拶する。静子お茶をついですすめる ) いますのよ。二人が気兼ねして一寸の時間をぬすんでや 静子よく来て下さいました、 ( 間 ) 御返事がないので兄は っと書き上げたものが、西島さんのお考一つでどうにで 心配しておりました。 もなるのだと思うと、私おすがりしたい気もしますわ。 西島旅行をしておりましたので、今朝拝見しましたのでそれも物になっていない物なら仕方がありませんけど。 早速お伺いしたのでした。 広次黙っておいで。西島さんの方にもいろいろ御都合が 静子兄のものはどうですか。 おありになるだろうし、あの作は出したってどうせ思う 西島 いいものだと思いました。 ような反響があるわけもないからね。それに私達の仕事 静子それは本当で御座いますか。 はゆっくりするより仕方がないからね。 のんき 西島お世辞は申しません。 静子お兄さん。そんな呑気なことを云ってはいられませ 妹静子出して戴けますか。 んのよ。私、もしかしたら近い内におよめにゆかなけれ の西島友と相談して見ましよう。 ばならないかも知れませんのよ。 静子あなたお一人のお考ではどうお思いになりますの。広次そんなことが。 そ あなたお一人のお考でどうにでもなるのでは御座いませ静子それでも叔母さんがそうおっしゃいましたわ、叔父 んの。 さんが大変お世話になっている方の息子さんが私を是非 西島そうもゆきません。 もらいたいとおっしやるのですって。叔母さんは喜んで
214 くって腹も立たなかったと申しました。しかし妹の泣い 広次私は帰ってから、すぐあなたの所へ手紙を出して、 ていることは私には感じられました。恐ろしい侮辱で あなたのお世話になることをお断りしようかと思ったの うわさ です。そんな噂をたてられて、それが新聞にでも出たす。 ら、さそ御迷惑だろうと思いました。又奥様も、さそ腹西島ここはきっと処がいけないのです。何処かへ引越し たらいいでしよう。 をお立てになるだろうと思いました。私はどうなっても いいから御断りしなければならないと思ったのです。で広次そうも思って見ました。ですけれど私の心細いの すが考えている内にお断りしたあとのみじめさが目に浮は、そう云う噂許りから来るのではないと思うのです。 んだのです。そうなれば妹はきっと相川の処へゆくでし この様子でゆけば、二月たっても、三月たっても、私は よう。私にはそれは又堪えられないのです。 決心がっかなくなる許りです。私にはいろいろの恐ろし 西島それなら私さえ来なければいいでしよう。私があん い空想さえ浮びます。進むことも退くことも出来ない時 うわさ まり何度も来たものでそんな噂が立ったのでしよう。そ が来そうな気がします。現在私は事実を正視することが んな噂が立っと知っていたらそんなに来なかったのでし 出来ないような気持になっています。どうにかなると云 う気持は今はしません。私は本当に臆病ものになりまし さび 広次あんたが来て下さらなかったら、私は勿論、妹も淋 しがるでしよう。どうして私はこう不運なのかと情けな西島心配しないで下さい。僕の方はどうにかなると思い くなります。私はどうせものにならない人間なのではな ます。そうしてここへはなるべく来ないようにします。 淋しかったらどうか、君の方から来て下さい いかと思いました。私は生きていても死んでも同じ人間 ではないのかと思いました。そんなことはない、そんな広次ありがとう。 ( 間 ) 私は時々どうしてこう運命にいじ ことはない、私は自分に何度もそう云って自分を慰めま められるのかと思います。私より運のわるい人はあるで しよう。しかし私は随分運命には従順なつもりなので す。しかしそれはただ慰めにすぎないのではないかと思 つもり います。自分はどうなっても いい。ただ妹が可哀そうだす。そうして出来るだけのことをやっている心算なので す力しざと云う時になると何時も思いもかけない、不 と思います。二三日前です、妺が歩いていましたら隣り の婆さんが或る人に頼まれたのだと云って、月五十円位幸が起って来ます。そうして私に致命傷を与えようとし めかけ ます、これでもか、これでもか、これでもまだくたばら で妾にならないかとすすめられたそうです。妹は可笑し ところ ぶじよく
310 を知った。君に逢ったよろこびは、真理や、美や、生命隣りの神様是非拝見したいものです。 ( 音楽始まり、おどる ) にまのあたりあった時と同じよろこびを感じる。僕はこ んな隣りをもったことを実に感謝する。もし君がわから隣りの神様僕はこんなうれしいことはない。君とこうや って並んで、皆のよろこびを見ている程うれしいことは ずやだったら随分困ると思った。 ない。僕は皆に一こと御礼を云わしてもらおう。 隣りの神様大丈夫。僕達の宇宙だって、少しは小さいか も知れないが、馬鹿にはしたもうな。矢張り、一番もの神様是非どうそ。 のわかった、一番、平和と美を愛する者でなければ、彼隣りの神様皆さん。今日はここに参りまして、心からの 御歓迎を受けて、私は何んと云っていいかわからない 調和の王冠を戴けるものが神の第一の 等は尊敬しない。一 = 程、よろこびに満されます。我々は今までお互の存在さ 資格だ。そう君は思わないか。 ところ え知らなかった。処が今日は君達とお友達になれる。お 神様思うね。恐ろしいものが神になる、そんなことは許 されてはないことは知っていた。しかし宇宙がちがうと 互に助けあうことが出来る。お互の経験や知識の交換が 出来る。お互に永い歴史で得たお隣りの宝物を自分のも 又、どんな法則がその宇宙を支配しているかわからない と思っていた。 のにすることが出来る。私達は今日私達はお隣り同士で 隣りの神様僕も来て見るまではもっと珍らしいものに逢あることを知ると共にいろいろの点で教わることの多い ことをよろこびます。私はこの宇宙の立派さに驚嘆しま うかと思っていた。矢張り僕達は兄弟であり、隣り同士 した。そして美と愛の光が宇宙のすみずみまで行ってい であることを知った。矢張り僕達は同じ神の子であるこ とが感じられる。 るのをうれしく思います。私達のところへどうか皆さん も遊びに来て下さい。少しは珍らしいものもお目にかけ 神様どうだ。もう一杯のまないか。 られると思います。皆さんの内で、何か聞きたいことが 隣りの神様ありがとう。 ( つれに ) お前達も遠慮なく戴い たらいいだろう。この酒は僕達の処と実に似ている。君ありましたら遠慮なくおきき下さい。 ( 沈黙 ) ちょっと が好きなら今度とどけよう。 天使それならば一寸おたずねしますが、私のおります世 界に、こう云う人間 ( 小さい人形を見せ ) がおります。あな 神様ありがとう。途中で悪くならないかね。 たの宇宙にはこう云う生きものはおりませんか。 隣りの神様大丈夫のように荷づくりさせよう。 隣りの神様一寸お見せ下さい。ええ、いたことがありま 神様皆、一つおどったらどうだ。
西島本当に逢えば逢う程気の毒な気がする。見ていても がした。僕はすぐ立ち上って野村の処を辞して一人何処 苦しい。本人はさそ苦しいだろうと思うよ。それにひど と云うことはなしに歩きまわった。泣きたいような気が うわさ い処に住んでいるのだろう。いろいろ噂を立てられてい したのだ。恐ろしいことが近づいて来たような気がした るらしいのだ。それがまた、たまらない噂なのだ。 のだ。かくすのもいやだから白状するがね。今日一一時か 高峰それは近所の噂の種になるだろうね。何しろ盲目と らくると云うのは野村の妹なのだ。二人で相談したいこ 美しい娘とだからね。 とがあると云うのだ。僕はこの頃野村の運命には自分は 手をさえることが出来ない人間のような気がするのだ。 西島それに貧乏なくらしをしているのだろう。それだも のだからへんな誘惑を受けるらしいのだ、静さんなんか高峰僕の画が若しかしたら売れるかも知れないのだ。そ めかけ うしたら半分野村に送りたいと思っているのだ。 お妾さんになったらどうだと勧める人がいるのたそうだ よ。随分馬鹿にしているね。 西島今は金の方のことはどうでもなるのだ。正直に云う 高峰それはたまらないね。 と僕は金の心配は自分一人だけでしたいとさえ思ってい るのだ。こう云えば君には恐ろしい事が近づいているこ 西島又見そめた奴でもいるのだろう。しかしそれもいし とがわかるだろう、一言で云うと僕は久しぶりで又恋と が、もっとひどい噂さえあるのだ。僕が何度も行ったも 、んじよ 云うことを知ったのだ。 ので、僕を静さんの旦那だと近処では思っているのだそ 高峰 うだ。僕より他の人はめったに行かないからね。 高峰僕もゆきたくは思っているのだけど、淋しさを与え西島恐ろしいことだ。そうしてこの恐ろしいことから恐 そうな気がしてゆかないのだ。 ろしいことが生まれそうな気がするのだ。僕は近い内 西島僕はそう云う奪をたてられるのを困りはしないけ に、妻と遠 い、遠い処へ旅行しようかと思っているの しまら 妹ど、二人に気の毒で仕方がない。それで僕はもう暫く行 だ。僕はその為にも金もうけをしようかと思っているの のくのをやめようと思っているのだ。二人は又そのことが だ。しかし僕の一番恐れるのはそのことではない。その ことならば僕さえ辛抱していればいいのだ。そのくらい そ新聞にでも出ると大変だと云っているのだ、出ないとは 限らないからね。僕はその話を野村から聞いておどろい なことが出来ないことはない。恐ろしいのは野村の妹が ていた。すると買いものに出かけた、静さんもそれを聞 自分からすすんで相川の妻になりそうな気がするのだ。 いて来たのだ。僕はそれを聞いて座にいたたまれない気 そう思うのは僕許りじゃない。野村もそれを恐れている だんな
ます。あなたの意志に出来るだけ従います。ですから、私方が反って不思議な気がしますが。あんまり心配すると損 を憐れんでこのあなたから与えられた限りない幸福を奪わしますよ」 ないで下さい」 「私だって、そう本当に心配してはしませんわ」 彼は杉子にいつまでも自分のわきに居てもら、こ し / 、かっ 「あなたは出来るだけ身体を大事になさらなければいけま せんよ」 た。しかし杉子が立ってゆく時が怖すぎるので、早くいい 「ありがとう。あなたもね」 時に立って行ってほしくも思った。あまり幸福すぎる時、 「ありがとう。僕は本当に身体を大事にします」 彼は一種の恐れを持つ。人間にはまだあまりに幸福になり きれるだけの用意が出来ていないように彼には思えた。生「大宮さんがおっしやってよ。あなたは意志の強い方で、 れたものは死に、会うものは又別れる。そう云う思想は何身体のよわいのを意志で十分とり戻しているって。しかし 御無理なさらない方がおよろしいわ。大宮さんは又あなた 時となく彼の心にも忍び込んでいる。 ちょっと のことを、どうしてあんないい奴が日本に生れたのだろう 「幸福であれ」と彼は心に祈った。沈黙が一寸つづいた。 とおっしやってよ。本当に大宮さんはいい方ね」 「あなたは殆んど病気をなさいませんね」 「ええ、ええ。あんないい人間はありません。僕は大宮を 「ええ、私は随分丈夫よ。武子さんに笑われるのよ。あな たは楽天家だから病気をしないのですって。ですけど私だ限りなく尊敬しています。あんなに友情にとんだ、人の心 がよくわかり、思いやりのある男は他にありません」 って心配はありますわ」 「本当ね。私、あんなに友情の厚い方を見たのは初めて 「どんな」 「だって人間は誰だって死ぬものでしよ。運と云うものは わからないものでしよ。こうしている内に母が死なないと も限りませんわ」 情「だけど大丈夫でしよう」 彼はもう恐怖なしに嬉しかった。 「大宮が居なかったらどんなに淋しかったでしよう。僕は 「大丈夫だと思わなければ、私、とんで帰りますわ」 * よわ 友 「あんまり心配しない方がいいのですよ。夜半に嵐の吹か大宮に慰められて勇気をとり戻すことが出来たことが何度 ぬものかは、と云う歌がありますね。しかし私達は六千べあるかわかりません」 んか、七千べん夜を無事に通して来ていますからね。その「本当にあなた方はいいお友達ね。それでこそ本当のお友 こわ かえ
た。自分は朝の空気をすいながら庭を歩きまわった。そう うな弁解するようなことを云う。 しばら 2 して新聞配達の鈴の音を聞きおとすまいとした。暫くして「それでも私にはいろいろ話しておきたいことがあるから 鈴の音がした。自分は一種の不安と恥かしさを覚えた。しね」と母は云った。こう云われると自分は嬉しく思う。そ かしすぐ見に行った。 うして我知らず微笑む。鶴と母との間のうまくゆくことを 果して出ていた。そうして鶴の名は第四番目にあった。 信じているが、母が鶴をもらうことに始め不服だっただけ そうして卒業生は百三人である。自分は微笑んだ。そうしに時々は心配する。今は母がこの話に乗り気になっている て鼻が高いように思った。 と思うと嬉しい びり この時自分の学習院を卒業する時、三十何人の内終から それにしてもうまくゆくか知らん。 四番だったことを思いだした。自分はこの偶然の暗合 ( ? ) その晩自分は隼町の友を訪うた。いろいろの話をして を面白く思って更に微笑んだ。 いる時、友は「昨晩掘出しものをしたーと云った。 父や母は新聞を読んだが鶴のことには気がっかずにし 「なんだーと聞くと、 た。自分は一時頃に母の室に行って何げなく鶴の優等生で「フィデスのいい絵のあるユーゲンドを捜して来た」と 卒業したことを云った。 云って古いユーゲンドを出して見せた。どんな絵かと急い 母は「そうかい」と冷淡に云って、「中々出来ると見えであけて見ると、 どとう そう るね」とつけ加えた。自分は「そうと見えますねーと冷淡怒壽の内を一艘のポートが走ってゆく。ポートは後半が よそお を装って云った。母は改めて「あのことが早くきまるとい 一寸見えるだけだ。そのポートの上に若い男と女がのって かじ いね。中々いい人はないからね、この頃は私はただお前の いる。女は一心に行手を見ながら全身に力を入れて舵をと ことだけが気になるのだ、早くきまると、 しいと思っているっている。結ってない髪は風になびいている、男は全力を のだ」と云った。 もって漕いでいる。一言以て云えば二人は死物狂いで或目 自分は母がこのことに冷淡だと思うと、このことがきま 的に向ってすすんでいる処がいかにも強く現わされて る。 らないとまいるように何げなく見せかけるが、こう云われ ると、 目的地は何処だ ? ツーア・・フラウトインモル ( 許嫁の 「僕のことは心配する必要はありません。世の中に自分程島まで ) である。 心配する必要のない人は少ないでしよう」と安心させるよ「いいだろう」と友は云う。 はやぶさ いなずけ
神様道徳天使の眼を見たら久しぶりに清い力がわいた くって、意気地がなくって困るよ。時々は一思いにひね なまい、 そ。愛する星の天使達、愛らしい我が子供達よ。俺はお りつぶしたくなる程。それで生意気と来ているのだから まんざら 前達に祝福を送る。愛する、美しい我が天使達。あまり ね。しかしよく見ると、満史、すてたものでもないと思 気持がいし 笛でも吹きたくなった。一つ久しぶりにふうのだがあてにはならない。だが、自分より大きなもの くかな。 や強い他の動物をどんどんやつつけることには感心す る。それに中々よく働く奴もいるし、頭のいい、何か考 え出しそうな、又天使のなかでも珍らしいような美をち ゃんと具えている可愛い女もいるよ。 天使神様はどこにいらっしやる。 滑稽天使小さいだけ可愛いだろう。だがすぐ子供をつく 滑稽天使神様は今、散歩に出かけた。 とし って齢とってくたばってしまうのだろう。 天使何処にいらっしたろう。 天使それはそうだ。何のためにあんなにして生きている 滑稽天使知らないね。どうした、人間は死にたえたか。 あたか らよっと 天使いや、段々景気がいい、随分ふえた。しかし折角何のか、一寸わからないね。だが当人は得意でいるよ。恰 も永遠に自分は生きられるもののように考えている。そ か面白いものをつくり出すかと思うと、すぐ呑気になっ のうみそにおい やばん の点矢張りあの神様の脳味噌の香位はもっているらし て快楽にお・ほれて、野蛮な人間達にやられてしまう。 やつば 滑稽天使そうか。矢張り小さいだけあって望みも小さい おもらや 滑稽天使そうか。まあいい玩具が出来て君も仕合せだ。 し、先のことを考える力がないのだな。 やっかい 天使まあそんな所だろう。何しろよく戦争するよ。そし俺は又神様と云う玩具をもたされているので時々厄介だ よ。あいつは中々利ロで、お人よしで、好色で、威張り て勝ったものは大得意だが、負けた奴は可哀そうに、男 どれし は皆殺されて、女や子供は奴隷にされてしまうのだ。何やさんだが、見ているとすきになるから不思議だ。一寸 あいつが笑うと俺は本当に死んでもいいと思うのだよ。 しろ、小さい処に住んで得意になっているのはいいが ほか ( でんぐり返しをうって ) 時に好人物の天使さん。俺は君に 仲がよくなくって、他の奴はどうなってもかまわない、 こう云うことを注意するがね。神様は人間のことには冷 自分達さえよければと云うのだから、中々うるさいし、 つめあか 面倒だし、腹がたつよ。どうせ生れてすぐ死ぬのだから淡なのだが、人間の内にある、神様の脳味噌の爪の垢の かけらのかけらのそのかけらは、信用してもいい。 仲よくすればよさそうなものだが、馬鹿で、望みが小さ のんき そな
いてくる気持のよさ、気が遠くなるようで御座います 天使ありがとう御座います。 わ。 女の天使御遠慮なく。 天使それでは戴きます。こんな嬉しいことは御座いませ滑稽天使大変な奴が参りました。 神様又争闘でも起ったのか。 ん。 神様しかしよろこんでいる内に、どんなことが起らない滑稽天使そんなことでは御座いません。私達がまるで考 とも限らない。だが人間の内に、あの小ぼけな人間の内 えてもおりませんでした、隣りの宇宙の神様からのお使 が参りました。 に、そんな力があると云うことは不思議な気がする。あ せらずに気ながに様子を見てろ。俺の一寸見た処では人神様そうか、それは感心な話だ。しかしよくあの境を通 間には、まだいろいろそう云う生活するには不適当なも りこして来たな。 のがある。しかしそれも生かしようによれば面白いのだ女の天使宇宙はそんなに沢山ありますの。 が、中々面白く生かすのには骨が折れるだろう。之から神様いくらでもある。 まだいろいろのことが起るだろうが、お前はあわてず女の天使あなたはその全部の神様ではないの。 に、希望をもって見ていろ。 神様そうだ、俺はただここだけの神だ。しかし使のもの 天使ありがとう御座いました。それでは失礼いたしまを礼儀正しく通せ。 す。 滑稽天使は、。 そこな 神様さよなら。 神様だが大ぎようにしては駄目だぞ。おどろかし損った ばか ( 天使退場 ) ら反って、こっちの貧弱な処がわかる許りだから、気軽 にお通ししろ。 神様お前は今日帰らなければならないのか。 女の天使ええ。私は帰りたくはないのですが、いつまで滑稽天使先刻承知しました。 もこうしていたいのですが、世間の義理で帰らなければ神様誰か。 なりません。私にも私のっとめがありますから。 外ではつ。 ( 大勢給仕天使が来てかたづける ) しばら 神様それでももう暫くはいいだろう。 女の天使私はどうしましよう。 女の天使少し位わるくってもかまいませんが。本当に今神様其処でいし 日は気持のいい天気で御座いますね。そしてそよ風がふ女の天使それでも失礼になるといけませんわ。 かえ
る人がいましたら。妻の代理をつとめるいい人がおりま な。相川の処へゆけとおっしやっても私はお恨みはいた したら。 しませんわ。 西島万一、そう云う人がいましたら。 西島あなたはもう私の世話になるのはいやなのですか。 静子あなたは私がいる為に兄を有望だとおっしやるので そうしてお兄さんはどうなさります。 はありませんわね。 静子本当にこの頃のようでしたら。 西島決してそんなことはありません。 西島あなたは僕に力がないのをびつくりしたのでしよ。 静子そんなことはありませんわ。ですけれど私の思って静子私が居なくっても金を出して下さいますか。 西島あなたがいないとは。 いるよりは、 ( 徴笑み ) 金持ではおありにならないのね。 西島僕はまだ捨て身にはなりません。まだ力を出し切り静子仮定で御座いますわ。 はしません。金だってまだとれる余裕があります。 西島あなたが兄をたのむと一ことおっしやったら。 静子それならなぜ本をお売りになるの。 静子そう申しませんでしたら。 西島一番簡単ですから。そうしてなくなってもちっとも西島 仕事に差支えがないのですから。 静子御免遊ばせ。 静子本を書いた方がそんなことを聞いたら怒るでしよう西島 ( ふところから紙づつみを出し ) これだけ今日持って帰 ね。 って下さい ( 蛇足。以上西島の会話は立ったり坐ったりして話されたもの 西島怒りはしません。 ひばし ひばら と思って下さい。静子は火鉢によって火箸をいじりながら独 静子へんなことを聞きますが、あなたは兄の為に金を出 言するように云っていると思って下さい。今西島は又立って して下さるの ? 私の為に金を出して下さるの ? 歩いていると思って下さい ) 西島両方です。 静子私、もっとさきが聞きたい気もしますけど、本当は静子 ( 受けとり ) ありがとう御座います。 ( それを見す自分 のわきにおく ) 聞いてはいけないことですわね。ですが、兄はものにな ( 沈黙 ) りますわね。 西島あなたさえわきに居れば。 静子私、こうやっていますと、本当に気が落着きます 静子私がいなくったってものになるでしよ。もし筆記すの。御邪魔にはなりませんわね。
「相変らず元気にしていたよ」 「今は」 「武子と話しているよ」 「一人で」 「ああ一人で、さあうちに帰ろう」 「僕はもう少し居よう 「それがいけないのだよ」 「だって杉子さんは僕に逢うのをよろこぶまい」少し大宮二人は大宮の室に入った。武子の室からは時々二人の笑 の意見をさぐるように云った。 い声が聞えた。野島はその方に気をとられて黙っていたか ひと 「あの人は他人を憎むと云うことは出来ない人だよ」 った。しかしそれだけなお気がひけて、何か一一一一口葉を見出そ 「そう云うのは人を愛することも出来ないと云う意味かうとした。だがそれがなお技巧的でそらそらしいのに気が ひけた。おちつかない気持がした。 「そうじゃない。しかし熱情家と云うのとはちがうだろすると足音がして武子が入って来た。 う。しかしそれは君の方が知っているだろうー 「お兄さん、トランプなさらなくって」 「いや、僕の方が君の意見がききたいのだ。あの人は早川 「してもいいだろうー大宮は野島に聞いた。 を愛しているだろうか」 「ああ」野島はよろこびをかくそうともせずに云った。こ 「まだ愛してはいないだろう。あの人はまだ誰も愛しようの友には万事、かくす必要はないと思った。 とはしていないよ。しかし今が正直に云うと恐ろしい時と「それならここでしよう 思うね。今が一番大事な、危険な時だと思うね。武子より武子は杉子を呼びに行った。 としした ちょっと 一つ齢下だと云うが、武子とちがってもう男に愛されるよ 杉子は入る時に、一寸躊躇したようだった。入った時、 うに用意されている。誰か一人を愛し、たよりたがってい 少し赤い顔しているようにも見えた。二人は黙って丁寧に ぎんみ る。しかし、処女の本能でそれを今用心深く吟味してい挨拶した。いつもの笑い顔を見せていた。 る。まだ意識はしていないだろうが。だから君は今はむし野島は何となく嬉しく思った。杉子は和解に来たのだ。 ろ少図々しい位に杉子さんに逢うのがいいのだ。君のい 自分のことを気にしていてくれるのだ。自分を嫌ってはい い所は逢えば逢う程わかる所にあるのだ。君のいい所は中 中わかりにくい。それだけわかればもうしめたものなの らゆうらよ ・こ。だから君は今躊躇すべき時じゃない。もう一歩杉子さ やっかい んがどっちかにころんだら、それこそ事件は厄介になる」 野島は大宮の云うことを本当だと思った。 へや