月の光 - みる会図書館


検索対象: 現代日本の文学 17 萩原朔太郎 中原中也 伊東静雄 立原道造集
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1. 現代日本の文学 17 萩原朔太郎 中原中也 伊東静雄 立原道造集

262 月の光その一 月の光が照ってゐた 月の光が照ってゐた すみくさむら お庭の隅の草叢に 隠れてゐるのは死んだ児だ 月の光が照ってゐた 月の光が照ってゐた おや、チルシスとアマントが 芝生の上に出て来てる ギタアを持っては来てゐるが おっ・ほり出してあるばかり 月の光が照ってゐた 月の光が照ってゐた 月の光その一一 おゝチルシスとアマントが 庭に出て来て遊んでる ほんに今夜は春の宵 もや なまあったかい靄もある 月の光に照らされて 庭のペンチの上にゐる ギタアがそばにはあるけれど いっかう弾き出しさうもない 芝生のむかふは森でして とても黒々してゐます おゝチルシスとアマントが こそこそ話してゐる間 森の中では死んだ子が 螢のやうに蹲んでる はたる しやが

2. 現代日本の文学 17 萩原朔太郎 中原中也 伊東静雄 立原道造集

201 山羊の歌 初期詩篇 春の日の夕暮 トタンがセンペイ食べて 春の日の夕暮は穏かです アンダースローされた灰が蒼ざめて 春の日の夕暮は静かです 吁ー案山子はないかーーーあるまい いなな 馬嘶くかーー嘶きもしまい ただただ月の光のヌメランとするまゝに 山羊の歌 あを 従順なのは春の日の夕暮か ポトホトと野の中に伽藍はく 荷馬車の車輪油を失ひ 私が歴史的現在に物を云へば あざけ 嘲る嘲る空と山とが かはら 瓦が一枚はぐれました これから春の日の夕暮は 無言ながら前進します みづか 自らの静脈管の中へです 月 かな 今宵月はいよよ愁しく、 養父の疑惑に瞳を錚る。 秒刻は銀波を砂漠に流し らうなんじだけいくわう 老男の耳朶は螢光をともす。 あゝ忘られた運河の岸堤 胸に残った戦車の地音 くわん 銹びつく鑵の煙草とりいで ものうす 月は懶く喫ってゐる。

3. 現代日本の文学 17 萩原朔太郎 中原中也 伊東静雄 立原道造集

251 在りし日の歌 どうにかやってはゆくのでせう 考へてみれば簡単だ ひっきゃう 畢竟意志の問題だ なんとかやるより仕方もない やりさへすればよいのだと 思ふけれどもそれもそれ 十二の冬のあのタベ 港の空に鳴り響いた 汽笛の湯気や今いづこ かん じゃく 閑寂 なんにも訪ふことのない 私の心は閑寂だ。 それは日曜日の渡り廊下、 みんなは野原へ行っちゃった。 板は冷たい光沢をもち、 小鳥は庭に啼いてゐる。 おとな どけ お道化うた 月の光のそのことを、 めくらむすめ 盲目少女に教へたは、 ー・ヱンか、シュ 俺の記憶の錯覚が、 今夜とちれてゐるけれど、 ベトちゃんだとは思ふけど、 シュ・ハちゃんではなかったらうか ? 霧の降ったる秋の夜に、 庭・石段に腰掛けて、 月の光を浴びながら、 ニ人、黙ってゐたけれど、 締めの足りない水道の、 蛇ロの滴は、つと光りー ばらいろ ひーり 土は薔薇色、空には雲雀 空はきれいな四月です。 おとな なんにも訪ふことのない、 私の心は閑寂だ。 しづく

4. 現代日本の文学 17 萩原朔太郎 中原中也 伊東静雄 立原道造集

ゅふすげびと かなしみではなかった日のながれる雲の下に 僕はあなたのロにする言葉をお・ほえた それはひとつの花の名であった それは黄いろの淡いあはい花だった 僕はなんにも知ってはゐなかった なにかを知りたくうっとりしてゐた そしてときどき思ふのだが一体なにを だれを待ってゐるのだらうかと 昨日の風に鳴ってゐた林を透いた青空に かうばしいさびしい光のまんなかに くさむら あの叢に咲いてゐた : : : さうしてけふもその花は 他 せ思ひなしだか悔いのやうに 寄しかし僕は老いすぎた若い身空で 風あなたを悔いなく去らせたほどにー 私の影がどこにもうつらない場所で私は光を見つめてゐ る、それは淡い月の光か 星の光か私に分らない一面にうすやみのやうに私を囲んで 私は次々に思ひ出してゐる 私の場所を捨てた人たちを ( それは私の昼であったか ) つまり死んで行った人などそれからまた つれなく立ち去った人など思ひ出してゐる だれもゐないしかし私はいまはなぜひとりではゐな いのだらう ? 私に分らない 生々しい傷口と歎きと私と私の場所でない場所に 激しい闇と光とに飢ゑ渇きながらそれは淡い 一面にうすらあかりのやうに影をさへとどめぬ場所に のこ なぜ遺された私とはつながりもない光といっしょに ? 田中一三に なら 1 「抒情の手」に做ひて おそらくただあのタやけだけ かわ

5. 現代日本の文学 17 萩原朔太郎 中原中也 伊東静雄 立原道造集

390 はじめてのものに ささやかな地異はそのかたみに 灰を降らしたこの村にひとしきり 灰はかなしい追憶のやうに音立てて こすゑ 樹木の梢に家々の屋根に降りしきった その夜月は明かったが私はひとと わすれぐさ 萱草に寄す SONATINE No. 1 もた 窓に凭れて語りあった ( この窓からは山の姿が見えた ) すみすみ けふこく 部屋の隅々に峡谷のやうに光と よくひびく笑ひ声がれてゐた 人の心を知ることは : ・・ : 人の心とは : 私はそのひとが蛾を追ふ手つきをあれは蛾を 把へようとするのだらうか何かいぶかしかった いかな日にみねに灰の煙の立ち初めたか 火の山の物語と : : : また幾夜さかは果して夢に その夜習ったエリーザ・ヘトの物語を織った またある夜に 私らはたたずむであらう霧のなかに 霧は山の沖にながれ月のおもを とうせん 投箭のやうにかすめ私らをつつむであらう とばり 灰の帷のやうに 私らは別れるであらう知ることもなしに 知られることもなくあの出会った 雲のやうに私らは忘れるであらう 水脈のやうに とら

6. 現代日本の文学 17 萩原朔太郎 中原中也 伊東静雄 立原道造集

203 山羊の歌 窓 あ 月 山 か 光 び 埋 の の 希す * 樹こ 砂中 : 夢し 蕃さみ祖ろ 紅さし先き のき 望ゞ 々と のけ のに 色は裡 3 木 はろよも 花ん犬は胸 土て 面も失 あな 色のあの せさな工 はな は神 春に何ンらビ らるにし るはるの ず物か の湧わ処くずア 絹や隊み 附写し 黒 : ノ 衣か商 、のみと 夜きに 。ものの やいか親鳴 さ音ね立も 子ろ そ てにちな 消け る は おの ぼ足 ま は ろ並 れ た も か 懺え のほ の 悔げ も み あ ゆ れ ら ず 朝の歌 あか 天井に朱きいろいで すき 戸の隙を洩れ入る光、 鄙びたる軍楽の憶ひ 手にてなすなにごともなし。 小鳥らのうたはきこえず 空は今日はなだ色らし、 倦んじてし人のこころを めするなにものもなし。 じゅし 樹脂の香に朝は悩まし うしなひしさまざまのゆめ、 森並は風に鳴るかな ひろごりてたひらかの空、 土手づたひきえてゆくかな うつくしきさまざまの夢。 ひな

7. 現代日本の文学 17 萩原朔太郎 中原中也 伊東静雄 立原道造集

なんといふよろこびが輝ゃいてゐることか およそしだわらび・せんまいもうせんごけの類 いちめんに枝をひろげた桜の花の下で 地べたいちめんに重なりあって這ひまはる いのち わかい娘たちは踊ををどる それら青いものの生命 娘たちの白くみがいた踊の手足 それら青いもののさかんな生活 しなやかにおよげる衣裳 その空家の庭はいつも植物の日影になって薄暗い ああそこにもここにもどんなにうつくしい曲線がもっ ただかすかにながれるものは一筋の小川のみづ夜も昼も れあってゐることか さよさよと悲しくひくくながれる水の音 かきね 花見のうたごゑは横笛のやうにのどかで またじめじめとした垣根のあたり かぎりなき憂鬱のひびきをもってきこえる。 なめくちへびかへるとかげ類のぬたぬたとした気味 いま私の心は涙をもてぬぐはれ わるいすがたをみる。 閉ちこめたる窓のほとりに力なくすすりなく さうしてこのな世界のうへに ああこのひとつのまづしき心はなにものの生命をもとめ夜は青じろい月の光がてらしてゐる なにものの影をみつめて泣いてゐるのか 月の光はの植込からしっとりとながれこむ。 ただいちめんに酢えくされたる美しい世界のはてで あはれにしめやかなこの深夜のふけてゆく思ひに心をか 遠く花見の憂鬱なる横笛のひびきをきく。 たむけ わたしの心は垣根にもたれて横笛を吹きすさぶ ああこのいろいろのもののかくされた秘密の生活 夢にみる空家の庭の秘密 かぎりなく美しい影と不思議なすがたの重なりあふとこ 猫 ろの世界 あきや その空家の庭に生えこむものは松の木の類 月光の中にうかびいづる羊歯わらび松の木の枝 なめくぢへびとかげ類の無気味な生活 青びわの木桃の木まきの木さざんかさくらの類 さかんな樹木あたりにひろがる樹木の枝 ああわたしの夢によくみるこのひと住まぬ空家の庭の 秘密と またそのむらがる枝の葉かげにそくそくと繁茂するとこ ろの植物 いつもその謎のとけやらぬおもむき深き幽邃のなっかしさ よる なそ

8. 現代日本の文学 17 萩原朔太郎 中原中也 伊東静雄 立原道造集

コキュ 1 の億ひ出 その夜私は、コンテで以て自我像を画いた ゑしき 風の吹いてるお会式の夜でした うちたたたいこ 打叩く太鼓の音は風に消え、 あか 私の机の上ばかり、あかあかと明り、 女はどこで、何を話してゐたかは知る由もない よ・こ にがは 私の肖像は、コンテに汚れ、 その上に雨でもパラつかうものなら、 まこと傑作な自我像は浮び、 軌りゆく、終夜電車は、 悲しみの余裕を奪ひ、 篇 あかあかと、あかあかと私の画用紙の上は、 刊 未けれども悲しい私の肖顔が浮んでた。 にがほ お会式の夜 十月の十二日、池上の本門寺、 東京はその夜、電車の終夜運転、 来る年も、来る年も、私はその夜を歩きとほす、 太鼓の音の、絶えないその夜を。 来る年にも、来る年にも、その夜はえてして風が吹く。 吐く息は、一年の、その夜頃から白くなる。 遠くや近くで、太鼓の音は鳴ってゐて、 頭上に、月は、あらはれてゐる。 その時だ僕がなんといふことはなく らくばく 落漠たる自分の過去をおもひみるのは まとめてみようといふのではなく、 吹く風と、月の光に仄かな自分を思んみるのは。 思へば僕も年をとった。 辛いことであった。 それだけのことであった。 夜が明けたら家に帰って寝るまでのこと。 たいこ ゑしぎ

9. 現代日本の文学 17 萩原朔太郎 中原中也 伊東静雄 立原道造集

型宛 8 上 録の年 手 8 母 ス紙月に ケに 25 宛 ッ同日て み ~ 、、を、を、豪朝当第物を 1 を 1 を ~ チ封付た 左の 謎ま強を新洋女ス鵞 土弟簡 物達昭 付 ・夫和 「未成年」創刊号 ( 右 ) と同 誌の目次 ( 下 ) ( 昭和 9 年 ) 彼はその方面でも素晴らしい才能を見せた。設計によ って三回も辰野金吾賞を受け、「別荘を作らせたら日 いかにも立原道造にふさわ 本一」と言われたという しい話である 彼は信濃追分を深く愛し、そこをしばしば詩の舞台 としているが、そこでは堀辰雄や室生犀星と往来する 楽しみがあった。その頃の彼にとって、二人はリルケ とともに、詩作のための優れた目標であったにちかい オし 浅間山や彼が好んだシュトルムなどが、背景に思い 浮かべられる「はじめてのものに」を引用してみよう。 ささやかな地異はそのかたみに 灰を降らしたこの村にひとしきり 灰はかなしい追慮のやうに音立てて 樹木の梢に家々の屋根に降りしきった その夜月は明かったが私はひとと 窓に筅れて語りあった ( この窓からは山の姿が見 えた ) 部屋の隈々に峡谷のやうに光と よくひびく笑ひ声がをれてゐた 人の心を知ることは・・・・ : 人の、いとは :

10. 現代日本の文学 17 萩原朔太郎 中原中也 伊東静雄 立原道造集

おまへはいまは不安なあこがれで 明るい星の方へおもむかうとする うたふやうな愛に担はれながら 月の光に与へて おまへが明るくてらしすぎた 水のやうな空に僕の深い淵が 誘はれたとしてもながめたこの眼に 罪はあるのだ 信じてゐたひとからかへされた くらい言葉なら あのつめたい 古い泉のせせらぎをきくやうに 僕がきいてゐよう 他 せやがて夜は明けおまへは消えるだらう 寄 あしたす・ヘてをわすれるだらう に 風 麦藁帽子 にな ふち 八月の金と緑の礎のなかで むぎわらばうし しみさは 眼に沁る爽やかな麦藁帽子は 黄いろな淡い花々のやうだ 甘いにほひと光とにみちて それらの花が咲ぎにほふとぎ 蝶よりも小鳥らよりも もっと優しい生き者たちが挨拶する 林檎の木に赤い実の 熟れてゐるのを私は見た 高い高い空に鳶が飛び 雲がながれるのを私は見た 太陽が樹木のあひだをてらしてゐた そして林の中で一日中 私はうたをうたってゐた ( ( ああ私は生きられる 私は生きられる : ・ 私はよい時をえらんだ ) ) ここに編んだ詩は、「詩集」として完成をみなか ったもののなかから精選したもので、「風に寄せ て」他という題は仮につけたものです。 ( 編集部 ) てふ りん′」 とび あいさっ