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検索対象: 現代日本の文学10:武者小路実篤 集
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1. 現代日本の文学10:武者小路実篤 集

読書が「僕の人生観を形づく 0 た」と書いている。七月、高等科を「生長」「心と心」洛陽堂刊。 一一十九歳 大正三年 ( 一九一四 ) 卒業し、東京帝国大学 ( 現東大 ) 社会科に入学した。なお、志賀、 おおまら 春、初めて兄の家を出て下一一番町に三間の家を借りる。八月、漱 正親町は英文科、木下は国文科にそれそれ入学。 一一十一一歳石のすすめで「朝日新聞、に「死」を書く。十一一月、署名番号入り 明治四十年 ( 一九〇七 ) 志賀、木下、正親町と「十四日会、を作り、文学の勉強をする。七限定本「わしも知らない」洛陽堂刊。 三十歳 大正四年 ( 一九一五 ) 月、大学中退を兄公共に打ちあけて、承諾をうける。 くげぬま 一一十三歳一月、鵠沼に転居。三月、「その妹、を「白樺、に。六月、「わしも 明治四十一年 ( 一九〇八 ) 四月、最初の単行本「荒野」を警醒社より自費出版。六月、札幌に知らない」文芸座で自作初上演。八月、「彼が三十の時」「向日葵」 有島武郎を訪う。七月、回覧雑誌「望野、を十四日会で出す、「白刊。九月、「三和尚」発表、千駄ヶ谷八 = = 一に転居。 三十一歳 樺、の前身である。九月、兄の長女芳子急死、「芳子」を書く。「こ大正五年 ( 一九一六 ) 三月より十一月にかけ「或る青年の夢」完結。四月、「小さき世界」 の作以前は自分では全集にのせる気がしない」という。 一一十四歳十二月、「その妹」を新潮社刊。暮れの一一十日に、千葉県我孫子に 明治四十ニ年 ( 一九〇九 ) = 一月、先す「望野、同人の賛成を得て、「麦」「桃園」の学灣院出の家が建 0 て転居、我孫子には志賀直哉、柳宗悦等白樺同人が既に住 ドリーチも前後して我孫子に移って来た。 友人に呼びかけ、来春「白樺 , 発刊の準備にかかる。十月、「或るみ、 三十一一歳 大正六年 ( 一九一七 ) 家庭」三幕を書く。これは「白樺」第一一号に発表。 一一十五歳一月、「ある青年の夢」、六月、「新らしき家」、七月、「日本武尊』、 明治四十三年 ( 一九一〇 ) 一一月、中篇「お目出たき人。脱稿。四月、「白樺」創刊し、「それか十月、「かちかち山と花咲爺」を刊。私家版我孫子刊行会本をこの ら」の評を執筆、漱石に送って ( ガキを貰い喜ぶ。そして「朝日新年四月より十一月まで六冊刊。 三十三歳 大正七年 ( 一九一八 ) 聞」への原稿をたのまれた。長与善郎と知る。 二十六歳三月、「白樺美術館」のために「白樺の森」刊。五、六、七月、「新 明治四十四年 ( 一九一一 ) 一一月、「お目出たき人」洛陽堂刊。五月、有島武郎を再び札幌に訪しき村に就ての対話」発表。七月、月刊「新しき村、創刊 ( 現在「こ の道」と改題続刊 ) 。八月、「新しき村の生活」新潮社刊。十一月十 譜ね一カ月ほど滞在。初恋の人お貞さんを小樽の嫁ぎ先に訪う。 一一十七歳四日、宮崎県に「新しき村」建設。十一一月、「或る脚本家」刊。 明治四十五年・大正元年 ( 一九一一 I) 三十四歳 年この年「白樺。上で木下杢太郎、三井甲之と論争す。十一月、竹尾大正八年 ( 一九一九 ) 一月ー六月、「幸福者」完結。四月、「白樺 , 十周年記念号刊。八 房子と結婚、「世間知らす」洛陽堂刊。 一一十八歳月、「幸福者」「第一一の母」刊。十月、長篇「友情」を「大阪毎日」 大正ニ年 ( 一九一 lll) 四月、「或る日の一休」、十一月、「わしも知らない」執筆。十一一月、に連載、十一一月十日完結。

2. 現代日本の文学10:武者小路実篤 集

だのだった。今の時代には生活の安定を得なければ自由静子叔母さんは、もう小間使に、人がいない時にお兄さ んのそばにゆくとあぶないから、行くなとおっしゃいま は得られないからね。 したわ。 静子私どうしたってお兄さんのわきを離れはしません わ。きっと今にお兄さんの仕事は私を幸福にして下さる広次そうか。仕方がない。 と思いますわ。私はそれを疑ったことは御座いません静子仕方がない、ではありませんよ。本当に見つともな い。私聞いていて顔から火が出るような気がしました わ。それは一日でも早い方がよう御座いますが、私急ぎ わ。 はしませんわ。私安心して待っていますわ。 ( 何か思いっ いて ) それはそうとしてお兄さん。私今日へんなことを広次許しておくれ。 くや 聞きましたのよ。 静子口惜しいとはお思いにならなくって。 広次へんなこととはなんだ ? 広次思う資格も今はないからね。 らようだい 静子お怒りになってはいやよ。お兄さんは今朝小間使の静子本当にしつかりして頂戴よ。 手をお握りになって ? 広次するよ。俺はさっき新しい仕事を考えていた。お前 が今暇なら一寸かいて貰いたい。 広次誰がそう云った ? 静子叔母さんが見ていらっしたのですって。なぜそんな静子ええ。書きますわ。 ( 机のわきによる、広次座をゆずる ) 広次 みつともないことをして下さったの ? 広次わるかったよ。俺は女の顔や姿や手や足を見ること静子はい。 らよっと が出来ないのでね。一寸さわって見たかったのだよ。た広次今度は俺が演説している処だよ。 ださわって見ればよかったのだ。心のなかのことは知ら場で演説をしているのだ。 妹ないけど。さわるぐらいなことは盲目の俺には許されて静子ええ。ようございますよ。 いい力い。本当に演説をしているようにして云う いていいと思ったのだよ。叔母さんが見ていると云うこ広次 の よ。 とは知らなかったのだよ。 そ 静子御飯たきなんかも笑っていましたわ。叔母さんは小静子はい。 こわ 広次始めるよ。 ( 立ち上り ) 笑ってはいけないよ。 間使に「怖かったろう」とおっしゃいましたよ。 行 広次そうか。仕方がない。 静子笑うもんですか。 しいか俺がある会

3. 現代日本の文学10:武者小路実篤 集

と力がわくのだ。俺は時々癇癪も起す。つまらぬことで広次そうか。 お前を泣かすこともする。俺は他の人には自分の憂さを静子本当に私どうしていいかわかりませんわ。 もらすことが出来ないのだからね。さあ泣くのはよして広次 ばあ ( 婆さん、登場 ) おくれ、お前が泣くと俺まで心細くなる。それは実際泣 きたくなることもあるだろう。俺でさえ時々どうしてい婆西島さんがいらっしゃいました。 いかまるでわからない時がある。西島がいてくれなかっ広次西島が来た ? お前は西島の処へ行ったのだろう。 たら実際どうすることも出来ない。西島は俺の心を知っ静子え。西島さんがいらっしやるわけはありませんわ。 ている。西島に世話になるのは心苦しいが、西島だから誰かのまちがいじゃなくって。 一方安心もする。西島が何かに書いていたが。・ しいえ。西島さまです。 はコローの世話になって、コローにだからこそ世話にな 広次お通しして下さい。 っても気がとがめないと云ったそうだが、俺も西島だか ( 婆さん退場 ) うわさ ら安心してたよれるのだ。いやな噂が立ったからと云っ広次何の用で今時分来たのだろう。 て、西島は世間の噂にまけるような男ではないからね。静子本当に変ですわ。 そうしてその内には俺にも力が出来るからね。心配する ( 西島登場 ) ことはないよ。 広次よく来て下さいました。 ちょっと 静子お兄さん。 西島一寸、散歩のついでにおよりしましたのです。 広次なんだ ? 広次さっきは妹が出まして。 静子西島さんはそう金持ではありませんのよ。 西島どういたしまして。 ( 静子の方を向き ) さっきは失礼し 妹広次それでも、毎月一一十円の金ならどうにかなるだろ ました。 ( 静子、顔をそむける ) の 静子そうもゆきませんのよ。西島さんは私達に下さる金西島君と二人だけで一寸お話したいことがあるのです そ をつくる為に本を片端から売っていらっしやるのよ。 、カ 芻広次それは本当かい。 広次それなら静ちゃん、下へいっておいで。 静子本当ですわ。 静子はい。 ( 黙って退場しようとする ) かんしやく

4. 現代日本の文学10:武者小路実篤 集

こ一Ⅱゞ 8 0 新しき村誕生満 15 年の「新しき村祭」赤坂二 会堂にて二列目中央が実篤 ( 昭和 8 年 ) 物い論一 0 0 0 0 中 , ある。ここに各自の創作を持ちょって、相互批判が行な で 9 われるのだが、それをば、志賀日記は、正確にも Move ー 館和 しいあてている。その十四日会 念召 men ( とい、つことばで コし / ( 、 一三ロ がバネになって、翌年の四月に、武者小路は、第一著 大百作集である『荒野』を自費出版している。 田『荒野』の序には、 会倉 賀右「学力と文才に就て自信なき私にとりて、唯一の自信 祝の は『自分が人間である』と云う事です。私が人間で 生そ 誕 ある以上は自分の思う事を正直に書いたならば、 歳篤 実すその中に他人の心と共鳴し得る或るものが有ると 思います」 実央 ということばが書きこまれている。学力を誇り、文才 を誇る、とい、つよりは、「自分」が「人間」だとい、つ ことに力点をおいたこの考えかたは、やがてのちの「白 志年樺」の「自己を生かす」という考えかたにつながって それは、文学者という特殊な才能を持った専門 曦を ~ ~ 一一良和 奈昭家になることにウェイトをおくのではなくて、一個の 人間として、人間らしく生きる、そのひとっとして作 前る のね品も書く、とい、つよ、つな生かしかたなのである。『荒 巧出を野』には、小説もあれば、論文もあるし、雑感や新体 / 左詩も挿入されている。また、ムュニエーやべックリン 口氏などの絵もはさみこまれている。いわゆる芥川龍之介 3 ョ直の第一創作集の『羅生門』、太宰治の第一創作集『晩 4

5. 現代日本の文学10:武者小路実篤 集

は鳳第 06 だ”パ紀は一つの ( ~ るを毅】・大ーではない・ ある国 第ですね・ 「あ、・ま′第気にし 「このはーてのらっ , ずや一 : そ・、、、第 し・第を ) て々をを ? 、も ( をまムム ー当 キー心町 ; いてヾっ ・第、い・第さ、ふの 一口 ツ、ら 7 対掲 学習院時代の武者小路を象徴するできごとは、初恋 のの て日 問題と友情問題とトルストイ問題の三つに集約するこ とができる。いわば、ここで、のちの武者小路の人及 び文学・思想の原型が提出されることになる。初等科 き年 は一一 ( 一の帽 六年、中等科六年、高等科三年、この十五年をすっと ザ時藁 る麦新正学習院という特殊の学校で過したこと自体、大いに問 一す目 発人 聞題になる。そもそも当時の学習院の校風は、「皇室」 を「翼戴」して、その「藩屏」となることに中心が置 をり かれていた特殊な学校であった。 我目 本多秋五によって指摘されてもいるように、武者月 右上「新しき村の生活」初版本 ( 大正 7 年 ) 癶者小第資第 耐える忍耐や根気とあいまっことによって、はじめて 力となり得たものだと思う。武者小路という人は、何 かことをすると、人々は、はっといっせいに注目し、 その存在を強く意識し、共鳴者が現われると同時に、 ちさっしさフ 多くの嘲笑や批判をあびせかけられることがしばしば であった。彼の生涯は、決して平坦な道、勝利の道ば かりであったわけではなく、むしろ、起伏の激しい いくどかの上昇と失意のくりかえしがあったといって よい。それを、持ち前の向日性、向上意欲と、その裏 側の根気と忍耐力で乗りきってきたのである。 はんべい 457

6. 現代日本の文学10:武者小路実篤 集

( 静子退場、広次鉛筆をとりあげ字を書こうとして自棄をおこ いな男です、又人に殺されることはこの上なく嫌いな男 です。私は国家が戦争をしたことにも不服だったので しばら す、私は友とその話をしていました。私は兵隊にとられ広次あああ。 ( 仰向けにたおれる。暫く沈黙 ) ( 小間使登場。広次起きる ) た為に、少し進歩がおくれたのです。そうしてそれをや 小間使お客さまがいらっしゃいました。 っととりもどしたと思う時に戦にとられたのです。 ( 「書 だれ けたかい」「はい」 ) 戦争にゆきました。鉄砲もうちまし広次誰 ? あわ 間使西島さまとかおっしゃいました。 た。憐れな敵の軍事探偵を銃殺する群にも入りました。 私は心のなかで謝罪し、その人の為に祈りながら、そう広次なに ? 西島 ? すぐここにお通ししてくれ、きた してねらいをはずしましたが、私はその人の生命をたすない処ですがと云って。そうして静子に西島さんが来た と云っておくれ。 けることも、死の恐怖からゆるめることも出来ませんで 日使ま、。 した。私はなぜあんなことをしなければならなかったの も・、・こみノ ( 女中退場。広次一寸黙疇する ) でしよう。今でもその人の顔が目に浮びます。何かのカ ( 西島小間使に案内されて登場 ) が私にそれをさしたのです。何んのカか私は知りませ 間使どうそお敷きになって。 ( 座蒲団をすすめる ) ん。私はそれに抵抗することが出来なかったのです。自 分の死ぬのが怖かったからでしようか。それだけだった西島ありがとう。 でしようか。 小間使いらっしゃいました。 広次よく来て下さいました。 静子そんなに早くかけませんわ。 ( 小間使登場 ) 西島どういたしまして。 ( 一一人挨拶する、一寸沈黙 ) もっと 早く御返事すればよかったのですが、昨日まで一寸旅行 間使静子さま。奥さまが一寸。 していましたので失礼いたしました。今朝お作を拝見し 静子すぐ参りますと云って下さい。 ましたので早速手紙を書こうかと思いましたが、それよ りお目にかかった方が話がよくわかるように思いました ( 小間使退場 ) ので来ました。お宅はお近いのですから。 静子一寸行って来ますよ。 広次どうもありがとう。 広次行っておいで。 らよっと

7. 現代日本の文学10:武者小路実篤 集

が、同時に、 三四 「あなたが居ないのに元気になれと言うのは無理です」と しかしその前に僕は野々村の家を訪ねて夏子のに初め言った。 て入った時のことを忘れるわけにはゆかない。室は昔のま「そんなことをおっしやるものではありません」 おそ まにしてあった。僕は入るのが怖ろしかった。入れば必ずそんな声が聞えそうな気がした。 自分はやっと泣きゃんで立ち上り又室を見た。彼女の生 悲しみに耐えかねることを知っていたから。しかし入らな きていた時の様子がありありとわかる。 いわけにもゆかなかった。野々村ももっとあとの方がよく ここで僕へ手紙をかき、又僕の手紙を読み、又でんぐり はないかと言った。しかし入らないわけにはゆかなかっ た。そして野々村にたのんで僕一人入ることにした。僕はかえしもしたのだと思った。さびしみはしつつこく僕をお 恐る恐る入った。そして戸をしめた。西洋間である。僕はそって来た。 なるべく感情を殺し冷静に室を見回した。僕の写真は昔の僕は室の何処ということなしに頭をさげて室を出た。野 々村の室に帰って自分は黙って其処の椅子に腰をおろし ままに置いてあり、僕のノートルダムで写した写真がテー ・フルの前にかけてあり、その下に百八十いくつの丸をかい た紙がはってあり、それがあと十八残して全部消してあっ野々村も黙っていた。 僕は言った。 自分はそれを見ると耐えに耐えていた悲しみが一時に爆「ともかく戦うつもりだ。負けていない」 発した。 「僕もそれを信じている。夏ちゃんもそれを望んでいるに 僕は夏子の椅子に腰かけて夏子のテー・フルの上に泣き伏ちがいないー 「だが、実にさびしい」 と泣けるだけ泣くと自分は夏子が自分に、 「よくわかる 愛「いい子、私のためにそんなにお泣きになるものじゃあり「君のお母さんにだけこの気持がわかるだろう」 ません。御元気になって下さい 「母は実に気の毒だ。生きていたからこんなさかさまごと ささや うらや と囁くような気がした。 に遭ったのだ。死んだ父が羨ましいと言っていた」 「元気にします。元気にします」と自分は心の内で言った人生に死が与えられていることはあまりにも残酷なこと

8. 現代日本の文学10:武者小路実篤 集

たら、その答えには及第点をやろう。俺も見たら恥かしく 「誰かに迷惑を与えても [ 「迷惑を与えないですむと思わないことは野々村さんはしって見てはいられなかったろう。知らなくってたすかった ませんよ。しかし虫のいい処と、今の時代を考えない処はよ。と言いました」 あるようですねー 「それはようございました。僕も気にしていました。あれ 「大ありですよ。しかし私が何と思ったって、何と言った から何処かへ行ったのですかー さび って、聞くような兄ではありませんから 「ええ、お茶をのみにゆきましたが、へんに淋しくなって 「あなたに言われてなおせるようなことだったら、あなた私だけ先に帰ると言いましたら、皆もがっかりして、それ に言われない前になおすでしよう なら解散にするかと言って解散にしました。それから私、 「今日はいやに先生は、先生顔なさるのねー へんに先生に御逢いしたくなって、こっそり会場の前へ行 「あなたには段々気らくにものが言えるようになったのでって見ましたが、もうしいーんとして誰も居ませんでした。 それで泣きたいような気持で家に帰って来たのでした」 すよ」 「私が段々馬鹿に見えて来たのでしよ」 「それは惜しいことしましたね、僕もあなたにあの晩逢い たかったのです」 「少しそういう所もあるようです」 二人はつい顔をあわせて、微笑した。お互の心の底がわ 「こないだの狂言の筋は愚劣でして」 かったような気がした。 「うまく出来ていましたが、無内容ですよ。誰がつくった のです」 「お友達と合作ですの」 「初め琴をひくのは誰がきめたのですか」 人生にはいろいろの喜びが与えられている。しかしその ほりよ 死「それはお友達よ。私琴は下手だからいやだと言ったので最も大きな喜びの一つに僕は捕虜になった。夏子は今や僕 すが、下手も反っていいだろうと友達が言いますので、図には欠くことの出来ない存在になった。自分がハガキ一つ 図しくやりましたの」 出せば夏子はどんな処にもやって来た。又夏子からハガキ 愛 が来て、何かたのんでくれば、僕は何をおいてもその要求 「僕にはわかりませんが、仲々上手だと思いましたよ」 「兄がなぜ自分に知らせなかったと怒りましたから、お兄に従った。 さんに見られたら恥かしいので黙っていましたと言いまし僕の居る処には夏子が居、夏子の居る処には僕が居た。 かえ

9. 現代日本の文学10:武者小路実篤 集

歳 万 人神様滑稽天使 ! 滑稽天使はい。 何か御用で御座いますか。 神様むしあつい晩だな。 滑稽天使殊にむし暑い晩で御座います。 神様馬鹿。 神様誠に寝苦しい晩だ。 滑稽天使誠に御意の通りで御座います。 七つ星の連中それでは失礼いたします。 神様又時々来ておくれ。 神様昨日と今日とどうしてこうもちがうのかな。昨日は 七つ星の他の連中はい。 ( 退場 ) 随分気持がいい晩たったがな。 ( 天使又あわてて登場 ) 滑稽天使それはかの天女が御いでになると、ならないの 天使神様。 とのちがいかと存じます。暑さから申しますと、昨日も 神様なんだ。 今日も正しく同じで御座ります。 天使御安心下さい。水はひきました。人間が、二人助か神様本当に同じか。 りました。 滑稽天使誠に同じじゃ、ただ心の持ち方一つじゃ、馬鹿 神様 ( 窓からそとを見、不愛想に ) それはよかったな。 神様がこう申していられます。 天使ありがとう御座います。 神様あの女をよんで来い ( 神様何かを認め、笑い顔して別れのしるしに布をふる ) 滑稽天使それはおよしになった方がいいと存じます。 天使神様 ! 神様な・せだ。 神様なんだ。 滑稽天使それでも、この頃あなたの御評判が甚たよく御 天使二人のこれば大丈夫でしような。 座いません。神の奴なんかいなくたってちっとも困らな 神様そうだろうな。 ( 布をふりながら ) いなんそと申しております。 天使ありがとう御座います。さようなら・ 神様そうか。いなくってよければ、結局幸いじゃないの 神様さよなら。 か。俺もとっくに神様にはあきているのだからな。 むほん 滑稽天使それでも皆謀叛を起してあなたが座敷牢に入れ 五 られたらどうなさります。逢いたい方にも逢えません 神様滑稽天使。俺は神の位置におかれているものじゃな 。神そのものなんだからいくら座敷牢に入れられたっ て、俺はその内に又楽しみを見出すことが出来る。 ~ れ まこと まさ はなは

10. 現代日本の文学10:武者小路実篤 集

つもり の沢山の本を売らしてそんなことを云うのはすみません ど、叔父の処へは行っている心算でしたわ。そうしてお 兄さんのお許しを得てから帰って来ようと思いましたけれど、あなたには仕事はありますわね。ある偉い詩人 わ。明日小間使をつれて来ますわ。あの子はいい娘ですが恋が報いられないことを感謝して、詩が書けると云っ わ。それに字も書けますわ。そうして可哀そうな娘ですたそうですわね。私、理屈では一番あなたに済まない気 ・、いたしますのよ。ですが、あなたは大概のことには負 わ。私いなくなるまでにきっとよくしこみますわ。 広次静ちゃん。俺は強いことを云ったけれど、お前の決けない方ですわね。私がそんなことを思うだけでも生意 気の気がしますわ。又何時かお目にかかれますわね。私 心をかえるだけのカのないことを許しておくれ。俺はこ 御恩は嬉しく思い出しますわ。 うやってがんばっているだけだ。俺にはカはないのだ。 、ことかわるいことか俺は知らな西島ありがとう。野村君。それなら又。 お前のすることは、しし い。だが俺はどうしろとも云えないのだ。恐ろしいこと広次それならば又。どうか。 は遂に来た。俺はどうしていいかわからない。反対して西島ありがとう。さよなら。 ししか、賛成していいかそれもわからない。その力もな広次さよなら。 ( 行こうとしてふりかえる、静子と手を握る ) 静子お兄さん、許して下さって。やつばり妹だと思って西島 ( 小声で ) どうか許して下さい 静子 ( 小声で ) 許すことはありませんわ。 下さって。 西島 ( 小声で ) 気になって仕方がないのです。 西島僕は失礼します。 静子気にしないで下さい。私、御親切を嬉しく思ってい 静子お怒りになっていらっしやるの。 るのですから。 西島怒るどころですか。恥かしい気がするのです。私は 妹本当にあなた達にすまない気がするのです。私はまだど西島それなら又何時か。 のうかなると思わないことはありませんが、それは自分の静子え。奥さまによろしく。 良心に対する云いわけにすぎないでしよう。 ( 西島退場、静子送ろうとする ) そ 静子西島さん。本当に、あなたの処へ行った帰りに叔父西島 ( 辞退するように ) どうか。 ( 二人退場、静子まもなく登場 ) の処へ行ったことを許して下さいね。私、叔父の家を出 ( 沈黙 ) て、こうしていたのを無意味とは思いませんわ。あなた